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北京五輪は勇気を生み出すことができる―証明するための17日間

[ 2022年2月5日 05:30 ]

開会式で行進する日本選手団(撮影・小海途 良幹)
Photo By スポニチ

【藤山健二 五輪愛】猛暑の東京から厳寒の北京へ。史上初めて同一都市による夏冬開催を実現させた北京五輪は、コロナ時代の今を生きる私たちに何をもたらしてくれるのか。夏冬合わせて7大会の取材経験を持つ藤山健二特別編集委員(61)が、五輪記者歴40年の経験を生かして競技、選手の分析から国際オリンピック委員会(IOC)の裏事情まで、時に優しく、時に厳しく"五輪愛"を連日お届けします。

北京五輪の公式スローガンは「一起向未来」だ。日本語にすると「共に未来へ」となり、組織委員会はこの言葉に込めた思いを「世界が新型コロナウイルスと闘う中、手を携えてともに未来に向かっていこうという共通の願いを表現した」と説明する。

理念は立派だ。だが、現実はどうか。聖火リレーはわずか3日間に短縮された。表向きは感染予防のためとしているが、実際には各地でさまざまな抗議活動が起きるのを警戒したとみられている。

中国国内での人権侵害に抗議するため、米国や英国、日本などの主要国は開会式への政府関係者の派遣を見送った。軍事的な脅威にさらされている台湾は名称表記を巡って最後までもめた。入場行進した欧米の選手たちは情報流出のリスクを避けるために、個人の携帯を現地に持ち込まないように事前に要請されていた。大会が開幕しても、「共に未来へ」の雰囲気はどこにもない。

東京五輪を1年延期に追い込んだ新型コロナウイルスは半年たった今も収束する気配はなく、世界中で感染爆発が続いている。にもかかわらず、公表される北京の新規感染者は異常なほど少なく、信ぴょう性に疑問が湧く。入場券は一切販売されず、会場で観戦できるのは一部の団体客だけ。「ゼロコロナ」を目指し、街中では一人でも感染者が出れば地域全体を封鎖する強圧的な対策が続く。それでも言論や報道の自由が制限されている市民の間からは、大会の延期や中止を求める声は一切聞こえてこない。

すでに選手や関係者の間でも感染確認が相次いでいる。メダル候補も例外ではなく、ジャンプ女子の金メダル候補で高梨沙羅の最大のライバルとなるはずだったマリタ・クラマー(オーストリア)も北京入り直前に感染が判明し、無念の欠場を余儀なくされた。全てをささげた4年間はいったい何だったのか。「ただむなしいだけ」の言葉が悲しく響く。

寒さで換気がままならない冬の大会は、夏の大会よりもはるかにクラスター発生の危険性が高い。最悪の事態が起こった時に選手の健康と人権を守り、誰もが不利益を受けないような対応が今のIOCや中国にできるのか、多くの人が不安を感じている。

それでも選手たちは戦わなければならない。北京では東京五輪の時のような地の利はない。外部との接触を完全に遮断されたバブル方式の下では気軽に家族や友人に会うことはできず、息抜きの場もない。異国でたった一人、メダルへのプレッシャーや感染の不安に耐えて、ベストコンディションを保つのは容易なことではないだろう。その試練を乗り越えない限り、栄光への道はない。

選手たちに今できることはただ一つ、何があろうと目の前の試合に全力を尽くすことだけだ。スポーツには人権問題を解決し、コロナを収束させる力はない。だが、国籍や人種、性別、宗教を超えて全ての人々の心を一つにし、困難に打ち勝つ勇気を生み出すことはできる。きっとできる。必ずできる。

それを証明するための17日間が今、始まった。(特別編集委員)

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