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【コラム】戸塚啓

メッシを支えた優勝アルゼンチンの若手 勝負強かったクロアチア

[ 2022年12月24日 06:00 ]

アルゼンチンを優勝に導いた主将FWメッシ(左)とFWアルバレス
Photo By AP

カタールW杯は、リオネル・メッシの大会となった。アルゼンチンというよりもメッシである。5度目の出場でついに黄金のトロフィーを手にしたのは、世界中のかなり多くの人が共感できるストーリーだったに違いない。フランスを応援している人ももちろんいたが、アルゼンチンの優勝に納得感を覚える人は多かった、というのが現地での肌触りである。

サウジアラビアとのグループステージ初戦を観たときは、およそ1か月後の歓喜など予想さえできなかった。後半開始すぐに逆転を許したアルゼンチンは、どこか自信がなさそうに見えたものである。

それがどうだろう。メッシに牽引されながらメキシコ、ポーランドを下し、グループステージを首位で通過したチームは、試合を重ねるごとに逞しくなっていった。

22歳のフリアン・アルバレスは、ラウタロ・マルティネスからFWのポジションを奪い、メッシに次ぐ4ゴールをマークした。準決勝のクロアチア戦では全得点に関わり、3対0の勝利に貢献した。

今年9月に代表デビューしたばかりのエンソ・フェルナンデスは、ポーランドとの第3戦からスタメンに定着した。21歳は中盤のアンカーポジションでタフにプレーし、最優秀若手選手に選出された。

メキシコ戦から6試合連続で先発したアレクシス・マック・アリスターは、東京五輪に出場した23歳である。五輪で背番号10を背負い、所属するブライトンでも10番を着ける彼も、中盤で存在感を発揮した。

ニコラス・オタメンディとCBのコンビを組んだクリスティアン・ロメロは、98年生まれの24歳である。こうした選手たちが、試合を重ねるごとに逞しさを増していった。大会を通した彼らの成長は、36年ぶりの優勝へつながったのである。

個人的に印象深いのはクロアチアだ。

グループステージは1勝2分の2位で通過した。ラウンド16の日本戦と準々決勝のブラジル戦は、PK戦でくぐり抜けている。勝利したのはグループステージのカナダ戦と、3位決定戦のモロッコ戦だけだが、負けたのも1試合しかない。準決勝のアルゼンチン戦だけだ。

クロアチアは戦いかたに幅がある。日本戦の同点弾のように、シンプルなクロスをゴールへつなげることができる。それでいて、ブラジルやアルゼンチンを相手に、ボールを保持しながら敵陣へ侵入していくこともできる。

ブラジル戦の同点弾は、延長後半の117分に生まれた。自陣からカウンターを仕掛け、ゴールを取り切った。延長戦は2試合連続であり、その後半終了間際にブラジルからゴールを奪う──簡単なことではない。

クロアチアの戦いぶりからは、「勝負強い」とか「粘り強い」といった表現が連想される。対戦相手からすると、「攻略の手がかりを見つけにくい」チームだろう。

ポゼッションも、シンプルな攻めも、カウンターもできる。それぞれにふさわしいキャラクターを持った選手もいる。モドリッチやペリシッチ、ブロゾビッチやコバチッチのように、どんな攻撃パターンにも適応できる選手もいる。

メッシやエムバペのようなスペシャルなタレントを持たない日本は、クロアチアのような戦術的柔軟さを求めていくべきなのだろう。並行して個々のスキルアップが不可欠だ。「個」の粒を大きくしていかなければ、ベスト8の壁は破れないし、ベスト8の常連国にもなれない。

23年の日本代表のスケジュールが発表された。日本国内での試合が多い。

W杯レベルのタフネスさや強度を、国内のテストマッチでどこまで追求できるか。そもそも、テストマッチにW杯レベルのクオリティを求めることができるのか。対戦相手の選定も含めて、代表強化の在りかたを見つめ直す必要がありそうだ。(戸塚啓=スポーツライター)

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