胡蝶巻の源氏絵
6月最終日を迎えました。オンライン授業が継続する一方で図書館の利用者が全学に広がり、明日からは利用時間も延長されます。また家族の学校も再開し、それなりに生活は変化しましたが、基本「自宅で勤務」は続いています。
先日、三ヶ月ぶりにお茶の水の大学へ行ってきました。メールボックスも心配でしたし、研究室にある書籍もずっと取りにいきたかったので、ようやく意を決した次第です。ここしばらく電車にはほとんど乗らず、人混みも久しぶりだったので、帰宅したあとはしばらく放心状態でした。
駅の階段、人混み、これを週4〜5日往復でやっていたかと思うと、我ながらぞっとします。それでも、朝の通勤ラッシュ時はほとんど避けられていたので、首都圏に住む人々の生活は、本当に異常だったなと改めて思います。
さて、私の研究室のドアには、季節ごとに源氏絵のポストカードを貼り付けているのですが、桜を描いた「春」で時間が止まっていました。これを「夏」の巻に貼り替えるか悩んだのですが、今、大学院の演習でも読んでいる胡蝶巻の源氏絵に変えてきました。
胡蝶の童舞・改
(ポストカードの源氏絵は、このような胡蝶巻の童舞の場面が描かれています)
『源氏物語』の胡蝶巻は「三月の二十日あまりの頃ほひ」で始まりますが、内容はまるで桃源郷のような、不思議と春で時間が止まっているような世界が描かれます。以下、光源氏の邸宅である六条院、春の町(紫の上を主人とする)の様子です。
他所には盛りすぎたる桜も、今盛りにほほ笑み、廊をめぐれる藤の色もこまやかにひらけゆきにけり。まして池の水に影をうつしたる山吹、岸よりこぼれていみじき盛りなり。水鳥どもの、つがひを離れず遊びつつ、細き枝どもをくひて飛びちがふ、鴛(をし)の波の綾に文をまじへたるなど、物の絵様にも描き取らまほしきに、まことに斧の柄も朽いつべう思ひつつ日を暮らす。(胡蝶巻より)
「斧の柄も朽いつべう」というのは「爛柯(らんか)の故事」を意味します。中国、晋の時代、王質というきこりが森で童子に会い、童子たちが碁を打つのを見て時を忘れ、気がつくと置いていた斧の柄は腐り、帰ってみれば当時の人は誰もいなかったという話です(『述異記』等)。浦島太郎の話にも少し似ていますね。
対面授業では、外の気温や陽光はもちろん、学生の服装の変化でも季節が感じられましたが、いまはそれらが全体的にぼんやりとした印象に。
ふと気づくと随分時が経ってしまった、なんておそろしいことにならないよう、節目節目をきちんと過ごしたい、と切に思っている今日この頃です。
さて、今週末は、家族も楽しみにしている「○しろまる滅の刃」の発売日ですが、ポストカードを変えながら「胡蝶といえば......」と思わずにはいられませんでした。ちなみに家族は伊之助のファンです。
胡蝶しのぶ
↑物語の舞台は大正時代。平安時代とは関係ないですが、ご容赦ください(あ、でも敵役の「無惨」が鬼になったのは平安時代だったかな)。
先日、三ヶ月ぶりにお茶の水の大学へ行ってきました。メールボックスも心配でしたし、研究室にある書籍もずっと取りにいきたかったので、ようやく意を決した次第です。ここしばらく電車にはほとんど乗らず、人混みも久しぶりだったので、帰宅したあとはしばらく放心状態でした。
駅の階段、人混み、これを週4〜5日往復でやっていたかと思うと、我ながらぞっとします。それでも、朝の通勤ラッシュ時はほとんど避けられていたので、首都圏に住む人々の生活は、本当に異常だったなと改めて思います。
さて、私の研究室のドアには、季節ごとに源氏絵のポストカードを貼り付けているのですが、桜を描いた「春」で時間が止まっていました。これを「夏」の巻に貼り替えるか悩んだのですが、今、大学院の演習でも読んでいる胡蝶巻の源氏絵に変えてきました。
胡蝶の童舞・改
(ポストカードの源氏絵は、このような胡蝶巻の童舞の場面が描かれています)
『源氏物語』の胡蝶巻は「三月の二十日あまりの頃ほひ」で始まりますが、内容はまるで桃源郷のような、不思議と春で時間が止まっているような世界が描かれます。以下、光源氏の邸宅である六条院、春の町(紫の上を主人とする)の様子です。
他所には盛りすぎたる桜も、今盛りにほほ笑み、廊をめぐれる藤の色もこまやかにひらけゆきにけり。まして池の水に影をうつしたる山吹、岸よりこぼれていみじき盛りなり。水鳥どもの、つがひを離れず遊びつつ、細き枝どもをくひて飛びちがふ、鴛(をし)の波の綾に文をまじへたるなど、物の絵様にも描き取らまほしきに、まことに斧の柄も朽いつべう思ひつつ日を暮らす。(胡蝶巻より)
「斧の柄も朽いつべう」というのは「爛柯(らんか)の故事」を意味します。中国、晋の時代、王質というきこりが森で童子に会い、童子たちが碁を打つのを見て時を忘れ、気がつくと置いていた斧の柄は腐り、帰ってみれば当時の人は誰もいなかったという話です(『述異記』等)。浦島太郎の話にも少し似ていますね。
対面授業では、外の気温や陽光はもちろん、学生の服装の変化でも季節が感じられましたが、いまはそれらが全体的にぼんやりとした印象に。
ふと気づくと随分時が経ってしまった、なんておそろしいことにならないよう、節目節目をきちんと過ごしたい、と切に思っている今日この頃です。
さて、今週末は、家族も楽しみにしている「○しろまる滅の刃」の発売日ですが、ポストカードを変えながら「胡蝶といえば......」と思わずにはいられませんでした。ちなみに家族は伊之助のファンです。
胡蝶しのぶ
↑物語の舞台は大正時代。平安時代とは関係ないですが、ご容赦ください(あ、でも敵役の「無惨」が鬼になったのは平安時代だったかな)。