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koudansyou-古典と現代

主に平安文学・文化についてのつれづれ書き(画き)

2021年07月

毎日、暑い日が続いています。7月も最後の日となりました。

家族は暑くても水筒を持って公園に遊びに行きますが、夏は「蝉取り」も恒例行事です
(もちろんキャッチ&リリースで)。

家にいても、蝉の声は聞こえますが、はてそういえば、「蝉の歌」、夏らしい歌はどのようなものがあったかな、と気になりました(秋のイメージで詠まれた歌もあるので)。

和歌における「蜩(ひぐらし)/日暮らし(一日中の意)」の掛詞や、「空蝉(うつせみ)/現身」の意の二重性は、蝉が物悲しく鳴き続ける声や抜け殻の空しい身を象徴しています。

また『万葉集』から見られる「空蝉」の語ですが、『源氏物語』では、光源氏の侵入に気づいた人妻が、薄衣だけを残して寝所を抜け出たことから、「空蝉」と呼ばれます。

『源氏物語』では、この「空蝉」の物語に集中して「蝉」の歌が詠まれます(それ以前の『うつほ物語』にそのような特徴はありません)。

『古今和歌集』には、十数首、蝉の歌がありますが、特に印象に残った歌をあげておきます。

物名・「唐萩」448 よみ人しらず
空蝉のからは木ごとにとどむれどたまのゆくへを見ぬぞかなしき
(蝉の抜け殻が木々に残っているように、亡骸は棺にあるけれど、抜け出た魂の行方がわからないのが悲しい)
DSC00318
(現実には一本の木に集中することも・笑)

恋一・543 よみ人しらず
明けたてば蝉のをりはへ鳴きくらし夜は蛍の燃えこそわたれ

(夜が明けると、明け方から蝉が鳴き続けるように昼間は泣き暮らし、夜は夜で、蛍火が燃え続けるように恋の炎を燃やし続けているよ)
蝉のうた1

雑上・ 876 紀友則
蝉の羽(は)の夜の衣(ころも)はうすけれど移り香こくも匂ひぬるかな
(蝉の羽のような夜着は薄いけれど、その衣に焚き染められた移り香は濃く匂っていたよ)

semi
(ミンミンゼミでしょうか。うすく透き通った羽が綺麗です)

鳴く蝉たちと、残された抜け殻──それは千年以上前から変わらない、儚い夏の風景でした。




先日まで「(関東に)台風直撃か!」と話題でしたが、進路がやや変わった上に勢力が弱まったせいか、時折小雨の降る涼しい天気となっています(と書いていたらもう日が差してきました)。

さて、今期は4年ぶりに(奇しくもオリンピックと同じ)、『竹取物語』の講義をしました。100名を超える受講者がいたこともあって、14回の授業中、8回がオンライン、6回が対面講義となりましたが、なんとか最後まで読み終えて良かったです。

学生たちには授業の意見・質問・感想をコメントペーパーに書いて毎回提出してもらっていましたが、その中で、今秋開催される『竹取物語』関連のイベントを学生が教えてくれました(ありがとう!)。

1つ目
・幻のフィルム・円谷英二監督が1935年に撮影した映画『かぐや姫』が公開(9月4・5日*詳細は「国立映画アーカイブ」HPへ)

円谷英二撮影の幻の映画「かぐや姫」イギリスから帰還 フィルムが渡った理由、発掘の経緯は? : 映画ニュース - 映画.com (eiga.com)


スタジオジブリでアニメーション映画「かぐや姫の物語」を撮影した高畑勲監督が、そのパンフレット中、「『竹取物語』の映画は、市川崑監督の実写映画(1987年・沢口靖子主演)しかないようだ」といった発言をしていましたが、それ以前に、特撮映画(ウルトラマンなど)を専門とする監督に作られていたとは驚きです。

これは絶対見たい!


2つ目
・東京バレエ団による新作「かぐや姫」の公演(11月6・7日)
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以前、同じテーマで、ロシアのバレエ団による公演もあったようですが、日本人が主体となる新作ということで、また違った期待があります。しかもこの秋見られるのは、全三幕中の第一幕ということで、話のどこまでが舞台化されるのか、気になりますね(これは家族と一緒にチケットを取りました)。


映画が公開される「国立映画アーカイブ」は、東京駅の近くにあります。「キャンパスメンバーズ」に登録されている大学の学生であれば、常設展は無料、企画展は割引で入れますので、ぜひ利用してみてください。

現在、緊急事態宣言中ではありますが、このような楽しみがなくなる状況になりませんよう、切に願っています。

ひまわりを中心に

最後に、いま我が家の夏の玄関は、ひまわりを中心に飾っています。この花を見ると元気がもらえます。昔の暦では、7月は初秋ですが、当時の今頃は、きっとまだ「水無月」(6月)ですね。




昨日でようやく春学期の授業終了。これから採点に入りますが、それにしても、まさかまさかの四度目の緊急事態宣言!くずれ落ちましたよ。もう。

大学院生と印刷博物館で開催されていた企画展「和書ルネサンス」(展示は終了)を
見学に行く計画を立てていましたが、あっさり打ち砕かれました。

今期2回目の見学中止。心が折れそう。

とりあえず宣言が出る前に、急ぎ、フランスから350年ぶりに里帰りし、今回日本初公開となる盛安本「源氏物語絵巻」の夕顔巻を見るべく、ひとりで印刷博物館に向かいました。

印刷博物館は、凸版印刷が2000年に設立した博物館です。私の凸版印刷のイメージは、大学のサークルOBが勤める会社で、同会社の吹奏楽団から器材をお借りしていたことを思い出します。

そんなことを考えながら、歩いていくと、以下の看板を目にしました。

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(あれ?)

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(まあ!そうなの)

そして、もう少し歩いていくと......

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かわいい看板がお出迎え。

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たくさんポスターが貼ってあります。

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ビル内の入口です。事前予約が必要。

さて、企画展の前に、印刷の歴史をたどる常設展がありましたが、こちらも大変おもしろかったです。日本の印刷というと、近世初期の嵯峨本(古活字本)、そして浮世絵や読み本等の版本がイメージされますが、印刷自体は、奈良時代から存在します。それが百万塔陀羅尼です(世界最古の印刷物)。
百万塔陀羅尼
(このような約20cmの塔の中に印刷されたお経が入れられています)

こんな小さなお経を入れた塔が百万基も作られたというのですから、その技術と熱意には驚かされます。

ただ、この後、中世の五山版(禅僧によって刊行された木版本)まで印刷物は影を潜め、秀吉の
朝鮮出兵による銅活字の流入が、活字印刷の隆盛をもたらします。

これまで、印刷されてきたのは、仏典や漢籍でしたが、古典作品も、近世初期から印刷される
ようになります。雲母(きら)を刷り込んだ美しい用紙に、くずし字の活字を組み合わせて
刷られた美しい版本は、嵯峨本と呼ばれ、美術品としても評価されます。『伊勢物語』等、
こちらも展示されていました。(ただし後に普及するのは、一枚の版木に彫る整版印刷です)

常設展では、世界の印刷、また日本の方も近代まで紹介されており、新聞や商品、グラビア
印刷など、私の世代からすると少し前の懐かしい印刷物も多数ありました。

そしてお目当ての企画展は、「源氏物語コーナー」からはじまり、嬉しい限り。絵巻で見た夕顔
(もののけに取り憑かれる)は、美しい死に顔で描かれていました。泣いている源氏と右近の顔が
袖で隠されているので、余計にただ寝ているような夕顔に目がいきます和書ルネサンス(みどころ)|展覧会 | 印刷博物館 Printing Museum, Tokyo (printing-museum.org)

また、展示中「当時もっとも多く印刷された古典作品は?」と題し、順位が示されていました。

1(なんでしょう?) 2太平記 3伊勢物語 3平家物語 5日本書紀 6源氏物語 7保元・平治物語 8観世流謡本 9大和物語 10昨日は今日の物語

平安時代の書物が3点入っていますが、やはり江戸期は合戦物が人気ですね。1位については、最後にお知らせしますね。みなさんも、どうぞ考えてみてください。

実は、私が企画展の中でもっとも印象に残ったのは、石山寺の「紫式部聖像」(室町時代)。大きさの迫力もさることながら、x線で明らかになった式部をとりまく『源氏物語』の場面絵が面白かったです。

夕顔巻、薄雲巻、若菜巻、等、近世以降、定番化した構図ではないのが新鮮でしたね。

あまりにじっくり観覧したので、帰りはやや足が痛くなりましたが、充実したひとときでした。
次は必ず学生たちと一緒に見に行きたいと思います。

それでは最後に答えです。













1位は、「徒然草」でした!






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