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外から見る日本、見られる日本人

バンクーバーの日本人社長ヒロが仕事、生活を通じて感じた経済、経営、社会、日本人観などを綴っています。

経営

インテルといえば90年代、半導体で世界のトップにのし上がり「泣く子も黙るインテル」とされました。そのインテル、今はその栄光ははるかかなたの思い出話であり、「インテルよ、もう一度」と期待しているのはバイデン大統領だけではないか、という気がします。

バイデン大統領はインテルが供給する半導体がアメリカ国防の要になるとみて、CHIPS法なるものを導入し、補助金85億ドル、融資110億ドルをインテル社に提供するパッケージを用意しているのですが、インテル側がこの受給条件を満たせないのです。まるでパン食い競争でパンにかじりつけないインテルをイメージしていただければよいかと思います。

なぜ、インテルは輝きを失ったのか、個人的には半導体の世界の潮流が変わったからではないかとみています。インテルがブイブイ言わせたときは半導体設計⇒製造⇒販売/メンテがワンパッケージでした。専門的には「垂直統合型デバイスメーカー」と言います。ところが半導体の性能が大きく進化し、製造コストも飛躍的に増加し、IT化が進み、最終製品が目指すものがパソコンの半導体といった時代からまるで変わり、目的に応じたカスタマイズをする必要が出てきました。そこで「出来合い」を買うスタイルから各社自前設計のカスタムメードという発想が出てきたのです。またアーム社の登場は特にスマホ関係の設計において圧倒的強みを見せます。アップルの自前設計=アーム社の採用への方針転換はインテル社にとって衝撃的な変化となります。

では設計を諦めて製造だけならどうかといってもAMDという強力なライバルとの戦いに負け、TSMCなどファウンドリ(Foundry)と称する受託製造会社が主流となり、日本でもラピダスが2025年稼働を目指しています。

こう見るとインテルは時代の流れに乗りそこなった、そして90年代の栄光というプライドが邪魔をしたことで「インテルの陽は昇らず」の状態になってしまったのです。半導体のように金食い虫の業界ではいったんペースが落ちると元に戻すのが厳しくなります。インテル社の長短借入金の合計は2018年には260億ドル程度だったものが現在は2倍の500億ドルを超す状況になり、フリーキャッシュフローは21年第4四半期からほぼ出血が止まらない状態にあります。挙句の果てにダウ採用銘柄からの陥落が見込まれています。これはダウ採用のルール上の理由ですが、逆風が止まらないといえるでしょう。

次にフォルクスワーゲンで何が起きたのか、です。報道の通り、同社のドイツ国内の工場の一部を閉鎖する案が経営陣から打ち出されました。これに対して労働組合や州、国も交えた泥仕合と化しており収拾がつかない状態にあります。経営陣のメッセージは非常にクリアで「このままではVWはやっていけない」であります。

何が同社を狂わせたのでしょうか?基本的には欧州自動車産業の酷い状況、これに尽きると思います。コロナ前に比べ欧州全体では2割ほど需要が足りません。ご承知の通り欧州製の自動車は価格が高いのですが、それを高級だからといって買うのは日本人であって、実態としては日本製と同じものが3割から5割も高いコストをかけないと作れないといった方が正しい気がします。

そこで起死回生の一発がEV化であったはずです。もともと環境問題に敏感な欧州ではVW社の排ガス不正問題からスタートしてEVが政治主導で席巻したもののここに来て本格的な調整局面に入ってしまいました。ボルボ社はかつていち早く30年までにオールEV化宣言をしていたのについに撤回したぐらいです。更に中国製の安価なEVが市場を混乱させ、EUはようやく中国製EVに対する関税率を大幅に引き上げる措置を行うところです。

ところがその前にVW社の体力が失われてきた、こう見るのが正解でしょう。特にEVの時代が確実に来ると見込んでいた多くの関連産業界にとって需要側(顧客)が買わないことで当てが外れました。フォルクスワーゲン社はポルシェやランボルギーニなど高級ブランドを傘下に持つ一方、同社の車は大衆車製造に特化しています。ところが同社の車は全般的にデザイン性に欠け、例えば北米では苦戦の連続でアメリカ市場などへは過去何度もテコ入れを図っていますが、うまくいきません。

インテル、フォルクスワーゲンは確かにそれぞれの業界で大帝国を築いた実績があります。ただ、それらは昔の話であり、栄華はなかなか続かないのです。それを栄枯盛衰という言葉で切り捨てるにはあまりにも単純すぎでその奥底の理由を探る必要があると思います。

アメリカでUSスチールが日本製鉄による買収がなされないならば大量のレイオフや本社移転を含めたリスクがあると同社経営陣が述べています。トランプ氏もバイデン氏もハリス氏もUSスチールを守るといいながらそれは黄昏に対する哀愁であり、その3人にとってUSスチールのような小さい会社の存亡はどちらでもよいはずですが、後ろにつく労働組合の票が欲しいがゆえに心にもないことでも平気で口にするわけです。これが逆に企業の生命力を悪化させるとも言えるのです。

ちなみにUSスチール買収に興味を持っていたクリーブランド クリフス社はカナダの大手ライバルStelcoの買収を行い、その承認の株主総会が9月16日に行われます。とすればクリーブランドは資金的にUSスチールには手が廻らないとみています。つまりUSスチールは取り残されるのです、大統領達の政治活動のせいで。

倒産や被買収は企業が自立できなくなった際の当然のあるべき姿であり、倒産ではなく、買収されるならば新しい資本が入り従業員にとってプラスのはずなのです。これを大統領や大統領候補になろう人が全然わかっていないのです。バイデン氏がCHIPS法を通じてインテルをそこまでして救おうとすること自体が自助と淘汰の世界に余計な力をかけ、経営の自立性を崩すのであります。

今日のタイトル、「インテルとフォルクスワーゲン、何を間違えたか」、私の答えはずばり、政府が手を差し伸べたあるいは政府が主導して何かをしようとしたことが概ね外したということではないかと思います。企業は野性味をもって野に放つ、そこで筋力をつけ、体力をつけ、成長するものなのに政府が檻に閉じ込め、餌をやり飼育計画を作ることでダメにしていると私は強く申し上げたいと思います。

では今日はこのぐらいで

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また明日お会いしましょう。
「就職は会社との結婚である」と私は1980年代に普通に述べていました。その時の意味は奥さんといるより長い時間、会社に拘束され「深い契りを交わしす」ことで就職が成り立っていたと考えています。(思い出してください、リゲイン、24時間働けますか、の時代です。そして多くの人がいう「ウチの会社」です。)

当時、会社を辞めるなら30歳まで。再就職は今より給与は1-2ランク下がる、こう言われたもので、給与が下がるなら今の会社で我慢するか、という話があったのもこれまた事実。

では当時と今と会社を辞めたい理由が変わったのかといえばほとんどその変化はないと理解しています。つまりストレスフルで給与は安く、やりがいもあまりない、であります。ちなみに23年に発表されたギャラップ社の「グローバル就業環境調査」で日本人が感じる「やりがい」は5%と145か国の最低レベルだったそうです。これは極端な例にせよ、日本人の多くは会社の勤務はやらされ感の中にあるのでしょう。

では80年代まではそんな会社でもなぜ辞めなかったのか、私なりに考えた理由の1つが終身雇用が定理であったこと、2つ目が多くの会社が成長期にあり、会社の業績の伸びを社員が分かち合える余裕があったことではないかと考えています。

終身雇用は当時は人生で当たり前の方程式でした。この会社に終生をささげることは親と家族と世間から躾けられた「常識」であり、定年までそこの会社で働くことで老後もささやかながらも年金生活ができるという一種の保険を買うようなものであったのでしょう。よって当時、転職とは今のこの会社の水準についていけない「ダメ男」的なレッテルが貼られ、転職先は当然ながらにして1ランク下げる、よって給与も下がるという流れでした。

一方、会社の業績の伸びを社員が共有できたというのは確かにあったと思います。私が勤めていた会社では時折社内放送で決算の状況(主に売り上げ)や大プロジェクト受注、更には資本金がどんどん増えていく様子をかなり頻繁に放送しており社員に高揚感を与えていました。特に大プロジェクトの受注のアナウンスは「おぉー」という声と共に「我々の部署も頑張らねばならない」という強い団結力を社内全体に作り上げていました。

残念ながら今、終身雇用は社員の方から「そんなコミットできない」という時代になりました。会社の業績がぐいぐい伸びるのはごく一時期であったり、限られた会社であったりします。突然、車内放送で「ピンポンパーン、お知らせいたします。...」なんてやっているコテコテの会社はないでしょう。そんなのは会社のIRをウェブで見てくれと言わんばかりです。ですが、社員がIRを見ることはほとんどないのです。だから灯台下暗し。以前、ある大手製薬会社に勤めている方に「オタクの会社、〇〇の研究で将来有望なんですってね」と述べたら「えー、そんなの私知りませんよ。どこで聞きましたか?お詳しいのですね」というレベルです。

やりがいと給与水準への不満。これはある意味主観的であり、また日本的思考であるとも言えます。

海外から見る日本の会社運営の基本的には外国同様トップダウンです。ただし、欧米でいうトップダウンとはやや違い、「役員会や常務会、執行部など上層部が決めた会社方針」を下部組織に浸透させることであります。欧米でトップダウンといえば明白に社長/CEOの指示のことを指しますが、日本では〇〇会議での決定によるものであり、それは民主主義的多数決で決定されたわけであり、必ずしも社長が主導したとは限りません。サラリーマンの典型的な飲み屋の会話は「今度の方針、あれ何なのかね?」「しょうがないだろう、上が決めたことだ」という「上」は特定の人物というより会社という組織体の天の声のようなものではないでしょうか?

これはやらされ感が管理職を含め、社内全体に蔓延してしまうのです。現場の声は反映されず、社員は受動的立ち位置になってしまうのです。これではやる気は起きないですよね。そこでこの逆手で業績を伸ばしたのがパンパシフィックインターナショナル、誰も知らないと思いますが、ドン・キホーテといえばどうでしょうか?

このドンキ、小売りではイオン、ユニクロ、セブンに次いで国内第4位なのですが、その理由は現場の自由度がめちゃくちゃ高いのです。ドンキのスタッフを見たらわかるでしょう。様々な個性をこれでもか、と生かしています。もちろん、仕入れなどの自由度も高く、バイトから社員まで一体感を作っています。

もう一つが「餃子の王将」でこちらはメニューが店ごとに違います。店長の鍋の振り具合であっちの王将とこっちの王将では違う品目で味も違うということが起きています。これは店長以下しっかりしたチームを組成し、同業他社のみならず、社内競争を煽るという意味でプラス効果が出ています。これらはやらされ感をやる気に変える好例だと思います。

では給与です。多くの方が真っ先に挙げる会社を辞めたい理由「給与が安い」ですが、「辞めたら給与が増えるのですか」と私は問いてみたいです。案外、こんな安月給でストレス貯めさせられてボロボロになるまで使われて...という一種の怨嗟で辞めるケースは会社側と従業員側双方に理由があると考えています。もちろんケースバイケースです。

ただ1つ聞いてみたいのは「あなた、転職するにあたり何かスキルがありますか?」です。かつての履歴書の特技技能欄は「普通運転免許」でした。20年前には「エクセル、ワード」が加わったりしました。では現在は、といえばそれから特に変わっていないのです。つまり前職で業務に対する特別なスキルはほとんど身に着けていません。よって転職するにあたり「ガッツだけはあります!」になってしまうのです。これでは人事担当者の心は動かないのです。

会社を辞める前に少なくともどんな汎用性あるノウハウを身に着けたか、そこを考えるべきだと思います。社内ルールや社内人事にいくら詳しくてもそんなのは屁にもならないのです。汎用性、ここに注力し、本当に実力がついたときが辞める権利取得とも言えます。辞め方は自由。ですが、禍根を残さないことも大事ではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで

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セブン&アイに買収提案をしているアリマンタシォン クシュタール社。セブンは社外取締役などで構成される特別委員会で同提案に対して検討を行っている最中であります。こぼれ聞こえてくるのはセブン側は買収提案拒否するのではないかされています。さて、この展開、どう動くのか、日本の企業統治やグローバルな買収に関しての好例としても注目されます。

セブンは今般、同社が外資規制の対象となる「コア事業」という申請を行いました。申請先は財務省かと思いますが、かなり慎重な審査が行われるとみています。なぜかといえば政府の安直な判断は国際問題につながりかねないからです。

仮に財務省がコア事業であると認めたとしましょう。問題はその根拠です。そもそもコア事業とは軍事転用されたり、極めて重要な技術やノウハウ、特許など海外企業に流出することにより当該企業だけではなく日本の損失につながることを防ぐために外為法で規制するというものです。

似たような法律は諸外国にもありますが、この運用は極めて慎重に行わねばなりません。たとえば軍事転用しやすい技術であればほぼ誰もが納得できる規制です。ところが飲食、小売りはそもそもコア事業リストには入っていません。よって単純に考えればセブンがなぜコア事業なのか、と思われるでしょうが、セブンは180社ほどのグループ会社があり、その中に様々な業種が含まれており、一部コア事業の対象になるものがあるのです。今回の買収対象ではないと思いますが、セブン銀行はコア事業対象かと思います。財務省のリストを見ると同じ金融でもコアではないものもあればコア指定されているものもあり、この違いは申請内容と個別案件がわからないのでコメントしようがありません。

もしもセブンがコア業種となれば持ち株会社の下にあらゆる業種をぶら下げそのうちの一部にコアになるようなグループ会社をぶら下げることで買収しにくくすることが可能になります。しかしそれを安易に認めると日本が海外企業による買収に対して閉鎖的であり、日本政府がその片棒を担いでいると叩かれるわけで日本が平等で公平な資本主義を掲げているとアピールする点からすれば判断は極めて難しい、こう考えるわけです。

ではお前はどう予想するか、と言われれば公開されている情報だけでモノを申し上げるのは憚れるのですが、コア事業申請は却下される公算があるのではないかとみています。セブンにとって真の意味でのコア事業はごくわずかであり、逆に言えばその事業だけ買収対象から外せばよいということになるかと思います。

ではなぜセブンはそのような申請をしたのか、ですが、これも想像ですが、一つは時間稼ぎ、一つは運よくコア事業になれば買収のハードルが上がるということです。ただ、私から見れば正攻法ではないと思いますが、特別委員会がセブンの気持ちを斟酌しているようにも感じます。

ところでカナダのこのコンビニ大手、クシュタールはセブンの何が欲しいのか、これまた様々な意見が出ています。私は単に店舗数、特にセブンの「スピードウェイ」買収でアメリカのロードサイド店が増加したこととセブンの企業価値が「バーゲンセール」状態であることに目を付けた、それが主たる理由だと思います。一部には日本式セブンの運営、つまりレジの後ろで様々な調理品を作ったりするノウハウ、例えば最近では焼きたてピザを他のセブンの商品と共に宅配するという新サービスも始めていますが、それが主眼ではないと思います。

あのような日本的(アジア的)サービスをクシュタールの得手としている北米や欧州北部の店舗で展開するのはほぼ不可能だと考えています。理由は簡単。物流ができません。日本は比較的小さい国土にコンビニが密集するようにあります。それなら一日に複数回の配達を含めたきめ細かいサービスが可能です。ところが北米ではそんな器用なことは物流的に不可能だし、それ以上にコンビニのスタッフにそれをやらせるのは至難の業なのです。

日本人は器用なのです。だからこそ温めや調理もできるのです。また国や地域によってルールが違うと思いますが、食品調理を伴う場合、保健所の管理も厳しくなります。そこまでして北米の店舗でセブン流調理できるとは私は逆立ちしても思えないのです。

日本人の多くはセブンが外国企業に買収される可能性について懸念をお持ちかもしれません。では聞きますが、日本製鉄がUSスチールを買収するのはアメリカ人にとってどうなのでしょうか?例えが悪いという意見も出るかもしれませんが、そんなものなのです。では国民のインフラとなった「LINE」は韓国の会社が親会社ですよね。それでも政府を含め情報伝達手段として最も利用価値が高いものです。これ、日本流にいえばコア事業ですよね。

事業の国境の垣根は紆余曲折しながらも下がる、これが流れだと思います。どうしてもそれが嫌なら以前申し上げたように日本企業がホワイトナイトを出せばよい、それだけです。ただ、買収額はせりあがりそうで5兆円では足りなくなりそうです。そうすると企業価値、収益、キャッシュフローなどからそれを出せる支援企業があるのか、です。難しいところだと思います。

では今日はこのぐらいで

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セブン&アイ社にカナダのコンビニ大手、アリマンタシォン クシュタール社から買収提案がありました。今回の提案は法的拘束力あるものではない予備段階のものですが、経産省などのルールによりセブン社は取締役会を含めた検討をする必要があります。会社は誰のもの、という議論がしばしばなされますが、買収提案の場合には株主の利益保全を重視するスタンスになっているともいえます。

さて、この舌を噛みそうな会社ですが、名前の通りフレンチ系、つまり本社はカナダのケベック州にあります。ブランドはサークルK、クシュタールなどが主流で世界30か国程度で展開し、そのうち約8割弱がガソリンスタンド併設店やロードサイド店(大通りに面して立ち寄りやすい店)という特徴があります。

売り上げはセブンアイをやや下回るもののどっこいどっこいといってよいでしょう。ただし、時価総額については円建てで見れば買収提案発表前時点で倍半分近い差があり、稼ぐ力もクシュタール社がはるかに上を行きます。私はかつてこの会社の株を買う検討はしたことが何度かありますが、ケベックの会社で読みづらいのがあり手を出しませんでした。

クシュタール社は実はセブン買収提案の報道がなされた8月19日にアメリカ東部で展開する「Get Go Cafe」社買収を発表しており、新たに270店舗を同社のリストに加え、約17000店舗体制としています。基本的には買収に次ぐ買収で大きくなった会社といってよいでしょう。

同社はカナダ、アメリカ以外に欧州北部で強みがあり、また香港でも高いプレゼンスがあります。今回のセブンの買収は世界規模のコンビニ事業を展開するにあたり、アジア地区が手薄だったこともあり、セブンは絶好のターゲットであったということかと思います。また同社が得意とするガソリンスタンド併設店においてアメリカの「スピードウェイ」をセブン社が昨年買収したことはクシュタール社にとってセブンがさらにおいしく感じられる魅力を作ってくれたということになります。

それ以外に2つ大きな理由が思いつきます。一つは円安。これでクシュタール社は想定価格よりはるかに安い価格で買収することが可能になります。あるいは交渉次第で価格上乗せ余地があるとも言えます。2つ目はセブンの経営が不振であることあります。同社決算を見ても利益率は下がり続け、さえない展開が続く中、イトーヨーカドー問題がこれから本格化する中で一種の負の遺産整理が続きます。

私はこのブログでセブンのことに何度か触れてきたのですが、基本的に現経営陣は及第点に及ばないと考えています。ずばり申し上げるとセブンは鈴木敏文氏の芸術作品であり、現経営陣は鈴木氏のスタイルと必ずしも意を共にしていないとしても経営方針に斬新感はなく、ただうわべの経営指標に基づき日々機械のような業務を行っている、そんな風にしか見えないのです。もちろん鈴木氏が活躍したコンビニ大成長時代はとうに終わっており、日本国内事業は飽和し、守りの姿勢がずっと続きます。そして事業の7割を占める海外利益は4−6月期には8割減と苦戦します。

ではお前は今回のクシュタール社の買収提案をどう見るか、と言われるとクシュタール社がそんなに簡単にあきらめるはずはないこと、セブンの経営陣はへたっていることから買収に妥当性と正当性は大いにあると思います。ただ、日本の代表的企業が日本人のほとんどが知らないカナダの会社に買収されてよいとも思っていないでしょう。ではホワイトナイトは現れるのか、です。

5兆円レベルの取引になれば日本のM&Aでは最高額になりますが、ありえるとみています。最有力候補は三井物産。というか、ここしか思い浮かばないのです。セブンの物流、流通を陰ながら支援しているのは物産グループです。とはいえ同社単独は厳しいので銀行団とシンジケーションを組み、白馬の騎士で買収提案合戦になれば買収提案額が吊り上がる可能性は大いにあります。私がクシュタール社は円安が理由で提案したと申し上げたのは取引金額は一発では決まらないのです。よって相当の懐を持つという意味で今回の動きは注目すべきでしょう。

もしもクシュタール社が買収すればイトーヨーカドーは一発で売却対象になるでしょう。欧米企業はドライです。一方セブンがクシュタール社と条件交渉をするなら円建てではなく米ドルでの売買が良いと思います。これはクシュタール社を思いっきり締め上げることになり、対等勝負が展開できるはずです。

私は円安はいいことがない、と言い続けてきましたが、それは日本企業が安値で買収されやすい展開があるから嫌なのです。目先の利益だけを捉えれば円安万歳という評論家もいますが、国家の正論を考えるとそんな話になるわけがないのです。通貨の価値は高い方がよいということです。

では今日はこのぐらいで

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少し前ですが、珍しい記事を見つけました。日経に「産経新聞、富山で発行休止 サンスポなども9月末で」とあります。富山県での産経新聞の売り上げは一日平均272部と報じられています。富山県の人口が104万人ですから購読率0.026%。これでは宅配コストや販売手数料を考えるとやればやるほど赤字になるのはうなづけます。

ところが記事をさらに追っていくと毎日新聞も富山県の販売を9月で止めるとあります。こちらは840部販売していたそうです。更に朝日新聞は10月から静岡、山口、福岡で夕刊を止め、すでに止めている北海道を含め、その休止エリアが増えてきています。

新聞発行部数の長期低落傾向については今更申し上げるものではないのですが、あの発行部数はどこまでを信じてよいのかさっぱりわからない不思議な世界であります。発行部数=印刷部数ですが、廃棄も相当あるはずです。また新聞社の発行部数は広告営業のためもあり、膨らませて表現するのが世の常でおおむね実販部数の2倍ぐらいでしょうか?

私は昔から「新聞屋のほら吹き」と言っています。新聞をやっている方に「オタク、どのくらい発行しているのですか?」と聞くことがよくあります。自社で広告を打つかどうかの判断の一つを発行部数で見るからです。その媒体によりますが、あるローカルメディアから5000部と言わたので全盛期の時代から発行部数は営業トーク上、減っていないだろうから、半値八掛け二割引かな、と計算します。つまり1/3の1700部ですよね。日本の新聞社はそこまで盛らないにしてもそんなものです。

私は宅配の新聞はもっと絞ってよいと思うのです。新聞社における夕刊の意義は世界最大級の発行部数を維持するためで、実態としてはいやいややっているけれど止められない、そんな感じに見えます。体力競争で勝ち組負け組がはっきりしたのち、大手新聞社である読売、朝日、毎日、産経、日経、中日/東京あたりは一部で合併するか新聞社売却もアリだと思います。

地方紙の場合、悲惨なのは地元の取材はできるけれど全国区のレベルの高い水準の取材は出来ません。そこでニュース記事の配信会社である時事通信と共同通信から記事を買っているのが現状でそれに地方版を絡ませた記事構成になっています。ただ、テレビ局も地方とのネットワーク化が進み、全国で在京の報道局が流す番組をネットワークを通じて日本全国に流す仕組みになっているとすれば主力新聞社が地方新聞とネットワークを組んでもよいのだろうと思いたくなります。

ところが、実情は違うのです。

都市圏に住んでいる人にとって地方新聞の存在は小ばかにする話でしょう。では先述の富山県の新聞購読の世帯普及率の内訳をみると北日本新聞56%、読売新聞18%、北國新聞11%です。これを足すと85%のお宅で新聞購読をしている全国トップの「知的水準」ですが購読新聞の寡占状態が一番進んだ県の一つなのです。ほかに世帯購読率が高い県は石川、鳥取、徳島、山形、群馬、長野あたりです。

次に地方新聞が全国紙を凌駕している県ですが、これは言うまでもなく沖縄。あとは石川、鹿児島、青森あたりも地方紙が圧倒的に強いのです。なぜ、地方紙が売れるのか、といえば語弊があるのを十分承知で申し上げると田舎にいて日銀の話を聞いてもしょうがないし、銀座で銀行強盗があった話も興味ないのです。地方にいれば地方のニュースが主なのです。

例えば私はバンクーバーに住んでいるのでバンクーバーのニュースには興味があります。実際にCBCという国営の報道局のニュースウェブサイトはよくできていて、ウェブで自分の住んでいる地域(州)を選択するとニュース欄にカナダのニュースとは別に州のニュースがローカルニュースとして表示されるのです。私もトロントで殺人事件があっても記事を読むことはありません。だけどバンクーバーで火事があればつい読んでしまうのです。

新聞とは生活県内の情報をいかに反映させるか、ここにポイントがあります。それこそ農家のための情報なども重要でそれらを反映できるのは地方新聞ならでは、であり、全国区のニュースは時事通信や共同通信の薄い内容の「事実報道」で十分満足でそれ以上も求めないのです。

そういう意味では地方紙は地方紙としての必需性から今後も残る公算は高く、むしろ都市圏で活躍する大手新聞社のほうが厳しいのだろうと思います。一部の新聞社は不動産会社と化しているところもありますが、不動産で儲けると本業がおろそかになりやすいのは世の常で、某ビール会社もその典型です。

あとは先日の「平成のコメ騒動???」の話ではないですが、記者のクオリティを上げてほしいと思います。大手の記者はどちらかというとバランス感覚というか社の方針になじむ記事が多いのに対してフリーランスの記者はどぎついものも多く、様々な記者会見でも割と品位がない行動が見られるのは「俺はペンで飯を食っているんだ!」という自負が強いのでしょう。ただそういう方の記事になぜかかなり偏屈なものがあるのも事実でごくわずかの読者に強く支持されるような感じです。

一般向けにはクオリティの高い記事を読んでいただくのがベストですが、日本には高級紙というジャンルに当てはまるメディアがありません。日経以外は全部一般紙。その下にタブロイド紙がありますが、これは読むに堪えるものではありません。日経は専門紙で取材能力と分析力はあるし、フィナンシャルタイムズも抱えているのですが、記事内容のばらつきぐあいはちょっと気になります。たぶん、マーケティング戦略が正しくない気がします。素材としてはもったいないと思います。

今後淘汰されるのはたぶん記者だろうと思います。溢れすぎた情報の中で更に人目に付く記事を書くのは至難の業でそれで飯を食うのがそもそも無理な話ではないでしょうか?

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2024年08月18日10:00
経営を学ぶ人は成功談より失敗談を好んで聞きたいとされます。一方、話す側はあまり失敗談には触れたくないもの。特にその失敗から起死回生の一発でもあれば笑いながら「あの時は大変だった」ぐらいで済まされますが、そうではない場合は2度とほじくり返してもらいたくない話ではあります。

私が20代の時に勤め先で極めて異質の案件を担当していた経験とその過激な失敗はあまりにも衝撃的で3-4年ぐらいは触らないようにしていたのですが、自分の周辺環境も変わり、冷静になって考えてみればあの時の記憶は保存し、小説仕立てでもよいので文章に残しておいてみたいと考え直しました。そこで原稿用紙300枚ほどの実話に基づいた小説を書いたことがあります。

過激な失敗とは3つの別々の大型不動産事業案件なのですが、先々会社の屋台骨を揺るがす一因になったともされます。その案件はあまりにも特殊で一般社員には扱わせられなかったようで、私と上司の部長と会社のオーナー3人だけの特命部隊、私はさしずめ特命係ですべての実務を担います。1年間で扱ったそれらの不動産がらみの事業総額は数百億円になります。そしてそれらは私が離任後、全部失敗となります。一部の案件はルポライターの書籍に書かれ、一部は週刊誌ネタにもなりました。特殊で一般社員に任せられなかった理由は、失敗する公算が非常に高いのがわかっているのに藁をもつかむ気持ちでやらざるを得なかった案件の特殊性ゆえであります。そこで私は記録に残してみたいと思ったのです。当時ならばジャーナリストが泣いて喜ぶ内容でしょう。今では過去の遺物です。

300ページのその原稿を本格的に書籍化にする段になり、「一応、実話に近い話なので登場人物には了解を得てください」と言われ当時の部長と会い、原稿を見せたところ、了解を得ることができなかったのです。なぜならばその部長はその後、復活するどころか、それらが原因で極めて不遇な余生を過ごしたからです。

許容されない失敗であったのでしょう。ではなぜおまえは許容されたのか、と言われれば当時の常務取締役から「君は若いから」と言われたのですが、それ以上に会長社長の秘書をしていたことで潰しづらかったのが最大の理由ではないかと推察しています。

その私がカナダに来たもののこれまた会社の特殊任務を命じれらます。将来儲かるであろう私が担当の不動産開発事業に当時、多額の運営損失を抱えるホテル事業を抱き合わせて税務上のメリットを取ろうという魂胆で私の管理する関連会社に押し付けられました。赤字はみる間に増え、社内ローンの利払いをするために別の社内ローンをするのが常態化する自転車操業で挙句の果てに担当する関連会社の累損が300億円を超え、親会社のIRに開示される懸案事案になります。散々です。

社員3名の会社がこれだけの累損では話にならず、これはいかんということで始めたのが起死回生の大構造改革計画です。本社の協力も得て約5年で累損をほぼなくすのです。自分が魔法使いかと思うほど、見事に決算数字は改善します。そしてその構造改革を終えたところで親会社は倒産し、私がその関連会社を買収し今に至るという奇妙な縁につながります。

私のこの例はあまりにもスケールが大きすぎるのですが、それ以外にも失敗は数知れずあります。逆に失敗が多すぎて多少の失敗ぐらいではへこたれない強さが身についたとも言えます。どんな逆境にも解決策はあると考え、それを気力で解き続けた人生だったと思います。

許される失敗があるかと問われれば経営者である立場からすれば原則的にはそんなものはないと考えています。仮に失敗したらその名誉を挽回する功績をたてるぐらいの気力は必要だと考えています。

今の社会でそんな厳しいことを述べたらコンプラやら社会からのバッシングにとても太刀打ちできません。そうはいっても「君はできるだけのことをやったんだ。この失敗を糧にして次に進んでくれ」といえるのは大企業の美談であって、中小企業では時として、些細な失敗が会社の命を止めることにもつながります。

よって落としどころは経営側が従業員の最大の失敗はどこまで許容されるべきか目星をつけておくことなのだろうと思います。その失敗が会社や経営者にとって許されるチャレンジの範囲で収めるしかないと考えます。これは考え方によっては日々発生するケアレスミス程度ならば失敗した本人が一番責任を感じているわけですから上司の一定の指導で解決できると思います。

上司の太っ腹とか優しさというより論理的な基準線を作り、経営側と従業員側が共有することで功罪を明白にすることが大事なのでしょう。双方、禍根は残したくないのです。

では今日はこのぐらいで

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また明日お会いしましょう。
守勢といっても天下のトヨタ自動車の経営をどうこう言うつもりはありません。ただ、長らくトヨタの天下が続いた日本の自動車業界において節目にある気もします。

生産台数世界一は4年連続となり、23年は実に1123万台、2位のフォルクスワーゲンが924万台であることを踏まえればかつては日産も含め激しい首位争いをしていた頃から比べ余裕の単独首位とも言えます。ではどうしてお前はそのトヨタが守勢と感じるのかと思われるでしょう。こんなのはコンサルタントに聞いても答えは出てきません。案外経営的勘が当たるものなのです。

以前、私は業務用でトヨタ「シエナ」を発注したとお話ししたと思います。日本の方には「シエナ」はあまりなじみがないと思いますが、ミニバン7−8人乗りでハイブリッド仕様、内装も良い割には安い(550万円程度)という特徴があります。製造はアメリカ インディアナ工場です。日本にはアルフォードやヴェルファイアなど高級バンがありますが、北米はなぜかミニバンブームがとっくに終焉しており、ミニバンを作るメーカーを探せばトヨタ、ホンダ、クライスラーぐらいしかないのではないかという状態です。

2月に予約を入れたディーラーに「待ちはどんな感じ?」と聞くと「この車は最も手に入らない車だから納期の予想をするのは無理。客によっては数年待っている」と。その話は以前から聞いているので驚きはしないのですが、街では私が求めているシエナが走っているのをよくお見掛けするのです。そこで知り合いの自動車販売業者に「なんでだろう?」と聞くと「新車が来るとそれを別の自動車販売ディーラーに流しているのではないか」と。つまり、自動車販売会社が客に売らずに全く別の自動車会社のディーラーに新古車で卸し、定価より100万円ぐらい上乗せして販売、その上乗せ分をディーラー同士が折半してポケットに入れているのだろうと。私はその言葉通りには信じませんが、確かにネット上には新古車が他の自動車会社の中古車部門で定価よりはるかに高い金額で出ているのです。おかしいですよね。多分フリッパーと称する連中が市場荒らしをしているのだろう思います。

日本ではトヨタの車を買う以上、ディーラーもトヨタの看板を背負っているぐらい一生懸命に営業しますが、こちらではなかなか悩ましいわけです。車が手に入る、入らないはディーラーと客がどれだけ密接な関係を築くか次第。それこそ飯を食わせ、小遣いをやるぐらいでない買えないぞ、という風にも聞こえるのです。不動産ではよく差別的販売があるのですが、一般大衆向けに販売するトヨタではイメージは崩れてしまいますよね。

私がトヨタが守勢と感じたのは販売台数が好調で殿様商売となり、ひたむきさが欠けてきているように感じるからでしょうか?海外販売が好調なだけに日本市場だけを見ていてはいけないのかもしれません。

ところで豊田章男氏が再び弱気発言をしています。同社の社内向けの「トヨタイズム」の動画で株主総会での自身の信任率が71.93%に下がっていることに「このペースでいくと来年は取締役としてはいられなくなる」「この1年の私の振る舞いで要は半分の方がもう辞めてくださいよといっているということだ」などと述べているようです。豊田氏の分析では個人株主は豊田氏に賛同するも機関投資家に厳しい姿勢があるとしています。

直近の認証不正問題を指しているのだと思いますが、私にはそれはトリガーでしかなかったと思っています。海外勢の一部の投資家は豊田氏の経営手腕が好きではないように見えるのです。理由はEVなど時流に乗らず、我が道を行くスタイルに「協調性が見えない」という欧米ならではの我儘な言い分ではないかと察しています。非常に下品な言い方をすればトヨタは西側諸国側の代表的自動車メーカーとして他の自動車メーカーと歩調を合わせろと強要しているようにも映るのです。

事実EVについては現在市場に逆風が吹いているのでHVが得意なトヨタが俄然有利な状況にあります。北米自動車メーカーの決算もテスラ、フォードなど散々であり、強すぎるトヨタへの嫉妬にも感じるのです。一方株主としての信任投票ですから欧米になびかないトヨタに業を煮やすということではないかともいえます。

仮に豊田氏が取締役で無くなれば欧米機関投資家にとってトヨタは扱いやすい会社になります。その点においても創業家でクルマ好きでプロの中のプロとして一過言持つ豊田氏が目の上のたんこぶということでしょう。

また同業他社も挽回を狙います。ホンダ、日産陣営に三菱が加わると報じられています。台数的にはその3社を合わせてもまだトヨタ1社にかなわないのですが、市場は激変期にあることとユニークさを求める時代になっていることを考えればトヨタと豊田氏が守勢をどう挽回するのか、私としては期待したいところです。

では今日はこのぐらいで

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また明日お会いしましょう。
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