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山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期

ここブログでは新書を10点満点で採点しています。

2007年12月

12月30
カテゴリ:
その他
ブログを読み直してみると今年は72冊の新書を読んだみたいでして、その中からよかったものを5冊ほど。

老いてゆくアジア―繁栄の構図が変わるとき (中公新書 1914)
大泉 啓一郎
4121019148


「21世紀はアジアの世紀」とか考えずに言う前にぜひ読むべき本。アジアの想像を超えた高齢化と、アジアの経済成長を支えた「人口ボーナス」の考えがわかります。


娘たちの性@思春期外来 (生活人新書 226)
家坂 清子
4140882263


若者の性について「けしからん!」とかいう道徳論ではなしにきちんとデータに基づいて書かれた本。女子に比べて男子への性教育が貧弱であること、十代では学校にも行かず、働いてもいない女子のほうがより出産を望み、「将来に青写真を描けない女の子が、容易にできる唯一の自己表現として、出産と結婚を望んでいる」状況であること、避妊で一番確実なのはピルであることなど、フェミニズム的立場にはとらわれない冷静な指摘がしてある点もいいです。


年金問題の正しい考え方―福祉国家は持続可能か (中公新書 1901)
盛山 和夫
4121019016


さかんに論議されているけど、実は間違った前提の議論が多い年金問題について非常に緻密な分析がなされている本です。


食べる西洋美術史 「最後の晩餐」から読む (光文社新書)
宮下 規久朗
4334033873


「食事」、「食卓」、「食材」をテーマにした西洋絵画に焦点を当てた本なのですが、これがなかなか面白い!パンやワインに象徴的意味をもたせるキリスト教文化の中で、いかに食事が描かれ、そこにいかなる意味がこめられていたのかという解説も面白いですし、そしてなによりもこの本で取り上げている食事風景の絵がどれも魅力的です。


合コンの社会学 (光文社新書 331)
北村 文 阿部 真大
4334034322


ピンと来ない人にはピンと来ないと思いますが、この本の目次にある「よく似たタイプを集める」、「がっつかない、和を保つ」、「盛りあげる、モテなくなる」、「女/男だけの二次会」といった言葉に反応する人には面白いと思います。文章が妙に文学的なのも個人的にはしろまる


他だと東浩紀『ゲーム的リアリズムの誕生』(講談社現代新書)、大沼保昭『「慰安婦」問題とは何だったのか』(中公新書)、北岡伸一『国連の政治力学』(中公新書)、丸川知雄『現代中国の産業』(中公新書)、松永和紀『メディア・バイアス』(光文社新書)といったところでしょうか。

72冊読んだとはいえ、新刊のペースにはまったく追いつけないほどの「新書バブル」。選択肢が増えたのはいいですけど、どうでもいいような新書も目につきます。
そうした中で老舗の力を見せたのが中公新書。他の新書より一段レベルの高い新書を数多く出してくれたと思います。
あと、売れ線を狙いつつ、意外に新しい書き手を発掘しているのが光文社新書。ちくま新書も一時の低迷からすると少しよくなってきたようにも思えますが、中公新書とかに比べるとつくりが少し甘い気がします。講談社現代新書はタイトルを狙いすぎて逆に損をしているものが多いと思う。
先日台湾に旅行してきたのですが、そのために手に取ったのがこの本。台湾の歴史をコンパクトにまとめた本です。

『国姓爺合戦』で知られる鄭成功、日本による植民地支配、国民党支配の中での戒厳令など、台湾の歴史についてそれなりの知識のある人は多いと思いますが、通史として知っている人はそう多くはないと思います。そういった意味でポルトガルによる台湾の「発見」から李登輝総統による民主化までを記述したこの本は、そういった歴史の隙間を埋めてくれる本です。

日本の植民地支配に関しては、台湾の近代化の礎を築いたものとして評価する一方で、さまざまな問題も指摘してあり、バランスのとれた記述と言えるでしょう。
もっとも二・二八事件をはじめとする国民党による台湾支配の暗部に対しては容赦のない批判がしてあり、それと比較すると相対的に日本の植民地支配がマシに見えてくるという点はありますけど。

台湾―四百年の歴史と展望 (中公新書)
伊藤 潔
4121011449


正直、9点という点数はつけすぎなような気がしますし、そんなに中身が濃い本なのかと言われれば返答に困ってしまうのですが、面白く読めて、何よりも自分の実感にかなりびたっと来た本です。

「合コンの社会学」と銘打ちながら、合コンの歴史なんかにはほとんどふれていませんし、一夜限りのヤリコンやお見合いパーティーといった合コンの一形態についての分析も切り捨てて、この本がとり上げるのはもっぱらある特定の形態の合コンです。
それは主に20代から30代の男女がそれとなく結婚を意識しながら、がっつかずに相手を捜すタイプの合コンで、この手の合コンの経験がまったくなかったり、あるいは合コンになると完全にがっつきモードに移行できるような人にとっては、あまりピンと来ない本かもしれません。

ただ、少しでもそういった合コンの感覚がわかる人にとっては、この本の目次にある「よく似たタイプを集める」、「がっつかない、和を保つ」、「盛りあげる、モテなくなる」、「女/男だけの二次会」といった言葉にはビビッと来るのではないでしょうか?

この本ではそうした合コンのルール(?)が「合コンという制度」、社会階層、ジェンダーといった社会学的な用語によって分析されています。
結婚相手を捜していてもがっつかないようにすべき、相手の階層や年収が問題でもあからさまにそれを話題にされることは忌避すべき、露骨なぶりっ子は嫌われてもぶりっ子がやっぱりもてるとった逆説に満ちた合コンは、まさしく社会学が好きそうな関係性に満ちあふれており、「合コン」はまさしくとり上げるべき題材だったと言えるでしょう。

そして第6章でとり上げられる「運命の物語」という概念は、年齢や経済問題といったせき立てが弱くなった現代社会において、合コンが求められつつも、合コンではなかなか結婚までにはいたらないという現実を見事に説明していると思いますし、個人的にもまったく同じようなことを考えていました。

また、この本のひそかな魅力の一つは記述が非常に文学的であること。
北村文と阿部真大の共著という形をとっていますが、補論以外の部分を執筆したのは北村文という1976年生まれの女性の社会学者。
別に見田宗介のような文学性ってわけではないんですけど、文章の締め方とかが妙に文学的で、著者の個人的な思い入れ(?)のようなものも伝わってきます(人によってはそれがよくないと思うでしょうが)。

ある特定の世代にしかウケない本かもしれませんが、個人的にはかなりツボに来ました。

合コンの社会学 (光文社新書 331)
北村 文 阿部 真大
4334034322


ブログでもおなじみの池田信夫による新書。
内容はブログで日ごろから述べていることの集大成という感じでもあるのですが、この本では「半導体の集積度は18ヶ月で2倍になる」という「ムーアの法則」を導きの糸として「何が変わるのか?」ということが語られています。

大まかに言って著者の言いたいことは次の3つ。

1、何がボトルネックか見極めろ
2、垂直統合から水平分業へ
3、資本の論理を受け入れろ

電波の有効利用がなされておらず電波がボトルネックになっている日本、垂直統合にこだわり世界標準と外れてしまう日本、株式の持ち合いなどで資本の論理を拒否する日本、著者の出す実例を見ると日本のIT企業が世界的に成功しない理由というのがよくわかります。
もちろん、経済や社会のすべてが、例えば「垂直統合から水平分業へ」流れていくとも思いませんが、ことIT産業について言えば著者の言うことはかなり正しいのではないでしょうか?

同じIT社会の現在と未来について語った梅田望夫の『ウェブ進化論』に比べると、ずいぶんと「現実的」な本ですが、「ムーアの法則」が世界を変えていくという基本的なテーゼは実は同じ。
梅田望夫はそこに個人の新しい可能性を見ているのに対して、池田信夫はもうちょっと悲観的に資本の論理の中で個人が戦っていかなければならない社会を見ているように思えます。

過剰と破壊の経済学 「ムーアの法則」で何が変わるのか? (アスキー新書 42) (アスキー新書 42)
池田 信夫
4756150772


経済学の観点からあるべき教育の姿を語った本なのですが、さすがにこれは粗すぎるのではないかと。

例えば、いじめの防止策として「いじめのコスト」を意識させることが大切であると説いているのですが、「クラスの雰囲気の悪化」というコストはともかくとして、「いじめの横行していたクラスで、はたして卒業後の同窓会が気分よく開けるものだろうか」というコストに関しては、さすがにそんなのを納得する子どもはいないでしょ。

確かに「モラルより損得」という著者の基本的な考えには賛成するものがありますし、著者の重視する「消費者としての教育」というのも必要だとは思いますが、それだけでうまくいくとは思えません。
人間が本当にコストを計算して損得で動けるなら、ギャンブルにハマる人や煙草を吸う人は地上から姿を消してるんじゃないでしょうか?(経済学ではこうした行動を考える「双曲線割引」という考えもありますが、そこまで子どもに教えるのは不可能でしょうし)

「消費者としての教育」(著者は現在の「家庭科」の授業をもっとも役に立つものと考えています)という面についても、確かにすべての子どもは消費者であり、また消費者として育っていくため、万人に必要な教育ではありますが、そういう基調の教育の中で教育が専門職や研究職の育成にどうつながっていくのかということに関して疑問が残ります。

ある種の見方としては面白い面がなくはないですが、教育論としては、まだまだ思いつきの面を出ていないような気がしますね。

子どもをナメるな―賢い消費者をつくる教育 (ちくま新書 697)
中島 隆信
4480063978


かなりの量の本を書きまくっている斎藤環ですが、いまだに新しい本を読むとそれなりに得るものがある。
個人的に斎藤環が好きだということもあるんですけど、この『思春期ポストモダン』もなかなか面白かったです。

もともと2003年に出版されたNHK人間講座のテキスト『若者の心のSOS』がもとになっているのですが、ほぼ全面的に手を入れており、内容が古いということはありませんし、理論的な面にしてもずいぶんと掘り下げてあると思います。
NHKの人間講座はTVでだいたい見た記憶があるのですが、「いじめ」、「拒食症」、「不登校」、「ひきこもり」といった思春期の現象をとり上げた部分だけが被っているような印象です。

理論的なものとしては、著者の「若者論は単なる"インテリによるヤンキー批判"に過ぎない」、「三十年以上前から"今の若者は無気力"と言われつづけている」といった指摘は鋭いですし、関係性が病理を拡大し、「ひきこもり」などの必ずしも病気とは言えない病理をうみだすという「病因論ドライブ」の考えにも興味深いものがあります。

また、『若者のすべて』などで言われていた、コミュニケーションが得意な若者は自己イメージが希薄で、コミュニーケションが苦手な若者のほうが自己イメージがしっかりしているという部分は、非常に重要な視点で、次の部分なんかはその通りだと思います。

おそらく人間の「内面」というものは、他者とのコミュニケーションに葛藤することから生まれるものだからだ。葛藤が強すぎれば内面の重みで潰れ込むことになるし、葛藤がなさすぎれば内面も希薄になってしまう。コミュニケーション能力を「外面」と言い換えるなら、内面と外面とのほどよいバランスを獲得する過程が「成熟」の一面、ということになるのかもしれない。


もともとがテキストというだけあって、斎藤環の考えのエッセンスがまとまっており、斎藤環の本を読んだことのない人にもいい本だと思います。

思春期ポストモダン―成熟はいかにして可能か (幻冬舎新書 さ 4-1)
斎藤 環
434498059X


ケネディ大統領のコンパクトながらまとまった伝記。副題に「『神話』と虚像」とありますが、特に「ケネディの虚像を暴く」的な部分はないですね。

暗殺の謎にしても特に目新しい説が唱えられているわけではありませんし、詳細な分析をしているわけではありません。また女性スキャンダルなどについても最後に付け足した感じですし、禁酒法時代のケネディ家とマフィアの繋がりとかも特に触れられているわけではありません。
基本的に著者はケネディのファンという感じでして、「虚像」の部分を期待する人には期待はずれでしょう。

ただ、ケネディの大統領になるまでの道のり、そして大統領になってからのベルリン危機への対応、キューバ危機などは非常に面白い話ですし、この本もフルシチョフとケネディの対決を詳細に描いていて面白いです。

ケネディのことをよく知らない人にとっては楽しめる本ではないでしょうか?

ケネディ―「神話」と実像 (中公新書 (1920))
土田 宏
4121019202


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★★プロフィール★★
名前:山下ゆ
通勤途中に新書を読んでいる社会科の教員です。
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「西東京日記 IN はてな」で。
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