[フレーム]

koudansyou-古典と現代

主に平安文学・文化についてのつれづれ書き(画き)

いざ貝合!

三月最後、年度最終日を迎えました。「主任最後のご挨拶を〜」と思っていたら、事務から「専攻主任を免じる辞令書」の連絡があり、「命じる」と「免じる」を間違えて「え〜もうやらないよ〜」と余計な連絡をしてしまいました。とんだ勘違い。失礼しました。

さてさて、今日は前回の続きです。

3年生演習秋学期最後の授業(1月13日)は、「貝合」(かいあわせ)の遊戯体験をしました。
(「貝覆」(かいおおい)のゲームをやった時の話も以前書きました⇒「貝合と貝覆」)

『堤中納言物語』には、「貝合」の他、「根合」の催しをテーマにした話もあり、とにかくこの何かを「合わせる」ゲームに貴族たちが夢中になっていたことがわかります。

元々は、「歌合」(うたあわせ)が基本で、左右にチーム分けされた人たちが、順番に歌を出し合って競い合い、判者(1名)がその都度、勝・負・持(引き分け)を決め、最終的に多く「勝」を得た側が勝つという仕組みです。

村上天皇の御前で、宮中行事として初めて行われた「天徳内裏歌合」(960年)では、最後の歌で、両サイドの人々が自分たちの勝ちを請うべくそれぞれの和歌(「しのぶれど色に出にけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで」「恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひそめしか」)を繰り返し朗詠したエピソードも残っています。

物合についても同様で、根合は、菖蒲の根の長さを競うのですが、同時に歌も詠まれます。

今回の貝合も、貝の珍しさ・美しさを競うだけでなく、歌も即興で詠んでもらいました。

貝については、「くらげ好き」の私の家族が、拾ったり買ったりしてコレクションしている貝を持参。

(色とりどりの貝たち。大きさもさまざま)

この中から、学生に「これだ!」と思う貝を選んでもらい、同時に和歌も一首作ってもらいました。テーマがバラバラだと競いにくいので(歌合でも必ず「題」がある)、今回は「かひあはせ」の五文字を句頭に据えて(「折句」)、およそ季節をテーマにしました(たぶん)。

まず、くじ引きで、左(赤)チーム・右(青)チーム(各5名ずつ)に分け、判者役(1名)と和歌の詠み上げ役(2名)を決めました。

そして貝を選び、歌を詠んで、それぞれ机上に出してもらいます。
DSC_1127
(敷物とかあれば、もっと雰囲気が出たかもしれません。州浜もほしいところ)
3番の勝負
(こちら3番目の勝負。最終的に勝ったのは「左」(赤)チームでした!)


詠まれた歌を順番にホワイトボードに書いて、歌を詠みあげてもらい、判者にどちらがよいか、判断してもらいます。判者が困ったときは、貝の良しあしで判断する、という方式。最後は、皆さんにも、「良かった」と思う歌を投票してもらいました。

以下、一部、得票数の多かった歌をご紹介。

「髪かざり 光る愛しき あの子かな 笑う晴れ着の 背も伸びにけり」

成人式でしょうか。「背が伸びている」なんて、ちょっと『伊勢物語』の筒井筒を思い出します。皆さん、ちょうど二十歳を迎えた年ですから、時節的にもピッタリで、共感を得られたのだと思います。

「貝拾い 一人歩いた 朝の海 羽を休める セキレイの声」

季節がちょっと違っていたので(「鶺鴒鳴」(鳴き始める)は9月)、判では負けた歌ですが、皆の支持を集めました。

セキレイは『古事記』の記事からちょっと色っぽい(?)鳥としても知られているので、「一人歩いた朝の海」も、お相手はまだ就寝中かも......なんて想像をかき立てられました。でも純粋に「波打ち際のさわやかな(もしくはちょっと寂しい)朝の情景」を思い浮かべるのもいいですね。

歌を作るまでは、皆さん「生みの苦しみ」があったようですが、次々とアイデアあふれる、面白くて素敵な和歌を皆で一緒に味わうことで、この催し、なかなか楽しんでもらえたようです。

次年度も続けてみようかなと思っています。和歌は、やはり自分で詠んでみると、歌人たちの凄さがわかりますし、皆で楽しさを分かち合っていた、当時の人々への理解も深まります。

それでは、また新学期、どこかの授業でお会いしましょう〜。





このページのトップヘ

traq

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /