トルコの絨毯詐欺
トルコの絨毯詐欺 サムネイル画像
トルコの絨毯詐欺について男性(Aさん)からうかがいました。Aさんは朝ホテルを出て歩いていました。ハマム(トルコの風呂です。垢すりなどをやってくれます)に行く途中です。前日に少々飲み過ぎたので、お風呂でアルコールを抜こうと思ったのです。宮殿だった建物を改装したハマムがあると、ホテルのコンシェルジェに教えてもらいました。海に向かってしばらく道を下りました。絨毯屋さんが並ぶ界隈で、店の前にテーブルを出して...全文を表示
トルコの絨毯詐欺について男性(Aさん)からうかがいました。
絨毯
Aさんは朝ホテルを出て歩いていました。ハマム(トルコの風呂です。垢すりなどをやってくれます)に行く途中です。前日に少々飲み過ぎたので、お風呂でアルコールを抜こうと思ったのです。
宮殿だった建物を改装したハマムがあると、ホテルのコンシェルジェに教えてもらいました。
海に向かってしばらく道を下りました。絨毯屋さんが並ぶ界隈で、店の前にテーブルを出して男性が4人朝ごはんを食べていました。
「おはよう」その内の1人(Bさん)がAさんに声をかけました。
Aさんは40代ではっきりとした顔立ちで、日本人には見えないとよく言われるのですが、やっぱりすぐに分かるんだ、とAさんは思ったそうです。
「おはよう」Aさんが答えると、Bさんは、それからは英語で話したそうです。Bさんは50歳位に見えますが、案外30代かもしれません。外国人の年齢は分かりませんよね。
BさんはAさんにそのハマムの場所を教えてくれました。歩いて10分ほどのその場所まで、わざわざついてきてくれたそうです。親切な方です。
ハマム
約2時間後、Aさんはすっかり筋肉をほぐしてハマムを出ると、入口のあたりでBさんが待っていました。
「そろそろ出る頃だと思って」Bさんは、人懐っこい笑顔を見せます。ちょっとうさん臭いナ、Aさんは思ったそうです。BさんはAさんをランチに誘いました。行きつけの美味しい店があるのだそうです。
怖いもの見たさのAさんはついて行きました。
トルコ レストラン
オープンテラスの素敵なお店だったそうです。少し肌寒い季節でしたが、お店の方がひざ掛けを持ってきてくれました。
Aさんがなにを食べたか分かりませんが、きっと代表的なトルコ小料理のランチコースあたりではないでしょうか。Aさんも街角で食べるケバブや鯖サンド(バルックエキメッキ)には少々飽きていたはずです。
Bさんは気さくで、話し上手です。新宿の伊勢丹で毎年絨毯のフェアをやっているそうです。どうりで東京が詳しいわけです。実はAさんより3才年下でした。
Aさんは目黒に本社があるヨーロッパの家具を販売する会社を経営していて、青山や広尾をはじめ全国に店舗を持っています。BさんもAさんの話に興味津々です。
Bさんの妹さんは観光ガイドをやっているので、案内をさせようとも言ってくれました。さすがにそれでは悪いから遠慮したそうです。
ワインを飲みながらの会話は弾み、Aさんは美味しいランチを堪能しました。Aさんがお金を支払おうとすると、すでにBさんが支払いを済ませていました。いつ払ったのでしょう。実にスマートです。
それじゃあ困るとAさんがいうと、Bさんは「ここは私の国だから私が払う、日本に行ったらごちそうしてくれ」と言います。Aさんは遠慮なくごちそうになったそうです。
Bさんは、Aさんに、ちょっと私のお店を見ないか、と誘いました。すっかりごちそうにもなったことだし、と思ってAさんは行くことにしました。
二人は海沿いをしばらく歩きました。ワインで少し火照った頬に風が気持ちよく当たります。
イスタンブール
朝外でテーブルを出して食事をしていたあのお店に着きました。
お店の中には他のお客さんはいません。
素敵な絨毯が沢山あります。Bさんはフロアに絨毯を次から次へと広げます。ぜひ、靴下を脱いで感触を味わってくれといいます。コットンとシルクでは肌触りはまるで違います。
いいもの100万円は下らないそうです。
「やっぱりいいものはいいですね」、とAさんが言うと、これがいくらだったら買ってもいいと思う?」とBさんは訊ねます。「いやいや、とてもとても買えません」Aさんは答えます。
あらゆる交渉は先に値段を言ったほうが負けだと、子供の頃から父親に言われていたからです。Aさんのお父さんはアメ横でエビ問屋を経営していました。
「もっといいものが下にある」Bさんは地下の部屋にAさんを誘いました。
広い部屋です。高級な絨毯が山のようにありました。
次々と絨毯が広げられます。Aさんは、目を輝かせて見ています。
「こうすると、本物の良さがわかる」、
と言ってBさんは部屋の電気が消しました。Aさんはちょっと怖くなったそうです。
Bさんは、絨毯をコピー機のような装置に乗せました。裏から光を当てて絨毯を見る機械です。絨毯の繊細な模様が浮かび上がりました。幻想的です。
何枚か絨毯を見た後で、再び電気がつけられました。いつの間にか閉じられた扉の前には、屈強な若者が立っています。これじゃあ帰りにくいな、とAさんは思ったそうです。
BさんはAさんに、一枚の高級絨毯を見せました。
「素敵な絨毯ですね」、
「青山のお店に敷いたら、家具が引き立つんじゃないか?」
「そうですね、でもこれは自宅の玄関の方がいいかもしれないです」
「これだったらいくらで買う?」
「今日は買う気はありません。でもいくらでなら売ってくれます?」逆にAさんが訊ねました。値段はこちらから聞くことにしています。
Bさんはそれには答えずに、もっと大きな絨毯を出してきました。
「これはどうだ」
「いいものですね、自宅の書斎にちょうどいいかもしれません」
Bさんはさらに大きい絨毯を広げました・・・・・・・・・.
「この4つで総額がいくらになるんですか?」AさんはBさんに訊ねました。
Bさんは、ちょっと戸惑いながら、「定価だと2000万円になるけれど、あなたになら1500万円でいい」
「そんなに安くしてもらっていいんですか?」
「ただし条件がある。日本人は5枚まで絨毯を無税で買える。その枠でもう1枚買ったことにして、来月東京で返して欲しい」
Aさんはしばらく考えました。
「分かりました、ではその条件で了解しました」。
「ですが、高額なので東京の会計の担当者に話を通さなければなりません。彼には明日連絡がつきます。それでよろしいですか」
「もちろん、それでいい」
「明後日までCホテルに滞在しています。明日のお昼にでも来ていただければ、その時に契約できます。よろしいですか?」
Aさんは、はじめに1階で見た100万円と言われた絨毯に目を止めて、「ではこれもお願いします。これだけは今日もって帰ります。ホテルの部屋に敷いて感触を楽しみたいので。ではお支払いは後ほどまとめて」と言ってタクシーに乗り込んで帰りました。
ーーーーーーーーーーーーーー
その絨毯は、現在Aさんのお店の壁に飾られています。Aさんは甲府で小さな洋風居酒屋を経営しています。ケバブなどをアレンジしたトルコセットも人気です。Aさんは、あの日慌ててホテルをチェックアウトしたんだそうです。
バルックエキメッキ
<一部、フィクションです。念のため。トルコ、絨毯詐欺、で検索するとたくさんの実例が出てきます。卒業旅行などで行かれる方はくれぐれもお気をつけ下さい>
絨毯
Aさんは朝ホテルを出て歩いていました。ハマム(トルコの風呂です。垢すりなどをやってくれます)に行く途中です。前日に少々飲み過ぎたので、お風呂でアルコールを抜こうと思ったのです。
宮殿だった建物を改装したハマムがあると、ホテルのコンシェルジェに教えてもらいました。
海に向かってしばらく道を下りました。絨毯屋さんが並ぶ界隈で、店の前にテーブルを出して男性が4人朝ごはんを食べていました。
「おはよう」その内の1人(Bさん)がAさんに声をかけました。
Aさんは40代ではっきりとした顔立ちで、日本人には見えないとよく言われるのですが、やっぱりすぐに分かるんだ、とAさんは思ったそうです。
「おはよう」Aさんが答えると、Bさんは、それからは英語で話したそうです。Bさんは50歳位に見えますが、案外30代かもしれません。外国人の年齢は分かりませんよね。
BさんはAさんにそのハマムの場所を教えてくれました。歩いて10分ほどのその場所まで、わざわざついてきてくれたそうです。親切な方です。
ハマム
約2時間後、Aさんはすっかり筋肉をほぐしてハマムを出ると、入口のあたりでBさんが待っていました。
「そろそろ出る頃だと思って」Bさんは、人懐っこい笑顔を見せます。ちょっとうさん臭いナ、Aさんは思ったそうです。BさんはAさんをランチに誘いました。行きつけの美味しい店があるのだそうです。
怖いもの見たさのAさんはついて行きました。
トルコ レストラン
オープンテラスの素敵なお店だったそうです。少し肌寒い季節でしたが、お店の方がひざ掛けを持ってきてくれました。
Aさんがなにを食べたか分かりませんが、きっと代表的なトルコ小料理のランチコースあたりではないでしょうか。Aさんも街角で食べるケバブや鯖サンド(バルックエキメッキ)には少々飽きていたはずです。
Bさんは気さくで、話し上手です。新宿の伊勢丹で毎年絨毯のフェアをやっているそうです。どうりで東京が詳しいわけです。実はAさんより3才年下でした。
Aさんは目黒に本社があるヨーロッパの家具を販売する会社を経営していて、青山や広尾をはじめ全国に店舗を持っています。BさんもAさんの話に興味津々です。
Bさんの妹さんは観光ガイドをやっているので、案内をさせようとも言ってくれました。さすがにそれでは悪いから遠慮したそうです。
ワインを飲みながらの会話は弾み、Aさんは美味しいランチを堪能しました。Aさんがお金を支払おうとすると、すでにBさんが支払いを済ませていました。いつ払ったのでしょう。実にスマートです。
それじゃあ困るとAさんがいうと、Bさんは「ここは私の国だから私が払う、日本に行ったらごちそうしてくれ」と言います。Aさんは遠慮なくごちそうになったそうです。
Bさんは、Aさんに、ちょっと私のお店を見ないか、と誘いました。すっかりごちそうにもなったことだし、と思ってAさんは行くことにしました。
二人は海沿いをしばらく歩きました。ワインで少し火照った頬に風が気持ちよく当たります。
イスタンブール
朝外でテーブルを出して食事をしていたあのお店に着きました。
お店の中には他のお客さんはいません。
素敵な絨毯が沢山あります。Bさんはフロアに絨毯を次から次へと広げます。ぜひ、靴下を脱いで感触を味わってくれといいます。コットンとシルクでは肌触りはまるで違います。
いいもの100万円は下らないそうです。
「やっぱりいいものはいいですね」、とAさんが言うと、これがいくらだったら買ってもいいと思う?」とBさんは訊ねます。「いやいや、とてもとても買えません」Aさんは答えます。
あらゆる交渉は先に値段を言ったほうが負けだと、子供の頃から父親に言われていたからです。Aさんのお父さんはアメ横でエビ問屋を経営していました。
「もっといいものが下にある」Bさんは地下の部屋にAさんを誘いました。
広い部屋です。高級な絨毯が山のようにありました。
次々と絨毯が広げられます。Aさんは、目を輝かせて見ています。
「こうすると、本物の良さがわかる」、
と言ってBさんは部屋の電気が消しました。Aさんはちょっと怖くなったそうです。
Bさんは、絨毯をコピー機のような装置に乗せました。裏から光を当てて絨毯を見る機械です。絨毯の繊細な模様が浮かび上がりました。幻想的です。
何枚か絨毯を見た後で、再び電気がつけられました。いつの間にか閉じられた扉の前には、屈強な若者が立っています。これじゃあ帰りにくいな、とAさんは思ったそうです。
BさんはAさんに、一枚の高級絨毯を見せました。
「素敵な絨毯ですね」、
「青山のお店に敷いたら、家具が引き立つんじゃないか?」
「そうですね、でもこれは自宅の玄関の方がいいかもしれないです」
「これだったらいくらで買う?」
「今日は買う気はありません。でもいくらでなら売ってくれます?」逆にAさんが訊ねました。値段はこちらから聞くことにしています。
Bさんはそれには答えずに、もっと大きな絨毯を出してきました。
「これはどうだ」
「いいものですね、自宅の書斎にちょうどいいかもしれません」
Bさんはさらに大きい絨毯を広げました・・・・・・・・・.
「この4つで総額がいくらになるんですか?」AさんはBさんに訊ねました。
Bさんは、ちょっと戸惑いながら、「定価だと2000万円になるけれど、あなたになら1500万円でいい」
「そんなに安くしてもらっていいんですか?」
「ただし条件がある。日本人は5枚まで絨毯を無税で買える。その枠でもう1枚買ったことにして、来月東京で返して欲しい」
Aさんはしばらく考えました。
「分かりました、ではその条件で了解しました」。
「ですが、高額なので東京の会計の担当者に話を通さなければなりません。彼には明日連絡がつきます。それでよろしいですか」
「もちろん、それでいい」
「明後日までCホテルに滞在しています。明日のお昼にでも来ていただければ、その時に契約できます。よろしいですか?」
Aさんは、はじめに1階で見た100万円と言われた絨毯に目を止めて、「ではこれもお願いします。これだけは今日もって帰ります。ホテルの部屋に敷いて感触を楽しみたいので。ではお支払いは後ほどまとめて」と言ってタクシーに乗り込んで帰りました。
ーーーーーーーーーーーーーー
その絨毯は、現在Aさんのお店の壁に飾られています。Aさんは甲府で小さな洋風居酒屋を経営しています。ケバブなどをアレンジしたトルコセットも人気です。Aさんは、あの日慌ててホテルをチェックアウトしたんだそうです。
バルックエキメッキ
<一部、フィクションです。念のため。トルコ、絨毯詐欺、で検索するとたくさんの実例が出てきます。卒業旅行などで行かれる方はくれぐれもお気をつけ下さい>
トルコの絨毯詐欺について男性(Aさん)からうかがいました。
絨毯
Aさんは朝ホテルを出て歩いていました。ハマム(トルコの風呂です。垢すりなどをやってくれます)に行く途中です。前日に少々飲み過ぎたので、お風呂でアルコールを抜こうと思ったのです。
宮殿だった建物を改装したハマムがあると、ホテルのコンシェルジェに教えてもらいました。
海に向かってしばらく道を下りました。絨毯屋さんが並ぶ界隈で、店の前にテーブルを出して男性が4人朝ごはんを食べていました。
「おはよう」その内の1人(Bさん)がAさんに声をかけました。
Aさんは40代ではっきりとした顔立ちで、日本人には見えないとよく言われるのですが、やっぱりすぐに分かるんだ、とAさんは思ったそうです。
「おはよう」Aさんが答えると、Bさんは、それからは英語で話したそうです。Bさんは50歳位に見えますが、案外30代かもしれません。外国人の年齢は分かりませんよね。
BさんはAさんにそのハマムの場所を教えてくれました。歩いて10分ほどのその場所まで、わざわざついてきてくれたそうです。親切な方です。
ハマム
約2時間後、Aさんはすっかり筋肉をほぐしてハマムを出ると、入口のあたりでBさんが待っていました。
「そろそろ出る頃だと思って」Bさんは、人懐っこい笑顔を見せます。ちょっとうさん臭いナ、Aさんは思ったそうです。BさんはAさんをランチに誘いました。行きつけの美味しい店があるのだそうです。
怖いもの見たさのAさんはついて行きました。
トルコ レストラン
オープンテラスの素敵なお店だったそうです。少し肌寒い季節でしたが、お店の方がひざ掛けを持ってきてくれました。
Aさんがなにを食べたか分かりませんが、きっと代表的なトルコ小料理のランチコースあたりではないでしょうか。Aさんも街角で食べるケバブや鯖サンド(バルックエキメッキ)には少々飽きていたはずです。
Bさんは気さくで、話し上手です。新宿の伊勢丹で毎年絨毯のフェアをやっているそうです。どうりで東京が詳しいわけです。実はAさんより3才年下でした。
Aさんは目黒に本社があるヨーロッパの家具を販売する会社を経営していて、青山や広尾をはじめ全国に店舗を持っています。BさんもAさんの話に興味津々です。
Bさんの妹さんは観光ガイドをやっているので、案内をさせようとも言ってくれました。さすがにそれでは悪いから遠慮したそうです。
ワインを飲みながらの会話は弾み、Aさんは美味しいランチを堪能しました。Aさんがお金を支払おうとすると、すでにBさんが支払いを済ませていました。いつ払ったのでしょう。実にスマートです。
それじゃあ困るとAさんがいうと、Bさんは「ここは私の国だから私が払う、日本に行ったらごちそうしてくれ」と言います。Aさんは遠慮なくごちそうになったそうです。
Bさんは、Aさんに、ちょっと私のお店を見ないか、と誘いました。すっかりごちそうにもなったことだし、と思ってAさんは行くことにしました。
二人は海沿いをしばらく歩きました。ワインで少し火照った頬に風が気持ちよく当たります。
イスタンブール
朝外でテーブルを出して食事をしていたあのお店に着きました。
お店の中には他のお客さんはいません。
素敵な絨毯が沢山あります。Bさんはフロアに絨毯を次から次へと広げます。ぜひ、靴下を脱いで感触を味わってくれといいます。コットンとシルクでは肌触りはまるで違います。
いいもの100万円は下らないそうです。
「やっぱりいいものはいいですね」、とAさんが言うと、これがいくらだったら買ってもいいと思う?」とBさんは訊ねます。「いやいや、とてもとても買えません」Aさんは答えます。
あらゆる交渉は先に値段を言ったほうが負けだと、子供の頃から父親に言われていたからです。Aさんのお父さんはアメ横でエビ問屋を経営していました。
「もっといいものが下にある」Bさんは地下の部屋にAさんを誘いました。
広い部屋です。高級な絨毯が山のようにありました。
次々と絨毯が広げられます。Aさんは、目を輝かせて見ています。
「こうすると、本物の良さがわかる」、
と言ってBさんは部屋の電気が消しました。Aさんはちょっと怖くなったそうです。
Bさんは、絨毯をコピー機のような装置に乗せました。裏から光を当てて絨毯を見る機械です。絨毯の繊細な模様が浮かび上がりました。幻想的です。
何枚か絨毯を見た後で、再び電気がつけられました。いつの間にか閉じられた扉の前には、屈強な若者が立っています。これじゃあ帰りにくいな、とAさんは思ったそうです。
BさんはAさんに、一枚の高級絨毯を見せました。
「素敵な絨毯ですね」、
「青山のお店に敷いたら、家具が引き立つんじゃないか?」
「そうですね、でもこれは自宅の玄関の方がいいかもしれないです」
「これだったらいくらで買う?」
「今日は買う気はありません。でもいくらでなら売ってくれます?」逆にAさんが訊ねました。値段はこちらから聞くことにしています。
Bさんはそれには答えずに、もっと大きな絨毯を出してきました。
「これはどうだ」
「いいものですね、自宅の書斎にちょうどいいかもしれません」
Bさんはさらに大きい絨毯を広げました・・・・・・・・・.
「この4つで総額がいくらになるんですか?」AさんはBさんに訊ねました。
Bさんは、ちょっと戸惑いながら、「定価だと2000万円になるけれど、あなたになら1500万円でいい」
「そんなに安くしてもらっていいんですか?」
「ただし条件がある。日本人は5枚まで絨毯を無税で買える。その枠でもう1枚買ったことにして、来月東京で返して欲しい」
Aさんはしばらく考えました。
「分かりました、ではその条件で了解しました」。
「ですが、高額なので東京の会計の担当者に話を通さなければなりません。彼には明日連絡がつきます。それでよろしいですか」
「もちろん、それでいい」
「明後日までCホテルに滞在しています。明日のお昼にでも来ていただければ、その時に契約できます。よろしいですか?」
Aさんは、はじめに1階で見た100万円と言われた絨毯に目を止めて、「ではこれもお願いします。これだけは今日もって帰ります。ホテルの部屋に敷いて感触を楽しみたいので。ではお支払いは後ほどまとめて」と言ってタクシーに乗り込んで帰りました。
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その絨毯は、現在Aさんのお店の壁に飾られています。Aさんは甲府で小さな洋風居酒屋を経営しています。ケバブなどをアレンジしたトルコセットも人気です。Aさんは、あの日慌ててホテルをチェックアウトしたんだそうです。
バルックエキメッキ
<一部、フィクションです。念のため。トルコ、絨毯詐欺、で検索するとたくさんの実例が出てきます。卒業旅行などで行かれる方はくれぐれもお気をつけ下さい>
絨毯
Aさんは朝ホテルを出て歩いていました。ハマム(トルコの風呂です。垢すりなどをやってくれます)に行く途中です。前日に少々飲み過ぎたので、お風呂でアルコールを抜こうと思ったのです。
宮殿だった建物を改装したハマムがあると、ホテルのコンシェルジェに教えてもらいました。
海に向かってしばらく道を下りました。絨毯屋さんが並ぶ界隈で、店の前にテーブルを出して男性が4人朝ごはんを食べていました。
「おはよう」その内の1人(Bさん)がAさんに声をかけました。
Aさんは40代ではっきりとした顔立ちで、日本人には見えないとよく言われるのですが、やっぱりすぐに分かるんだ、とAさんは思ったそうです。
「おはよう」Aさんが答えると、Bさんは、それからは英語で話したそうです。Bさんは50歳位に見えますが、案外30代かもしれません。外国人の年齢は分かりませんよね。
BさんはAさんにそのハマムの場所を教えてくれました。歩いて10分ほどのその場所まで、わざわざついてきてくれたそうです。親切な方です。
ハマム
約2時間後、Aさんはすっかり筋肉をほぐしてハマムを出ると、入口のあたりでBさんが待っていました。
「そろそろ出る頃だと思って」Bさんは、人懐っこい笑顔を見せます。ちょっとうさん臭いナ、Aさんは思ったそうです。BさんはAさんをランチに誘いました。行きつけの美味しい店があるのだそうです。
怖いもの見たさのAさんはついて行きました。
トルコ レストラン
オープンテラスの素敵なお店だったそうです。少し肌寒い季節でしたが、お店の方がひざ掛けを持ってきてくれました。
Aさんがなにを食べたか分かりませんが、きっと代表的なトルコ小料理のランチコースあたりではないでしょうか。Aさんも街角で食べるケバブや鯖サンド(バルックエキメッキ)には少々飽きていたはずです。
Bさんは気さくで、話し上手です。新宿の伊勢丹で毎年絨毯のフェアをやっているそうです。どうりで東京が詳しいわけです。実はAさんより3才年下でした。
Aさんは目黒に本社があるヨーロッパの家具を販売する会社を経営していて、青山や広尾をはじめ全国に店舗を持っています。BさんもAさんの話に興味津々です。
Bさんの妹さんは観光ガイドをやっているので、案内をさせようとも言ってくれました。さすがにそれでは悪いから遠慮したそうです。
ワインを飲みながらの会話は弾み、Aさんは美味しいランチを堪能しました。Aさんがお金を支払おうとすると、すでにBさんが支払いを済ませていました。いつ払ったのでしょう。実にスマートです。
それじゃあ困るとAさんがいうと、Bさんは「ここは私の国だから私が払う、日本に行ったらごちそうしてくれ」と言います。Aさんは遠慮なくごちそうになったそうです。
Bさんは、Aさんに、ちょっと私のお店を見ないか、と誘いました。すっかりごちそうにもなったことだし、と思ってAさんは行くことにしました。
二人は海沿いをしばらく歩きました。ワインで少し火照った頬に風が気持ちよく当たります。
イスタンブール
朝外でテーブルを出して食事をしていたあのお店に着きました。
お店の中には他のお客さんはいません。
素敵な絨毯が沢山あります。Bさんはフロアに絨毯を次から次へと広げます。ぜひ、靴下を脱いで感触を味わってくれといいます。コットンとシルクでは肌触りはまるで違います。
いいもの100万円は下らないそうです。
「やっぱりいいものはいいですね」、とAさんが言うと、これがいくらだったら買ってもいいと思う?」とBさんは訊ねます。「いやいや、とてもとても買えません」Aさんは答えます。
あらゆる交渉は先に値段を言ったほうが負けだと、子供の頃から父親に言われていたからです。Aさんのお父さんはアメ横でエビ問屋を経営していました。
「もっといいものが下にある」Bさんは地下の部屋にAさんを誘いました。
広い部屋です。高級な絨毯が山のようにありました。
次々と絨毯が広げられます。Aさんは、目を輝かせて見ています。
「こうすると、本物の良さがわかる」、
と言ってBさんは部屋の電気が消しました。Aさんはちょっと怖くなったそうです。
Bさんは、絨毯をコピー機のような装置に乗せました。裏から光を当てて絨毯を見る機械です。絨毯の繊細な模様が浮かび上がりました。幻想的です。
何枚か絨毯を見た後で、再び電気がつけられました。いつの間にか閉じられた扉の前には、屈強な若者が立っています。これじゃあ帰りにくいな、とAさんは思ったそうです。
BさんはAさんに、一枚の高級絨毯を見せました。
「素敵な絨毯ですね」、
「青山のお店に敷いたら、家具が引き立つんじゃないか?」
「そうですね、でもこれは自宅の玄関の方がいいかもしれないです」
「これだったらいくらで買う?」
「今日は買う気はありません。でもいくらでなら売ってくれます?」逆にAさんが訊ねました。値段はこちらから聞くことにしています。
Bさんはそれには答えずに、もっと大きな絨毯を出してきました。
「これはどうだ」
「いいものですね、自宅の書斎にちょうどいいかもしれません」
Bさんはさらに大きい絨毯を広げました・・・・・・・・・.
「この4つで総額がいくらになるんですか?」AさんはBさんに訊ねました。
Bさんは、ちょっと戸惑いながら、「定価だと2000万円になるけれど、あなたになら1500万円でいい」
「そんなに安くしてもらっていいんですか?」
「ただし条件がある。日本人は5枚まで絨毯を無税で買える。その枠でもう1枚買ったことにして、来月東京で返して欲しい」
Aさんはしばらく考えました。
「分かりました、ではその条件で了解しました」。
「ですが、高額なので東京の会計の担当者に話を通さなければなりません。彼には明日連絡がつきます。それでよろしいですか」
「もちろん、それでいい」
「明後日までCホテルに滞在しています。明日のお昼にでも来ていただければ、その時に契約できます。よろしいですか?」
Aさんは、はじめに1階で見た100万円と言われた絨毯に目を止めて、「ではこれもお願いします。これだけは今日もって帰ります。ホテルの部屋に敷いて感触を楽しみたいので。ではお支払いは後ほどまとめて」と言ってタクシーに乗り込んで帰りました。
ーーーーーーーーーーーーーー
その絨毯は、現在Aさんのお店の壁に飾られています。Aさんは甲府で小さな洋風居酒屋を経営しています。ケバブなどをアレンジしたトルコセットも人気です。Aさんは、あの日慌ててホテルをチェックアウトしたんだそうです。
バルックエキメッキ
<一部、フィクションです。念のため。トルコ、絨毯詐欺、で検索するとたくさんの実例が出てきます。卒業旅行などで行かれる方はくれぐれもお気をつけ下さい>