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山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

ここブログでは新書を10点満点で採点しています。

2006年11月

タイトルにある「若者はなぜ3年で辞めるのか?」ということが書いてあるのは最初の1章で、それ以外はほぼ若者世代から年長世代のへの「呪詛の書」といってもいいような内容。
ただ、「呪詛の書」いっても、若者が3年で辞めるのは就職活動が「自分探し」になってしまっており、そこで考えた(考えさせられた)自分のやりたい仕事と実際の仕事のギャップに耐えられないという分析はその通りでしょうし、年功序列制度への批判とその維持不可能制もその通りだと思います。
また、著者は人事部で働いていただけあって、日本の年功序列制度において文系大学院に行くことの不利、体育会系への優遇など、日本の人事における慣行などについても書かれていて勉強になります。
あまりに著者の「呪詛」が強すぎる気もしますが、現在の若者の閉塞感がよくわかる本です。

城繁幸『若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来』
格差社会を考える上で、まず最初に読む本としては悪くないと思いますが、基本的にそれほど新しい知見はないです。
最近、経済学者の中であった格差論争に関しても、「格差が出たのは高齢者の世帯が増えているからだ」という主張に対する決定的な反論はないですし、「効率性と公平性のトレードオフ」に関する反論も弱いです。
ただ、著者の積極的な増税の主張や最低賃金の引き上げの訴えなどは日本社会の選択肢としては十分考えるべきものだと思いますので、この本をきっかけにそのあたりの議論が広がっていくことを期待したいです。

橘木俊詔『格差社会―何が問題なのか』
大庭健の本は好きだったんですけど、やっぱり新書だと(注)に多くの情報を盛り込んでいくやり方ができないので、どうしても単行本とは違って議論が広がっていく面白さがないです。
また、前半で多くのページを相変わらずの永井均の独我論批判に当てているのも、もうさんざん繰り返している議論なだけにページがもったいない気がする。
そのあとのブラックバーンやG・ハーマンの道徳の実在制を取り上げた部分が面白いだけに、独我論批判は後に回して、『私はどうして私なのか』あたりを参照してもらえばよいのではないでしょうか?
部分部分は面白いところはあっても倫理学の入門書とすると成功しているとは言い難いところです。

大庭健『善と悪―倫理学への招待』
『論理学』、『論理トレーニング』という論理に関する本を今までも書いてきた哲学者の野矢茂樹が書いた論理学についての入門書。
縦書きにしたため、記号をいっさいに使わないという方針で記号にアレルギーのある人も大丈夫なようになっています。また。真理表などを使わずにあくまでも論理法則をどう導くかという点に力点が置かれています。
個人的な感想としては、このやり方で「否定」や「かつ」・「または」についての部分はよく説明されているけど、「ならば」の構造を扱った部分はまだ完全に噛み砕かれていないうような気がしました。
値段的にはこの本から「論理」について学んでみるのもいいかもしれませんが、面白さでは『論理トレーニング』のほうですかね。

野矢茂樹『入門!論理学』
消費者金融の実態にせまったルポ。ややセンセーショナルで文体が気取りすぎな気もしますが、借金を完済させずに延々利子を搾り取ろうとする消費者金融のビジネスモデルがわかります。
アイフル躍進の裏とか、風俗に女性を引きずりこむための「レディース・ローン」の実態など、具体的な事例も興味深いです。
ただ、あくまでもルポなので、多重債務者問題などをきちんと知りたければ、岩波新書の宇都宮健児『消費者金融―実態と救済』のほうがいいと思います。

須田慎一郎『下流喰い―消費者金融の実態』
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通勤途中に新書を読んでいる社会科の教員です。
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