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山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

ここブログでは新書を10点満点で採点しています。

デマ、流言、ゴシップ、口コミ、風評、都市伝説...。多様な表現を持つうわさ。この「最古のメディア」は、トイレットペーパー騒動や口裂け女など、戦後も社 会現象を巻き起こし、東日本大震災の際も大きな話題となった。事実性を超えた物語が、人々のつながり=関係性を結ぶからだ。ネット社会の今なお、メールや SNSを通じ、人々を魅了し、惑わせるうわさは、新たに何をもたらしているのか。人間関係をうわさから描く意欲作。

これが本書の帯に書かれた紹介文。最初に「デマ、流言、ゴシップ、口コミ、風評、都市伝説」と並んでいますが、このうち「デマ、流言、ゴシップ」にはなんとなくマイナスのイメージがありますし、逆に最近は口コミサイトや口コミによるマーケティングなど「口コミ」についてはそのプラスの部分が注目されています。
そして「風評」については、震災による原発事故以降、「風評被害」という形でしかみかけなくなりました。

これらの言葉を見ると「うわさ」というものには、さまざまな表現が含まれていることが分かりますし、またときに非常に厄介なものだということがわかると思います。
そんな「うわさ」について、社会学や社会心理学の過去の研究を踏まえつつ、さらにネット時代のうわさについての考察を加えたのがこの本。
オルポート、ポストマン『デマの心理学』、清水幾太郎『流言蜚語』、タモツ・シブタニ『流言と社会』、エドガール・モラン『オルレアンのうわさ』などの古典的な研究を抑えながら、ネット時代におけるうわさの変質とその特徴について分析しています。

うわさについての先行研究はよくまとめられていますし、特に木下冨雄が明らかにした「豊川信用金庫の取り付け騒ぎ」についてのうわさの伝達経路のチャート図などは興味深いです(28p)。
また、うわさが新たな根拠を付け加えながら拡散していくといったことや、その不安を煽る内容だけでなくその回避策が一緒になっていると伝わりやすいということが、震災後に広まった「コスモ石油の火災により有害物質を含んだ雨が降る」という例とともに説明されています(51ー53p)。
さらに「都市伝説」についても紙幅をとって紹介しているので、そこに懐かしさや面白さを感じる人もいると思います。

ネットの登場とうわさの変容に関しては、ネットの特徴として「身体性の欠如」と「匿名性」をあげ、さらには「文脈の欠落」、「消えない記録」といった部分に注目して議論を進めています。
特に「消えない記録」という部分については、ネットで見に覚えなのない殺人犯に目されたスマイリーキクチの事件を例にあげ、一度沈静化したうわさも、何かのきっかけで話題になるとそこから「検索」→「再炎上」ということが起こりうることを示しています(212ー217p)。
また、FacebookやTwitterなどで定期的に広まる真偽が定かでない「いい話」についても、「他人に見せたい自分」、「自分に見せたい自分」といった視点から分析されており(222ー228p)、分析はかなり広い範囲に及んでいます。

ただ、ここまでくれば「釣り」といった現象もとり上げて欲しかったですし(参考文献にはHagex-day.infoもあがっていることですし)、うわさへの対処法としても、公的機関やマスメディアの信頼性の向上や「あいまいさへの耐性」といった漠然としたものだけでなく、何かもう少し具体的な手がかりが欲しかった気がします(『オルレアンのうわさ』から「対抗神話」という考えを紹介していますが、ここをもう少し掘り下げられたらよかったかもしれません)。
もっとも、「うわさ」を考えるための基本図書としては非常によくまとまっているのではないでしょうか。

うわさとは何か - ネットで変容する「最も古いメディア」 (中公新書)
松田 美佐
4121022637

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