映画「国宝」雑感
先日、映画「国宝」を見てきました。
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歌舞伎にハマって3年目、気にはなっていましたが、映画館で見るかどうかは悩んでいました。そんな折、高校時代の友人から「見たよ。良かった!」との感想が届きました。そこで、「よし!」と思い切って映画館に足を運んだ次第です。
ごめんなさい。最初に謝っておきます。私の感覚がやはり人と違うのか、「よかった。感動した!」
とはなりませんでした。以下の感想、読みたくない方は回れ右でお願いします。
映画『国宝』公式サイト
さて、時代は昭和、自分も生まれる前の長崎の地より始まります。
すでに嫌な予感......そうなのです。福岡出身の自分にとっては、微妙な九州弁、かなり気になってしまいました。
その後、舞台は関西にうつりますが、ここでもやはり家族が関西人なので、言葉が気になって集中できません。もちろん主役の喜久雄は、長崎から関西に出てきて、徐々に慣れていく感じでしょうから、ぎこちなくてもOKですが、他の方の話し方が、やはり気になりました。困ったものです。
一方、映画全編を通して問われる「血か、芸か」というテーマについては、歌舞伎界においておよそ知られたことですが(〇代目とつく役者さんがたくさんいる)、最近の歌舞伎役者人気ランキング1位が家の子でない片岡愛之助さんであったように、世間はあまり関係ないのかもしれません。
むしろ「血に守られている」というのは、逆に重荷で、「できて当たり前」と思われたり、代々、名前を継ぐ人たち(父や祖父)と比べられたりすることは、かなりしんどいのではと思いました(でも、「あ、ここがお父さんに似てきた。」「お爺さんとそっくり。」なんて楽しみもあります)。
もちろん、そもそも、親の後ろ盾があるのとないのとでは、演じられる役からして違ってくるでしょうから、一般家庭から入られる役者さんも、相当な苦労がおありのことでしょう。
映画では、そのあたり、かなり濃密に描かれていました。現実問題、歌舞伎の家の子でも、親が早くに亡くなると、教えてくれる人がおらず、後ろ盾がなくなるわけですから、芸の継承は大変です。
それでも、最近の歌舞伎界の様子を見てみると、だいぶ風通しがよくなってきたのではと感じるところもあります(尾上松緑さんの「紀尾井町夜話」などを見ていると)。
特に歌舞伎は、「伝統」と「革新」が強く交わる芸能なので、どちらかに偏り過ぎてもよくないのかもしれません。要はバランスですね。
また歌舞伎界のスキャンダルについても、うまく映画では織り込んでいて、本当に二人の主役は波乱万丈(女性問題やら病気やら)。見ていて、「あー、あれはこれだな。」という、実際のスキャンダルも思い浮かびました。それだけ、小説では、きっとよく取材できていたのでしょう。
ただ、ここは決定的に違う、と思ったのは、当たり前ですが、二人の役者さんのステキな顔が白粉でつぶされていたこと、「踊り」より「顔」での演技に焦点が当てられていたことです。
今年の2月、歌舞伎役者・中村橋之助さんが初めて主役をつとめた映画「シンペイ」の舞台挨拶の際、「自分の顔が映像のアップに耐えられるのか、心配だった」と言われていて、「えー、そんなこと思うの?」と驚きましたが、確かに、顔は白塗りでつぶして描くわけですから(推しの米吉さんがよく言われる)、歌舞伎役者の方は、まさに演技と踊りで魅せているのです。それこそ芸1本。素顔が良いにこしたことはないのかもしれませんが、化けてなんぼの世界とも言えます。
一方、今回の映画の二人は、白粉塗っても、そりゃ綺麗ですが、ない方が、当然色男。その中で、体の演技を求められ、魅力の顔もつぶされるわけですから、並大抵の精神力・演技力ではないなと感じました。
その点で、ある種の「凄み」が出ていたと言えるのかもしれません。ただ、本物の舞台にはかないませんので、そこは顔のアップ(演技)で流していたところもややあったように思います。
歌舞伎の舞台は、映画のようにギュっとコンパクトにはいかないので、多少、長い、だるい、と思うところもあります。また古典だとセリフが難しいものも。でもやはり「本物」の魅力があります。体技と、言葉と、演技と、音楽と、あっと驚く仕掛け、そのすべてが、やはり私にとっては最高の夢の世界に感じます。
映画「国宝」をきっかけに、本物の歌舞伎を見てみたい、と思ったら、ぜひ、歌舞伎座に足をお運びください。今、上演している「刀剣乱舞」の歌舞伎や、ミレールのオンライン配信歌舞伎、映画館「シネマ歌舞伎」からでも大丈夫。服装もラフな格好でOKです。一方、客席で素敵な着物姿も拝めるので、おしゃれするのもまた一興。お弁当買って、もしくは作って持ち込んで、いや劇場で食べて、なんでもできます。これを機に、映画館とは一味違う、歌舞伎の世界へ皆様ぜひぜひお越しくださーい(千代田区の国立劇場、早く建て替えられて再開しますように)。
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(こちらは以前国立劇場で見た本物の国宝・歌六さん)
歌舞伎にハマって3年目、気にはなっていましたが、映画館で見るかどうかは悩んでいました。そんな折、高校時代の友人から「見たよ。良かった!」との感想が届きました。そこで、「よし!」と思い切って映画館に足を運んだ次第です。
ごめんなさい。最初に謝っておきます。私の感覚がやはり人と違うのか、「よかった。感動した!」
とはなりませんでした。以下の感想、読みたくない方は回れ右でお願いします。
映画『国宝』公式サイト
さて、時代は昭和、自分も生まれる前の長崎の地より始まります。
すでに嫌な予感......そうなのです。福岡出身の自分にとっては、微妙な九州弁、かなり気になってしまいました。
その後、舞台は関西にうつりますが、ここでもやはり家族が関西人なので、言葉が気になって集中できません。もちろん主役の喜久雄は、長崎から関西に出てきて、徐々に慣れていく感じでしょうから、ぎこちなくてもOKですが、他の方の話し方が、やはり気になりました。困ったものです。
一方、映画全編を通して問われる「血か、芸か」というテーマについては、歌舞伎界においておよそ知られたことですが(〇代目とつく役者さんがたくさんいる)、最近の歌舞伎役者人気ランキング1位が家の子でない片岡愛之助さんであったように、世間はあまり関係ないのかもしれません。
むしろ「血に守られている」というのは、逆に重荷で、「できて当たり前」と思われたり、代々、名前を継ぐ人たち(父や祖父)と比べられたりすることは、かなりしんどいのではと思いました(でも、「あ、ここがお父さんに似てきた。」「お爺さんとそっくり。」なんて楽しみもあります)。
もちろん、そもそも、親の後ろ盾があるのとないのとでは、演じられる役からして違ってくるでしょうから、一般家庭から入られる役者さんも、相当な苦労がおありのことでしょう。
映画では、そのあたり、かなり濃密に描かれていました。現実問題、歌舞伎の家の子でも、親が早くに亡くなると、教えてくれる人がおらず、後ろ盾がなくなるわけですから、芸の継承は大変です。
それでも、最近の歌舞伎界の様子を見てみると、だいぶ風通しがよくなってきたのではと感じるところもあります(尾上松緑さんの「紀尾井町夜話」などを見ていると)。
特に歌舞伎は、「伝統」と「革新」が強く交わる芸能なので、どちらかに偏り過ぎてもよくないのかもしれません。要はバランスですね。
また歌舞伎界のスキャンダルについても、うまく映画では織り込んでいて、本当に二人の主役は波乱万丈(女性問題やら病気やら)。見ていて、「あー、あれはこれだな。」という、実際のスキャンダルも思い浮かびました。それだけ、小説では、きっとよく取材できていたのでしょう。
ただ、ここは決定的に違う、と思ったのは、当たり前ですが、二人の役者さんのステキな顔が白粉でつぶされていたこと、「踊り」より「顔」での演技に焦点が当てられていたことです。
今年の2月、歌舞伎役者・中村橋之助さんが初めて主役をつとめた映画「シンペイ」の舞台挨拶の際、「自分の顔が映像のアップに耐えられるのか、心配だった」と言われていて、「えー、そんなこと思うの?」と驚きましたが、確かに、顔は白塗りでつぶして描くわけですから(推しの米吉さんがよく言われる)、歌舞伎役者の方は、まさに演技と踊りで魅せているのです。それこそ芸1本。素顔が良いにこしたことはないのかもしれませんが、化けてなんぼの世界とも言えます。
一方、今回の映画の二人は、白粉塗っても、そりゃ綺麗ですが、ない方が、当然色男。その中で、体の演技を求められ、魅力の顔もつぶされるわけですから、並大抵の精神力・演技力ではないなと感じました。
その点で、ある種の「凄み」が出ていたと言えるのかもしれません。ただ、本物の舞台にはかないませんので、そこは顔のアップ(演技)で流していたところもややあったように思います。
歌舞伎の舞台は、映画のようにギュっとコンパクトにはいかないので、多少、長い、だるい、と思うところもあります。また古典だとセリフが難しいものも。でもやはり「本物」の魅力があります。体技と、言葉と、演技と、音楽と、あっと驚く仕掛け、そのすべてが、やはり私にとっては最高の夢の世界に感じます。
映画「国宝」をきっかけに、本物の歌舞伎を見てみたい、と思ったら、ぜひ、歌舞伎座に足をお運びください。今、上演している「刀剣乱舞」の歌舞伎や、ミレールのオンライン配信歌舞伎、映画館「シネマ歌舞伎」からでも大丈夫。服装もラフな格好でOKです。一方、客席で素敵な着物姿も拝めるので、おしゃれするのもまた一興。お弁当買って、もしくは作って持ち込んで、いや劇場で食べて、なんでもできます。これを機に、映画館とは一味違う、歌舞伎の世界へ皆様ぜひぜひお越しくださーい(千代田区の国立劇場、早く建て替えられて再開しますように)。
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(こちらは以前国立劇場で見た本物の国宝・歌六さん)