2009年03月
日本のこれから先の安全保障を、アメリカの戦略を読み解く事で考えようとしている本。
個々の材料や着眼点には面白いものがあるのですが、全体としてはあまりまとまっていないのではないかと。
例えば、イラク戦争を主導したとされるネオコンについても、はっきりと「異質」だと書いている部分もあれば、ソ連消滅後のアメリカは敵としてイラン・イラク・北朝鮮を一貫してその目標としてきた、というような記述もあり、アメリカの戦略の断絶性を見るのか連続性を見るのかはっきりしません。
また、この手の本にありがちなのですが、この本ではアメリカに比べて日本に戦略は「ない」とする見方が強いです。
しかし、これはあまり生産的な議論とは言えないでしょう。
戦略の巧拙は別にしても、小泉政権はイラクでは踏み込んだ対米協調をしながら、北朝鮮では必ずしもアメリカの意に沿ったわけではない外交を展開しました。これも一種の戦略です。
それをイラクでは対米追従を批判し、対北朝鮮ではアメリカの動向をわかっていなかったと批判するのは、あまりフェアな議論とは言えないでしょう。
また、「日本はシーレーン構想の目的をわかっていなかった」という話が冒頭になりますが、鈴木善幸首相はともかく、「日本列島浮沈空母論」を唱えた中曽根首相がわかっていなかったということはないのでは?
国家的な戦略というのは「ある」、「なし」ではなく、あくまでその巧拙で評価されるべきです。その点でこの本の議論はやや乱暴だと思います。
また、やや「陰謀論」的なものを取り入れすぎている感もあります。
もう少し客観的な戦略論が読みたかったですね。
日米同盟の正体~迷走する安全保障 (講談社現代新書)
孫崎 享
4062879859
個々の材料や着眼点には面白いものがあるのですが、全体としてはあまりまとまっていないのではないかと。
例えば、イラク戦争を主導したとされるネオコンについても、はっきりと「異質」だと書いている部分もあれば、ソ連消滅後のアメリカは敵としてイラン・イラク・北朝鮮を一貫してその目標としてきた、というような記述もあり、アメリカの戦略の断絶性を見るのか連続性を見るのかはっきりしません。
また、この手の本にありがちなのですが、この本ではアメリカに比べて日本に戦略は「ない」とする見方が強いです。
しかし、これはあまり生産的な議論とは言えないでしょう。
戦略の巧拙は別にしても、小泉政権はイラクでは踏み込んだ対米協調をしながら、北朝鮮では必ずしもアメリカの意に沿ったわけではない外交を展開しました。これも一種の戦略です。
それをイラクでは対米追従を批判し、対北朝鮮ではアメリカの動向をわかっていなかったと批判するのは、あまりフェアな議論とは言えないでしょう。
また、「日本はシーレーン構想の目的をわかっていなかった」という話が冒頭になりますが、鈴木善幸首相はともかく、「日本列島浮沈空母論」を唱えた中曽根首相がわかっていなかったということはないのでは?
国家的な戦略というのは「ある」、「なし」ではなく、あくまでその巧拙で評価されるべきです。その点でこの本の議論はやや乱暴だと思います。
また、やや「陰謀論」的なものを取り入れすぎている感もあります。
もう少し客観的な戦略論が読みたかったですね。
日米同盟の正体~迷走する安全保障 (講談社現代新書)
孫崎 享
4062879859
- 2009年03月31日23:31
- yamasitayu
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ここ最近は派遣切りなど住居までを失い困窮する人が増えていますが、そのような中で「住」をめぐる不平等や問題点を考える上で非常に役に立つ本と言えるでしょう。
また、「住」から見た日本の「世代論」的な側面もあり、世代間の格差や生活スタイルを考える上でも読む価値のある本です。
この本で強く主張されているのは、戦後の日本が「持ち家」を住宅政策の目標とし、さらに近年の新自由主義的な政策の風潮によりその偏りがますます強くなっているということ。
中流層に「持ち家」を持たせるための政策は、多くの日本人に「持ち家」を目指しての「梯子」を登らせる一方で、その「梯子」に登り損ねた人をフォローすることには、リソースを割いてきませんでした。
景気対策のたびに住宅ローン減税が打ち出される一方で、公営住宅は貧弱で、良質な賃貸住宅も育成する政策もなく、人びとは「持ち家」へと、政治によって動機づけられていたのです。
そうした中で、非正規雇用など収入が低い者は「梯子」を登ることができませんでしたし、女性も結婚によってしか「梯子」を登ることができませんでした。
大企業の男性社員が割安な社員寮などの企業福祉を受け、「持ち家」へと「梯子」を登った一方で、国の政策もその「梯子」の補完が中心でしかなく、それが現在の「住」をめぐる不平等を生んでいるのです。
新書にしてはかなり硬めの本でやや長く、決して読みやすい本ではないかもしれませんが、豊富なデータを用いたその分析は非常に読み応えがあります。
今後の住宅問題を考える上でも外せない本と言えるでしょう。
住宅政策のどこが問題か (光文社新書)
平山洋介
4334034993
また、「住」から見た日本の「世代論」的な側面もあり、世代間の格差や生活スタイルを考える上でも読む価値のある本です。
この本で強く主張されているのは、戦後の日本が「持ち家」を住宅政策の目標とし、さらに近年の新自由主義的な政策の風潮によりその偏りがますます強くなっているということ。
中流層に「持ち家」を持たせるための政策は、多くの日本人に「持ち家」を目指しての「梯子」を登らせる一方で、その「梯子」に登り損ねた人をフォローすることには、リソースを割いてきませんでした。
景気対策のたびに住宅ローン減税が打ち出される一方で、公営住宅は貧弱で、良質な賃貸住宅も育成する政策もなく、人びとは「持ち家」へと、政治によって動機づけられていたのです。
そうした中で、非正規雇用など収入が低い者は「梯子」を登ることができませんでしたし、女性も結婚によってしか「梯子」を登ることができませんでした。
大企業の男性社員が割安な社員寮などの企業福祉を受け、「持ち家」へと「梯子」を登った一方で、国の政策もその「梯子」の補完が中心でしかなく、それが現在の「住」をめぐる不平等を生んでいるのです。
新書にしてはかなり硬めの本でやや長く、決して読みやすい本ではないかもしれませんが、豊富なデータを用いたその分析は非常に読み応えがあります。
今後の住宅問題を考える上でも外せない本と言えるでしょう。
住宅政策のどこが問題か (光文社新書)
平山洋介
4334034993
- 2009年03月26日22:26
- yamasitayu
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以前紹介した浜井浩一との共著『犯罪不安社会』が非常によかった芹沢一也の本。
元になったのは『論座』に連載されていた「犯罪季評 ホラーハウス社会を読む」で、大きな事件やその反響から現代社会を読み解くような構成になっています。『犯罪不安社会』が、現代の「治安悪化神話」をデータに基づいて冷静に批判した本だったのに対して、こちらはその「治安悪化神話」の背景と問題点を探った本だと言えるでしょう。
巻末で萱野稔人との対談からもわかるように著者の芹沢一也はフーコーの影響を受けた、いわゆる「左派」の人物なのですが、全体的に単純な権力批判ではなく、よく考えられた考察になっています。
例えば、以前であれば権力の象徴的な存在であった監視カメラが、痴漢冤罪事件などを機に、被害者、そして加害者の両方から導入がもとめられるなど、現代のセキュリティは上からの国民の管理といった側面だけでは捉えきれません。
いまや、民主主義の担い手である国民が、誰よりもセキュリティの強化を望んでいる背景があるのです。
この問題というのは非常に難しく、この本でも答えが出ているとは言えませんが、この本でとり上げられた「宮崎勤事件」以降の犯罪者を見る目の変遷、被害者の声の高まり、厳罰化の流れなどは、この問題を考えていく上で欠かせない材料でしょう。
また、旧来の左翼的な考えに対する批判も鋭く、特に「光市母子殺害事件」の精神鑑定に関する野田正彰への批判は強烈で、それでいて正しいものがあると思います。
暴走するセキュリティ (新書y) (新書y)
芹沢 一也
4862483682
元になったのは『論座』に連載されていた「犯罪季評 ホラーハウス社会を読む」で、大きな事件やその反響から現代社会を読み解くような構成になっています。『犯罪不安社会』が、現代の「治安悪化神話」をデータに基づいて冷静に批判した本だったのに対して、こちらはその「治安悪化神話」の背景と問題点を探った本だと言えるでしょう。
巻末で萱野稔人との対談からもわかるように著者の芹沢一也はフーコーの影響を受けた、いわゆる「左派」の人物なのですが、全体的に単純な権力批判ではなく、よく考えられた考察になっています。
例えば、以前であれば権力の象徴的な存在であった監視カメラが、痴漢冤罪事件などを機に、被害者、そして加害者の両方から導入がもとめられるなど、現代のセキュリティは上からの国民の管理といった側面だけでは捉えきれません。
いまや、民主主義の担い手である国民が、誰よりもセキュリティの強化を望んでいる背景があるのです。
この問題というのは非常に難しく、この本でも答えが出ているとは言えませんが、この本でとり上げられた「宮崎勤事件」以降の犯罪者を見る目の変遷、被害者の声の高まり、厳罰化の流れなどは、この問題を考えていく上で欠かせない材料でしょう。
また、旧来の左翼的な考えに対する批判も鋭く、特に「光市母子殺害事件」の精神鑑定に関する野田正彰への批判は強烈で、それでいて正しいものがあると思います。
暴走するセキュリティ (新書y) (新書y)
芹沢 一也
4862483682
- 2009年03月22日17:47
- yamasitayu
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今回の世界同時不況についてのコンパクトでなおかつ経済学的に間違いのない入門書だと思います。
第1章と第2章に関しては、今回の世界同時不況のオースドックスな解説なので、今まで同じテーマを扱った本を読んできた人にとっては必要ないかもしれませんが、第3章以降の、大恐慌、日本の昭和恐慌と「失われた10年」のメカニズムを分析し、今回の不況と比較を行っている部分は、面白いと思います。
特に昭和恐慌を終らせた高橋是清の「高橋財政」と、「失われた10年」における日銀の行動の比較は興味深いです。
「ゼロ金利」や「量的緩和」といった思い切った政策を打ち出しているように見えて、実は日銀の政策が中途半端であったことがわかります。
不満としては今後の対策として財政政策についての検討が少ない点。クルーグマンなどは「もはや金融政策でできることは少なく巨額の財政出動しかない」というような意見を主張していますが、そういった意見に対して少しコメントが欲しかったですね。
また、これは新書なのでしょうがないと思いますが、「金融商品」の説明や、今後の金融市場のあり方といった部分についてはそれほど深い分析はないです。
あと、これは全く個人的なことなのですが、昔から岩田規久男の文章には多少「合わない」ところがあって、この本でも前半は少しそれを感じました。
それでも、今回の世界同時不況の原因と対策の見取り図を知る上で有益な本であることは間違いないと思います。
世界同時不況 (ちくま新書)
岩田 規久男
4480064788
第1章と第2章に関しては、今回の世界同時不況のオースドックスな解説なので、今まで同じテーマを扱った本を読んできた人にとっては必要ないかもしれませんが、第3章以降の、大恐慌、日本の昭和恐慌と「失われた10年」のメカニズムを分析し、今回の不況と比較を行っている部分は、面白いと思います。
特に昭和恐慌を終らせた高橋是清の「高橋財政」と、「失われた10年」における日銀の行動の比較は興味深いです。
「ゼロ金利」や「量的緩和」といった思い切った政策を打ち出しているように見えて、実は日銀の政策が中途半端であったことがわかります。
不満としては今後の対策として財政政策についての検討が少ない点。クルーグマンなどは「もはや金融政策でできることは少なく巨額の財政出動しかない」というような意見を主張していますが、そういった意見に対して少しコメントが欲しかったですね。
また、これは新書なのでしょうがないと思いますが、「金融商品」の説明や、今後の金融市場のあり方といった部分についてはそれほど深い分析はないです。
あと、これは全く個人的なことなのですが、昔から岩田規久男の文章には多少「合わない」ところがあって、この本でも前半は少しそれを感じました。
それでも、今回の世界同時不況の原因と対策の見取り図を知る上で有益な本であることは間違いないと思います。
世界同時不況 (ちくま新書)
岩田 規久男
4480064788
- 2009年03月17日22:04
- yamasitayu
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著者は去年同じ文春新書から『元老西園寺公望』を出しましたが、今回は一般的にはその敵役とも思われている山県有朋の伝記になります。
『元老西園寺公望』に引き続き、基本的にはオーソドックスな伝記。山県の生涯を巨細もらさず描いているのがこの本の最大の特徴で、新書ながら485p、1400円というボリュームのあるものになっています。
著者の見解に全面的に賛成するわけではないですが、今まで単純な対立関係と捉えられがちだった山県と伊藤博文の関係、星亨や原敬といった政党関係者に対する評価、桂太郎との次第に大きくなっていく亀裂など、一時資料を駆使して今までの単純な見方の最高を迫る内容が次々と出てきます。
山県の「政党嫌い」は有名ですが、政党関係者に関しては意外にその人間を買っています(筆頭は原)。ところが、自らの勢力下にあると思われたものが政党に接近した場合は「絶対に許せない」というように行動しています(例えば桂のケース)。
このあたりは著者は否定するかもしれませんが、山県の「狭量」な部分、あるいはあくまでも自らのコントロール能力に固執する性格を感じます(趣味が庭づくりというのにもそれを感じる)。
それと、この本のもう一つの売りは、この本を読むことによって明治から大正にかけての陸軍の進展、そして人事の決まり方といったものがわかるということ。
大久保や木戸、伊藤などの文官によって決められていた明治初期から、山県が大山巌と話をつけることでだいたいのことが決まるようになった明治後期、そして山県、桂、寺内の3人が中心となって人事を行った大正期、このあたりの変化がよくわかるようになっています。
個人的にやや疑問に思う所もあるのですが(例えば、陸軍内の反主流派的存在で行動派の源流にもなったとされる上原勇作のグループをほとんど無視しているけど、それでいいのか?)、山県有朋や陸軍に興味があるはぜひ読むべき本でしょう。
山県有朋―愚直な権力者の生涯 (文春新書)
伊藤 之雄
4166606840
『元老西園寺公望』に引き続き、基本的にはオーソドックスな伝記。山県の生涯を巨細もらさず描いているのがこの本の最大の特徴で、新書ながら485p、1400円というボリュームのあるものになっています。
著者の見解に全面的に賛成するわけではないですが、今まで単純な対立関係と捉えられがちだった山県と伊藤博文の関係、星亨や原敬といった政党関係者に対する評価、桂太郎との次第に大きくなっていく亀裂など、一時資料を駆使して今までの単純な見方の最高を迫る内容が次々と出てきます。
山県の「政党嫌い」は有名ですが、政党関係者に関しては意外にその人間を買っています(筆頭は原)。ところが、自らの勢力下にあると思われたものが政党に接近した場合は「絶対に許せない」というように行動しています(例えば桂のケース)。
このあたりは著者は否定するかもしれませんが、山県の「狭量」な部分、あるいはあくまでも自らのコントロール能力に固執する性格を感じます(趣味が庭づくりというのにもそれを感じる)。
それと、この本のもう一つの売りは、この本を読むことによって明治から大正にかけての陸軍の進展、そして人事の決まり方といったものがわかるということ。
大久保や木戸、伊藤などの文官によって決められていた明治初期から、山県が大山巌と話をつけることでだいたいのことが決まるようになった明治後期、そして山県、桂、寺内の3人が中心となって人事を行った大正期、このあたりの変化がよくわかるようになっています。
個人的にやや疑問に思う所もあるのですが(例えば、陸軍内の反主流派的存在で行動派の源流にもなったとされる上原勇作のグループをほとんど無視しているけど、それでいいのか?)、山県有朋や陸軍に興味があるはぜひ読むべき本でしょう。
山県有朋―愚直な権力者の生涯 (文春新書)
伊藤 之雄
4166606840
- 2009年03月15日22:22
- yamasitayu
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最近、大切だと注目を浴びながら、その実体はいまいち捉え難い「自尊心(セルフ・エスティーム)」という概念。この本はその概念と日本の子どもにおける自尊心のあり方を解き明かそうとした本です。
けれども、それに成功しているとは言い難い。
一応、日本の小学生の自尊心とその他の行動の関係、母親の育て方と自尊心の関係といったことに関してきちんとした調査を行っているのですが、その調査結果の紹介の仕方が非常にわかりにくい。
社会学の本などで「t検定」などの概念に慣れている身でも、「一体このデータから何を読み取ればいいのだろう?」と思うことがしばしばで、読んでいて非常に混乱します。
また、「日本の子ども」というタイトルなので、当然、海外の子どもとの比較が必要だと思いますが、海外の調査についてはすべて引用で、そのあたりも物足りないです。
第六章にでてくる、日本人は物事を成し遂げようとする「達成動機」と、他の人と友好的な関係を築きたいという「親和動機」が統合されていて、アメリカ人では相反するこの2つの考えが、日本人では正の相関関係にあるという指摘は面白いと思うので、このあたりをもうちょっと膨らまして日本の子どもの行動や問題点を探って欲しかったですね。
日本の子どもと自尊心―自己主張をどう育むか (中公新書)
佐藤 淑子
4121019849
けれども、それに成功しているとは言い難い。
一応、日本の小学生の自尊心とその他の行動の関係、母親の育て方と自尊心の関係といったことに関してきちんとした調査を行っているのですが、その調査結果の紹介の仕方が非常にわかりにくい。
社会学の本などで「t検定」などの概念に慣れている身でも、「一体このデータから何を読み取ればいいのだろう?」と思うことがしばしばで、読んでいて非常に混乱します。
また、「日本の子ども」というタイトルなので、当然、海外の子どもとの比較が必要だと思いますが、海外の調査についてはすべて引用で、そのあたりも物足りないです。
第六章にでてくる、日本人は物事を成し遂げようとする「達成動機」と、他の人と友好的な関係を築きたいという「親和動機」が統合されていて、アメリカ人では相反するこの2つの考えが、日本人では正の相関関係にあるという指摘は面白いと思うので、このあたりをもうちょっと膨らまして日本の子どもの行動や問題点を探って欲しかったですね。
日本の子どもと自尊心―自己主張をどう育むか (中公新書)
佐藤 淑子
4121019849
- 2009年03月09日22:36
- yamasitayu
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日中戦争から太平洋戦争にかけての時代を中心に徴兵された兵士の生活、食事、戦死、そして銃後の生活などを兵士の残した日記や回想録、家・への手紙などから分析し、日本の軍隊の実情に迫った本。
著者が「はじめに」で述べるように、いまだに保守派の知識人を中心にプラスのイメージを持って語られる徴兵制、そして・木智弘の「丸山真男をひっぱたきたい」で、その「平等制」がとりあ造られた徴兵制という問題をを語る上で読むべき本でしょう。徴兵の「理想と現実」というものがよくわかります。
「天皇の軍隊」という建前とは裏腹に、日本の軍隊は非常に徒党的な性格が強く、個人的な勇怯や力の強弱が物をいい、年次の古い古参兵が規律を守らずに属張り散らす。
そんな集団も平時はある種の「人生道場」として機能しますが、戦争が長引き除隊の日が遠のくにつれ軍紀は緩み、ますます閉塞感に支配されるようになります。
このあたりの集団の変化に関して資料を使ってよく分析してあります。
また、出征中にも手当がでる大企業の社員と、そうしたものがもらえない自営業者や農民、中小企業社員の格差の問題、戦死した兵士の墓石の大きさの問題など、兵士にもやはり現実社会の格差がつきまとい、それに・して軍がそれなりの注意を払っていたということもわかります。
このようなことも含めて、軍隊は兵士を送り出す側の家・にもそれなりに気を配っており、戦死の伝え方にもかなり気を遣っていました。ところが、戦局が悪化するにつれてそれは難しくなり、最終的には戦争の終結とともに日本軍が「消滅」することで、残された家・は取り残されることになります。
このあたりの記述は非常に興味深いですし、重い問題だと思います。
まあ、最近こうした研究はさかんに行われているので、この手の研究を読み込んできた人にはそれほど発見はないのかもしれませんが、さまざまな資料もよく読み込んであって個人的には非常にためになる本でした。
皇軍兵士の日常生活 (講談社現代新書)
一ノ瀬 俊也
4062879824
著者が「はじめに」で述べるように、いまだに保守派の知識人を中心にプラスのイメージを持って語られる徴兵制、そして・木智弘の「丸山真男をひっぱたきたい」で、その「平等制」がとりあ造られた徴兵制という問題をを語る上で読むべき本でしょう。徴兵の「理想と現実」というものがよくわかります。
「天皇の軍隊」という建前とは裏腹に、日本の軍隊は非常に徒党的な性格が強く、個人的な勇怯や力の強弱が物をいい、年次の古い古参兵が規律を守らずに属張り散らす。
そんな集団も平時はある種の「人生道場」として機能しますが、戦争が長引き除隊の日が遠のくにつれ軍紀は緩み、ますます閉塞感に支配されるようになります。
このあたりの集団の変化に関して資料を使ってよく分析してあります。
また、出征中にも手当がでる大企業の社員と、そうしたものがもらえない自営業者や農民、中小企業社員の格差の問題、戦死した兵士の墓石の大きさの問題など、兵士にもやはり現実社会の格差がつきまとい、それに・して軍がそれなりの注意を払っていたということもわかります。
このようなことも含めて、軍隊は兵士を送り出す側の家・にもそれなりに気を配っており、戦死の伝え方にもかなり気を遣っていました。ところが、戦局が悪化するにつれてそれは難しくなり、最終的には戦争の終結とともに日本軍が「消滅」することで、残された家・は取り残されることになります。
このあたりの記述は非常に興味深いですし、重い問題だと思います。
まあ、最近こうした研究はさかんに行われているので、この手の研究を読み込んできた人にはそれほど発見はないのかもしれませんが、さまざまな資料もよく読み込んであって個人的には非常にためになる本でした。
皇軍兵士の日常生活 (講談社現代新書)
一ノ瀬 俊也
4062879824
- 2009年03月04日22:59
- yamasitayu
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名前:山下ゆ
通勤途中に新書を読んでいる社会科の教員です。
新書以外のことは
「西東京日記 IN はてな」で。
メールはblueautomobile*gmail.com(*を@にしてください)
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