2008年11月
なんとなく中身が薄い印象のあった「角川ONEテーマ21」ですが、これは良い本だと思います。単に最近の原油価格や穀物価格の高騰の原因を解説しただけでなく、インフレ・デフレのメカニズムを丁寧に解説してあり、物価や経済に対する思い込みを正してくれる本です。
今年の夏にピークを迎え、現在は低迷しつつある原油価格。一般的に原油価格の上昇は、ガソリン価格、電気料金、プラスチックの価格などの上昇をもたらすために、それだけでインフレをもたらすと思われています。
しかし、この本で著者が強調するのは「それをきっかけに賃金の上昇が起こらなければ本格的なインフレにはならない」ということです。
つまり、いくらガソリン価格が上がっても、賃金に変化がなければ、人びとはガソリン価格が上がった分、何かを買い控えるわけで、それは他の商品に対する値下げの圧力になります。
ガソリン価格など石油関連の商品の価格が上がっても、それ以外が値下がりをすれば、本格的なインフレにはならないのです。
著者は、このことを本格的なインフレとなった第1次石油危機と、日本では本格的なインフレに至らなかった第2次石油危機、そして第3次石油危機とも言うべき現在の状況を比較しながら指摘します。
そして、この賃金の伸びをもたらすかどうかを決めるのはマネーの量であり、現在の日銀は物価上昇率0%あたりを目標に金融政策を行っているために、今の日本では第1次石油危機のようなインフレは起こらないというのが著者達の結論です。
(ちなみにこの本にはっきりと書かれているわけではありませんが、この本を読むと、日本の名目賃金が上がらないのは日銀がそういう政策をとっているからだという事実にも気づくでしょう)
また、アレクサンダー大王の東征がもたらしたインフレから、第1次大戦後のドイツ、オーストリア、ハンガリー、ポーランドでのハイパーインフレ、そして現在のジンバブエでのハイパーインフレなども分析もあり、いずれもマネーの量にその最大の原因があることを明確に示しています。
タイムリーな話題をとり上げながら、同時に幅広く深い分析も行っている非常に酔い本だと思います。
物価迷走 ――インフレーションとは何か (角川oneテーマ21)
神田 慶司
4047101656
今年の夏にピークを迎え、現在は低迷しつつある原油価格。一般的に原油価格の上昇は、ガソリン価格、電気料金、プラスチックの価格などの上昇をもたらすために、それだけでインフレをもたらすと思われています。
しかし、この本で著者が強調するのは「それをきっかけに賃金の上昇が起こらなければ本格的なインフレにはならない」ということです。
つまり、いくらガソリン価格が上がっても、賃金に変化がなければ、人びとはガソリン価格が上がった分、何かを買い控えるわけで、それは他の商品に対する値下げの圧力になります。
ガソリン価格など石油関連の商品の価格が上がっても、それ以外が値下がりをすれば、本格的なインフレにはならないのです。
著者は、このことを本格的なインフレとなった第1次石油危機と、日本では本格的なインフレに至らなかった第2次石油危機、そして第3次石油危機とも言うべき現在の状況を比較しながら指摘します。
そして、この賃金の伸びをもたらすかどうかを決めるのはマネーの量であり、現在の日銀は物価上昇率0%あたりを目標に金融政策を行っているために、今の日本では第1次石油危機のようなインフレは起こらないというのが著者達の結論です。
(ちなみにこの本にはっきりと書かれているわけではありませんが、この本を読むと、日本の名目賃金が上がらないのは日銀がそういう政策をとっているからだという事実にも気づくでしょう)
また、アレクサンダー大王の東征がもたらしたインフレから、第1次大戦後のドイツ、オーストリア、ハンガリー、ポーランドでのハイパーインフレ、そして現在のジンバブエでのハイパーインフレなども分析もあり、いずれもマネーの量にその最大の原因があることを明確に示しています。
タイムリーな話題をとり上げながら、同時に幅広く深い分析も行っている非常に酔い本だと思います。
物価迷走 ――インフレーションとは何か (角川oneテーマ21)
神田 慶司
4047101656
- 2008年11月30日14:11
- yamasitayu
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タイトル通り朝鮮総連についての本。
著者の朴斗鎮(パク・トゥジン)は朝鮮大学政治経済学部教員からソフトバンクで孫正義氏とともにパチンコ経営に携わり、現在は現在はコリア研究所所長という人物。
朝鮮大学の教員だったということからも朝鮮総連のインサイダーであったことがわかりますが、そんな著者が朝鮮総連と決別し、一種の告発的なものとして書いたのがこの本。
第1章は「朝鮮総連の誕生」、第2章は「教育の変質」、第3章は「財政活動」、第4章は「工作活動」、第5章が「内部抗争」となっています。
拉致問題をはじめとする工作活動などについては、著者はそれを知る立場にはなかったため、それほど目新しい面はないかもしれませんが、教育や朝鮮総連の資金集め、内部抗争などに関しては、インサイダーとして体験したことも含め、興味深い事実が書かれています。
特にこの本を読んで感じたのは、朝鮮総連と北朝鮮のつながりの深さと、そのことから来る金日成、金正日親子の絶対的な威光。
金日成の神格化とともに変質していく朝鮮学校のカリキュラムや、金日成・正日の権威を背景に行われる内部抗争、そして勲章などを使った資金集めなど、日本にありながらも朝鮮総連が北朝鮮のシステムの中に組み込まれてしまったことがわかります。
また、だからこそ金正日が拉致事件を認め謝罪したことが朝鮮総連にとって破壊的なダメージをもたらしたのでしょう。
著者は金炳植事件で失脚した金炳植のグループにいたということなので、割り引いて読まなければならない面もあるかもしれませんが、朝鮮総連、そして在日朝鮮人の社会を知る上で役に立つ本と言えるのではないでしょうか。
朝鮮総連―その虚像と実像 (中公新書ラクレ 298)
朴 斗鎮
4121502981
著者の朴斗鎮(パク・トゥジン)は朝鮮大学政治経済学部教員からソフトバンクで孫正義氏とともにパチンコ経営に携わり、現在は現在はコリア研究所所長という人物。
朝鮮大学の教員だったということからも朝鮮総連のインサイダーであったことがわかりますが、そんな著者が朝鮮総連と決別し、一種の告発的なものとして書いたのがこの本。
第1章は「朝鮮総連の誕生」、第2章は「教育の変質」、第3章は「財政活動」、第4章は「工作活動」、第5章が「内部抗争」となっています。
拉致問題をはじめとする工作活動などについては、著者はそれを知る立場にはなかったため、それほど目新しい面はないかもしれませんが、教育や朝鮮総連の資金集め、内部抗争などに関しては、インサイダーとして体験したことも含め、興味深い事実が書かれています。
特にこの本を読んで感じたのは、朝鮮総連と北朝鮮のつながりの深さと、そのことから来る金日成、金正日親子の絶対的な威光。
金日成の神格化とともに変質していく朝鮮学校のカリキュラムや、金日成・正日の権威を背景に行われる内部抗争、そして勲章などを使った資金集めなど、日本にありながらも朝鮮総連が北朝鮮のシステムの中に組み込まれてしまったことがわかります。
また、だからこそ金正日が拉致事件を認め謝罪したことが朝鮮総連にとって破壊的なダメージをもたらしたのでしょう。
著者は金炳植事件で失脚した金炳植のグループにいたということなので、割り引いて読まなければならない面もあるかもしれませんが、朝鮮総連、そして在日朝鮮人の社会を知る上で役に立つ本と言えるのではないでしょうか。
朝鮮総連―その虚像と実像 (中公新書ラクレ 298)
朴 斗鎮
4121502981
- 2008年11月22日22:43
- yamasitayu
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タイトルの通り、100円ショップの儲けもからくりと、その会計分析、そして財務諸表の読み方と会計の基本がわかるという内容が盛りだくさんの本。
『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』以降、このような本は多く見かけますが、この本は100円ショップの商売の秘密とともに、会計の基本についてかなりきちんと書いてあり、たんなる読み物だった『さおだけ屋〜』に比べると、会計の入門書にもなっているお得な本と言えるでしょう。
数量をさばくことによる利益の確保、赤字覚悟の商品で客を引き寄せるロスリーダー戦略、自前出店ではなくてテナントとして出店する軒先出店など、知らない人には「なるほど」と思える100円ショップの戦略の紹介も面白いですし、この手の話題を知っている人にも第5章の九九プラスとキャンドゥの財務諸表の比較は面白いでしょう。
この第5章を見ると、生鮮食品を扱うか否かが財務に当て得る影響、両社に共通する利益率の低さ、そして意外なキャンドゥの健全経営などがわかって、財務諸表の読み方とともに、両社の類似点と相違点がわかって興味深いです(近くに九九プラスとキャンドゥがない方にはピンと来ないかもしれませんが...)。
会計に関しては詳しくないので専門的な批評はできませんが、入門書としては悪くない本なのではないでしょうか。
100円ショップの会計学-決算書で読む「儲け」のからくり (祥伝社新書130) (祥伝社新書 (130)) (祥伝社新書 (130))
増田 茂行
4396111304
『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』以降、このような本は多く見かけますが、この本は100円ショップの商売の秘密とともに、会計の基本についてかなりきちんと書いてあり、たんなる読み物だった『さおだけ屋〜』に比べると、会計の入門書にもなっているお得な本と言えるでしょう。
数量をさばくことによる利益の確保、赤字覚悟の商品で客を引き寄せるロスリーダー戦略、自前出店ではなくてテナントとして出店する軒先出店など、知らない人には「なるほど」と思える100円ショップの戦略の紹介も面白いですし、この手の話題を知っている人にも第5章の九九プラスとキャンドゥの財務諸表の比較は面白いでしょう。
この第5章を見ると、生鮮食品を扱うか否かが財務に当て得る影響、両社に共通する利益率の低さ、そして意外なキャンドゥの健全経営などがわかって、財務諸表の読み方とともに、両社の類似点と相違点がわかって興味深いです(近くに九九プラスとキャンドゥがない方にはピンと来ないかもしれませんが...)。
会計に関しては詳しくないので専門的な批評はできませんが、入門書としては悪くない本なのではないでしょうか。
100円ショップの会計学-決算書で読む「儲け」のからくり (祥伝社新書130) (祥伝社新書 (130)) (祥伝社新書 (130))
増田 茂行
4396111304
- 2008年11月13日23:56
- yamasitayu
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子どもへの性的虐待という重いテーマをとり上げた本。
岩波新書ということで、変にセンセーショナルさを煽るようなつくりにもなっておらず、真摯な姿勢で書かれた本だと思いますが、同時に著者の「思い入れ」のような部分も気になります。
性に対する忌避、密室性、被害児童の証言が首尾一貫しないことなどによって、なかなかその実態がつかめない子どもへの性的虐待ですが、日本でも相当な数の被害者がいると言われています。
この本では、性的虐待を性的虐待を窺わせる徴候、子どもへの性的虐待が必ずしも親からのものとは限らないこと、子どもが加害者になる性的虐待、男子への性的虐待といった幅広いトピックをとり上げることで、子どもへの性的虐待という問題の広がりとその根深さというものがわかるようになっています。
著者が主張するように、日本のこの問題への対策が不十分ですし、また「小児虐待者」と呼ぶべき加害者を「小児性愛者」という曖昧な名前で呼ぶなど、この問題を隠蔽化する力がまだまだ強いのも事実でしょう。
ただ、一方で、著者の「正義」の主張の仕方というのも気になります。
例えば、「はじめに」に「人間の虐待行為は子どもたちに対してだけでなく、大地に、海に、河に、熱帯雨林にも行われている。これでもか、これでもかと組織的な地球への虐待が繰り返され、地球は苦痛で身をよじって泣いている」という文章がありますが、こうした文はこの本の客観性を疑わせるだけではないでしょうか?
また、第9章では完全にフェミニズムの立場から、フロイトやバックラッシュ批判を行うのですが、80年代のアメリカでの行き過ぎた告発(実際になかったと思われる性的虐待がセラピストたちによってつくられたのではないか?という疑惑)が行われたことに対する反省と総括のようなものはもう少しきちんとやるべきでしょう。
子どもへの性的虐待 (岩波新書 新赤版 1155)
森田 ゆり
4004311551
岩波新書ということで、変にセンセーショナルさを煽るようなつくりにもなっておらず、真摯な姿勢で書かれた本だと思いますが、同時に著者の「思い入れ」のような部分も気になります。
性に対する忌避、密室性、被害児童の証言が首尾一貫しないことなどによって、なかなかその実態がつかめない子どもへの性的虐待ですが、日本でも相当な数の被害者がいると言われています。
この本では、性的虐待を性的虐待を窺わせる徴候、子どもへの性的虐待が必ずしも親からのものとは限らないこと、子どもが加害者になる性的虐待、男子への性的虐待といった幅広いトピックをとり上げることで、子どもへの性的虐待という問題の広がりとその根深さというものがわかるようになっています。
著者が主張するように、日本のこの問題への対策が不十分ですし、また「小児虐待者」と呼ぶべき加害者を「小児性愛者」という曖昧な名前で呼ぶなど、この問題を隠蔽化する力がまだまだ強いのも事実でしょう。
ただ、一方で、著者の「正義」の主張の仕方というのも気になります。
例えば、「はじめに」に「人間の虐待行為は子どもたちに対してだけでなく、大地に、海に、河に、熱帯雨林にも行われている。これでもか、これでもかと組織的な地球への虐待が繰り返され、地球は苦痛で身をよじって泣いている」という文章がありますが、こうした文はこの本の客観性を疑わせるだけではないでしょうか?
また、第9章では完全にフェミニズムの立場から、フロイトやバックラッシュ批判を行うのですが、80年代のアメリカでの行き過ぎた告発(実際になかったと思われる性的虐待がセラピストたちによってつくられたのではないか?という疑惑)が行われたことに対する反省と総括のようなものはもう少しきちんとやるべきでしょう。
子どもへの性的虐待 (岩波新書 新赤版 1155)
森田 ゆり
4004311551
- 2008年11月08日13:39
- yamasitayu
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物足りない所もなくはないのですが、創価学会について中立的な立場から書かれた本として貴重なものだと思います(もちろん、創価学会の人からすると不当な誤解があると言うかもしれませんし、反学会の人からすると創価学会寄りだと感じるかもしれませんが...)。
著者は社会学者で、この本は社会学の立場からの分析となります。
第1章では学会員のサンプルとしてのプロフィールと学会員の日常、第2章では創価学会の歴史、第3章では今までの創価学会研究、第4章では創価学会の変化、第5章では創価学会のこれから、を分析しています。
創価学会の情報というと、どうしても週刊誌に載る断片的なものが中心なので、この本によってまとまった知識として得られる部分も多いです。
例えば、1991年の日蓮正宗からの「破門事件」。
この経緯もこの本でしっかりと知る事ができますし、週刊誌などではフォローしていなかった、破門がもたらした影響といったものも知る事ができます。
また、学会系の雑誌でえんえんとバッシングされつづけている山崎正友がどんな人物なのかということもわかります。
ただ、分析としては物足りない面も多く、端から見ているとカリスマ性を感じない池田大作がこれほどまでに影響力を持つ理由など、もう少し突っ込んで欲しかった面もあります。
また、この本で紹介している鈴木広「都市下層の宗教集団」で創価学会の組織と軍隊の類似性が指摘されているのですが、ここに注目すれば、折伏中心の過激な宗教団体から公明党の誕生と巨大な選挙マシーンの登場といった面を上手く説明できたのではないのでしょうか?
余談ですが、この本は新刊本なのに駅前の大型書店には1冊もなく、ちょっと離れたそこそこの規模の書店でも僕がかったものが最後の1冊。
みんなが読んでいるのか、それとも買い占められているのか...?
創価学会の研究 (講談社現代新書 1965)
玉野 和志
4062879654
著者は社会学者で、この本は社会学の立場からの分析となります。
第1章では学会員のサンプルとしてのプロフィールと学会員の日常、第2章では創価学会の歴史、第3章では今までの創価学会研究、第4章では創価学会の変化、第5章では創価学会のこれから、を分析しています。
創価学会の情報というと、どうしても週刊誌に載る断片的なものが中心なので、この本によってまとまった知識として得られる部分も多いです。
例えば、1991年の日蓮正宗からの「破門事件」。
この経緯もこの本でしっかりと知る事ができますし、週刊誌などではフォローしていなかった、破門がもたらした影響といったものも知る事ができます。
また、学会系の雑誌でえんえんとバッシングされつづけている山崎正友がどんな人物なのかということもわかります。
ただ、分析としては物足りない面も多く、端から見ているとカリスマ性を感じない池田大作がこれほどまでに影響力を持つ理由など、もう少し突っ込んで欲しかった面もあります。
また、この本で紹介している鈴木広「都市下層の宗教集団」で創価学会の組織と軍隊の類似性が指摘されているのですが、ここに注目すれば、折伏中心の過激な宗教団体から公明党の誕生と巨大な選挙マシーンの登場といった面を上手く説明できたのではないのでしょうか?
余談ですが、この本は新刊本なのに駅前の大型書店には1冊もなく、ちょっと離れたそこそこの規模の書店でも僕がかったものが最後の1冊。
みんなが読んでいるのか、それとも買い占められているのか...?
創価学会の研究 (講談社現代新書 1965)
玉野 和志
4062879654
- 2008年11月02日12:35
- yamasitayu
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★★プロフィール★★
名前:山下ゆ
通勤途中に新書を読んでいる社会科の教員です。
新書以外のことは
「西東京日記 IN はてな」で。
メールはblueautomobile*gmail.com(*を@にしてください)
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