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羽生結弦、悔いなき4回転半初認定「あれが僕の全て」北京に刻んだ新伝説

[ 2022年2月11日 05:30 ]

北京冬季五輪第7日・フィギュアスケート 男子フリー ( 2022年2月10日 首都体育館 )

男子フリーの演技を終え笑顔を見せる羽生結弦(撮影・小海途 良幹)
Photo By スポニチ

フィギュアスケート男子でショートプログラム(SP)8位の羽生結弦(27=ANA)は10日、フリー3位の188.06点をマークし、合計283.21点の4位で3度目の五輪を終えた。冒頭で世界初の成功を目指すクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)で転倒。回転不足の判定だったが、国際スケート連盟(ISU)公認大会で初の認定となった。3月の世界選手権(フランス・モンペリエ)にエントリーしているが、今後の競技活動については保留とした。

両手を天に突き上げると、万感の思いが込み上げた。フィニッシュポーズから6秒。難攻不落の大技に挑んだ羽生は、重圧から解放されるように、ゆっくり刀をさやに納める。そして、笑った。リンクの去り際には、両手で拾った夢舞台の氷を目元に当てた。「ありがとうって思って」。孤高の挑戦者の、美しき所作だった。

後悔はない。戦国時代の軍神・上杉謙信を演じたフリー「天と地と」。冒頭の4回転半に27年間の心技体、全てを込めた。長い助走から一気に踏み切り、視界は「僕しか感じたことない」世界だった。

夢の大技は右足一本で降りたが、回転がわずかに足りずに氷上に叩きつけられた。それでも、公認大会の初認定。新たな歴史の扉をこじ開けた。「全部出し切った。もうちょっとだったなとかって思う気持ちもあるんですけど。でも、あれが僕の全てかな」。羽生は声を震わせた。

ギリギリの状態だった。前日練習の4回転半転倒で右足首を再び捻挫。度重なる負傷で、腱がなくなるほど伸び切っている患部の感覚はほとんどなかった。痛み止めを飲み、勝負へ。「絶対アクセル降りるって思っていました。絶対、回りきるんだって」。以前の構成に戻せば、メダルにも手がかかったかもしれない。だが、自らの生きざまを示すアタックに迷いはなかった。

昨年12月の全日本選手権はダウングレード(3回転半)の判定だった。着氷は両足から片足となり、回転の鋭さも増した。随所に進化の証があった。だが、誰も成功体験のない恐怖と向き合い続けた羽生は明かす。「これが4回転半の回転の速度なんだって。ここからランディング(着地)するのは危険すぎる。人間にはできないかもしれない」。そこまでの境地に達した。

苦しい4年間だった。数多くの4回転ジャンプに成功し、五輪2連覇も達成。そこまでが幼少期から思い描いた「決められた未来」だった。夢の続きとして決めた4回転半に、何千回挑み続けても氷に叩きつけられた。4回転半のために生きることは「修行僧みたいな感じ」。コロナ禍の中の孤独な練習で3回転半すら跳べず、暗闇の底に落ちていくような感覚の時期もあった。今季も右足首の負傷。「やめようかな」と弱気になったこともある。

羽生は語ったことがある。「筋肉とか人間の動きって限界があるんですけど、限界を押し上げられるものは心しかない。どれだけ強く心を持つか。その時の心のエネルギーがなくなるまで費やす」。弱気な自分が顔を出すたびに、強い心で打ち勝ってきた。

その手の中に黄金に輝くメダルはない。4回転半挑戦は続くのか。そう問われた羽生は、正直に言った。「もうちょっと時間ください。ちょっと考えたいです。それくらい今回やりきってます」。3度目の夢舞台。そこには、気高き求道者にしか見えない景色があった。

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