ひと夏のハザマ。
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Photo:Tomoki Hirokawa2016
この夏、縁あって初めて出演した舞台、劇団テトラクロマット第三回公演『風は垂てに吹く〜愛していると言うかわりに、空を飛んだ〜』。稽古から上演までの全日程が、今週終わった。
物語の主人公は、グライダー乗りだった夫を自分の決断で人工呼吸器につないでしまった画家の夏月。彼女はある日、この世とあの世の狭間、夢と現実の狭間にある"ハザマ"の世界に迷い込む。この"ハザマ"の世界の住人はみな飛行機と関係のある過去の実在の人物なのだが、私はそのひとり、アメリア・エアハートを演じた。女性で初めて大西洋単独横断飛行を成し遂げ、その後ナビゲーターのフレッド・ヌーナンと共に赤道一周飛行に挑戦中、行方不明となったアメリカンヒロインだ。
ストーリーもファンタジー要素が強いが、演出も単純ではなかった。舞台上には、人と人の繋がり(時にしがらみ)を表す紐が何本も張り巡らされている。また「闇」と呼ばれる120cm程の深さの穴が舞台上手にぽっかりと空いている。ハザマの衆はその中を踊ったり、変わったムーブメントをしたりしながらストーリーが進む。さらにクライマックスには長さ16mの黒ビニールの「闇」がみなを飲み込んだり、天井から伸びる長さ25mの布を棚引かせたり、舞台上をグライダーが飛んでいるように見せたりするのだが、それら仕掛けや小道具の操作はすべてキャストが自ら行う。毎公演滞りなく再現できるのか不安になる細かな段取り。私が小道具を取り忘れたら、或いは移動が間に合わなかったら、そのあとの展開が立ち行かなくなる。全員がその責任を果たさないと即座に崩壊する演出は恐ろしくもあった。
それらを形にするための1ヶ月以上の稽古は並々ならぬハードさだった。慣れぬ私は初日に早くも腰を痛め、毎日汗だく、アザだらけになりながら動きを体に落とし込んだ。また、アメリアという人物の感情をどう体全体で表現するか、演技についても試行錯誤。自分の能力の低さがもどかしかった。精神および肉体修業のようだったが、共に稽古をするキャスト仲間に救われた。人格もプロ根性も素敵で、ほんと大好きになっちゃう、愛のあるキャストばかりだったのだ。
舞台は誰ひとり欠けても上演できない。苦しい稽古はキャスト同士の信頼関係を育み、チームプレイを作るためでもある。その凄さは本番で体感した。11人のキャストが完全に一体になり、互いを想い合い、支え合える素晴らしいチームに育っていた。人間、人のためだと踏ん張れることがある。彼らのためだと思えばハードな公演もがんばれた。仲間の笑顔がこんなにもご褒美になるものか、と驚いた。結果、舞台は連日満席状態、好評のうちに幕を閉じた。
公演後、私は心身ともに抜け殻のようになった。疲れがどっと出たのはもちろんだが、それだけでない。自分たちが創り出した"ハザマの世界"の空気感や"ハザマ衆"の仲間たちが愛しくてならなかった。自分の演じたアメリアも、最早、私の中にしっかり存在していた。彼女の強さや真っ直ぐさ、勇気、かわいさが、大切な友のように居場所を得ていたのだ。
もうこれらハザマの世界の全てに会えないのかと思うと、心の中にぽっかりと大きな穴が空いたようである。そこまで、自分が全力で注ぎ込んだという証かもしれない。頭だけでなく、心ごと。
物語のテーマでもあった「人と人との繋がり」。人と関われば、ありがたいことも、煩わしいこともある。でも、人はひとりで幸せを感じることはできない。何かが終わってしまう切なさも。そう心底感じた大切なひと夏...決して一生忘れないであろう。
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Photo:Tomoki Hirokawa2016
お忙しい中お運びいただきご鑑賞くださった皆様、
そして、ご一緒いただいたみんな、
心から 心から
ありがとうございました。
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Photo:Tomoki Hirokawa2016
この夏、縁あって初めて出演した舞台、劇団テトラクロマット第三回公演『風は垂てに吹く〜愛していると言うかわりに、空を飛んだ〜』。稽古から上演までの全日程が、今週終わった。
物語の主人公は、グライダー乗りだった夫を自分の決断で人工呼吸器につないでしまった画家の夏月。彼女はある日、この世とあの世の狭間、夢と現実の狭間にある"ハザマ"の世界に迷い込む。この"ハザマ"の世界の住人はみな飛行機と関係のある過去の実在の人物なのだが、私はそのひとり、アメリア・エアハートを演じた。女性で初めて大西洋単独横断飛行を成し遂げ、その後ナビゲーターのフレッド・ヌーナンと共に赤道一周飛行に挑戦中、行方不明となったアメリカンヒロインだ。
ストーリーもファンタジー要素が強いが、演出も単純ではなかった。舞台上には、人と人の繋がり(時にしがらみ)を表す紐が何本も張り巡らされている。また「闇」と呼ばれる120cm程の深さの穴が舞台上手にぽっかりと空いている。ハザマの衆はその中を踊ったり、変わったムーブメントをしたりしながらストーリーが進む。さらにクライマックスには長さ16mの黒ビニールの「闇」がみなを飲み込んだり、天井から伸びる長さ25mの布を棚引かせたり、舞台上をグライダーが飛んでいるように見せたりするのだが、それら仕掛けや小道具の操作はすべてキャストが自ら行う。毎公演滞りなく再現できるのか不安になる細かな段取り。私が小道具を取り忘れたら、或いは移動が間に合わなかったら、そのあとの展開が立ち行かなくなる。全員がその責任を果たさないと即座に崩壊する演出は恐ろしくもあった。
それらを形にするための1ヶ月以上の稽古は並々ならぬハードさだった。慣れぬ私は初日に早くも腰を痛め、毎日汗だく、アザだらけになりながら動きを体に落とし込んだ。また、アメリアという人物の感情をどう体全体で表現するか、演技についても試行錯誤。自分の能力の低さがもどかしかった。精神および肉体修業のようだったが、共に稽古をするキャスト仲間に救われた。人格もプロ根性も素敵で、ほんと大好きになっちゃう、愛のあるキャストばかりだったのだ。
舞台は誰ひとり欠けても上演できない。苦しい稽古はキャスト同士の信頼関係を育み、チームプレイを作るためでもある。その凄さは本番で体感した。11人のキャストが完全に一体になり、互いを想い合い、支え合える素晴らしいチームに育っていた。人間、人のためだと踏ん張れることがある。彼らのためだと思えばハードな公演もがんばれた。仲間の笑顔がこんなにもご褒美になるものか、と驚いた。結果、舞台は連日満席状態、好評のうちに幕を閉じた。
公演後、私は心身ともに抜け殻のようになった。疲れがどっと出たのはもちろんだが、それだけでない。自分たちが創り出した"ハザマの世界"の空気感や"ハザマ衆"の仲間たちが愛しくてならなかった。自分の演じたアメリアも、最早、私の中にしっかり存在していた。彼女の強さや真っ直ぐさ、勇気、かわいさが、大切な友のように居場所を得ていたのだ。
もうこれらハザマの世界の全てに会えないのかと思うと、心の中にぽっかりと大きな穴が空いたようである。そこまで、自分が全力で注ぎ込んだという証かもしれない。頭だけでなく、心ごと。
物語のテーマでもあった「人と人との繋がり」。人と関われば、ありがたいことも、煩わしいこともある。でも、人はひとりで幸せを感じることはできない。何かが終わってしまう切なさも。そう心底感じた大切なひと夏...決して一生忘れないであろう。
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Photo:Tomoki Hirokawa2016
お忙しい中お運びいただきご鑑賞くださった皆様、
そして、ご一緒いただいたみんな、
心から 心から
ありがとうございました。
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