ロシアのプロスポーツの話題が出て来るスポーツ報道等の文章に、時々「レギオニェル」(легионер)という語が現れます。バスケットボール関係でも使っています。
「レギオニェル」(легионер)という語は、日頃耳にするでもない語です。普通に聞けば、古代のローマ帝国の軍制を論じているような場面に出て来る歴史用語というような話しになるのでしょうが、他に「傭兵部隊の隊員」というような意味も在ります。この語がプロスポーツの世界で使われる場合には「一定期間の契約で出身国やそれ以外の国々のチームを渡り歩いてプレイする選手」ということになり、ロシアのバスケットボールの世界では「ロシア以外の国々出身の選手達」、「外国人選手達」ということになります。
<スーパーリーグ>では最も新しいチームということになるユジノサハリンスクの<ヴォストーク65>にも、スポーツ関係の記事で「レギオニェル」(легионер)と呼ばれる外国出身選手が2人プレイしています。
#21のニコラ・エフティチはパワーフォワードやセンターのポジションを務めるセルビア出身の選手です。ロシア語の男性名でよく在る「ニコライ」ではなく、「ニコラ」という名なので「少し変わっている?」と思ったのですが、セルビア出身でした。得点、リバウンド、アシストと各部門の個人成績も好く、堅実なプレイで存在感を示している頼もしい選手です。
#3のカーマイン・ミッチェルは欧州諸国の様々なリーグでのプレイ経験を有し、今季からサハリンにやって来た米国出身の選手で、ポイントガードを務めています。チームの"斬り込み隊長"という感で攻撃の起点になり、守備場面では相手のガードを執拗に追って、隙を視てボールを奪って反転攻勢を仕掛けます。身長が183cmで、街で出くわす一般男性と然程変わらないような感ですが、「うゎ!飛んだ!?」という跳躍でダンクシュートも決めてしまいます。「ホーム開幕!!」を伝えるポスターにも写真が登場した、文字どおりの"看板選手"でもある存在です。
彼らは何時も大活躍で、当然ながら人気者ですが、この選手達が「出場出来ないことになっている試合」が在ります。
ロシアバスケットボール連盟が主催する<ロシアカップ>という、リーグ戦と並行して開催されるカップ戦が在ります。これは"トップリーグ"である<ユナイテッドリーグ>や、<ヴォストーク65>も参加している<スーパーリーグ>の各チーム、更に希望が在ればその他の「参加希望チーム」が出場するという大会です。ホームとアウェイで試合をして、2試合の総合点で優劣を競い、勝った側が次のラウンドへ進むという大掛かりなトーナメントで大会が進んで行きます。
この<ロシアカップ>は、ソ連時代からの国内のカップ戦の流れを汲むもので、現在の<ロシアカップ>は2000年から現行体制で続いています。そしてこの<ロシアカップ>の大会規定に「ロシア国籍の選手が出場する」と在るのです。これは、国内の競技レベル向上を目指すというような、古くから続くモノを踏まえた規定なのだと見受けられます。
ユジノサハリンスクで、この<ロシアカップ>の試合が開催されることになりました。「1/16」という段階を勝ち抜けた<ヴォストーク65>は、「1/4」への進出を目指して「1/8」という段階で戦っています。
今般の対戦相手は<ウニヴェルシチェート・ユグラ>です。<ロシアカップ>の試合として、既に彼らの本拠地であるスルグートで試合が催されており、<ヴォストーク65>は93対63で勝っていました。ユジノサハリンスクでの第2戦で、このラウンドの勝敗が決しますが、<ヴォストーク65>は有利な立場です。
今般、<ウニヴェルシチェート・ユグラ>がリーグ戦でサハリンへやって来ることになっていたのを踏まえ、11月10日のリーグ戦から「中1日」で11月12日に試合が組まれました。
<ウニヴェルシチェート・ユグラ>でも、「レギオニェル」(легионер)と呼ばれる外国出身選手がプレイしています。セルビア出身の選手とリトアニア出身の選手ですが、彼らはこの<ロシアカップ>の試合に出ません。
<ウニヴェルシチェート・ユグラ>は10人の選手、<ヴォストーク65>も10人の選手です。が、<ヴォストーク65>に関しては直前の試合で2選手が病欠でした。「彼らはどうする?」と気になって仕方が無かったので、会場に様子を視に行きました。<ヴォストーク65>の、直前の試合で病欠した2選手は戻っていましたが、出場したのは1人で、<ヴォストーク65>は実質9人で戦いました。
リーグ戦とは「別枠」なカップ戦ですが、会場の様子はリーグ戦の時と変わらない華やかな演出が在り、観衆も空席が目立たない程度に大勢集まっています。観衆の中には、リーグ戦とかカップ戦という区別は無関係に「新しいバスケットボールのチームが盛上っているらしいから観たい!」と集まった皆さんも多かったように見受けられます。冒頭の選手紹介で、選手の画が出ますが、その時には外国人2選手を外したヴァージョンのモノが準備されていたようで、それが使われていたのがリーグ戦の時との違いです。
12-11-2018 V65 (1).JPG 試合が始まると、両チーム共に「先手を取る!!」とばかりに積極的に仕掛けていた感でした。
<ウニヴェルシチェート・ユグラ>には「ゴール下の覇者」という感の巨漢センター、#23 パーヴェル・ポドコリズィンという選手が在ります。チームが公表する選手名簿には「223cm 140kg」となっていますが、実は「226cm」ということで、「<スーパーリーグ>で最も背が高い選手」というのを通り越し、「存命ロシア人男性で最も身長が高い」という話しさえ在る選手です。<ヴォストーク65>で最も長身な選手は#41 ダニール・ソロヴィヨフで210cmです。ソロヴィヨフと似たような体格の選手は、これまでにユジノサハリンスクにやって来た各チームに見受けられ、何時も彼らがソロヴィヨフと競り合っています。が、このポドコリズィンのような体格であると「(210cmの)ソロヴィヨフが小さく視える?!」という按配です。180cm台の選手達とポドコリズィンが並ぶと、「中学生の練習相手をしている大柄な大学生」とでもいうような体格差で驚いてしまいます。
こういう「ゴール下の覇者」という感の選手が在るためか、双方共に果敢に距離の在るシュートを狙っていました。<ヴォストーク65>側は、「巨大な壁」のような相手センターが護る所に斬り込むよりも、距離の在るシュートで得点を重ねようとします。<ウニヴェルシチェート・ユグラ>側としては、距離の在るシュートを外しても、ゴール下で競り勝ってボールをゴールへ押し込むという可能性が高いと視る訳です。
第1クォータは一進一退で、互いになかなか抜け出せずに24対22で<ヴォストーク65>が僅かに先行しました。
やや単調に、互いに距離の在るシュートを狙っているばかりに視えた第1クォータに対し、第2クォータでは<ヴォストーク65>側が多彩な攻め方を工夫しようとしているように視えました。試合ではチーム最年長(34歳)の#63 アレクセイ・ゴリャホフが若い選手達に知恵を授け、相手を攪乱するように速く、より多くの選手にパスを廻しながら仕掛けていました。「ゴール下の覇者」という感のポドコリズィンの威力に対しては、ボールを持たない選手が何とかシュートを妨げ難いように誘導しようとしていました。それでも「ひょいと手を伸ばすと、ボールを持った大きな手がリングに触れる」というような巨体と向き合うのは大変なことです。
12-11-2018 V65 (3).JPG 第2クォータも<ヴォストーク65>が僅かに先行で、45対39という形で折り返しました。
第3クォータですが、<ヴォストーク65>は完全に流れを握ってしまいました。こぼれてしまったボールを素早く掴んで、素早くゴールを目指す反転攻勢の速攻が続々と奏功します。或いは「最もバスケットボールらしい」というような感じです。他方、<ウニヴェルシチェート・ユグラ>側がゴール下を制してしまうように布陣すれば、<ヴォストーク65>の各選手は思い切って3点シュートを狙い、それが面白いように入りました。第3クォータは31対15と<ヴォストーク65>が圧倒し、<ウニヴェルシチェート・ユグラ>側は思うようなプレイが出来ない状況に陥ってしまいました。
12-11-2018 V65 (4).JPG 第4クォータに至っても<ウニヴェルシチェート・ユグラ>側が流れを取り戻すことはなく、95対76で<ヴォストーク65>が勝利しました。
この勝利で、<ヴォストーク65>は<ロシアカップ>の「1/8」を勝ち抜け、「1/4」への進出が決まりました。「1/4」になると、トップリーグである<ユナイテッドリーグ>に参加するチームが登場するようです。日程等は追って発表されるということで、未だ明らかではありません。
試合中、得点が入ると、得点を挙げた選手の名前がアナウンスされます。<ウニヴェルシチェート・ユグラ>側については淡々と氏名が読み上げられるのですが、<ヴォストーク65>側に関しては独特な抑揚で華々しく紹介され、場内に喝采が湧き起こります。この時、3点シュートによる得点であれば「トリィッ ァチカァッ!!」(スリーポイントォ!!)というコールも入ります。この試合を観ていて、この「トリィッ ァチカァッ!!」(スリーポイントォ!!)が酷く耳に残りました。この日、主にポイントガードを務めた#27 ダニール・アクショーノフについて、この「トリィッ ァチカァッ!!」(スリーポイントォ!!)が連発していたのですが、彼は30得点を挙げていました。
12-11-2018 V65 (2).jpg 少し前に<サハリン>というチームが「最も期待される新興チーム」と言われ、リーグ戦のみならずこのカップ戦でも大変に善戦していたのでしたが、諸般の事情でチームを解いてしまった経過が在りました。「夢よ再び!」と、一部に当時の関係者も加わってこの<ヴォストーク65>が活動しているといいます。また「最も期待される新興チーム」ということになって行くのも夢物語ではないかもしれません。
この後、11月後半には<ヴォストーク65>は遠征に出ることになっています。