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koudansyou-古典と現代

主に平安文学・文化についてのつれづれ書き(画き)

筑紫のかぐや姫──玉鬘(たまかづら)

すっかり秋めいてきた今日この頃。わたしは新たな論文を書くべく「鬼」と格闘しております。そんな折、家族が学生の引率で九州へ行き、こんな絵馬を買ってきてくれました。
絵馬
鏡神社とは、現在の佐賀県鏡山の麓にある神社で、ご祭神は、神功皇后と藤原広嗣です(かつては松浦佐用姫であったと言われています)。『源氏物語』では、筑紫に下った夕顔の娘・玉鬘の一行が都への無事の帰還を祈った神社として出てきます。絵馬に「鏡の神にかけてちかわむ」と書かれているのは、和歌の下の句で、実際は、玉鬘巻に出てくる次のような歌です。

(大夫の監)君にもし心たがはば松浦なる鏡の神にかけて誓はむ
(もしあなたから私が心変わりをすることがあれば、どんな罰でも受けると鏡の神に誓いましょう)

この歌は、玉鬘に求婚した肥後の豪族・大夫の監の歌です。鏡を持つ女性は、誰だかはっきりとはわかりませんが、少なくとも女性が詠んだ歌ではないことになります。

大夫の監は、「容貌(かたち)ある女を集めて見む」というような好き心があり、その威勢は「筑紫の帝」と言っても良さそうなほどでした。けれども玉鬘は都の大臣家の血を引く姫君。姫君の一行は、当然のことながら、この求婚を快く思いません。

(乳母)年を経ていのる心のたがひなば鏡の神をつらしとや見む
(長年姫君の幸せを祈り続けてきた願いが叶わないならば鏡の神を恨めしく思うでしょう)

この返歌では、姫君の一行が長年この鏡の神に祈りを捧げてきたことがわかりますが、「姫君の幸せ」とは、もちろん都への帰還を意味していたはずで、深層では、大夫の監の思いを退けるものでした。

祈りが通じたのか、このあと玉鬘は都へ帰還し、夕顔の元恋人・光源氏を養父とする玉鬘求婚譚が始まります。このありさまは、まるでかぐや姫の求婚譚に似ていますが、冷泉帝の元に出仕することが決まった後、鬚黒大将の妻となったため、あくまで帝の思い人(私の后)に留まりました。このように他人の妻でありながら、帝の思い人となって女官(尚侍)となる、という展開は、『うつほ物語』の俊蔭の女(むすめ)に似ています。この俊蔭の女も、「かぐや姫」の遺伝子を受け継いでおり、帝とのやりとりにおいては「十五夜」「かぐや姫」「子安貝」など、言葉の上で竹取物語の引用が見られます。
かぐや姫の遺伝子
このような「かぐや姫の遺伝子を継ぐ姫君たち」は、紫の上や浮舟など、物語に登場する他のヒロインにも見られますが、私は「筑紫」の出身なので、玉鬘にはちょっと思い入れがあって、著書では二本の論文を書いています。興味のある方はぜひ読んでみてください。

(参考文献)
新編日本古典文学全集『源氏物語』
湯淺幸代『源氏物語の史的意識と方法』(新典社、2018)第三部「『源氏物語』の「后」と「后がね」─理想の「后」の表象」

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