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koudansyou-古典と現代

主に平安文学・文化についてのつれづれ書き(画き)

2019年09月

朝晩、少しずつ涼しくなってきています。台風の余波で風の強い日、蒸し暑い日もありますが、確実に秋が深まっていく気配。

そんな中、最後の夏を感じさせる企画がこちら。
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最後の写真は天井です。

先日、日本橋三井ホールで開催されていた「アートアクアリウム2019〜江戸・金魚の涼&ナイトアクアリウム」(9/23終了)に行ってきました。

会場は人でごったがえしていましたが、美しくて立派な金魚(造形物)、入れ物と光の競演に、時を忘れました。金魚は最大で20センチほどのものも。尾びれをゆらゆらさせながら泳ぐ姿がなんとも優雅で気品があって見とれてしまいます。人に造られた観賞魚であることが、儚くもあるのですが、今はうまく飼うことができれば十年は生きるそうです。

ちなみにわが家も先週、金魚を飼ったばかり。
https://youtu.be/AXaDBesG62k

琉金と黒出目金のコンビです。文鳥と金魚と、夏目漱石の『夢十夜』を読みながら、どちらを飼うか悩んでいましたが、金魚売りが出てくる話の方が私は好きなのと、1〜2週間餌なしでも大丈夫と聞いて金魚にしました。でも水替えが大変だとの声が周囲からちらほら。

がんばってお世話するので、長生きしてね。





先日、久しぶりに映画を見てきました。「おっさんずラブ」です。

昨年ドラマで話題になり気になっていましたが、忙しさにかまけて見そびれ、今回映画館に一人で足を運びました。

ドラマを見ていた人の評価では「続編として150%の満足度」と書いてあったのですが、私はそれまでの筋を知らないので、あまり期待していませんでした。でも、大いに笑えて、泣けて、楽しめました!

最初は、主人公・春田(はるぽん/はるたん)のテンションが高くて「ついていけるかな」と不安になりましたが、脇の俳優陣(特に吉田鋼太郎)の渋さ、可愛さに引きつけられ、まるで舞台を見ているようにひき込まれていきました。

主筋は、男性同士の三角関係、五角関係を描くのですが、とにかくジェンダーフリーの感覚がとても心地よいのです(以下、少しだけネタバレ)。
黒澤部長
(黒澤部長は男性部下の春田に胸キュン。妻を捨てて結婚を望みます)

たとえば、映画中、花嫁のブーケトスがあるのですが、格好いいおっさんが必死に走ってゲットする姿にぐっときました。ブーケトスといえば、女性たちが前に集められる(私も経験あります)印象ですが、なぜ、そこは女性オンリーなのか、花婿はやらないのか、改めて考えると、不思議ですよね。

特に吉田鋼太郎演じる「黒澤部長」は、自分をシンデレラに準えて恋に落ち、白雪姫の王子に
準えて好きな相手を救おうとします。これは近年ディズニー映画に見られるジェンダー枠のずらし
(お姫様がお姫様を救う、王子様の悪役など)を想起させます。

男性だからって「姫を救う」と頑張らず、待っていたっていいし、その相手はかならず「女性」でなくてもいい、美しければ、心ひかれれば、囚われず自由に好きになっていいんだよ、と言われているようでした。

そして、これらはいろいろな枠組み......女・男・母・父・妻・夫・娘・息子etc.様々な思い込み・縛りから、解放してくれるような清々しさがありました。

さらに今回は「思いをきちんと言葉で伝えること」がテーマになっていて、それも本当に大事なことだなと実感させられます。

また、初見の人にも楽しいのが、様々な洋画や邦画のパロディがちりばめられていること。

これは「ローマの休日」。これは「007かな?」。これは「刑事ドラマ?」などなど。レビューに
よると、ドラマ本編の名場面引用もあるようで、まさに古典にもある「物語内引用」と同じでは
ないですか!つまり、人気のストーリーには、古今問わず、読者(視聴者)サービス的な、
もしくは「くり返し」を楽しむ仕掛けがあるわけですね。

たとえば『狭衣物語』という平安後期の物語には、『源氏物語』への愛がつまった表現が随所に
見られます。詩歌表現の引用も多く、まさにパロディの宝庫。たとえば、冒頭の文章。

少年の春は惜しめども留まらぬものなりければ、三月も半ば過ぎぬ。御前の木立、何となく青みわたれる中に、中島の藤は、松にとのみ思ひ顔に咲きかかりて、山ほととぎす待ち顔なり。池の汀の八重山吹は、井手のわたりにやと見えたり。光源氏、身をも投げつべし、とのたまひけんも、かくやなど、独り見たまふも飽かねば、侍童の小さきして、一房づつ折らせたまひて、源氏の宮の御方へ持て参りたまへれば、

最初の部分は、「燭を背けては共に憐れむ深夜の月 花を踏んでは同じく惜しむ少年の春」(『和漢朗詠集』/『白氏文集』中の一句)という、青春が過ぎ去るのを惜しむ句を引きます。また傍線部のように、先行する物語の主人公・光源氏が「身を投げてしまいたい」と藤の花を折って朧月夜に詠みかけたのは、このような折だったかと、『狭衣物語』の主人公・中将は、光源氏の心中に自分の思いを重ね、同様に、禁忌の恋の相手・源氏の宮に花を贈るのです。


この後も『狭衣物語』には、『源氏物語』を想起させる場面やアレンジを加えた場面がよく出てきます。いまであれば、パクリだと言われてしまいそうですが(実際、かつては『源氏』の亜流といった評価もありました)、『狭衣物語』によるファンサービスであり、『源氏』へのオマージュなのだと思います。

人気の物語の手法は、千年たっても変わらないようで、面白いです。


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