観劇:<ハバロフスク地方ドラマ劇場>のユジノサハリンスク公演から 『犬の心臓』(Собачье Сердце)(2019年01月23日)

演劇等の公演が催される劇場では、その劇場を拠点に活動するグループによる公演の他に、他地域の劇場で活動するグループ等が訪れての公演が催される場合も在ります。ユジノサハリンスクの<チェーホフセンター>でも、そうした例は見受けられます。

↓劇場での公演に関しては、古くからこういうような「今月の演目」というようなモノが掲出されています。
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↑これを視る他、古くはその種の情報を多々掲載した新聞のようなモノが見受けられましたが、最近はネットに情報が多々出されています。

興味が沸く公演が在れば、チケットを入手する訳です。最近はネットでの販売も見受けられますが、昔ながらの「劇場等の窓口」もポピュラーです。

<チェーホフセンター>の事務局は、一般的なオフィスのように午前9時から午後6時で、午後1時から午後2時が昼休みです。窓口は午後2時から午後3時を昼休みにしていて、午前10時頃から開けているようです。公演の日には、開演前まで開けているように見受けられますが、その日の券は「完売」ということも多々在ります。

今シーズン、幾つか興味が沸いた演目が在って窓口を訪ねてみたのですが「完売」という例が続きました。今般、大変に興味が沸いた演目が在り、窓口に立寄って尋ねてみると「1枚?それなら最後の1枚が...」と券が在ったので入手しました。

興味が沸いた演目というのは『犬の心臓』(Собачье Сердце)です。ハバロフスクの<ハバロフスク地方ドラマ劇場>がやって来て、3日間で3本の演目の公演を行うということで、その1本だというのです。

↓実は昨シーズンから<チェーホフセンター>でも『犬の心臓』(Собачье Сердце)を公演しています。これは既に観ています。なかなか好評で、演劇界でも高い評価を得ているようです。
>>観劇:<チェーホフセンター>の新作劇『犬の心臓』(Собачье Сердце)(2018年03月30日)

同じ題の演目、換言すると同じ原案を用いた劇であっても、公演を行う劇場が変われば様子は変わるものです。異なる演者が異なる演出で舞台に登場するのですから。

筆者自身が実際に観て知っている範囲では、少し古い見聞ということになってはしまいますが、チェーホフの戯曲である『ワーニャ伯父さん』(Дядя Ваня)に関して、モスクワの色々な劇場で催された公演を観ていますが、それらは悉く違う雰囲気でした。劇中人物が話す言葉、演者が発する台詞が同じであっても「大きく様子が違う」のです。或る劇場では「動揺して怯えながら発せられた」という台詞が、別な劇場では「怒りを噛みしめて、強めに淡々と発せられていた」というような例さえ在りました。こういうことになれば「同じ場面」のイメージが大きく変わる訳です。

と、「そのまま書かれている台詞を演者が発する」という「戯曲」でも、異なる劇場で異なる感じの劇が登場する訳ですが、『犬の心臓』(Собачье Сердце)となれば、そういう違い、今般の場合は「ユジノサハリンスク版」と「ハバロフスク版」は非常に大きく異なる筈です。何故なら、『犬の心臓』(Собачье Сердце)の原案は、ブルガーコフの「小説」なのです。「そのまま」でストレートに劇を創るのではなく、「小説」に依拠しながら「脚本を創る」ということもして、舞台での色々なことを演出するのです。各々の劇場で、「同じ題名の全く異なる作品」と「ならざるを得ない」のです。同じ戯曲という以上に興味深いことです。

↓<ハバロフスク地方ドラマ劇場>では、今般のユジノサハリンスク公演のリーフレットを用意していました。<チェーホフセンター>の館内で頂くことが出来ました。
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<ハバロフスク地方ドラマ劇場>は1946年からハバロフスクで演劇の活動を続けています。今般は近年好評を博している演目、今シーズンから登場の演目の3本でユジノサハリンスク公演に臨んでいるということでした。<チェーホフセンター>の『犬の心臓』(Собачье Сердце)は昨シーズン登場ですが、<ハバロフスク地方ドラマ劇場>の『犬の心臓』(Собачье Сердце)も昨シーズン登場で、こちらも演劇界で高い評価を得ています。

↓これがハバロフスクから届いて50ルーブルで販売されたプログラムと、手元に残った入場券の半券です。入場券は350ルーブルでした。
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プログラムを視て一寸驚きました。「"シャリコフ"の配役に2名?!」と判りました。

『犬の心臓』(Собачье Сердце)という物語は、1920年代のモスクワを舞台としていますが、SF的な要素が入った一寸独特なものです。

「名も無き野良犬」が"教授"に拾われ"シャリク"と名付けられます。"教授"は研究のための実験で犬に手術を施して"改造"しました。その結果、犬は人間のようになって言葉を話して2本の足で歩き回るようになり、服を着て靴も履くようになります。そして人間の姓名を欲しがって"シャリコフ"と名乗ります。この"シャリコフ"という、「元は文字どおりの野良犬」という男(?)が絡まる騒動という訳です。

<ハバロフスク地方ドラマ劇場>による『犬の心臓』(Собачье Сердце)は、1時間40分程度で幕間を挟まない形での公演でした。「名も無き野良犬」が"教授"に拾われ、"改造"が在って「人間のようになってしまう」という、小説で綴られている経過が限られた時間の中で丁寧に語られたというような感でした。

「"シャリコフ"の配役に2名?!」と驚いたのですが、2人が同時にステージに登場しました。1人は男性で、もう1人は女性でした。男性は"身体"を、女性は"心"を演じていたという感です。多分、あの男性は台詞を発していません。全て女性の側の"シャリコフ"が発していました。これは、かなり驚いた見せ方でした。

全般に、ミュージカル調のような箇所や舞踏劇のような箇所等も在って、「現代的なスタイル」に纏め上げていたように見えました。エレキベースのようでしたが、ステージの隅で随時演奏し、時にはコーラスも在りました。

大変な興味を覚えて、運好く券が手に入って―本当に「完売」になったホールは満員でしたが、開演前に劇場の入口で「どなたか余っている券は在りませんか?!」と呼び掛けているような方も視掛けました。―観ることが叶った公演でした。「ユジノサハリンスク版」と「ハバロフスク版」は、同じ小説を原案とする劇ですが、本当に全然違う個性を放つモノになっていました。

広大なロシアの方々で、こういう「新しい劇」が毎シーズンのように創られているということですが、なかなかに凄いエネルギーが国中に渦巻いているということになります。なかなかに興味深いことです。

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