2007年06月
現役の医師が「医療崩壊」の現場と、現在の日本の医療を取り巻く状況への危機感を語った本。
この本で著者の小松秀樹は医療現場の危機を語るだけでなく、日本の死生観の変遷や、日本の医療や社会にアメリカ流の競争社会を取り入れることの是非、大衆社会の問題点など幅広く議論を展開しています。ハイエクやトクヴィル、アーレント、さらにはルーマンまで文中に登場しており、医療の内部の問題だけではなく、広く社会との関係の中で医療を捉え直そうという著者の姿勢が見えます(ちなみにルーマンはトイブナーについての部分で名前が挙がります)。
特に、「過失」を罪とし、現在の医療事故にも適用される「業務上過失致死」のあり方に疑問を呈し、同時に警察や検察の捜査手法を批判する第2章、第3章は読み応えがあり、「医療ミス」というものについて考え直す材料になると思います。
新書ということを考えると、ここまで議論を広げない方が濃い内容になった気もしますが、現在の医療と現場の医師たちが置かれた状況を知ることのできる本だと思います。
医療の限界
小松 秀樹
4106102188
この本で著者の小松秀樹は医療現場の危機を語るだけでなく、日本の死生観の変遷や、日本の医療や社会にアメリカ流の競争社会を取り入れることの是非、大衆社会の問題点など幅広く議論を展開しています。ハイエクやトクヴィル、アーレント、さらにはルーマンまで文中に登場しており、医療の内部の問題だけではなく、広く社会との関係の中で医療を捉え直そうという著者の姿勢が見えます(ちなみにルーマンはトイブナーについての部分で名前が挙がります)。
特に、「過失」を罪とし、現在の医療事故にも適用される「業務上過失致死」のあり方に疑問を呈し、同時に警察や検察の捜査手法を批判する第2章、第3章は読み応えがあり、「医療ミス」というものについて考え直す材料になると思います。
新書ということを考えると、ここまで議論を広げない方が濃い内容になった気もしますが、現在の医療と現場の医師たちが置かれた状況を知ることのできる本だと思います。
医療の限界
小松 秀樹
4106102188
- 2007年06月25日21:05
- yamasitayu
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門倉貴史の新書は『人にいえない仕事はなぜ儲かるのか?』(角川oneテーマ21)がいまいちだったので、今回もどうかな?というのはあったのですが、こちらはそれとは違ってなかなか読み応えのある本です。
著者の主張は大きく次の3点。
1、購買力平価や日本の闇労働参加率を考えると、日本のホワイトカラーの生産性はいわれるほど低くない。
2、ホワイトカラーの生産性のばらつきと、ホワイトカラーに対する評価が定まっていないことがホワイトカラーの残業の増加をもたらしている。
3、こうした状況と日本の労働市場が十分に流動化していないことを考えると、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入は日本のホワイトカラーの更なる労働強化を招きかねない。
以上のことが、さまざまな統計を使って示されています。
ホワイトカラーの生産性についてはもうちょっと突っ込んだ分析も欲しいですし、職種別、あるいは管理職と非管理職の生産性についての考察も欲しいですが、大まかな点では間違っていない分析でしょう。
ホワイトカラー・エグゼンプションの可否なども考える上でも有益な本だと思います。
ホワイトカラーは給料ドロボーか?
門倉 貴史
4334034055
著者の主張は大きく次の3点。
1、購買力平価や日本の闇労働参加率を考えると、日本のホワイトカラーの生産性はいわれるほど低くない。
2、ホワイトカラーの生産性のばらつきと、ホワイトカラーに対する評価が定まっていないことがホワイトカラーの残業の増加をもたらしている。
3、こうした状況と日本の労働市場が十分に流動化していないことを考えると、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入は日本のホワイトカラーの更なる労働強化を招きかねない。
以上のことが、さまざまな統計を使って示されています。
ホワイトカラーの生産性についてはもうちょっと突っ込んだ分析も欲しいですし、職種別、あるいは管理職と非管理職の生産性についての考察も欲しいですが、大まかな点では間違っていない分析でしょう。
ホワイトカラー・エグゼンプションの可否なども考える上でも有益な本だと思います。
ホワイトカラーは給料ドロボーか?
門倉 貴史
4334034055
- 2007年06月21日22:18
- yamasitayu
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帯に「極上の科学ミステリー」とありますが、まさに科学の本でありながら、ミステリーとして、しかも二つのミステリーを楽しめる本です。
まず、その後の科学の進歩によってその業績を否定されてしまった野口英世の話に始まり、ワトソンとクリックによるDNAの二重らせん構造の輝かしい発見を準備したオズワルド・エイブリーの地道な研究や、ワトソンとクリックへの栄誉の裏に隠されてしまったロザリンド・フランクリンのDNAのX線写真など、この本は生物学の進歩の裏に隠されたミステリーを描いた本です。
現代における科学者の華やかな発見の裏に隠された厳しい競争と、一方で地道に孤独な研究を続ける科学者、そういった科学者の世界を著者は自らの体験も踏まえて描いてくれます。
もう一つのミステリーは、シュレティンガーの生命についての問いと考察からはじまる生命そのものについてのミステリーです。
ここではシェーンハイマーの業績などから、生物が「動的平衡」を保つシステムであることが示され、また著者の取り組んだ研究の成果と失敗から生命システムのメカニズムが明らかにされて行きます。
著者は福岡伸一氏は分子生物学を専攻する科学者なのですが、一流のサイエンスライター並みの文章力があり、とにかく読み物として面白く読めます。
やや語り口が饒舌すぎる気がする点と、最初のほうに予告された「生命の定義」が最後にしっかりと打ち出されていない点は少し気になりますが、先端科学をこれだけ面白い読み物としてまとめた本というのもあまりないです。
生物と無生物のあいだ
福岡 伸一
4061498916
まず、その後の科学の進歩によってその業績を否定されてしまった野口英世の話に始まり、ワトソンとクリックによるDNAの二重らせん構造の輝かしい発見を準備したオズワルド・エイブリーの地道な研究や、ワトソンとクリックへの栄誉の裏に隠されてしまったロザリンド・フランクリンのDNAのX線写真など、この本は生物学の進歩の裏に隠されたミステリーを描いた本です。
現代における科学者の華やかな発見の裏に隠された厳しい競争と、一方で地道に孤独な研究を続ける科学者、そういった科学者の世界を著者は自らの体験も踏まえて描いてくれます。
もう一つのミステリーは、シュレティンガーの生命についての問いと考察からはじまる生命そのものについてのミステリーです。
ここではシェーンハイマーの業績などから、生物が「動的平衡」を保つシステムであることが示され、また著者の取り組んだ研究の成果と失敗から生命システムのメカニズムが明らかにされて行きます。
著者は福岡伸一氏は分子生物学を専攻する科学者なのですが、一流のサイエンスライター並みの文章力があり、とにかく読み物として面白く読めます。
やや語り口が饒舌すぎる気がする点と、最初のほうに予告された「生命の定義」が最後にしっかりと打ち出されていない点は少し気になりますが、先端科学をこれだけ面白い読み物としてまとめた本というのもあまりないです。
生物と無生物のあいだ
福岡 伸一
4061498916
- 2007年06月17日22:10
- yamasitayu
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長年の国土地理院の技官を勤めた著者が、地図についてのあれこれを語った本。地図一般というよりは地形図に関してのトリビア的な知識を知ることができる本です。
三角測量の方法といったものから、地図記号のあれこれ、尾根のこちら側がわかれば実際に調べなくてもあちら側がわかるという昔のベテラン技官の技、地図の誤差を川幅の拡大によってごまかした過去など、地図に興味があればそこそこ面白い知識を知ることができます。
ただ、あくまでもそれなりに地形図とかに興味がある人向けの本であって、普通の人が読んで楽しいかと言うとどうでしょう?
個人的には仕事で地理の授業をすることもあるので、その時に使う小ネタを仕入れることができたという感じです。
地図に訊け!
山岡 光治
448006365X
三角測量の方法といったものから、地図記号のあれこれ、尾根のこちら側がわかれば実際に調べなくてもあちら側がわかるという昔のベテラン技官の技、地図の誤差を川幅の拡大によってごまかした過去など、地図に興味があればそこそこ面白い知識を知ることができます。
ただ、あくまでもそれなりに地形図とかに興味がある人向けの本であって、普通の人が読んで楽しいかと言うとどうでしょう?
個人的には仕事で地理の授業をすることもあるので、その時に使う小ネタを仕入れることができたという感じです。
地図に訊け!
山岡 光治
448006365X
- 2007年06月12日22:36
- yamasitayu
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悪の枢軸の一角にして、国際社会からの非難の中で核兵器開発を続ける国、アメリカの次の攻撃目標、などと言われながら、同時にアメリカのイラク戦争でもっとも恩恵を受けた国・イラン。そのイランの歴史と現状、そして国際情勢の中での今後のイランの行方を読み解いた本です。
イランの政治や経済に大きな影響力を持つ革命防衛隊の存在や、その革命防衛隊による各地のシーア派武装組織への支援など、イランの国としての特殊性を明らかにしている本ですが、全体的にやや焦点がぼやけている面もあります。
例えば、イランの歴史について1章を割いて書くならホメイニに関する記述がもっと欲しいですし、現代のイラン情勢に焦点を合わせるなら、例えばハタミ路線の行き詰まりについての分析なども欲しいです。
もう少し構成がしっかりしているとよいですね。
イラン 世界の火薬庫
宮田 律
4334034039
イランの政治や経済に大きな影響力を持つ革命防衛隊の存在や、その革命防衛隊による各地のシーア派武装組織への支援など、イランの国としての特殊性を明らかにしている本ですが、全体的にやや焦点がぼやけている面もあります。
例えば、イランの歴史について1章を割いて書くならホメイニに関する記述がもっと欲しいですし、現代のイラン情勢に焦点を合わせるなら、例えばハタミ路線の行き詰まりについての分析なども欲しいです。
もう少し構成がしっかりしているとよいですね。
イラン 世界の火薬庫
宮田 律
4334034039
- 2007年06月06日23:34
- yamasitayu
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日本政治史の専門家としても高い評価を得ている著者が、小泉政権下の国連次席大使として2年半活動した記録。
新聞などで外交評論家(?)のような人々が繰り広げる理念ばかりの外交批評ではなく、実際に「国連で何が行われているのか?」、「外交とはどのようなプロセスで進んでいるのか?」ということがわかる本です。
特に著者が国連次席大使を務めた時期は、ちょうど安保理改革の時期でもあり、結果的に日本の常任理事国入りに失敗した安保理改革をめぐる動きと日本の立場というものを改めて見直すことができますし、そして安保理の実際の様子についてもいろいろと新しい発見があります。
例えば、議論をリードする役割としてのイギリスやフランスの役割、そしてPKO要員に対して一人当たり月1000ドルほどの資金が出ることからバングラディシュやパキスタンなど途上国が自国の軍隊を維持するためにPKOに参加したがる現状などは、今後、日本が常任理事国を目指すのかどうかということを考える上で重要でありながら、今まであまり知られていなかった情報だと思います。
既発表の文章をまとめたものであるため少し内容に重複などがありますが、文章としても読みやすく内容のある本になっています。
国連の政治力学―日本はどこにいるのか
北岡 伸一
4121018990
新聞などで外交評論家(?)のような人々が繰り広げる理念ばかりの外交批評ではなく、実際に「国連で何が行われているのか?」、「外交とはどのようなプロセスで進んでいるのか?」ということがわかる本です。
特に著者が国連次席大使を務めた時期は、ちょうど安保理改革の時期でもあり、結果的に日本の常任理事国入りに失敗した安保理改革をめぐる動きと日本の立場というものを改めて見直すことができますし、そして安保理の実際の様子についてもいろいろと新しい発見があります。
例えば、議論をリードする役割としてのイギリスやフランスの役割、そしてPKO要員に対して一人当たり月1000ドルほどの資金が出ることからバングラディシュやパキスタンなど途上国が自国の軍隊を維持するためにPKOに参加したがる現状などは、今後、日本が常任理事国を目指すのかどうかということを考える上で重要でありながら、今まであまり知られていなかった情報だと思います。
既発表の文章をまとめたものであるため少し内容に重複などがありますが、文章としても読みやすく内容のある本になっています。
国連の政治力学―日本はどこにいるのか
北岡 伸一
4121018990
- 2007年06月03日20:40
- yamasitayu
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★★プロフィール★★
名前:山下ゆ
通勤途中に新書を読んでいる社会科の教員です。
新書以外のことは
「西東京日記 IN はてな」で。
メールはblueautomobile*gmail.com(*を@にしてください)
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