さなぎ日記:あさなぎクリニック心療内科のブログです。こころの健康、コミュニケーション、おいしいお店や、映画のことも。

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あさなぎクリニック・心療内科の
院長ブログです。
こころの健康、コミュニケーション、おいしいお店や、映画のことも。

「ストレスと心の健康」甲府南ロータリークラブ会報のための原稿です。

「ストレスと心の健康」甲府南ロータリークラブ会報のための原稿です。 サムネイル画像
「ストレスと心の健康」 先日は伝統ある甲府南ロータリークラブの例会にお招きいただきましてありがとうございました。あさなぎクリニックの反田です。当院は開院して6年目の心療内科です。一般外来診療と臨床心理士によるカウンセリング、うつ病で休職中の方の復職をお手伝いするリワークポルトを行っています。 今回は、ストレスと心の健康というテーマでお話しさせていただきました。 1:ストレスチェックについて 2:心療...全文を表示
2016年12月14日 0 0
あさなぎクリニック
「ストレスと心の健康」


先日は伝統ある甲府南ロータリークラブの例会にお招きいただきましてありがとうございました。あさなぎクリニックの反田です。当院は開院して6年目の心療内科です。一般外来診療と臨床心理士によるカウンセリング、うつ病で休職中の方の復職をお手伝いするリワークポルトを行っています。
今回は、ストレスと心の健康というテーマでお話しさせていただきました。

1:ストレスチェックについて
2:心療内科にはこんな方が来る
3:うつ病について
4:人見知りが治るノートについて

以下はその要約です。

1:ストレスチェックについて。
ストレスチェックがスタートしました。なぜストレスチェックが必要かというと、ブラック企業があるからです。
先日、電通の若い女性社員が過労自殺しました。ニュースなどでご存知の方も多いのではないでしょうか。1991年にも同様の事件がありました。24歳の電通マンが長時間労働でうつ病となって自殺しました。ご遺族が会社を訴えて、裁判の結果1億6800万円の和解金が支払われました。過労自殺の責任が会社にあると最高裁が初めて認め、その後企業が産業衛生に本格的に取り組む転機となった事件でした。
前回は民事訴訟でしたが、今回は2度目ということもあり強制捜査が入りました。電通はTさんに36協定で許可された70時間を超える残業を申請しないように命じていました。これが組織的ならば刑事事件となり、電通は大きな社会的な制裁を受けることになるでしょう。
ストレスチェックは50人以上の従業員のいる事業所に対して年1回全員に実施することが義務づけられています。労働者の心の状態を調べるものです。
企業は従業員全員にストレスチェックを受けることを勧めます。それに応じた従業員は質問項目に答え、高ストレスと判定された場合は、希望者は会社負担で医師の面接を受けます。その結果は会社に報告されるので、パワハラが原因の場合には報復人事などを恐れて面接を希望しない方もいます。
ストレスチェックと健康診断ではどこが違うのでしょうか? 健康診断は従業員の健康を会社が把握するためのもので、社員は受ける義務があります。一方、ストレスチェックは職場の環境が適切かどうかを調べるもので、チェックを受けるか否かは従業員の任意です。
ストレスチェックはメンタル不調の人を早期に発見するのではなく、職場環境を改善することでメンタル不調になる人を未然に防ぐことが目的です。

2:心療内科にはこんな方が来ます。
発達特性の問題(ADHDや自閉症スペクトラムです)で来院する方が最近増えています。もっとも多いのは、うつ病など気分障害圏の方です。パニック障害、強迫性障害、社交不安症などの不安障害がそれに次ぎます。拒食症や過食症などの摂食障害、統合失調症、各種の依存症、不眠、認知症、一般科との境界領域の疾患や恋愛に関する相談も少なくありません。
S(=スーザン・ボイル:会報ではイニシャルにしてあります)さんはイギリスの歌のオーディション番組で優勝してプロになりました。オーディションの際にはいかにもあか抜けない感じで審査委員から「将来はどんな歌手を目指すか」とちょっと意地悪な質問をされて、有名なオペラ歌手を目指していますと素直に答えて会場の失笑を買いました。ところがいざ歌い始めると素晴らしい歌声で、観客は総立ちになりました。
彼女はそれまで、笑われたりいじめられたりしていましたが、その理由が分かりませんでした。その後彼女は診断を受けて、その理由が分かってホッとしたそうです。
診断はアスペルガー障害でした。一言でいうならば空気感の違う人といえます。特定の分野では力を発揮しますが、言葉の裏の意味を推測したり、その場の空気を読んだりするのが苦手です。オキシトシンというホルモンがアスペルガー障害のコミュニケーションの改善に効果があるという報告があり、今後の治療に期待が持てます。
印象的なエピソードに事欠かないプロスポーツ選手のNさん(=長嶋茂雄さん)はADHD(=注意欠如多動性障害)です。一言でいうならば、「愛すべきおっちょこちょい」です。うっかり屋で、飽きっぽく、気が散りやすく、忘れ物が多い。思いついたらすぐに口に出す。好きなことには異常に集中する。じっとしていられない。そんな方です。最近ストラテラという薬が効きます。
お笑い芸人のTさん(=中川家の剛さん)は電車で仕事場に行く際に、ドキドキして、息苦しくなって何度も途中下車しなければなりませんでした。Tさんの病気はパニック障害でした。自由の利かない空間などに入ると、息が苦しくなり、ドキドキして、手足が痺れて来て、死ぬかもしれないと思います。SSRIという抗うつ薬が良く効きます。
サッカー選手のBさん(=デヴィッド・ベッカムさん)は遠征でホテルにチェックインするとまず冷蔵庫を開けます。片方のポケットにミネラルウオーターが1本、反対に3本入っていたら、3本の方から1本移動して両方2本にします。そんなBさんは強迫性障害です。強迫性障害は、ある不合理な考え(=強迫観念)が頭に浮かぶとそれを打ち消すための行動(=強迫行為)をしなければ気が済まない病気です。施錠や、落とし物の確認を何度もしないと気が済まない方もいます。薬物療法と行動療法によって治療します。
Rさん(=ロナルド・レーガンアメリカ40代大統領です)はご自身の言葉で認知症を公表した初めての著名人です。Rさんはアルツハイマー型認知症でしたが、最近では、レビー小体型認知症(DLB)がクローズアップされています。DLBは幻視や幻聴が特徴的で、手の震えなどのパーキンソン症状を伴います。来年(H29年)から認知症の方の運転の規制が厳しくなります。山梨県は車がないと生活できないので、どのように法令が運用されるかが気になります。

3:うつ病について
個性派俳優のHさん(=萩原流さん)と奥様はうつ病になり、うつ病の闘病記をお書きになりました。初めに奥様がうつ病になった時にHさんは奥様に「頑張れ」とはっぱをかけたそうです。その後ご自身がうつ病になり、「頑張れ」と言われるのがどんなに辛いか分かったとおっしゃっています。
うつ病の患者さんは1999年以降、激増しています。1998年に自殺者が3万人を超えました。1998年は企業の倒産数が戦後2番になった年です。自殺は経済と大きな関係があります。増えた自殺者の大半が男性です。一般に不況になると労働者の自殺が増えると言われていますが、日本では管理職の自殺が増えています。管理職の数が激減して仕事の負担が増えているのがその原因です。
うつ病になる人は、責任感が強く、自分を責めます。無理しても仕事を引き受けます。自分は楽しまず、その場を盛り上げるようなタイプです。
うつ病の人への接し方はどうしたらいいでしょう? 心配し過ぎない、叱咤激励をしない、休んでいる時に仕事のことを考えさせない、大きな決定を迫らない、気分転換に連れ出さない、迷ったら楽な方を選ばせる、ことなどが大切です。
うつ病になった場合には、抑うつ的反芻(はんすう)をしないことが重要です。抑うつ的反芻とは、失敗の原因やその結果をくどくどと考えることです。自分に都合よく解釈しましょう(これが認知を変えることです)。
フィンランド症候群はちょっと明るい話題かも知れません。心臓病予備軍の中年の男性会社経営者1000人を2グループにわけました。
Aグループ(まじめ群)は5年間はタバコやお酒を控え、定期検診をして薬物治療をする。Bグループ(ほったらかし群):15年間好きにさせる。
15年後に調べたところ、Aグループの方が、死亡率、心疾患死亡率、自殺率などすべて高かったので、研究者らは公表を控えました。その後この研究結果が明るみに出て、朝日新聞の天声人語に掲載されました。

4:人見知りが治るノートについて
一昨年の1月に「人見知りが治るノート」を出版しました。思いのほか多くの方に手に取っていただきました。アマゾンの電子書籍では全タイトル中1番になり、現在第6版が出ています。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などに何度も取りあげていただき、ジュンク堂ではサイン会も行いました。これまでにあった人見知りに関する本は、学術的な本か、人見知りに寄り添う一般向けの本しかなく、専門的な内容を一般向けに説明して、かつ治るという視点の本はありませんでした。
人見知りは、重くなると社交不安症というれっきとした病気です。日本人は世界一人見知りな国民です。
もっとも人見知りは日本人だけではありません。ゴッドファーザーの冒頭に印象的なシーンがありました。街のマフィアがゴッドファーザー挨拶するための練習を何度も繰り返します。大きな体を縮こませるようにして。あの陽気なイタリア人も緊張するんだと思ってちょっとホッとしました。
日本人が人見知りな理由の一つは、日本の社交が過度に洗練されているからではないでしょうか。茶道などがそうですよね。細かな決まり事を知らないとお茶一つ飲めません。独自なことが許されるのは、伝統を完璧に身につけた少数の人だけです。
相手との関係や立場や状況によって、話す内容も、言葉遣いも変えなければ礼儀を欠きます。他人と違う意見を公に言うことは歓迎されないし、本音を言ったり、はっきりとものを言ったりすることは憚られます。
精神科医でミュージシャンの北山修さんは、浮世絵を2万枚調べました。その結果、特徴的なパターンを発見しました。母子が並んで同じものを見ている構図です。西洋の聖母子像の場合は母子が向かい合っている構図が一般的でした。北山さんはそれを共視と名付けました。北山さんのヒット曲「あのすばらしい愛をもう一度」の「あの時同じ花を見て美しいと言った二人の・・・」が正にそうですよね。
日本では、海外から賓客が訪れる際の、一番のもてなしは、お鮨屋さんのカウンターに連れていくことです。面と向かうのではなく、ご主人を介して話をします。海外では、ラウンジ席だとチャージを取られますが、日本では寿司でも天ぷらでもカウンターが上席です。日本人は視線を合わせて向かい合うのが苦手な国民と言えるでしょう。
人見知りは視線の病です。視線には3種類あります。見守りと理解と批判の視線の3つです。見守りの視線はお母さんが子供を見つめる視線です。お母さんの視線は、お母さんが大きく伸ばした腕のようなもので、その中にいると赤ちゃんは安心です。
理解の視線は、美術品の鑑定家が本物か偽物かを見極めたり、科学者が実験をする時に物を見つめたりする際の視線です。
批判の視線は、睨む視線です。街で出会った不良同士が、ガンを飛ばしたといって喧嘩になる時のような。人見知りの人は、他人の視線を、批判の側に受け取りやすい人と言えるでしょう。
視線には方向の違いもあります。見る視線と見られる視線です。「目は心の窓」と言いますが、相手を知るためには目を見る必要があります。もっとも相手を知りたいなら自分も相手に知らせなければなりません。人見知りの人が目を合わせられないのは、普段隠している弱い自分を隠しておきたいからです。
学校で先生が授業をしている時は、先生を見ても不安ではないですよね。先生が話し終えて誰かに質問しようとして教室を見渡すと、みんな下を向きますよね。見ている視線が見られる視線に替わるからです。
その反対に、見られる視線から見る視線に変えると、不安が消えます。人前で話す際に緊張するようなら、まず会場全体を見渡すといいです。今日はどんな人が聞きに来ているかな、若い人が多いかな、知り合いはいないかな、などというように。
人見知りを治すには認知行動療法の考え方が有効です。ここでいう認知とは物事の受け取り方のことです。これは古くからある考え方です。ギリシャの哲学者エピクテトスは、「人は物事それ自体ではなく、それをどう受けとめたかによって心をかき乱す」と言いました。まさにこれが認知行動療法の考え方です。同じことを経験しても、受け取り方を変えることで不安が減ります。
恋人にフラれてショックな人は、「これで心置きなく新しい恋人を探せる」と考えれば前向きになれますよね。このように受け取り方の癖を変えること認知再構成といいます。考えを変えるだけではなく、それに基づいて行動することが重要です。こちらが行動療法です。
緊張がなければパフォーマンスは上がりません。世界的なピアニストも本番前は極度に緊張します。むしろ演奏前に緊張しない演奏家は一流ではないと言っていいでしょう。羽生弓弦さんは、極度の緊張の中で最高のパフォーマンスを見せて、グランプリファイナルを制して、史上初の4連覇を成し遂げたのでしょう。
モハメド・アリは、「自分が最高だと信じろ」と言いました。「それができないなら、その振りをしろ」と。アメリカ大統領の役を演じる新人役者になったつもりで精一杯の演技をしましょう。日本には言霊信仰があるので、「話し下手で」というと本当にそうなってしまいます。
石田純一さんは、「ナンパは確率だ」と言いました。ちょっと不謹慎に思われるかもしれませんが、そこには真実が含まれています。100人声をかけてひとりがOKならナンパは成功です。スピーチも同様です。聴いた人の何人かが良かったとか思ってくれれば成功だと思えば気が楽になりませんか。
人見知りを治すことは新しい自分を見つける旅です。知らなかった世界を知れば新しい自分に出会えるでしょう。


あさなぎ先生 250


ご清聴ありがとうございました。


「ストレスと心の健康」


先日は伝統ある甲府南ロータリークラブの例会にお招きいただきましてありがとうございました。あさなぎクリニックの反田です。当院は開院して6年目の心療内科です。一般外来診療と臨床心理士によるカウンセリング、うつ病で休職中の方の復職をお手伝いするリワークポルトを行っています。
今回は、ストレスと心の健康というテーマでお話しさせていただきました。

1:ストレスチェックについて
2:心療内科にはこんな方が来る
3:うつ病について
4:人見知りが治るノートについて

以下はその要約です。

1:ストレスチェックについて。
ストレスチェックがスタートしました。なぜストレスチェックが必要かというと、ブラック企業があるからです。
先日、電通の若い女性社員が過労自殺しました。ニュースなどでご存知の方も多いのではないでしょうか。1991年にも同様の事件がありました。24歳の電通マンが長時間労働でうつ病となって自殺しました。ご遺族が会社を訴えて、裁判の結果1億6800万円の和解金が支払われました。過労自殺の責任が会社にあると最高裁が初めて認め、その後企業が産業衛生に本格的に取り組む転機となった事件でした。
前回は民事訴訟でしたが、今回は2度目ということもあり強制捜査が入りました。電通はTさんに36協定で許可された70時間を超える残業を申請しないように命じていました。これが組織的ならば刑事事件となり、電通は大きな社会的な制裁を受けることになるでしょう。
ストレスチェックは50人以上の従業員のいる事業所に対して年1回全員に実施することが義務づけられています。労働者の心の状態を調べるものです。
企業は従業員全員にストレスチェックを受けることを勧めます。それに応じた従業員は質問項目に答え、高ストレスと判定された場合は、希望者は会社負担で医師の面接を受けます。その結果は会社に報告されるので、パワハラが原因の場合には報復人事などを恐れて面接を希望しない方もいます。
ストレスチェックと健康診断ではどこが違うのでしょうか? 健康診断は従業員の健康を会社が把握するためのもので、社員は受ける義務があります。一方、ストレスチェックは職場の環境が適切かどうかを調べるもので、チェックを受けるか否かは従業員の任意です。
ストレスチェックはメンタル不調の人を早期に発見するのではなく、職場環境を改善することでメンタル不調になる人を未然に防ぐことが目的です。

2:心療内科にはこんな方が来ます。
発達特性の問題(ADHDや自閉症スペクトラムです)で来院する方が最近増えています。もっとも多いのは、うつ病など気分障害圏の方です。パニック障害、強迫性障害、社交不安症などの不安障害がそれに次ぎます。拒食症や過食症などの摂食障害、統合失調症、各種の依存症、不眠、認知症、一般科との境界領域の疾患や恋愛に関する相談も少なくありません。
S(=スーザン・ボイル:会報ではイニシャルにしてあります)さんはイギリスの歌のオーディション番組で優勝してプロになりました。オーディションの際にはいかにもあか抜けない感じで審査委員から「将来はどんな歌手を目指すか」とちょっと意地悪な質問をされて、有名なオペラ歌手を目指していますと素直に答えて会場の失笑を買いました。ところがいざ歌い始めると素晴らしい歌声で、観客は総立ちになりました。
彼女はそれまで、笑われたりいじめられたりしていましたが、その理由が分かりませんでした。その後彼女は診断を受けて、その理由が分かってホッとしたそうです。
診断はアスペルガー障害でした。一言でいうならば空気感の違う人といえます。特定の分野では力を発揮しますが、言葉の裏の意味を推測したり、その場の空気を読んだりするのが苦手です。オキシトシンというホルモンがアスペルガー障害のコミュニケーションの改善に効果があるという報告があり、今後の治療に期待が持てます。
印象的なエピソードに事欠かないプロスポーツ選手のNさん(=長嶋茂雄さん)はADHD(=注意欠如多動性障害)です。一言でいうならば、「愛すべきおっちょこちょい」です。うっかり屋で、飽きっぽく、気が散りやすく、忘れ物が多い。思いついたらすぐに口に出す。好きなことには異常に集中する。じっとしていられない。そんな方です。最近ストラテラという薬が効きます。
お笑い芸人のTさん(=中川家の剛さん)は電車で仕事場に行く際に、ドキドキして、息苦しくなって何度も途中下車しなければなりませんでした。Tさんの病気はパニック障害でした。自由の利かない空間などに入ると、息が苦しくなり、ドキドキして、手足が痺れて来て、死ぬかもしれないと思います。SSRIという抗うつ薬が良く効きます。
サッカー選手のBさん(=デヴィッド・ベッカムさん)は遠征でホテルにチェックインするとまず冷蔵庫を開けます。片方のポケットにミネラルウオーターが1本、反対に3本入っていたら、3本の方から1本移動して両方2本にします。そんなBさんは強迫性障害です。強迫性障害は、ある不合理な考え(=強迫観念)が頭に浮かぶとそれを打ち消すための行動(=強迫行為)をしなければ気が済まない病気です。施錠や、落とし物の確認を何度もしないと気が済まない方もいます。薬物療法と行動療法によって治療します。
Rさん(=ロナルド・レーガンアメリカ40代大統領です)はご自身の言葉で認知症を公表した初めての著名人です。Rさんはアルツハイマー型認知症でしたが、最近では、レビー小体型認知症(DLB)がクローズアップされています。DLBは幻視や幻聴が特徴的で、手の震えなどのパーキンソン症状を伴います。来年(H29年)から認知症の方の運転の規制が厳しくなります。山梨県は車がないと生活できないので、どのように法令が運用されるかが気になります。

3:うつ病について
個性派俳優のHさん(=萩原流さん)と奥様はうつ病になり、うつ病の闘病記をお書きになりました。初めに奥様がうつ病になった時にHさんは奥様に「頑張れ」とはっぱをかけたそうです。その後ご自身がうつ病になり、「頑張れ」と言われるのがどんなに辛いか分かったとおっしゃっています。
うつ病の患者さんは1999年以降、激増しています。1998年に自殺者が3万人を超えました。1998年は企業の倒産数が戦後2番になった年です。自殺は経済と大きな関係があります。増えた自殺者の大半が男性です。一般に不況になると労働者の自殺が増えると言われていますが、日本では管理職の自殺が増えています。管理職の数が激減して仕事の負担が増えているのがその原因です。
うつ病になる人は、責任感が強く、自分を責めます。無理しても仕事を引き受けます。自分は楽しまず、その場を盛り上げるようなタイプです。
うつ病の人への接し方はどうしたらいいでしょう? 心配し過ぎない、叱咤激励をしない、休んでいる時に仕事のことを考えさせない、大きな決定を迫らない、気分転換に連れ出さない、迷ったら楽な方を選ばせる、ことなどが大切です。
うつ病になった場合には、抑うつ的反芻(はんすう)をしないことが重要です。抑うつ的反芻とは、失敗の原因やその結果をくどくどと考えることです。自分に都合よく解釈しましょう(これが認知を変えることです)。
フィンランド症候群はちょっと明るい話題かも知れません。心臓病予備軍の中年の男性会社経営者1000人を2グループにわけました。
Aグループ(まじめ群)は5年間はタバコやお酒を控え、定期検診をして薬物治療をする。Bグループ(ほったらかし群):15年間好きにさせる。
15年後に調べたところ、Aグループの方が、死亡率、心疾患死亡率、自殺率などすべて高かったので、研究者らは公表を控えました。その後この研究結果が明るみに出て、朝日新聞の天声人語に掲載されました。

4:人見知りが治るノートについて
一昨年の1月に「人見知りが治るノート」を出版しました。思いのほか多くの方に手に取っていただきました。アマゾンの電子書籍では全タイトル中1番になり、現在第6版が出ています。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などに何度も取りあげていただき、ジュンク堂ではサイン会も行いました。これまでにあった人見知りに関する本は、学術的な本か、人見知りに寄り添う一般向けの本しかなく、専門的な内容を一般向けに説明して、かつ治るという視点の本はありませんでした。
人見知りは、重くなると社交不安症というれっきとした病気です。日本人は世界一人見知りな国民です。
もっとも人見知りは日本人だけではありません。ゴッドファーザーの冒頭に印象的なシーンがありました。街のマフィアがゴッドファーザー挨拶するための練習を何度も繰り返します。大きな体を縮こませるようにして。あの陽気なイタリア人も緊張するんだと思ってちょっとホッとしました。
日本人が人見知りな理由の一つは、日本の社交が過度に洗練されているからではないでしょうか。茶道などがそうですよね。細かな決まり事を知らないとお茶一つ飲めません。独自なことが許されるのは、伝統を完璧に身につけた少数の人だけです。
相手との関係や立場や状況によって、話す内容も、言葉遣いも変えなければ礼儀を欠きます。他人と違う意見を公に言うことは歓迎されないし、本音を言ったり、はっきりとものを言ったりすることは憚られます。
精神科医でミュージシャンの北山修さんは、浮世絵を2万枚調べました。その結果、特徴的なパターンを発見しました。母子が並んで同じものを見ている構図です。西洋の聖母子像の場合は母子が向かい合っている構図が一般的でした。北山さんはそれを共視と名付けました。北山さんのヒット曲「あのすばらしい愛をもう一度」の「あの時同じ花を見て美しいと言った二人の・・・」が正にそうですよね。
日本では、海外から賓客が訪れる際の、一番のもてなしは、お鮨屋さんのカウンターに連れていくことです。面と向かうのではなく、ご主人を介して話をします。海外では、ラウンジ席だとチャージを取られますが、日本では寿司でも天ぷらでもカウンターが上席です。日本人は視線を合わせて向かい合うのが苦手な国民と言えるでしょう。
人見知りは視線の病です。視線には3種類あります。見守りと理解と批判の視線の3つです。見守りの視線はお母さんが子供を見つめる視線です。お母さんの視線は、お母さんが大きく伸ばした腕のようなもので、その中にいると赤ちゃんは安心です。
理解の視線は、美術品の鑑定家が本物か偽物かを見極めたり、科学者が実験をする時に物を見つめたりする際の視線です。
批判の視線は、睨む視線です。街で出会った不良同士が、ガンを飛ばしたといって喧嘩になる時のような。人見知りの人は、他人の視線を、批判の側に受け取りやすい人と言えるでしょう。
視線には方向の違いもあります。見る視線と見られる視線です。「目は心の窓」と言いますが、相手を知るためには目を見る必要があります。もっとも相手を知りたいなら自分も相手に知らせなければなりません。人見知りの人が目を合わせられないのは、普段隠している弱い自分を隠しておきたいからです。
学校で先生が授業をしている時は、先生を見ても不安ではないですよね。先生が話し終えて誰かに質問しようとして教室を見渡すと、みんな下を向きますよね。見ている視線が見られる視線に替わるからです。
その反対に、見られる視線から見る視線に変えると、不安が消えます。人前で話す際に緊張するようなら、まず会場全体を見渡すといいです。今日はどんな人が聞きに来ているかな、若い人が多いかな、知り合いはいないかな、などというように。
人見知りを治すには認知行動療法の考え方が有効です。ここでいう認知とは物事の受け取り方のことです。これは古くからある考え方です。ギリシャの哲学者エピクテトスは、「人は物事それ自体ではなく、それをどう受けとめたかによって心をかき乱す」と言いました。まさにこれが認知行動療法の考え方です。同じことを経験しても、受け取り方を変えることで不安が減ります。
恋人にフラれてショックな人は、「これで心置きなく新しい恋人を探せる」と考えれば前向きになれますよね。このように受け取り方の癖を変えること認知再構成といいます。考えを変えるだけではなく、それに基づいて行動することが重要です。こちらが行動療法です。
緊張がなければパフォーマンスは上がりません。世界的なピアニストも本番前は極度に緊張します。むしろ演奏前に緊張しない演奏家は一流ではないと言っていいでしょう。羽生弓弦さんは、極度の緊張の中で最高のパフォーマンスを見せて、グランプリファイナルを制して、史上初の4連覇を成し遂げたのでしょう。
モハメド・アリは、「自分が最高だと信じろ」と言いました。「それができないなら、その振りをしろ」と。アメリカ大統領の役を演じる新人役者になったつもりで精一杯の演技をしましょう。日本には言霊信仰があるので、「話し下手で」というと本当にそうなってしまいます。
石田純一さんは、「ナンパは確率だ」と言いました。ちょっと不謹慎に思われるかもしれませんが、そこには真実が含まれています。100人声をかけてひとりがOKならナンパは成功です。スピーチも同様です。聴いた人の何人かが良かったとか思ってくれれば成功だと思えば気が楽になりませんか。
人見知りを治すことは新しい自分を見つける旅です。知らなかった世界を知れば新しい自分に出会えるでしょう。


あさなぎ先生 250


ご清聴ありがとうございました。


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「リワークポルト・あさなぎ」のイベント・その3 たこ焼き・ホットケーキ・パーティ
日本精神神経科診療所協会(=日精診)の会合に行ってきました。

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