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koudansyou-古典と現代

主に平安文学・文化についてのつれづれ書き(画き)

2023年02月

最近、温かい日差しの日も増えてきました。それにしても、いつものことながら、2月は短いですね。気づくと今月最終日。

忘れないうちに「感想2」も書かねば......と思っていましたが、いつの間にかディレイ配信も終わってしまい、ディスク待ちになってしまいました。

細かいところの記憶は曖昧ですが、ネタバレもよくないので、まずはざっくりと内容の感想をお伝えします。

「刀剣乱舞」とは、実在する名刀の付喪神(つくもがみ)を擬人化したキャラクターたちが、過去に干渉し、歴史改変を企む「歴史修正主義者」と戦うべく、各時代に送り込まれる、というのがゲームの大筋のようです。

つまり、今回も、刀たちはそのような「歴史改変」を阻止すべく、千年以上前の「平安時代」に跳ぶことになります。

時は「寛弘」と、明確に『源氏物語』の制作時期を主人公が明言していました。「歴史」がテーマということで、どのように『源氏物語』と絡むのか、と思っていましたが、いやいや、もう『源氏物語』を取り巻く歴史がたっぷり脚本に詰め込まれていました。
(そういえば『源氏物語の史的意識と方法』なんて本を私も出していましたね・汗)

歴史上に実在する紫式部、小少将、藤原彰子らが、『源氏物語』の登場人物(藤壺や六条御息所など)としても登場し、物語を現実の歴史にしようとするある人物の企み(この人物は物語の登場人物)を阻止する話になっていました。

『源氏物語』の歴史化、というのは、主人公の光源氏が即位していないのに「准太上天皇」の地位を与えられるという出来事(物語の虚構)が、すぐ後に「小一条院」(即位していないが院となる)として現実化するといった現象のみならず、後世つくられる『源氏物語』の注釈書の中に、物語の出来事と史実を並べることで、それらを同じ次元で捉えるような記事も出てくることなどを想起させました。

原作における『源氏物語』のリアリティは、実際、過去の史実を積極的に取り込む形で実現されており(村上朝の「天徳内裏歌合」を模した物語の「絵合」行事など)、それが「虚実」の線引きを曖昧にする『源氏物語』の手法と言えるかもしれません。

それをうまく逆手にとった脚本であり、さらに物語読者にも焦点をあてたところが見事でした。

(以下、やや物語のネタバレ。読みたい方だけどうぞ)










実際、浄土信仰が盛んになる中世において「虚構の物語で人々を惑わせた「紫式部」は地獄に堕ちている」という見方が広がり、「源氏供養」なる法会が催されます。今でも能に「源氏供養」と題する演目がありますが(その能の話はこちら→ブログ「源氏供養と表白」)、このように「紫式部」のその後を心配した読者が起こした事件が今回の「物語の歴史化」だということでした(実際の歴史になれば、その物語は「嘘」にならないから)。

いや〜、面白い。面白いです。物語そのものをとりあげるだけでなく、その後の「受容」にまで視野に入れているのですから。まさに歴史を駆け抜ける「刀剣乱舞」ならではの舞台です!

もちろん、予想通り、六条御息所率いる「もののけ」たちと刀剣男士との華麗なる殺陣シーンもありました。でも、主人公・光源氏の「闇落ち」的な部分が、より個人的にはツボでした(瀬戸かずやさん演じる悪っぽい光源氏がたまらない)。また、人気の刀剣男士が、物語の光源氏と入れ替わるシーンがあるのも、ファンにはたまらないのでは?と勝手に想像していました。

単なる読者が光源氏に成り代わるのも、やはり主人公にそれぞれが感情移入して読む、今の私たちと変わりませんし、『源氏物語』の注釈者たち(光源氏に憧れる)とも重なるものがありました。

最後は、結局、『源氏物語』は歴史化したようなしていないような......といった結末だったように思います(違っていたらすみません)。

また、途中、光源氏の女性たちへの振る舞いについて、刀剣男士が「ひどい奴だ」とツッコミを入れるのも、読者の共感を誘う手段でしょうね。最後、若紫が源氏に頼まれた役割も見所ですが、本当に、いろいろよく工夫されていて面白い舞台でした。
「刀剣乱舞」禺伝矛盾源氏物語イメージ画
(似ていなくてごめんなさい。あくまでイメージ画ということで・汗)

舞台終演後、購入の方法によっては「特典映像」がついていて、私も演者の方の舞台前のお茶会の様子を拝見しました。

「え!?この人が、本当にあのキャラクターを演じていたの?」というくらい、普段の姿と舞台上の姿が違っていて(宝塚ではよくあることなのかもしれませんが)、みなさん、本当にプロだなあと驚いてしまいました。

個人的に、主役の「歌仙兼定」(和歌の朗詠と殺陣がステキ)と「山鳥毛」(知的で落ち着いた説明調のセリフがステキ)が気になっていましたが、特に「山鳥毛」を演じた麻央侑希さんとのギャップにまたまた魅了されてしまいました。また兼定役の七海ひろきさんが先日の源氏物語展(→ブログ「源氏物語と現代アート」)に行かれていたことも知り、さすがアーティスト!、と思いました。

こうやって「ヅカファン」ができるのかもしれない......と思いつつ、ほぼ一日かけた「刀剣乱舞」視聴は終わりました(渋谷のスペシャルコラボカフェにも行ってしまうかも......)。

皆さんも、興味のある方、ぜひディスクでご覧ください。それから、次年度、私の「日本文学講義IIB」(秋学期・テーマは「源氏と狭衣」)を履修すると、この舞台の映像が一部見られます(たぶん)。お楽しみに。




入試業務(ほぼ)終了!今年も大過なく終わってよかったです。また少しずつ、春の兆しが感じられるようになってきました。あったかいと、気持ちもなんだかほぐれてきます。

さて、突然ですが、みなさん「刀剣乱舞」ってご存知ですか?

私は今までなんとなく目にしたことはありましたが、「乙女ゲー」の一種、という認識で、内容までは深く知りませんでした。

元々はゲームで、そこからさまざまな媒体に展開したようですが、主人公たちは「刀剣男士」なる刀を擬人化したキャラクターたちなんだそうです(学生が授業のコメントペーパーで教えてくれた)。

最初、Twitterのタイムラインで「刀剣乱舞」と「源氏物語」のコラボを知り、授業で紹介しましたが(10月頃?)、ストーリーは明らかにされておらず、主要キャストだけ上がっていました。
STAGE 禺伝 矛盾源氏物語|舞台『刀剣乱舞』 (stage-toukenranbu.jp)
今回は、全員、女性が男性を演じるということで、主に宝塚出身の俳優の方々が出演されていました。また2015年の花組公演「新・源氏物語」で、頭中将を演じていた瀬戸かずやさんが、今回光源氏を演じる、というのは面白いキャスティングだなと思いました。

その他、「六条御息所」「葵の上」「藤壺」「空蝉」「末摘花」「小少将の君」がHP上に出ていて、その時は、「紫の上は出ないのかあ〜」と少しがっかりしていました。でも後から、「若紫」役の子役さんがWキャストで発表され、どのような話になるのか大変楽しみにしていました。

と言うのも、最近『源氏物語』の翻案ものって、紫の上の描き方にとても苦心している様が感じられるからです。

紫の上は「光源氏最愛の妻」として有名ですが、妻となる契機は、少女時代、偶然、北山で源氏に垣間見され、その容姿が本命·藤壺宮に似ていたこと(後に藤壺の姪と判明)にあります。

少女時代の紫の上は「若紫」と呼ばれますが、この少女を引き取るくだりが、ほぼ「誘拐」に等しく、その後の結婚(一応、成人後)についても、現在の倫理観では考えられないことです。

光源氏が「ロリコン」などでないことは、原文を読めば明らかですが、それでも現在この部分をどのように扱うかは、きっと脚本家にとって頭の痛いところでしょう。

ちなみに宝塚の『新·源氏物語』(2015)では、若紫を連れ出す場面、従者に背負わせて、かなり滑稽な雰囲気を醸し出していました。若紫も全く怖がる様子はなかったです。
宝塚の若紫
(宝塚の若紫誘拐は構図的に「芥川」章段の伊勢絵に似ています)

また『源氏物語』のオマージュ作とも言える『狭衣物語』(平安時代末成立)では、同様の造形を持つ、いわば本命に瓜二つな人物として、宮の姫君がいますが、こちらはきちんと成人しています。また垣間見されて結婚するのでなく、結婚してみたらソックリだったという展開です。結婚について、親の承諾もきちんと得ています(光源氏は得ていない)。

そう考えると、すでに平安時代末から(いやおそらく『源氏物語』成立時から)、源氏の行動はタブー視されたものだったのでしょう。

2018年、当時の市川海老蔵さんが光源氏を演じた歌舞伎による源氏物語の舞台も、紫の上の存在は全く出て来ませんでした(当時、母を失くしたばかりの息子·勧玄君の光君や冷泉帝の演技が話題に)。

そして、恋人·六条御息所が生霊となって、正妻·葵の上をとり殺す物語が、話のメインとなっていた印象です。

「刀剣乱舞」も、六条御息所が最初に源氏方のキャストとしてあがっていたので、今回もそうかなあと思っていました。でも、いい意味で裏切られました。

内容についてのお話はまた次回。お楽しみに!





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