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koudansyou-古典と現代

主に平安文学・文化についてのつれづれ書き(画き)

カテゴリ: 書物

十月も半ば、秋もいよいよ深まってきました。秋と言えば、そう、芸術の秋──美術展の秋です!

例年、この時期は、ゼミの三年生と五島美術館に足を運んでいましたが、今年は大学にも近い、三井記念美術館の展示(11/13まで)を見てきました。

「大蒔絵展─漆と金の千年物語」のタイトルで、平安時代から現代にいたるまでの蒔絵の優品を一堂に集めつつ、その歴史を絵画や書などの他の美術品とあわせてたどる、見ごたえたっぷりの展示でした。
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(図録も厚くて充実度がうかがえます)

この展覧会は、MOA美術館、三井記念美術館、徳川美術館の三館の共同開催で、MOA美術館は夏休みに家族と行ってきました。

さて、蒔絵と言えば、漆と金粉・銀粉のコラボレーションですが、その多くが硯箱や経箱などの道具入れや唐櫃などの物入れを美しく装飾しています。

澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃
(↑平安時代・12世紀・和歌山・金剛峯寺の所蔵品です。まさに宝箱のよう)

中でも徳川美術館から出張してきた国宝「初音の調度」(江戸幕府三代将軍・家光の長女・千代姫の婚礼道具)は、今回初めて見ましたが、圧巻でした。ゼミのみなさんで春学期に輪読した『源氏物語』「初音巻」をテーマにしており、光源氏の邸宅・六条院の風景が、蒔絵の中に見事に再構成されています。

他にも、『源氏物語』や『伊勢物語』をテーマにした工芸品がたくさんあり、まさに当時の人々の愛好ぶりがうかがえました(東京国立博物館から国宝・八橋蒔絵螺鈿硯箱も来ていました)。現代でも「推し」を身近に感じたいと、関連グッズを購入する人がいますが、これらもその一種と見てよいでしょう。

ただ権力者が作らせる場合、貴族的権威を手中にしたい欲望も見え隠れしますが、ともかく、制作者の絵心、遊び心に、見ている側も心を躍らせられる品々でした。

そして、平安文学ゼミ、『源氏物語』ゼミとしては外せない逸品、国宝「源氏物語絵巻」「宿木一」の場面を鑑賞してきました!世界最古の絵巻は、最近修復を終えたばかりのもので、徳川美術館からの出品でした(「宿木一」の展示は現在終了)。

この絵巻、昭和七年(1932)に額装にされたものを、2016年から5年の歳月をかけて巻子装に戻し、昨年、その修復完了記念展示をやっていました。保存の観点からだそうですが、書物も冊子本から巻子本へ、巻子本から冊子本へ、と装丁を変えることはかなりあったようなので、今回の変更は、学生に話す際のわかりやすい一例になりました。
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(わが家にある書物です。左・巻子本、右・冊子本)

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(開くとこんな感じです。左は紫式部日記のレプリカ。右は江戸時代の版本・伊勢物語)

日本では、長いこと、装丁の公式は「巻子本」でした。今のイメージだと「忍者が口に加えている忍法が書かれた巻物」くらいでしょうが、実際、紙面が空気に触れることが少なく、持ち運びも便利で、大事な書物として保管するには、巻子本の方が優れています。ただ、見たいところをすぐに見られるのは、冊子本。現在の本の形式はすべてこちらですが、「読む」ことを第一義に考えれば、納得の装丁です。

さて、話が横道にそれましたが、巻子装になっている「源氏物語絵巻」を見るのは私も今回初めてでしたので、やや興奮しました。学生たちも「千年以上たっているとは思えない」と、見入っていました。このような品が現在まで伝わっていることについては、本当に先人への感謝の念に堪えません。

なんだか最近、日本人としては、意気消沈することが多かったので、「いやいや日本人すごいよ!」と、思わずにはいられませんでした。

見終わった後、全員で感想を言い合いましたが、それぞれ印象に残っているものが少しずつ違っていて、興味深かったです。「作品を読んだときに出てきた調度品の実物が見られてよかった」「西洋との融合の品が面白かった」「春学期に発表でとりあげた和歌の散らし書きが描かれていて感激した」「やっぱり源氏物語絵巻が良かった」などなど。

次は卒論ゼミの四年生と、同美術館で10/25-30に展示されている「源氏物語絵巻」「柏木一」を見に行く予定です。この学年は、昨年、緊急事態宣言のために博物館に行けなかったので、リベンジです。私は展示替えの品も含めて、二回見てきます。

皆さんもよかったら足をお運びくださいね。

昨日でようやく春学期の授業終了。これから採点に入りますが、それにしても、まさかまさかの四度目の緊急事態宣言!くずれ落ちましたよ。もう。

大学院生と印刷博物館で開催されていた企画展「和書ルネサンス」(展示は終了)を
見学に行く計画を立てていましたが、あっさり打ち砕かれました。

今期2回目の見学中止。心が折れそう。

とりあえず宣言が出る前に、急ぎ、フランスから350年ぶりに里帰りし、今回日本初公開となる盛安本「源氏物語絵巻」の夕顔巻を見るべく、ひとりで印刷博物館に向かいました。

印刷博物館は、凸版印刷が2000年に設立した博物館です。私の凸版印刷のイメージは、大学のサークルOBが勤める会社で、同会社の吹奏楽団から器材をお借りしていたことを思い出します。

そんなことを考えながら、歩いていくと、以下の看板を目にしました。

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(あれ?)

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(まあ!そうなの)

そして、もう少し歩いていくと......

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かわいい看板がお出迎え。

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たくさんポスターが貼ってあります。

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ビル内の入口です。事前予約が必要。

さて、企画展の前に、印刷の歴史をたどる常設展がありましたが、こちらも大変おもしろかったです。日本の印刷というと、近世初期の嵯峨本(古活字本)、そして浮世絵や読み本等の版本がイメージされますが、印刷自体は、奈良時代から存在します。それが百万塔陀羅尼です(世界最古の印刷物)。
百万塔陀羅尼
(このような約20cmの塔の中に印刷されたお経が入れられています)

こんな小さなお経を入れた塔が百万基も作られたというのですから、その技術と熱意には驚かされます。

ただ、この後、中世の五山版(禅僧によって刊行された木版本)まで印刷物は影を潜め、秀吉の
朝鮮出兵による銅活字の流入が、活字印刷の隆盛をもたらします。

これまで、印刷されてきたのは、仏典や漢籍でしたが、古典作品も、近世初期から印刷される
ようになります。雲母(きら)を刷り込んだ美しい用紙に、くずし字の活字を組み合わせて
刷られた美しい版本は、嵯峨本と呼ばれ、美術品としても評価されます。『伊勢物語』等、
こちらも展示されていました。(ただし後に普及するのは、一枚の版木に彫る整版印刷です)

常設展では、世界の印刷、また日本の方も近代まで紹介されており、新聞や商品、グラビア
印刷など、私の世代からすると少し前の懐かしい印刷物も多数ありました。

そしてお目当ての企画展は、「源氏物語コーナー」からはじまり、嬉しい限り。絵巻で見た夕顔
(もののけに取り憑かれる)は、美しい死に顔で描かれていました。泣いている源氏と右近の顔が
袖で隠されているので、余計にただ寝ているような夕顔に目がいきます和書ルネサンス(みどころ)|展覧会 | 印刷博物館 Printing Museum, Tokyo (printing-museum.org)

また、展示中「当時もっとも多く印刷された古典作品は?」と題し、順位が示されていました。

1(なんでしょう?) 2太平記 3伊勢物語 3平家物語 5日本書紀 6源氏物語 7保元・平治物語 8観世流謡本 9大和物語 10昨日は今日の物語

平安時代の書物が3点入っていますが、やはり江戸期は合戦物が人気ですね。1位については、最後にお知らせしますね。みなさんも、どうぞ考えてみてください。

実は、私が企画展の中でもっとも印象に残ったのは、石山寺の「紫式部聖像」(室町時代)。大きさの迫力もさることながら、x線で明らかになった式部をとりまく『源氏物語』の場面絵が面白かったです。

夕顔巻、薄雲巻、若菜巻、等、近世以降、定番化した構図ではないのが新鮮でしたね。

あまりにじっくり観覧したので、帰りはやや足が痛くなりましたが、充実したひとときでした。
次は必ず学生たちと一緒に見に行きたいと思います。

それでは最後に答えです。













1位は、「徒然草」でした!






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