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koudansyou-古典と現代

主に平安文学・文化についてのつれづれ書き(画き)

残酷なロマンス─なつかしの松苗あけみ

本当に授業の終わりが見えてきて、だいぶ気持ちが楽になってきました。ただ終わったら終わったで、今度は「採点地獄」が始まるのですが......。

家族が友人のところへ遊びに行っている間、休日に久々の一人本屋、美容院と、はしごをしました。美容院は、いろいろ落ち着いてからと思っていたら、感染者数は日々最高人数を更新していくような有様でしたので、自分の心のゆとりを優先しました。

まず、本屋の新刊コーナーでたまたま見つけたのが『松苗あけみの少女漫画道』(2020年6月)。もう絵がなつかしくて、思わず衝動買いしてしまいました。早速美容室で読んでいたら、美容師の方に「うわーなつかしい。いやだ年がばれちゃうわ」と言われました(きっと同世代)。
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(こちらです。書店でお見かけしたらぜひ。バブル時代の様子もわかります)

一人暮らしをしていた大学生の頃、近くに貸本屋があり、そこにかなりお世話になりました。雑誌や漫画は概ねそこで借りて読んでいました。「松苗あけみ」先生の本も、おおかたそこで出会いました。カラー絵は本当に花や人物が美しくてうっとりするのですが、中身がどれも普通の恋愛ではないのです。とにかく毒があります。触発されて久しぶりに先生の『ロマンスの王国』を電子書籍で見返してみたら、まあのっけから少女愛・不倫・近親相関、のオンパレードでした。

小学生の頃は、あしべゆうほ『悪魔の花嫁』(ファンタジーホラー)や『サスペリア』『ハロウィン』といったホラー系の雑誌漫画が大好きで、篠原千絵『闇のパープルアイ』『海の闇月の影』といったダークファンタジーにはまっていました。その流れか、王道の恋愛物(日常生活における恋を描く)は普通に苦手でした。

そんな私が『源氏物語』に惹かれたのは、やはり王朝世界の表向きの美しさとは裏腹の、人間関係の複雑さにあったようにも思います(まず最初に主人公の母はいびり殺されますし)。

また耽美的な少女画も好きで、原点は「高橋真琴」氏の画になります。アトリエにも遊びに行き先生ご本人にもお会いしました。そのとき、なぜか地元の情報誌の取材が来ていて、大学院の先輩と一緒に雑誌に載ってしまいました。以下その時の記事です。
[画像:1999年です]
(思った以上にしっかり載っていました。よい思い出です。)

とにかく、昔は、バラいっぱい、フリルいっぱい、それこそ非現実的な少女画の世界に憧れがありました(小さい頃はよくまねをして画いていた。今の私の絵にその面影はありませんが)。

松苗あけみ先生のイラストはまさにその流れを汲んでいるように思います。金髪巻き髪やバラの花、その細かさと花を持つ少女の愛らしさ、一級品です(ぜひお顔は本書を手に取ってみてください)。
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(左は高橋先生からの展示会のお知らせをかねた年賀状。右は上記、松苗先生本の扉絵です)

『ロマンスの王国』を見ていたら、『源氏物語』の光源氏と藤壺との密通(継母と子)は、「近親恋愛」の観点から言えば、そう大したことではないように思えてきてしまいました。むしろ帝のキサキとの密通、それも藤壺が「后」となり、源氏との間の不義の子が「即位」してしまうほうが、より重大事でしょう。

平安時代、陽成天皇は、二条后と業平が密通して生まれた子、また高階氏(一条天皇の后・定子の母方)は、業平が斎宮と密通して生まれた子の子孫、という伝承が『伊勢物語』の記述を元に広まっていたようです。この手の話は、かなり昔からあったことになります。なぜ、当時、『源氏物語』のような不義密通話が書けたのか、ということの一つの答えとして、先蹤としての『伊勢物語』があるわけです。(参考:CiNii 論文 - 『源氏物語』はなぜ帝妃の密通を書くことができたか https://ci.nii.ac.jp/naid/120005473436 #CiNii )

今は、さまざまな人間関係に、「世間」のまなざしが厳しく注がれ、実際に「刃」となって傷つける事件があとをたちません。昔の貴族も本当に「世のうわさ」を怖れ、それを恥として死に至る、山に行方をくらますなどの例が見られます。

ただ『源氏物語』で言えば、実際、その罪の重さに耐えきれず死んだのは、柏木だけで(自死に近い病死)、光源氏、藤壺、女三の宮、は、それらを背負いつつ生き続けます。彼らの強さ、悩みながらも生き抜くしたたかさに、いまも私は惹かれ続けているのかもしれません。




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