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外から見る日本、見られる日本人

バンクーバーの日本人社長ヒロが仕事、生活を通じて感じた経済、経営、社会、日本人観などを綴っています。

中国関連

2024年09月20日10:00
中国の広東省深圳で日本語学校に登校途中の10歳の日本人児童が刺殺されました。お悔み申し上げます。6月にも蘇州市で同様の事件が起きていることを踏まえ真相究明が急がれるところです。

それ以外にも靖国神社に落書きをして中国に逃げ帰った男のその後の開き直った態度、NHKの国際放送で原稿にないことをしゃべった案件などを含め、個々の事件を見ると一見、相関関係はなさそうですが、個人的には根深い問題があるように感じます。

最大の疑問は中国人に道徳観念が十分にあるのか、であります。南沙諸島でのフィリピン船と中国の船団との争いも傍から見れば不良少年によるいじめに近いレベルです。習近平氏は軍部を掌握しているはずですが、実態としては掌握していない、そう見えるのです。習氏の実務能力が衰えてきた中で取り巻きがほとんど機能してないとなれば中国の統治能力がズルズルと低下している、そんな構図が一番当てはまるとみています。

軍部の掌握は国家の指揮系統の中でも最重要とされています。どこの国家でも軍部を仕切るものが国家を仕切るのが通常であります。金正恩氏が若かりし頃、北朝鮮軍部があらゆる不満を募らせ、金氏がそのコントロールを失いかけたことがあります。あの頃は北朝鮮が最も不安定な時期だったと思いますが、金氏は権力を堅持し、最悪期を抜け出し、弾道ミサイルにロシアとの連携といった軍部が喜ぶ施策を次々と行うことで金体制を維持しているといってよいでしょう。

では中国ですが、大所高所から見ると共産思想という国家による制御と支配が行われている社会において国民は対抗心をなくしている状態、つまり、何かすれば捕まる、だから何もしないに越したことはないという人間の意志の重要な部分が欠落してしまっているように見えるのです。

人間は非常に苦しい期間を経ると一種の被征服感が生まれます。例えば警察の取り調べが朝から晩まで長時間、延々と行われると多くの被告は落ちてしまいます。あるいはかつて社員教育で「地獄の特訓」なるものが流行った時期があります。あれなども自分を究極状態に押し込むとその先は自己抑制ができなくなり恥ずかしいとか、こんなことはできないといった個人が持つそれぞれの「リミター」が外れやすくなります。あのようなスパルタ教育の趣旨はリミター外しとも言えるのです。

水戸黄門こと徳川光圀と将軍綱吉の間のバトルは小説としても有名ですが、その中の生類憐みの令の話は非常に面白い例だと思います。綱吉が動物を大事にし、それらを捕まえ、殺してはいけないという令を発します。するといたるところに野犬をはじめ、さまざまな動物が氾濫します。民は将軍を「犬将軍」と呼ぶも将軍は世間で何が起きているか実態を知らず、一方の小役人は庶民が動物、虫一匹捕まえるだけでも仕打ちしたとされます。そこで黄門さまがそれを厳しく断ずるというのが小説です。実際にはちょっと盛りすぎの話だと思いますが、この綱吉と小役人の関係が今の習近平と共産党員の関係であり、庶民は理不尽なことで振り回されているという風に見えるのです。

以前、上海出身でカナダに移住されたビジネスマンと話をしていた時、「中国の人は政権を見ざる、語らず、関与せず」と明白に断言しました。これが一定のレベルでの中国の実態を示しているなら誰が何をしようと無関心主義で、暴発が時として起きる、しかし、それらは力づくで取り締まり、何事もなかったかのような状態にするのです。

綱吉の話で言えば街中にそんなに野犬がはびこっているのは一切知らず、小役人や家老はそれを上に一切報告せず、耳障りの良いことだけを伝えるのです。10歳の児童の殺人事件においても中国外務省のコメント、「同種の事件はどの国でも起こり得る」というのは非常に自己都合で保身的、かつ政治問題にさせないとする小役人の細工でしかないのです。なぜならば政府が謝罪する、全面的な対策をとるといったことは「お上」が決めることで小役人はそんな決定権もなければ謝る権利もないのです。

「謝罪する権利」とは共産党や政府の趣旨に基づくことであり、非を認めるかどうかは重要な決定事項であり下部組織では権利もないし、判断すらできないのであります。

私から見ると中国の政府機関は基本的にロボットであり、何を聞かれても想定範囲のことしか反応がない、これが実態であります。よって日本政府がどれだけ騒いでも馬耳東風になりやすいのです。

これが変わることはあるのか、と問われたら私は当面ない、と考えています。中国を攻めれば攻めるほど泥沼にはなれど解決とは程遠くなるという我々の知る常識感とは真逆の世界にある、とみています。

私が中国に軟弱ではないか、というコメントを頂くのですが、軟弱ではなく、その特殊環境下における最良の解決策は何か、という観点で考えています。保守派の方々にはご不満でしょう。チカラ対チカラでぶつかるべきだと。私はそれは時と場合次第の使い分けだと思っています。

今回を含め、一連の事件の背景は国民の間のフラストレーションの発散の一環ではないかという気がしています。そのストレスは当然ながら中国に蔓延する経済的苦境と10年前のあの活況ぶりからは程遠くなった中国人の困惑であるとみています。同様の事件がさらに起こらないとは言えないと考えています。よって中国に滞在する日本人は極めて高度な緊張感をもって過ごす必要があると思います。

では今日はこのぐらいで

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2024年08月26日10:00
対峙とは、二者または複数の者が互いに向かい合う、直面する状態(実用日本語表現辞典)とあります。日本やアメリカ、台湾、フィリピン、更にはインドも含めた国々が中国と対峙をしている、この点については改めて確認する必要もないかと思います。

中国は中華思想のもと、中国を中心とした天動説のようなもので華夷思想とされます。中国を中心に遠方に行けば行くほど純度が下がり、差別的意識を持つ、そのような発想です。円周の外側が朝貢国で琉球王国などがその範囲でした。その外側は四夷(しい)という侮蔑する名前がついていて東夷、西戎、北狄、南蛮とそれぞれ銘打ってあります。東夷は日本本土と韓国が入り、例えば南蛮はベトナムやカンボジアが入ります。ではその円周とは何か、といえば中華思想のエネルギーが到達するエリアと解されており、その外側が差別意識を持った敵対相手といえます。とするならば中華思想に無限の広がりがあるのかといえば割と狭く、今の中国国土程度におおむね収まるともいえるのです。

台湾と沖縄を中国の影響下に置きたいと習近平氏が思うのであればこの中華思想概念の地図がその論拠とも言えなくはありません。

この中華思想を裏返してみれば中国をその思想範囲から外側に出さないよう絶対包囲するという現在の西側諸国の施策は歴史的思想に準拠した正しい政策であるとも言えます。その前提で更に推し進めれば中華思想を根源とする現在の中国共産党は西側諸国と相いれない関係でありアンタッチャブルな世界、よってデカップリングすべきというトランプ氏の唱える経済政策は紛れもなく正論であるとも言えてしまうのです。

ところで中国当局につかまっているアステラス製薬の社員がスパイ容疑で起訴されました。本件については日本政府も誠意をもって中国当局と折衝を続けてきていますが、状況が改善するどころかより混迷の度を深めています。ただ、私個人の勝手な想像ですが、中国がそこまで頑な姿勢を見せているということは何らかの明白で重要な理由があると考えるほうがナチュラルかもしれません。よって本件が理由で「中国怖い」「駐在、行きたくない」とメディアは煽りますが、そこはもう少し抑制した方がいいのかもしれません。

日本と中国のビジネスの関係を考えると貿易取引的には日本にとって重要な相手国ではありますが、私がもしもそのような立場にあり、中国に進出してビジネス拡大の商機を狙うかといえばないと断言します。理由は泥棒に追い銭だからです。日本の優れた性能やアイディア満載の商品を「オタク、買いませんか?」と揉み手で商売するエコノミックアニマル、売り上げ至上主義、自社さえよければ何でもよい、そうにしか見えないのです。相手は泥棒、良いところどりをして物まねされて挙句の果てに日本のモノより良い商品を安く提供する、それが中国なのです。

日本製鉄の上海、宝山鋼鉄とのパートナーシップが終わると発表されましたが、私からすればようやくその思いに至ってくれたか、です。自動車産業もほとんどが現地企業との合弁で結局、日本の自動車産業の技術が全部筒抜けになり、挙句の果てにEV化自動運転化を国家を挙げて進めた結果、中国に進出している日本の自動車メーカーは散々な思いをしています。日本の自動車メーカーよ、さっさと帰国せよ、それが私の思いです。

中華思想のエネルギーが届く円があるとすれば西側諸国はこのエネルギーを消耗させ、円を小さくする、その施策をとる必要があります。その中で経済制裁はボディブローのように効く効果抜群の政策であります。例えば西側諸国から強力な制裁を受けているイランは石油を中国など同盟関係にある国に輸出することで体裁を保っていますが、実情厳しい状況に変わりありません。これが中国になると工業製品の輸出を主力としていただけにその影響力は計り知れないものになるのです。

トランプ氏は中国との関係において氏が大統領になれば恒久的正常貿易関係(PNTR)(=最恵国待遇)を取り消すと表明しています。アメリカにおいてPNTRがあると自動的にMFN税率と称するWTOが決める世界関税基準が適用されてきました。氏が中国からの輸入品に6割の関税をかけるという法的ベースはここにあるのだと思います。これが適用されると隣国であるカナダはそれに歩調を合わさざるを得ないし、中国の受け皿となりつつあるメキシコは更なる影響を受けるのでしょう。日本にもその影響は及ぶはずで否が応でも中国とのデカップリングが進むことになります。

その場合、中国は一定の抵抗をするでしょう。が、現状、中国の分は悪いと思います。理由は国内経済がボロボロで不動産の負の遺産解消にはまだ20−30年かかるからです。当然ながら習近平氏はその時にはいくら何でもいません。氏のような共産的権威主義に対するカリスマ性を持った人材が共産党に溢れているとも思えません。事実、能ある者を習氏が潰し続け、YESMANだけを廻りに集めた最弱のブレーンの集団を作ってしまった習近平氏の責任は重いはずです。

中国とどう対峙するかですが、日本はクールな判断をする、これにつきます。敵対する必要はないですが、寄っていく必要もありません。対峙する関係はまだ数十年続くと思いますが、今の経済制裁をさらに強化し、中国包囲網を厳重にし続ける限りにおいて中華思想の根源のエネルギーはどんどん小さくなると考えています。

その間に日本は東南アジア、南アジアなど関係強化を図りながらアジアの盟主として安定した外交を着々と続けていくことが重要だと思います。

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日本がバブルで沸いていた89年6月4日に中国では民主化を叫ぶ若者を中心とした国民の蜂起が起き、それを弾圧する政府の鎮圧隊と激しく衝突しました。あれから35年。中国は経済成長を遂げ、世界第二位の大国となった一方、プレゼンスと影響力をより強める強硬な外交方針を貫きます。一対一路やアフリカなど経済基盤の弱い国に金銭的しがらみで追い込み、スリランカのように国家が立ち行かなくなったケースもあります。

習近平氏は中国共産主義の原理主義者だと私は思っています。権威主義をとことん突き詰め、情報統制を行い、一国二制度だった香港も形式的には二制度が残っているかもしれませんが、もはや民主的な国家運営は全くないといってよいでしょう。そして今は台湾に圧力をかけ続けます。

不思議なのはこのような権威主義に対して世界は割となびいているのです。スウェーデンの独立調査機関V-Dem研究所が発表した「民主主義レポート2024年版」は集計対象179か国/地域でみると民主主義国家91,権威主義国家88でほぼ拮抗。ただし、グレーゾーン国家を除外すると78対83か国で権威主義国家が多くなります。また、人口でみると民主主義陣営は全体のわずか29%にとどまるのです。

そして何らかの形での権威主義国家は増え続けている、これが実態です。

なぜ、権威主義が跋扈するのか、個人的には2つの大きな理由があると思います。1つは国内経済が十分にテイクオフしておらず、国民の高い貧困/格差レベルないし、将来不安を抱える層が多い国に権威主義を支持しやすい方向性があること、もう1つはアメリカの衰退です。

人は苦しくなると何かにすがりたくなる、これが性であります。宗教はその典型ですが、現代生活において様々な不安がある場合、強い国家権力に巻かれるほうが楽だと考える民が多いのは否定できないと思います。例えば日本で民主党政権の際に震災もあり、非常に大きな混乱に陥ったのち、安倍氏が首相として力を発揮したのは強いリーダーシップを国民が渇望した点を否定できないでしょう。

これを世界レベルでみると経済的基盤のみならず社会制度や国民教育が十分に行き届かない中でスマホやコンピューター技術など先端の技術や情報だけが先行して国家に浸透するとマインドギャップが生じます。初めは良いのですが、そのうちそのギャップが埋められず、更に不安感が増長される、これが私の思う権威主義が普及しやすい理由です。

また民主主義の象徴であるアメリカの社会制度と思想の衰退ぶりが勢いを増す権威主義との好対比となっているとみています。アメリカでは1%対99%という格差問題や「成功者は修士課程を取るのが当たり前」という激しい競争社会を生み出します。エリートたちはオピオイドを服用し、自分をごまかしてまで勝ち抜き競争に挑みます。一方、大学に行けなかった人たちはトランプ氏の出現に自分たちの代弁者のごとく支持が集まります。私はふと思うことがあるのです。トランプ氏は一種の権威主義的思想ではないか、と。

その点では日本やカナダは私が知る限りではアメリカ以上の民主主義国家だと思います。

我々が中国を批判するのは自分たちの自由と充実した社会制度と一定の教育、更には職にありつき、老後もそれなりにケアされる仕組みがある故なのでしょう。「なぜ中国は権威主義に走るのか」といっても理解しにくいことは確かです。中国には私有はなく、年金制度など老後保障も十分ではありません。かといって富裕層のように外国に移住する手段を持たない限り、民は国家と対峙するか、服従し、すがる以外方法はありません。

国家と対峙すればどうなるか、それは天安門事件のみならず、文化大革命の頃から何一つ変わらない弾圧が待っているのであります。コロナの時に中国で「白紙運動」が起きてコロナ封鎖に対する民の大きな声が上がりました。その後どうなったかといえば運動の主導者たちには厳しい弾圧が待っていたのです。

民主主義については様々な書籍や研究文献が出ています。目立つのは今の民主主義は持続可能か、というものです。民主主義を維持する国家は政治的理由により民の言い分を聞き入れる傾向が強くなります。しかし聞き入れるほど国家はより泥沼にはまっていくのもまた事実です。メキシコで女性大統領が圧倒的支持で誕生しましたが、為替も株も大暴落しました。理由は中道左派政権がバラマキを継続するだろうという失望感です。

何も変わらぬ中国をかえるには民主主義陣営がより魅力的な社会を創出するしかありません。その中でアメリカが行き詰まるなら日本が民主主義、権威主義に続く第三の主義で民の幸福と生きがいと成長を提示する国家として手本を示すことはあり得ると思います。日本はかつてジパング(=欧州から見て東方の国)とされました。今こそ、現代社会のジパングとして再び光り輝かせる時なのではないでしょうか?

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2024年03月05日10:00
中国の国会にあたる全人代(全国人民代表大会)が5日から11日まで開催されます。年に一度の行事でありますが、今後の中国を占う上でその行方をある程度理解することは重要だと思います。特に今年はアメリカの大統領選もあることでそれを意識をした内容になるかと思います。折しもこれを書いていた北米時間の4日早朝、トランプ大統領の大統領選出馬に関するアメリカ連邦最高裁の判断で出馬可能と全会一致で出たことで中国とアメリカの政治的な軋轢が再び起きる可能性が高まったともいえ、習近平氏の打ち出す内政と支配の行方が注目されます。

私の見る今回の全人代の注目点です。
1 経済成長率の見通し5.0%は可能か
2 王毅氏が兼任している外務大臣を誰かに指名するか?その場合、劉建超氏か?
3 李強首相が恒例の全人代最終日の記者会見をしないのは何故か
4 改正国家秘密保護法

このあたりを見てみます。

まず、中国の成長率ですが、西側諸国の予想は4.5-4.6%程度となっていますが、中国としては5.0%を目ざす可能性は高いと思います。この背景には低迷する国内経済、特に不動産問題や特に若年者層にみられる就業率問題、更には低迷する株価を踏まえ、中国政府として今回の全人代でインパクトある経済支援パッケージを打ち出すものと思われ、その上乗せ分で5.0%は達成できるという目標を出すものと考えています。

経済支援パッケージは以前から大型のものが囁かれています。上海株価指数でみると2月5日に2700ポイントと最低を付けた後、急速に切り返しており、現在は3000ポイントを回復しています。株価指数的には2016年ぐらいからずっとこの3000ポイント前後をうろついており、いわゆるコンフォートゾーンになっています。政府としてはここから上に抜け出したいという意向があるのだとみています。

ただアメリカ大統領がトランプ氏になった場合、中国からの製品に超高率関税政策を打ち出していることから中国としては貿易のう回化を進める必要があります。一時はベトナムがその拠点の役割を果たしていましたが、現在はメキシコにもシフトしているようです。日経ビジネスは「ニアショアリング(地理的に近い場所を戦略的エリアとすること)」という目線で中国のメキシコ進出を報じています。2023年のアメリカ向け輸出トップはメキシコ、2位がカナダ、中国は20年間トップを保ったのち3位に後退しました。しかし、中国がメキシコをう回地とする可能性は高く、トランプ氏が大統領になれば原産地規定をどう見直すか注目されます。特にテスラのメキシコ工場がメキシコ第2の街、モンテレイ郊外に建設予定ですが、同社の協力企業には中国系の会社がずらりと並ぶとされます。

そもそも中国の統計資料や目標値の信ぴょう性が昔から疑念視されている中で5%は一つの心理的目標になるでしょう。それとこの数字を信じるかどうかは別としてそれでも5%台を維持するのはあれだけの図体の国家としては並大抵ではないこともまた事実であります。

次に外務大臣の件ですが、王毅氏は昨年夏に秦剛氏が外相を解任されて以降、兼務という形で業務を行ってきましたが、さすがもう体力の限界と時間的制約で「あぶはち取らず」の状態になっていることから今回の全人代で外相が指名されるとみられています。候補の最右翼は党中央対外連絡部の劉建超部長となる可能性が高いとされます。劉氏はすでにアメリカでブリンケン国務長官らとも会合をこなし始めており、「顔見世」をしているとされます。オックスフォード出の劉氏の手腕はまだ未知でありますが、少なくとも外相が指名されれば中国外交が展開しやすくなり、かつ、トランプ政権になった場合の激しいバトルにおいて実務の最前線に立つという意味で極めて重大なポジションとなるでしょう。

3つ目の李強氏が全人代最終日に記者会見をせず、たぶんそれは数年は続くだろうという発表です。これを事前に打ち出すのもおかしな話という気もしますが、個人的には習近平氏が李強氏のプレゼン能力を信用していないのではないか、という気がしています。中国のトップは半ば神聖化されているので誰かから質問をされるというシーンは極力避け、その代わり、首相がそれを代弁するという慣習が少なくとも1988年頃から続いていたとされます。今回、その長年の慣習を打ち切ったのはやや腑に落ちないのです。

中国がディスクロージャ―をより後退させるという意味だとすればより一層、中国がブラックボックス化するわけで西側諸国の中国警戒網はさらに厳しいものになるでしょう。仮に李強氏への不信感が習氏に多少でもあるならば李強氏は単なるお飾りということになります。この辺りが習近平帝国権力構造の一部を判断するところになりそうです。

最後に国家秘密保護法の改正ですが、これは2月下旬の全人代常務委員会で改正法を既に可決しております。改正反スパイ法とコンビで習氏が国家安全を万全の体制で固める方針でしょう。改正国家秘密保護法は習氏の「総体国家安全観」なるものが明記され、秘密保護を行政部門が単独決定できるほか、インターネット上の情報規定が明記され、ネットワーク運営者に対する情報管理強化と行政への協力の義務化、更には海外への情報流出防止策や公教育を通じて国家秘密保護教育をまい進させるなどわれわれ日本人が読めば唖然とする規制が敷かれることになります。

中国は全人代を通じて独自路線化をより鮮明にしていき、政治のデカップリング化を推し進めると同時に経済においてはあらゆる手段を使い、世界への影響力を維持する、そのような体制強化を目指すことを誓う大会になるとみています。

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2024年02月20日10:00
「国、貧すれば民、とん走す」。こんな言葉はありません。私が今思いついただけです。「とん走」という言葉を敢えて使ってみたのはこの言葉には2つの意味があり、逃げるという意味の他に自分の過去を忘れ去るという意味が内包されているからです。

だいぶ前ですが、カルガリー在住のある日本人男性と接したところ、当時、日本を出て20年ぐらいだったはずですが、日本語を全く喋れなくなっていたのです。その間、日本にも行ったことがなく、日本の思い出もあまりない、というわけです。まさに「とん走」であります。ちなみに「棄民」という言葉は国家が民を見放す行為であって自分から出ていくというより「棄てられた」場合を言います。以前、私のことを「棄民者」と言いつけたコメントがありましたが、これはそもそも使い方が間違いであります。

1997年の韓国危機の際、韓国を脱した若者は多く、その後、落ち着きを取り戻した後も国外脱出を考えている韓国人は多くなっています。私の韓国人の友人の一人はサムスン電子で97年の危機の際にリストラされた優秀な男でした。家族そろってカナダにきて自分で警備会社を立ち上げ、私と協業して自動車のナンバープレートの認識装置をカナダでほぼ初めて導入するプロジェクトをやったこともあります。彼は社長として今では安定し、すっかりカナダ人になってしまい、韓国系のイベントに行けば必ず出席していて、よもや話をします。彼らの年代、つまり97年頃に30−40代前半だった人達の国家への危機感は想像以上のものがあります。

さて、中国の経済不振ぶりは目を覆うほどになっていますが、当然、14億人を食べさせるだけの経済の回転が効かなければ日々の生活に行き詰まるのは目に見えています。1月19日のブルームバーグに「中国脱出する富裕層やミドルクラス−移民で世界の風景一変、緊張も」という長い記事が掲載されているのですが、2月13日には日経が「米国境に中国移民10倍増、現地ルポ 熱帯雨林を踏破」と題して、まさに現地のルポ調査をしたこれまた長文の記事があります。ブルームバーグの記事の一節に「自由への憧れ」とサブタイトルをつけ、「シンガポールやアラブ首長国連邦(UAE)に高級物件を購入する資産家から、密入国請負業者の助けを借りて米国・メキシコ国境を越えようとする貧困層まで、中国からの移民はさまざまだ」と記しており、日経のルポ記事はこの後段の部分に焦点をあてた形となっています。つまりブルームバーグの記事の方が全体像が良く見えるわけです。

それによると中国国家は流出する移民数を発表していないが国連調査で19年までの10年間の平均は年間19万人が、この2年(20−21年、つまりコロナ規制の時期)は31万人を超えたとあります。さらにある調査会社によると今後2年で更に70万人が国を出ると予想しています。

ブルームバーグの記事が比較的富裕層で海外移住をして心機一転ビジネスをして生計を立てるというのに対して日経のそれはまさに棄民、難民のような話です。そもそもどうやってアメリカ国境までいくのかと思えば、タイ経由エクアドルに飛び、そこから車でコロンビア、更に船と徒歩でパナマ。再びクルマでメキシコに入り、アメリカ国境まで行くというすさまじさであります。

当然、記事はアメリカの国境警備隊に捕捉された人々を取材したもので、この人たちが果たしてアメリカに難民申請できるかは微妙な気がします。なぜならトランプ氏は絶対に許さないし、バイデン氏も不法難民がどれだけ悩ましいものかようやく理解し、国境の壁づくりを進めているからです。ましてや中国人となれば「難民申請が通った」などと言う噂を聞きつけただけでとてつもない数の中国人が押し寄せるのは目に見えています。

さて、ブルームバーグは中国人が世界にその新天地を見つけていると報じているのですが、サブタイトルに「沖縄」という項があります。そこには「事業に500万円を投資した人に居住権を与える『経営・管理』ビザは、中国人に人気がある。昨年1−9月にこの方法で日本に入国した中国人は2768人で、22年の年間記録2576人を上回った」とあるのです。その中で、沖縄における中国人人口が増加し、裕福な中国人コミュニティも出来つつあるというのが沖縄ということなのでしょう。ですが、池袋の中国人村の膨張ぶりも凄いです。

さて、この経営管理ビザは法務省のサイトには「本邦において貿易その他の事業の経営を行い又は当該事業の管理に従事する活動。該当例としては、企業等の経営者・管理者」とあります。では500万円とは何かですが、自分で会社を立ち上げる際の資本金500万円の話ではないかと推測します。ただ、これは2015年の入管法改正で撤廃されているのですが、たぶん、ビザ申請の際に「元手」の確認をされるということかもしれません。

500万円でビザは安いな、と思うのです。しかもそれは資本金であってカナダやオーストラリアのように億円単位の資金を訳の分からない僻地の事業への投資ビザのような話とは違います。沖縄は中国から近いこともあり親和性もあるでしょう。日本の入管はこれを500万円を100倍ぐらいに引き上げないととんでもないことになると思います。

難民問題は今や地球規模の問題であり、国家が民を支えられなくなり、民が自由を選ぶ時代になってきたのかもしれません。かつて生まれた国は宿命であると考えれらていましたが、生まれた場所は変えられなくても育つ場所、生活する場所は変えられる時代になったと言えるのでしょう。中国はこれらとん走する中国人を放置プレーするのか、新たな規制を加えるのか気になるところです。

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2024年01月09日10:00
2年ぐらい前に台湾危機が起こるとすればいつか、という話題を振りました。その際に私の予想は2024年前半と申し上げたかと思います。理由は台湾総統選の後でアメリカが大統領選挙で外交的に動きづらいから、というのが主たる理由でした。あの時から台湾をめぐる情勢は多少は変わってきているのでその当時の意見は今では無効だと思っていますが、それでも別の意味で今年の中国は嫌だな、という気がしています。

一般的に国家の指導者は何かうまくいかない政策があれば国民の目線を変える為に違うことにフォーカスすることがよくあります。不人気のブッシュ大統領(当時)がイラク戦争に突き進んだ時、支持率は70%を超える状態になりました。プーチン大統領のウクライナ侵攻も国内経済情勢の行き詰まりもあり、目先をそらす意味もあったでしょう。イスラエルのネタニヤフ首相は首相を降りれば逮捕が待っているかもしれないという話もあります。もともと収賄や背任で検察が待ち構えているとされ、自身の政策に国内からの反発も多い中で今のハマスせん滅作戦は保身的意味もあるでしょう。

国家の指導者の保身という点から考えれば習近平氏は現在の世界の指導者では筆頭候補の一人です。国内経済が上向かず、不動産のしがらみは重くのしかかります。同じ不動産処理問題で日本は90年代にゼネコンやデベロッパー、金融機関がその重みから解放されるまで概ね10年強かかっています。しかもそれは倒産が資本主義的に実行される日本での話です。

中国の場合、企業を倒産させるかどうかは国家の意思で決まります。噂される多くの大手不動産会社がゾンビの如く未だに生き残っているのは政府が潰させることにOKを出さないからであります。つまり、西側基準であればとっくに倒産ですが、違うルールが適用されているので形式上、倒産には至っていないのです。ただ、中途半端な生かし方を続けるとどうなるか、ズバリ申し上げるとその影響は極めて深刻で長く続き、永遠の足かせのようになると申し上げます。

では習近平氏はなぜ倒産承認をしないのかといえばメンツの国故にプライドが許さないのです。もしも噂される大手不動産会社を中国国内法に基づき、倒産させたとしたら私は「習氏、やるねぇ」と申し上げます。彼に度胸があるのかないのか、バンジージャンプのスタート台に立っているようなものです。

私が怖いのは国内情勢がよくないことは周知の事実の中、覇気がなくなってきた国民に対して習氏がなにか刺激策を考えてやしないかという点です。これはどこで何が飛び出すかわからないのであります。

まず台湾の総統選については週末にも結果が出るのでそれ次第です。国民党候補が勝てば時間をかけた台湾政策になる一方、民進党が勝利すればせっかちな外交政策を展開せざるを得ないでしょう。選挙直後から威嚇を含めた嫌がらせがあってもおかしくありません。ただ軍事侵攻は今はないと思います。

中国を取り巻く国境問題は台湾に限りません。フィリピンと南シナ海の領有をめぐる争いは着実にエスカレートしており、船舶に衝突させるなど威嚇を続けます。ミャンマー国境でも同国の少数民族と軍の戦いに中国の特殊詐欺グループが絡んだ奇妙な構図の中で緊張が続きます。中国とインドの国境紛争は1950年代から続くものであり、中国はどの紛争についても独自の世界観と判断基準で自己都合な姿勢を示し続けています。

もし、習近平氏が国内政策に更に詰まるようであれば更なる国民への目線を変えさせる刺激が必要です。それをするならどこが一番良いのか、といえば日本はやりやすく効果的と考えている節はあります。

中国から見て一番手出ししやすいのは尖閣でありますが、無人島を実効支配するために人を上陸させ、常駐させる可能性はあります。竹島と同じシナリオです。嫌な記事だったのが12月30日の産経の「習氏、尖閣で闘争強化指示『1ミリも領土譲らぬ』 日本漁船臨検も」であります。これは中国のメンツにかけて尖閣を奪い取るという姿勢の何物でもありません。

ではなぜ今このタイミングで習氏はそんな指示を出したのでしょうか?見方の一つに自民党の不祥事が続き、日本の政治そのものが体を成さない状態がしばらく続くので尖閣で揺さぶっても日本は何もできないだろうと足元を見られているかもしれません。実際に中国に対して正面切って正々堂々と啖呵を切れる政治家は現在思い当たりません。割と思いっきりの良い上川外相ですらそこまでは出来ないでしょう。池田大作氏が無くなった公明党も中国との関係は細るでしょう。親中派の二階氏も渦中にあります。かといってアメリカはウクライナにすら援助できない中、イスラエル支援でも苦慮している中、三面対応はほぼ無理。

その辺から考えていくと2024年の国際情勢の重要なカギを中国が握っているともいえます。従来は政治と経済は別建てという考え方も出来ましたが、今では中国のスパイ法や水産物の締め出しなどビジネスに政治問題をかぶせているわけで日本の民間企業も進出リスクを改めて考えざるを得なくなるでしょう。きな臭さはウクライナ、イスラエルからいよいよアジアに転移するのでしょうか?心配でなりません。

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周庭(アグネス チャウ)というより、彼女の画像を見れば「あぁ、あの子」と思い出す方も多いでしょう。流ちょうな日本語を操りながら、日本のメディアにも何度も登場しました。香港が民主化運動で荒れ狂っている最中、愛くるしい顔をした彼女はその先頭に立ち、民主化を進めるための運動をしていました。香港では「学民の神」とも称され、2020年にはBBC放送主催の「今年の女性100人」の一人に選ばれています。

その彼女が香港警察に捕まった後、収監され6か月以上を経て仮釈放、そしてカナダに留学目的で今年9月からトロントにいます。その彼女がごく最近、声明を発表し、「おそらく一生香港には戻らない」とインタビューで明かしました。これを受け、香港政府トップの李家超(ジョン リー)行政長官は保釈や渡航を認めるなどの「警察の寛大な対応が裏切られた」とし、「全力で逮捕する」(日経)と述べています。

香港政府トップの発表=中国の威信とも言える発言は27歳のアグネスに対する絶対的な挑戦状であり、どんな手を使ってでもそれを行使を試みることでしょう。カナダ政府は今のところなんら声明を発表していません。現状、たぶん、学生のステータスで入国しているものと思われますが、アグネスのインタビューからは亡命申請も選択肢の一つと述べています。香港政府が「実質的亡命」と述べているのですが、その「実質」を確定させるための亡命申請をアグネスは今すぐに行うべきでしょう。そしてカナダ政府は彼女を本格的に保護すべきです。さもないと極めて危険な状況に追い込まれるでしょう。

カナダと中国の間にはかつては深い交流と絆が形成されてきました。97年の香港返還時にはカナダはオーストラリアや英国と共に最も人気がある移民先となり、バンクーバーとトロントはその移民のメッカとなります。バンクーバーの香港移民が比較的早い時期に香港に帰国したのに対してトロントの移民層は比較的多くが残ります。一方、バンクーバーは香港人と入れ替わりに本土人が入り込み、使う言語も広東語から北京語主体になってきています。

その点、トロントはまだ香港系の足掛かりも経済基盤も残っており、バンクーバーよりは居心地がよいと察します。

しかし、カナダには中国のスパイがうようよいます。アグネスの動向など極めて詳細に本土と香港警察に筒抜けになっているはずです。ましてや香港政府のトップが本気となれば何をしてもおかしくないのです。

今、カナダと中国の外交関係は冷たい時期にあります。トルドー氏と習近平氏のウマが合わないこともあります。仮にカナダ政府がアグネスの亡命を認めた場合、香港政府は彼女をつかまえ、中国に連れ帰ることは表むきは出来なくなります。が、「本気」という意味は別の意味も考えられる点を私は非常に懸念しています。そしてカナダ政府は中国政府とどこまで対峙する用意があるか、腹の座り具合を図ることになるでしょう。

トルドー政権は正直、冴えないです。そして表向きは自立と称しながらも常にアメリカの顔色をうかがっています。しかし今、アメリカの顔色をのぞき込んでも何も見えない、それが正直なところです。11か月後に大統領選を控える中、バイデン氏は中国とのやや雪解け的な外交スタンスを取る中、カナダ外交は切り札が無いのです。同じことはインドのシーク派リーダーがバンクーバー郊外で殺害され、外交問題になった時もカナダは姿勢を示したけれどインドからはガキ扱いに近かったと思います。

もう1つは27歳の一活動家のためにカナダ政府が国家の威信をかける本気度を見せられるのか、であります。

私はこれは民主主義の根幹にかかわる戦いになるかもしれないとすら思っています。本来声を上げられらたはずの活動家が権威主義により収監され、国家に忠誠を誓わされ、自由が奪われることを見過ごすのか、であります。極めてセンシティブな問題でありますが、これを遠巻きに見るのではなく、民主主義の根幹を守るという姿勢と明白なる声明をカナダ政府は出してもらいたいと思っています。

では今日はこのぐらいで

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また明日お会いしましょう。
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