さなぎ日記:あさなぎクリニック心療内科のブログです。こころの健康、コミュニケーション、おいしいお店や、映画のことも。

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あさなぎクリニック・心療内科の
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エスシタロプラム(商品名レクサプロ)。新しいうつ病の薬です。

エスシタロプラムは、世界で一番ポピュラーなSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。<シタロプラムというSSRIの光学異性体のうち、効果のあるS体のみをとりだしたものです>この薬の特徴は、セロトニン以外にはほとんど作用しない(=セロトニン選択性が高い)ことです。MANGAスタディー(マンガスタディー)で、有効性がミルタザピンに次いで2番目、受容性(=安全性)が一番になりました。MANGAス...全文を表示
エスシタロプラムは、世界で一番ポピュラーなSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。


<シタロプラムというSSRIの光学異性体のうち、効果のあるS体のみをとりだしたものです>

この薬の特徴は、セロトニン以外にはほとんど作用しない(=セロトニン選択性が高い)ことです。

MANGAスタディー(マンガスタディー)で、有効性がミルタザピンに次いで2番目、受容性(=安全性)が一番になりました。MANGAスタディーとは、急性期の大うつ病性障害の患者で、どの抗うつ薬が効くかを調べた信頼性の高い研究です。

このことから、とても期待が持てるうつ病の治療薬だといえるでしょう。

<これまでに80人ほど使用しましたが、眠気、浮腫、吐き気などを訴える方がいました。副作用によって服用できなかった方が5人くらいいたでしょうか。2012年8月現在>

最大の問題は、この薬が、CYP2C19(シップ・ツー・シー・ナインティーン)で代謝されることではないでしょうか。日本人にはCYP2C19を代謝する作用が弱い人(poor metabolizer)が20%もいます(白人では3〜4%です)。これは投与前に予め調べることができません。

<5人に一人の人は、この薬を続けて飲むと血中濃度が倍になると考えてください>

エスシタロプラムは10ミリグラムが治療に必要な量で、最大20ミリグラムまで服用することができます。

<ですが、血中濃度が2倍になる人が5人に一人いることを考えれば、最初は半錠の5ミリグラムを投与するのがいいのではないでしょうか。今のところそうしています>

もうひとつ心配な点ですが、エスシタロプラムはQT延長という、心電図異常の副作用がある点です。QT延長は、稀だとしてもトルサード・ド・ポアンツ(Torsades de Pointes。この読み方はこれが正しいそうです。これまでトルサデポアンだと思っていました)という多形性心室頻拍(VT)を起こす可能性があります。これは、突然死の主要な原因です。

ドネペジル(アリセプト。認知症の薬です)にもQT延長作用があります。これまでにドネペジルを服用している患者さんの3人が失神してアリセプトを中止していますが、可能性としてはQT延長によるトルサード・デ・ポアンツも考えられると思います。その内の1人は精神症状や行動異常が悪化したため、ご家族に説明の上アリセプトを再度投与しています。

<エスシタロプラム、ドネペジル、プロプラノロールを併用した76歳の女性に、QT延長とトルサード・ド・ポアンツを生じた報告が海外にあります。Calculate the QT interval in patients taking drugs for dementia. BMJ 2007;335:557 >

以上のことを考えると、認知症に合併したうつ病の患者さんでドネペジルを服用している日本人の場合には、エスシタロプラムは避けた方がいいのではないでしょうか。

また、ED(勃起障害)の治療薬のレビトラにもQT延長の副作用があるので、EDの方もレビトラを服用する可能性を考えてエスシタロプラムは避けておいた方がいいかもしれません。

<稀でも重大な結果をもたらす副作用に関しては、慎重を期すべきでしょう。予め心電図をとって、先天性のQT延長を除外すべきなのかもしれません。QT延長は古い心電図の解析ソフトでは出ない場合があるので要注意です>

以上の点を頭に入れた上で投与すれば、エスシタロプラムはうつ病の治療の大きな武器になるのではないでしょうか。

<その後、2012年4月、エスシタロプラムはQT延長のなる患者さんで、投与禁忌になりました。心電図検査や、不整脈を指摘されたことがあるかなどの問診が必要です>



エスシタロプラムは、世界で一番ポピュラーなSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。


<シタロプラムというSSRIの光学異性体のうち、効果のあるS体のみをとりだしたものです>

この薬の特徴は、セロトニン以外にはほとんど作用しない(=セロトニン選択性が高い)ことです。

MANGAスタディー(マンガスタディー)で、有効性がミルタザピンに次いで2番目、受容性(=安全性)が一番になりました。MANGAスタディーとは、急性期の大うつ病性障害の患者で、どの抗うつ薬が効くかを調べた信頼性の高い研究です。

このことから、とても期待が持てるうつ病の治療薬だといえるでしょう。

<これまでに80人ほど使用しましたが、眠気、浮腫、吐き気などを訴える方がいました。副作用によって服用できなかった方が5人くらいいたでしょうか。2012年8月現在>

最大の問題は、この薬が、CYP2C19(シップ・ツー・シー・ナインティーン)で代謝されることではないでしょうか。日本人にはCYP2C19を代謝する作用が弱い人(poor metabolizer)が20%もいます(白人では3〜4%です)。これは投与前に予め調べることができません。

<5人に一人の人は、この薬を続けて飲むと血中濃度が倍になると考えてください>

エスシタロプラムは10ミリグラムが治療に必要な量で、最大20ミリグラムまで服用することができます。

<ですが、血中濃度が2倍になる人が5人に一人いることを考えれば、最初は半錠の5ミリグラムを投与するのがいいのではないでしょうか。今のところそうしています>

もうひとつ心配な点ですが、エスシタロプラムはQT延長という、心電図異常の副作用がある点です。QT延長は、稀だとしてもトルサード・ド・ポアンツ(Torsades de Pointes。この読み方はこれが正しいそうです。これまでトルサデポアンだと思っていました)という多形性心室頻拍(VT)を起こす可能性があります。これは、突然死の主要な原因です。

ドネペジル(アリセプト。認知症の薬です)にもQT延長作用があります。これまでにドネペジルを服用している患者さんの3人が失神してアリセプトを中止していますが、可能性としてはQT延長によるトルサード・デ・ポアンツも考えられると思います。その内の1人は精神症状や行動異常が悪化したため、ご家族に説明の上アリセプトを再度投与しています。

<エスシタロプラム、ドネペジル、プロプラノロールを併用した76歳の女性に、QT延長とトルサード・ド・ポアンツを生じた報告が海外にあります。Calculate the QT interval in patients taking drugs for dementia. BMJ 2007;335:557 >

以上のことを考えると、認知症に合併したうつ病の患者さんでドネペジルを服用している日本人の場合には、エスシタロプラムは避けた方がいいのではないでしょうか。

また、ED(勃起障害)の治療薬のレビトラにもQT延長の副作用があるので、EDの方もレビトラを服用する可能性を考えてエスシタロプラムは避けておいた方がいいかもしれません。

<稀でも重大な結果をもたらす副作用に関しては、慎重を期すべきでしょう。予め心電図をとって、先天性のQT延長を除外すべきなのかもしれません。QT延長は古い心電図の解析ソフトでは出ない場合があるので要注意です>

以上の点を頭に入れた上で投与すれば、エスシタロプラムはうつ病の治療の大きな武器になるのではないでしょうか。

<その後、2012年4月、エスシタロプラムはQT延長のなる患者さんで、投与禁忌になりました。心電図検査や、不整脈を指摘されたことがあるかなどの問診が必要です>



コメント 3

ひくま薬局管理薬剤師
ドネペジルとQT延長

当方、浜松市の薬局に勤務しています薬剤師の篠崎と申します。

「ドネペジル&QT」でgoogle検索したところ、貴ブログがヒットしました。

私は、薬剤性TdP発現に関心があり、薬局で携帯型心電計にて心電図検査をして、QT延長薬のリスク管理に活かそうと日々奮闘しております。
1薬学雑誌130(11), 1597-1601, 2010.「携帯型心電計を用いた薬局薬剤師によるQT延長薬のリスク管理」<http://yakushi.pharm.or.jp/FULL_TEXT/130_11/pdf/1597.pdf>
2薬学雑誌132(2), 2012, in press.「薬局薬剤師による心電図モニタリング:塩酸ドネペジル服用に伴い延長したQTcが相互作用薬の変更により短縮した一例」<http://denshi.pharm.or.jp/home/pubpharm/pubview.asp?p=y110103>

アリセプト服用中の患者さんで3人も失神例がでたのですね!驚きです。論文にはされたのでしょうか?pubmedやgoogle検索ではひっかからないのですが・・・。
ブログに書かれている通り、アリセプトはQT延長に注意が必要ですし、できれば、事前にQTをチェックした方が良いという点、全く同感です。また、ご存知の通り、精神科の薬剤は特にQT延長に注意が必要ですので、要所で心電図検査は必要であり、薬局もその一助(もちろん無料・報酬なし)になると考え、論文や学会発表を行い、理解と普及?を目指しています。

拙い長文にご付き合い頂き有難うございました。

失礼致します。
********************************************
ひくま薬局 管理薬剤師 博士(学術)
篠崎 幸喜
浜松市中区曳馬5-17-8
TEL:053-471-0990
FAX:053-471-0991
-------------------------------------------------------
Kohki Shinozaki, Ph.D., Pharmacist
Hikuma Pharmacy
5-17-8 Hikuma, Naka-ku, Hamamatsu,
Shizuoka, Japan
********************************************

さなぎ
篠崎様コメント、ありがとうございます

一人は入院中の方でした。二人は外来患者さんで、救急車で緊急入院になりました。おそらく一般の医師は知らないのでしょう。先日、脳外科の医師にこの話を話したところ、最近ドネペジルを服用中で失神で運ばれる方が多かったと言っていました。

抗精神病薬でQT延長は多いです。そして精神科病院に入院していた方で突然死は多かったです。この原因はtdpが多かったのではと思っています。

僕自身は、循環器に勤めていたことがあるのと、自分自身にQT延長があるのでとても関心があるのです。

論文にはしていません。本当はしなければいけませんね。

コメント、本当にありがとうございます。

  • 2011年12月12日 (Mon) 21:42
  • REPLY
さなぎ
No title

後日談ですが、その後、ドネペジルに関しては有害事象の報告をさせていただきました。

  • 2011年12月28日 (Wed) 12:10
  • REPLY

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ブラックアウト あるいは、「ワインレッドの心」

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