さなぎ日記:あさなぎクリニック心療内科のブログです。こころの健康、コミュニケーション、おいしいお店や、映画のことも。

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双極性障害の治療について

双極性障害の治療について サムネイル画像
双極性障害(BP)は、じっくりと腰を据えて治す必要がある病気です。まず大切なことは、診断をしっかりつけることです。もっとも単極型のうつ病(MDD:大うつ病)との鑑別はなかなか(とても)難しいです。国際双極性障害学会による診断ガイドラインの中で、 ・精神運動制止 ・25才以前の発症 ・過去に5回以上のうつ状態 ・双極性障害の家族歴の4つがポイントだとされています。(個人的には、精神運動制止がとても重篤な印象があ...全文を表示
双極性障害(BP)は、じっくりと腰を据えて治す必要がある病気です。


双極性障害


まず大切なことは、診断をしっかりつけることです。もっとも単極型のうつ病(MDD:大うつ病)との鑑別はなかなか(とても)難しいです。国際双極性障害学会による診断ガイドラインの中で、

・精神運動制止
・25才以前の発症
・過去に5回以上のうつ状態
・双極性障害の家族歴

の4つがポイントだとされています。(個人的には、精神運動制止がとても重篤な印象があります)

個人的には、迷ったらBPと過剰診断しておく方が、安全ではないかと思います。SSRIなどの抗うつ薬を単独投与することで再発しやすくなったり、波が大きくなったりする可能性があるからです(SSRIは、うつ状態が重症だったり、長引いたりしている時などには、気分安定薬と併用しながら服用する場合があるでしょう。よく主治医とご相談下さい)

メンタルクリニックに来院する気分障害の55%がBPだという報告があります。その93%がII型でした(by「毛呂クリニック」の毛呂裕臣さん)。

軽躁状態を適切に診断するのには工夫が必要でしょう。うつ病で来院した患者さんに聞いても、躁状態のことはあまり覚えていません。また、軽い状態の方も、それが自分の本来の状態だと思っているので、躁状態を認めにくいと思います。

躁状態に関しては、うつ状態がすっかり良くなった時に改めて訊ねたり、ご家族に伺うといいです(by筑波大学の根本清貴さん)。

双極性障害の治療に関しては、まだ統一された治療法は確立されていないのが現状だと思います。

現時点でどうも正しそうなのは(私的な意見を含みます)、

・ラモトリギン(LMG)は、双極性障害のうつ病相の再燃を防ぐ。躁状態には効果が薄そう。
・ラモトリギンはラピッドサイクラーに効果がありそう(急速交代型の場合には効果が分かりやすいです)。
・SSRIなどはやはり症状を不安定にさせる。
・躁病相を抑えるのには、現時点ではアリピプラゾールかオランザピンが良さそう。
・ラモトリギンの効果は人それぞれで、血中濃度とはあまり関連してなさそう。
・双極性うつには、クエチアピンかオランザピンが使われているけれど、アリピプラゾールも有効(アリピプラゾールは病状によって投与量を大きく変える必要がある)。
・ラモトリギンはうつ状態がピークを超えたらすぐに使いはじめるのがいい。

個人的には双極性障害には、ラモトリギンを至適用量(これが分かりにくいのですが)入れておき、それにアリピプラゾールをうつ状態には3ミリ、躁状態には18~24ミリ位の幅で加えるのがいいのではないかと思います。

<代謝系の副作用を考慮すると、オランザピンやクエチアピンは使いにくく、妊娠可能性や相互作用の多さを考えるとリチウムも積極的には使いにくいと個人的には思います。バルプロ酸はラモトリギンとの相性が問題です(血中濃度が上がる。副作用が出やすくなるという人も)>

ラモトリギンの最大の問題は皮膚症状です。軽いものならばそれほど心配はないですが、スティーブンス・ジョンソン症候群などの重篤なものは何としても防がなければなりません(5ミリ錠を1週間投与して様子を見るという方法がいいようです。by 500例にLTGを投与した「ひもろぎ心のクリニック」渡部芳徳さん)。

渡部さんによると、皮膚症状は過剰診断がむしろ良くて、少しでも皮疹が出たらすぐに止めるように患者さんに説明しておくとのことでした(これはとても大切だと思います)。また栄養状態が良くない方に皮疹が出やすい傾向がありそうだともおっしゃっていました。

これまでに、一人の患者さんがやや重篤な皮膚症状をきたしました(元々、皮膚に関する免疫疾患のある方でした)。


<統合失調症の治療は、かなり洗練されてきました。その点では双極性障害をはじめ、気分障害圏の疾患の治療はまだまだです。ここが進歩すれば患者さんにとっては大きなメリットです。今、一番チャレンジングな分野ではないかと思います。先日「双極性障害 うつ病相治療を考える」というパネルディスカッションを聴きました>


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

参考

カナダ気分・不安治療ネットワーク(CANM AT)と国際気分障害学会のガイドライン(2009年)

双極性うつ病急性期に対しては,リチウム,ラモトリギン,クエチアピン,オランザピンとSSRI の併用,リチウムとdivalproex の併用,リチウムまたはdivalproex とSSRI またはbupropionの併用が第一推奨薬となっている.


英国精神薬理学会(2009年)のガイドライン

双極性うつ病急性期に対しては,軽症ではラモトリギンまたはクエチアピン,中等症以上ではラモトリギンまたはクエチアピンとSSRI または他の抗うつ薬(三環系抗うつ薬は除く)の併用などが,それぞれ第一推奨薬となっている.

生物学的精神医学会世界連合(WFSBP)(2010年)のガイドライン

双極性うつ病急性期に対しては,単独治療ではクエチアピン(最推奨),fluoxetine(オランザピン非反応例への追加),ラモトリギン,オランザピン,バルプロ酸,カルバマゼピン,リチウムが,併用治療ではオランザピンとfluoxetineの併用(OFC),ラモトリギンとリチウムの併用,現治療薬へのモダフィニルの追加,カルバマゼピンと加味逍遙散の併用,リチウムまたはバルプロ酸とN-アセチルシステインの併用などが,それぞれ第一推奨薬となっている.

厚労省のガイドライン(2008年)は、ラモトリギン発売前なので省きました



双極性障害(BP)は、じっくりと腰を据えて治す必要がある病気です。


双極性障害


まず大切なことは、診断をしっかりつけることです。もっとも単極型のうつ病(MDD:大うつ病)との鑑別はなかなか(とても)難しいです。国際双極性障害学会による診断ガイドラインの中で、

・精神運動制止
・25才以前の発症
・過去に5回以上のうつ状態
・双極性障害の家族歴

の4つがポイントだとされています。(個人的には、精神運動制止がとても重篤な印象があります)

個人的には、迷ったらBPと過剰診断しておく方が、安全ではないかと思います。SSRIなどの抗うつ薬を単独投与することで再発しやすくなったり、波が大きくなったりする可能性があるからです(SSRIは、うつ状態が重症だったり、長引いたりしている時などには、気分安定薬と併用しながら服用する場合があるでしょう。よく主治医とご相談下さい)

メンタルクリニックに来院する気分障害の55%がBPだという報告があります。その93%がII型でした(by「毛呂クリニック」の毛呂裕臣さん)。

軽躁状態を適切に診断するのには工夫が必要でしょう。うつ病で来院した患者さんに聞いても、躁状態のことはあまり覚えていません。また、軽い状態の方も、それが自分の本来の状態だと思っているので、躁状態を認めにくいと思います。

躁状態に関しては、うつ状態がすっかり良くなった時に改めて訊ねたり、ご家族に伺うといいです(by筑波大学の根本清貴さん)。

双極性障害の治療に関しては、まだ統一された治療法は確立されていないのが現状だと思います。

現時点でどうも正しそうなのは(私的な意見を含みます)、

・ラモトリギン(LMG)は、双極性障害のうつ病相の再燃を防ぐ。躁状態には効果が薄そう。
・ラモトリギンはラピッドサイクラーに効果がありそう(急速交代型の場合には効果が分かりやすいです)。
・SSRIなどはやはり症状を不安定にさせる。
・躁病相を抑えるのには、現時点ではアリピプラゾールかオランザピンが良さそう。
・ラモトリギンの効果は人それぞれで、血中濃度とはあまり関連してなさそう。
・双極性うつには、クエチアピンかオランザピンが使われているけれど、アリピプラゾールも有効(アリピプラゾールは病状によって投与量を大きく変える必要がある)。
・ラモトリギンはうつ状態がピークを超えたらすぐに使いはじめるのがいい。

個人的には双極性障害には、ラモトリギンを至適用量(これが分かりにくいのですが)入れておき、それにアリピプラゾールをうつ状態には3ミリ、躁状態には18~24ミリ位の幅で加えるのがいいのではないかと思います。

<代謝系の副作用を考慮すると、オランザピンやクエチアピンは使いにくく、妊娠可能性や相互作用の多さを考えるとリチウムも積極的には使いにくいと個人的には思います。バルプロ酸はラモトリギンとの相性が問題です(血中濃度が上がる。副作用が出やすくなるという人も)>

ラモトリギンの最大の問題は皮膚症状です。軽いものならばそれほど心配はないですが、スティーブンス・ジョンソン症候群などの重篤なものは何としても防がなければなりません(5ミリ錠を1週間投与して様子を見るという方法がいいようです。by 500例にLTGを投与した「ひもろぎ心のクリニック」渡部芳徳さん)。

渡部さんによると、皮膚症状は過剰診断がむしろ良くて、少しでも皮疹が出たらすぐに止めるように患者さんに説明しておくとのことでした(これはとても大切だと思います)。また栄養状態が良くない方に皮疹が出やすい傾向がありそうだともおっしゃっていました。

これまでに、一人の患者さんがやや重篤な皮膚症状をきたしました(元々、皮膚に関する免疫疾患のある方でした)。


<統合失調症の治療は、かなり洗練されてきました。その点では双極性障害をはじめ、気分障害圏の疾患の治療はまだまだです。ここが進歩すれば患者さんにとっては大きなメリットです。今、一番チャレンジングな分野ではないかと思います。先日「双極性障害 うつ病相治療を考える」というパネルディスカッションを聴きました>


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参考

カナダ気分・不安治療ネットワーク(CANM AT)と国際気分障害学会のガイドライン(2009年)

双極性うつ病急性期に対しては,リチウム,ラモトリギン,クエチアピン,オランザピンとSSRI の併用,リチウムとdivalproex の併用,リチウムまたはdivalproex とSSRI またはbupropionの併用が第一推奨薬となっている.


英国精神薬理学会(2009年)のガイドライン

双極性うつ病急性期に対しては,軽症ではラモトリギンまたはクエチアピン,中等症以上ではラモトリギンまたはクエチアピンとSSRI または他の抗うつ薬(三環系抗うつ薬は除く)の併用などが,それぞれ第一推奨薬となっている.

生物学的精神医学会世界連合(WFSBP)(2010年)のガイドライン

双極性うつ病急性期に対しては,単独治療ではクエチアピン(最推奨),fluoxetine(オランザピン非反応例への追加),ラモトリギン,オランザピン,バルプロ酸,カルバマゼピン,リチウムが,併用治療ではオランザピンとfluoxetineの併用(OFC),ラモトリギンとリチウムの併用,現治療薬へのモダフィニルの追加,カルバマゼピンと加味逍遙散の併用,リチウムまたはバルプロ酸とN-アセチルシステインの併用などが,それぞれ第一推奨薬となっている.

厚労省のガイドライン(2008年)は、ラモトリギン発売前なので省きました



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