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山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

ここブログでは新書を10点満点で採点しています。

2007年11月

国語審議会の歴史と、そこでせめぎあう言語観、敬語の問題などをとり上げた本で、非常に興味深い材料を扱っているのですが、残念ながらいまいちまとまりに欠ける部分があります。

前半では、日本のアジアに対する植民地支配の中で課題として浮かび上がってきた日本語の簡易化、敗戦とともに主に経済界から唱えられた漢字廃止論、常用漢字、送りがななどを巡る攻防が、「歴史派」と「現代派」の攻防として描かれているのですが、少し記述が煩雑で、まとまりに欠けます。

後半は敬語の問題などを中心に、敬語や方言、そして国語の在り方を巡る言説の矛盾や欺瞞が指摘され、国語審議会の「倫理化」の問題がとり上げられます。

全体の構成としては、後半の問題を前面に押し出してそこから歴史をさかのぼるか、あるいは時代ごとにもっと明確に特徴づけて時代順に記述するほうが読みやすかったような気がします(特に戦中・戦後の国語に対する改革姿勢と近年の"保守化"の対比などは面白いと思います)。
個々のトピックには面白いものがあるだけにちょっともったいなく感じました。

国語審議会─迷走の60年 (講談社現代新書)
安田 敏朗
4062879166

中公新書の歴史物は外れが少ないのですが、これも面白い本。なによりもヴィクトリア女王という素材が面白いのですが、64年間にもわたってイギリスの絶頂期に君臨したヴィクトリア女王の生涯をうまくまとめてあると思います。

ヴィクトリア女王が単なるイギリスの繁栄の象徴ではなく、政治、特に外交問題にはかなり口出しをしていたこと。その思考は帝国主義的なものであり、同じく帝国主義的な政策を進めたディズレーリとうまがあったこと。晩年には婚姻関係によってヨーロッパ王室のゴッドマザー(名付け親)として圧倒的な存在感を持ったことなど、イギリスの「闘う女帝」としての姿がよくわかります。

また、この時代はディズレーリの他にもグラッドストン、それより少し前に活躍したパーマストンなど百戦錬磨の政治家が活躍した時代であり、そうした政治家とヴィクトリア女王との対決もこの本の見所の一つです。

なにか斬新な見方が提示されているわけではありませんが、ヴィクトリア女王というイギリスの繁栄を体現した人物とその時代をうまく描いてみせた本です。

ヴィクトリア女王―大英帝国の"戦う女王" (中公新書 1916)
君塚 直隆
4121019164


タイトルからすると哲学的な「自由論」を想像する人が多いでしょうし、橋本努の名前を知っている人はポパーやハイエクなどの自由論を論じた本を想像するかもしれませんが、いずれも違います。
この本は、戦後の日本で「自由」がどう受け取られてきたのかということを分析した本です。

第1章では戦後の混乱期の「自由」、第2章では1940年代後半から60年代前半までの「自由」の受け取られ方をカストリ雑誌や小泉信三や大塚久雄といった人の主張を材料にして分析しています。
このあたりは同じちくま新書の小田中直樹『日本の個人主義』に通じるものがありますが、個人的にはこちらの方が明快によくまとまっていて面白かったです。

さらに、第3章では「あしたのジョー」、第4章では「尾崎豊」、第5章では「エヴァンゲリオン」といったサブカルチャー分析を通して、「自由」が語られます。
この中で「あしたのジョー」、「エヴァンゲリオン」の話に関しては新鮮味はないものの、それなりに面白く読めます。
「尾崎豊」については、著者の思い入れが熱いです。「あとがき」によると、著者は同世代として尾崎豊のファンだったわけでは内容ですが、尾崎豊のよさがあまりわからない人にとっては、明らかに過剰な思い入れが感じられる部分でしょう。

そして、この本で一番問題だと思うのが一番最後の第6章。アメリカで生まれてきたとされる「創造階級」、「ボボス」などに「自由」の未来を見るわけですが、こういったキーワードでもてはやされるのは結局は消費のスタイルであって、「自由」などという高尚なものではないってことは、80年代とかの「ヤンエグ」とかで明らかになっていることではないでしょうか?

自由に生きるとはどういうことか―戦後日本社会論 (ちくま新書 689)
橋本 努
4480063935

ウイグル独立運動に関わったとされ中国から弾圧を受け、海外に逃れた亡命者たちに対するインタビュー集。

インタビューの対象となっているのは、中国政府に対して武装闘争をしたものではなく、いずれもウイグル人に対する差別の中で民族意識に目覚め、ウイグルの現状を変えたいと願い平和的に政治活動を行おうとした者、あるいはウイグルの現状に絶望したまたまアフガニスタンに行った者たちなどです。

前者の代表は、ノーベル平和賞の候補にもなっているというウイグル人女性のラビア・カーディル。
文革の中、夫に捨てられ、洗濯屋から「中国十大富豪」の一人と呼ばれるまでになった半生、そして政治犯として中国当局に捕まってからの体験は凄まじいものであり、思わず引き込まれます。

また、後者の中にはアフガニスタンで捕まったことから、アメリカのテロリスト収容所であるグアンタナモ基地に収容されたものもいるのですが、「グアンタナモは中国の監獄に比べればマシでした。」と発言するものもあり、中国のウイグルでの弾圧の恐ろしさを感じさせます。

さらには、中国がウイグルで行ったとされる核実験による放射能汚染と、それによって引き起こされた様々な病気と後遺症の問題についても、その調査を行った医師へのインタビューを通じてとり上げています。

ただ、このような内容は、一方で反中派の人々の溜飲を下げるために読まれてしまう危険性もあります。
このあたりの事情は、著者もしっかりと認識しているようで、「おわりに」の部分でそのことについて懸念を示し、この問題が朝日新聞や『世界』といった、いわゆる「左翼的」と思われているメディアでとり上げられてきたことをきちんと指摘しています。
この問題を取り巻く政治的な状況を、著者がしっかりと認識している証拠でしょう。

もっとも、著者はこの問題の専門家ではないので、ウイグル問題の歴史的経緯、中国のウイグル問題に対するスタンスの変化などについてはあまり触れられていません。
しかし、全体として非常に貴重な記録であり、読む価値のある本と言えるでしょう。

中国を追われたウイグル人―亡命者が語る政治弾圧 (文春新書 599)
水谷 尚子
4166605992

戸籍、結婚、離婚、介護、相続などの家族に関する法律に関して網羅的に解説した本。
単なる民法の解説にとどまらず、海外の法制度や介護を取り巻くさまざまな制度、新しく出来たDV防止法など家族を取り巻く法制度を幅広くとり上げていることが特徴です。

ただ、著者の考えはいわゆる「リベラル」なので、反発を覚える人もいるかもしれません。
婚外子差別への反対から始まり、事実婚を保護すること、夫婦別姓の導入など、今までの伝統的な家族のあり方を否定していく筆致には怒る人もいるでしょう。
ただ、これは筆者が個人の利益というものを重点においているからで、例えば不倫をした時に妻が愛人に慰謝料を請求できる制度に関して、不貞行為は自己責任であり、相手に法的責任を求めるのはおかしいと論じていく筆者の考え方には一貫したものがあると思います。

包括的な入門書とすると、やや偏った部分もあるとは思いますが、それを頭に入れて読めばいろいろと勉強になる本ではないでしょうか。

家族と法―個人化と多様化の中で (岩波新書 新赤版 1097)
二宮 周平
4004310970


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★★プロフィール★★
名前:山下ゆ
通勤途中に新書を読んでいる社会科の教員です。
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