つれづれなるままに

つくばエクスプレス(以下TX)の2006年度決算が出ましたのでそのショートレポートしゃれ込んで見ます。
平成18年度決算概要について @TXプレスリリース
06年度決算 TX営業収益267億円 見込み100億円上回る@茨城新聞6/13
単年度黒字化はもうすぐ?〜損益計算書〜
PL(損益計算書)単位:億円
鉄道事業営業収益 267.7
償却前営業費用 111.4
償却前営業利益 134.4
減価償却費 181.6
営業損失 25.3
営業外損失 21.9
経常損失 47.2
当期損失 37.6
1日の利用客数 19万5千人
同定期客 11万8千人
同定期外客 7万7千人
2年目とは思えない優秀な成績です。特にこの段階で償却前の収支率が5割前後と先行各社の水準に並び経常損失額から考えると費用増加を無視すれば18%の乗客増で黒字化可能と言うのは早い段階での単年度黒字化も視野に入っています。4月度の乗客数はほぼその数値の23万人と言われていますからここ1〜2年で黒字化するかもしれません。

ゆいレールとは違う資本の厚みによる強さと不可解な投資資産〜貸借対照表〜
BS(貸借対照表)単位:億円
資産
流動資産 555.9
鉄道事業固定資産 11317.8
建設仮勘定 60.5
投資その他資産 3467.4
資産合計 11911.2
負債・資産
流動負債 83.5
固定負債 10183.2
負債合計 10266.6
資本金 1850.2
累積損失 205.6
株主資本 1644.6
こちらも見事な物です。最近開業した首都圏の3セク鉄道に共通する部分ですが資本金の厚さは見事で株主資本が1644億円残っていると言う事でこれから先今のペースでの赤字を続けても40年以上持ち答えられる水準にあります。流動資産も500億円以上あり、両者をあわせて考えると収益的には好調でもわずか4年で債務超過に陥り沿線自治体で支援策を考えなくてはならなくなったゆいレールとは一味違います。ただ少し気に懸かるのは投資・その他資産に計上されている3467億円で不動産開発でもやっているのかなと感じますが、過去にはマイカル社債による100億円単位での損失を蒙った前科があるだけに少し気をつけなくてはなりません。首都圏の地価状況はバブルと言う言葉も聞かれるようになり、かつこの資産が半減すればいきなり債務超過と言う事もありうるわけですから

ネックは外部にあり〜金利と地域交通問題〜
さてそんな好調なTX、そんなTXに死角は無いのでしょうか?
東葉高速 埼玉高速 臨海高速 横浜高速 北総 TX
営業収益 14131 6903 12726 7992 13057 26774
負債 332213 155730 240318 175006 123547 1026662
収益/負債 4.3% 4.4% 5.3% 4.6% 10.6% 2.6%
各社の営業収益に対する負債額比較(単位:100万円、各社2005年度、TXのみ2006年度)

上の表を見ると、一見死角が無いかのように見えるTXの死角が見えてくると思います。すなわち「負債に比べて営業収益が少なすぎる」と言う点です。
普通に有利子負債中心であったならかつての北総鉄道の様に利息支払いだけで収入がなくなりかねない状況ですが結局その分を自治体からの無利子融資でフォローする、即ちTXは金利負担を行政が肩代わりする事なくして成り立たない状況にあるわけです。逆にこの構造が崩れたら800億円もの塁損を抱える東葉高速よりも厳しい状況になる事は想像に難くありません。
さてこの構造に関して考えなくてはならないのは金利の推移です。長期国債の利回りを見ると03年に0.5%近くまで下げた後、揺らぎがあるとは言え上昇基調にあり現在10年物で2%の大台を伺う勢いにあります。今後も円キャリートレード(金利の安い日本でお金を借りて外国で運用する運用方法)等の影響を考えると金利の上昇は続いていく物と思われます。
実際TXの債務は1兆円ですから1%の金利変化でも行政の負担は100億円増えるわけです。
実際逆パターンとしては90年代債務利払い負担に苦しんだ北総鉄道を例に挙げると
支払利息額((注記)) 金利 (注記):営業外収支で代用
98年度 59.3 4.1%
05年度 20.0 1.6%

と2.5%下落している事が分かります。実際98年度に関しては行政や親会社からの支援も含めた物なので実際の純粋な金利は5%前後となります。
そう考えると現在2%弱程度と思われるの金利が5%前後まであがり、その分沿線自治体の負担が増えることは覚悟しておく必要があると考えられます。
現状 1.5倍収入増加
償却前利益 134.4億円 268.3
支払利息 21.7 21.7
法人税 0 34.7
元本返済原資112.7 211.9
そして償却期間に関しては上の表で大雑把な資産をしてみた感じでは現状の収益水準では110億円、コスト増加無しで収入のみ1.5倍にした際でも210億円と最低50年、現状ベースでは100年近く懸かり負担の重さをうかがわせます。
今後は沿線自治体の財政状況にも注意を払う必要が出てきそうです。

またTXへの無利子融資に留まらず地域への直接的影響としては地域交通機関への影響が挙げられます。例えば90年代京葉線・北総2期線・東葉高速鉄道等の鉄道新線開業が相次いだ千葉県ではバス路線の利用者が激減し路線の廃止やバス会社の分社化等が相次ぎました。
85 90 95 2000 2005
バス利用者 302.989 335.606 288.548 254.985 212.083(千人)
参考 千葉県のバス輸送の現状1@千葉バスHP
同じ様な影響がTX沿線の交通機関にも現れると見て間違いありません。実際周辺を走る関東鉄道ではドル箱の高速バスに壊滅的ダメージを受け、鉄道運賃値上げや子会社の鹿島鉄道廃止と言う影響が現れています。今後沿線自治体としてはこれまで以上にバスや鉄道への補助も含めた支援負担が増えるものと思われます。
纏めると沿線自治体にとっては
・TX債務に関わる金利変動リスク
・地域交通機関への影響リスク
の2つを抱える事となり、今後ますますこの2つのリスクに注意を払っていく必要があると思われます。

まとめ〜鉄道の決算だが鉄道だけ見てはいけない時代〜

さて長々と書いてきましたが纏めらしき事を、TXの決算を見てきて感じたのは確かに鉄道単独の決算書を見ると良い結果だがどうしても周辺が気になると言う事でした。鹿島鉄道に肩入れしていたからかもしれませんが、やはり金利が上昇すれば無利子融資している自治体の負担は必ず増えますし、乗客減少の続いている地域路線の関東鉄道や総武流山電鉄の様な路線の問題も無関係ではいられない、今後は東葉高速開業後に大きく乗客を減らした船橋駅や津田沼駅の様な状況が柏駅や取手駅を舞台に繰り広げられると言った部分はTXの話としては出てきませんがやはり無関係と言い切るわけには行かない。
昨年村上ファンドの株買収に絡んで阪急・阪神の統合と言う事件がありましたが、多分この事件が語っていたのは鉄道会社のことを語るのに鉄道だけを見てはいけないと言う事なのでしょう。
そう言った意味で感じるのは多分北総鉄道だったら有効であったTXのモデルが転換点に来ていることです。北総鉄道の場合金利が高い時代には財政が潤い、財政が厳しい時期には金利が低下していました。それ故に有効性が高かったやり方なのですが円キャリートレードの話まで出てくる現在の金利上昇を見るとその相関関係が薄れてきている様な気がします。
また関東鉄道等周辺交通機関に関しても関東鉄道の低迷が語るように単純に人口が増えれば乗客も増えると言うWin-Winの関係が成り立ちづらくなっている事の証明にも見えます。
長々と書きましたが今後もTXに限らず鉄道会社の決算に注目していきたいと思います。

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タグ :
#つくばエクスプレス
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#円キャリートレード
#金利上昇
#茨城県

コメント一覧 (3)

    • 1. 走ルンです
    • 2007年06月24日 12:22
    • トラックバックありがとうございます。またTXの決算に関する詳細なレポートと、他の三セクとの比較はお見事です。
      TXの好調も、ひと皮めくれば低金利の恩恵というのは、そのとおりですね。現在の低金利ですが、先高感を醸しつつも、内外金利差は縮まらない状況ですから、当面は現在のマネーの流れが続くと思われますので、いわば不動産バブル崩壊のリスクを世界へ分散している形です。つまりは地価上昇は実力以上である可能性が高いということはいえます。ただしバブル崩壊の再現とは異なった結末にはなるでしょうけど。
    • 2. ケーイチ
    • 2007年06月24日 13:10
    • はじめまして ではないかもしれませんね^^
      斉藤さんのところからきました。
      私の住んでいるところが守谷市、通っている大学が船橋日大なのでTX・東葉高ともに使っていてます。
      守谷やTX周辺では ららぽのようなショッピングセンターやマンションなどの土地開発が盛んなのですが、駅を中心とした狭い地域での開発!といった感じです。
      守谷にもまた一つショッピングセンターができるのですが、駅に隣接していないというところが気になります。
      周辺にはジョイフル、アクロスなどもあるので^^;
      公示価格では地価上昇率が都内並なのですが、住んでいるところは守谷のはずれ、取手よりということもあるのでしょう
      横ばいあるいは下落傾向といった感じのようです。
    • 3. brother-t
    • 2007年06月24日 14:56
    • >走ルンです さん
      TXの場合低金利の恩恵を受けているのが鉄道会社で無く今のところ、自治体と言うのが事態を分からせづらくしている感があります。
      このまま行くと現在好調の地価や住宅販売が減速した際に、金利上昇及び地域交通崩壊の尻拭い(柏にいたってはターミナルの商業集積衰退のフォロー)の負担がわっと訪れる可能性が有り得ると感じます。
      >ケーイチさん
      何だか波及効果は少なそうですね。個人的に感じるのは建設費が1/10の北総線は運賃の事を除けば逃げ切った路線だと思っているのですが、ここの場合沿線の千葉NTの人口だけで5万人近く増え、白井、印西の2町が市になりました。この10倍のインパクトをもたらす事が可能かと聞かれると正直懐疑的にならざるを得ません。

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