薬審第470号
平成6年7月7日
各都道府県衛生主管部(局)長あて
厚生省薬務局審査課長
医薬品の生殖毒性検索のための試験法ガイドラインについて
医薬品の製造(輸入)承認申請に際し添付すべき資料のうち、毒性に関する資料については、平成元年9月11日薬審1第24号厚生省薬務局審査第一課長・審査第二課長・生物製剤課長通知別添「医薬品毒性試験法ガイドライン」により取り扱っているところであるが、このうち、生殖・発生毒性試験について、従来のガイドラインに加え、別添の「医薬品の生殖毒性検索のための試験法ガイドライン」を定めたので、下記事項を御了知の上、貴管下医薬品製造(輸入販売)業者に対する周知方よろしく願いたい。
記
- 背景
近年、優れた医薬品の研究開発の促進と患者への迅速な提供を図るため、承認審査資料の国際的ハーモナイゼーション推進の必要性が指摘され、このような要請に応えるため、日・米・EU三極新医薬品承認審査ハーモナイゼーション国際会議(ICH)が組織され、品質、安全性及び有効性の三分野で、ハーモナイゼーションの促進を図るための活動が行われている。今回の「医薬品の生殖毒性検索のための試験法ガイドライン」(以下「ICHガイドライン」という。)の制定は、ICHにおける三極の合意に基づき行われるものである。
- ICHガイドラインの要点
ICHガイドラインは、日・米・EUのそれぞれの生殖・発生毒性試験に関するガイドラインの長所を取入れ、現在の科学技術水準を考慮して作成されたものである。また、平成元年9月11日薬審1第24号厚生省薬務局審査第一課長・審査第二課長・生物製剤課長通知別添「医薬品毒性試験法ガイドライン」のうちの「生殖・発生毒性試験」(以下「現行ガイドライン」という。)に従って実施された試験は、ICHガイドラインに適合すると考えてよい。
ICHガイドラインの現行ガイドラインとの主な相違点は次のとおりである。
- 医薬品の製造(輸入)承認申請に際し添付すべき生殖・発3.生毒性に関する資料の取扱い
- その他
今後、現行ガイドラインを改正し、ICHガイドラインとの整合を図る予定である。
医薬品の生殖毒性検索のための試験法ガイドライン
目 次
- はじめに
- 使用動物の選択基準
- 投与に関する一般的推奨事項
- 試験計画の提唱―試験の組合わせ
- 統計
- データの提出
- 用語
- はじめに
化学物質および医薬品の生殖毒性の可能性の検索に用いられる試験法には、多くの重複部分が存在する。この広範囲にわたる試験法を用いて効率的に試験を実施するための第一段階として、本ガイドラインは、医薬品の試験において現在用いられている試験計画を基にして、試験方策を統合整理しようとしたものであり、その試験計画は、次世代の発生に関する医薬品の安全性について十分な評価を促進するものでなければならない。生殖の特定段階に動物へ投与する試験は、医薬品に対するヒトでの暴露をよりよく反映し、危害を生じるおそ医薬品の生殖毒性検索のための試験法ガイドラインについて123れのある生殖段階をより限定的に識別できることが知られている。このアプローチは、大半の医薬品にとって有用であるが、低用量を長期間暴露するような医薬品の場合には、一世代あるいは二世代試験法がよりよい結果を示すかもしれない。
実際の試験方策は以下の要因によって決定すべきである。
生殖毒性試験の目的は、一種またはそれ以上の活性物質の哺乳類の生殖に対する何らかの影響を明らかにすることである。この目的のためには、ヒトにおける生殖への危険性が、他の毒性試験の結果から予見される危険性よりも大きいか、小さいか、あるいは同等かを検討するにあたって、薬理学的および毒性学的データをすべて関連させて、試験の施行と結果の解釈の両方を行わなければならない。さらに、反復投与毒性試験の結果は、生殖、特に雄の受胎能に及ぼす影響について、重要な情報を提供することができる。その結果をヒトへ外挿する(関連性を評価する)ためには、予想されるヒトへの暴露、キネティックスの比較および生殖毒性の発現機序に関するデータが有用であろう。試験を選択して組合せることにより、成熟動物および受精から性成熟までの発生の全過程に対して、薬物の暴露が可能にならなければならない。薬物暴露の即時および潜在効果の検出を可能にするためには、一つの完全な生命周期、すなわち一世代での受精から次世代での受精まで通した観察を連続的に行わなければならない。
試験実施の便宜上、この連続的な生殖過程を次のような諸段階に区分することができる。
本ガイドラインでは、生殖への影響を第一義的に検出するための試験の計画を取りあげている。何らかの影響がみられたときは、必要に応じて、その反応の本質を完全に明らかにするための追加試験を計画しなければならない(注3)。選択した試験の組合わせについては論理的根拠を示し、投与量の選択理由についても説明しなくてはならない。
試験は現時点の技術水準に応じて計画し、また生殖に及ぼす類縁物質の影響に関する既存の知識を考慮すべきである。そうすることによって、動物に苦痛を与えることを避け、試験全体の目的を達成するために必要な動物数を最小限にすべきである。予備試験が実施された場合には、その結果を試験全体の評価に際して考慮に入れ、また考察すべきである(注4)。
- 使用動物の選択基準
試験には哺乳動物を使用する。一般的には、他の毒性試験と同じ動物種および系統を使用することが望ましい。げっ歯類としてラットが最も繁用される理由は、実用的であること、この種を用いた他の試験結果との比較が可能なこと、大量の背景データが蓄積されていることである。
胚・胎児毒性試験に限り、二種類の哺乳動物を用いることが従来より要求されており、非げっ歯類としてはウサギが好んで用いられる。胚・胎児毒性試験にウサギが用いられる理由は、背景データが豊富であること、入手し易く、実医薬品の生殖毒性検索のための試験法ガイドラインについて125用的なことである。ウサギが適当でない場合は、その他の非げっ歯類あるいは第二のげっ歯類を使用してもよく、状況に応じて判断すべきである(注5)。
他の試験系としては、in vitroまたはin vivoで分離して生育させた、発生中の哺乳類あるいは非哺乳類の細胞、組織、器官または全胚培養系が考えられる。これらの試験系は、丸ごとの動物による試験と総合することにより、類縁物質の中から医薬品の優先候補を選択するための試験、あるいは作用機序を解明するための二次的試験として、非常に貴重な情報を提供するであろう。また、間接的には実験に使われる動物数の削減になるであろう。しかし、これらの試験系には、発生過程の複雑性および母体と胚・胎児間の動的な相互関係が欠如している。これらの試験系では医薬品の影響がないという確証は得られず、薬物暴露と危険性に関する予見性がない。つまり、「はじめに」で述べた目的で行われる生殖毒性試験においては、現在のところ、丸ごとの動物に替わる試験系はない(注6)。
- 投与に関する一般的推奨事項
投与量の選択は、生殖毒性試験の計画において、最も重要な事項の一つである。高用量の選択は、入手し得るあらゆる試験のデータ(薬理、急性および慢性毒性、およびキネティックス試験、注7)を参考にして行うべきである。2―4週間の反復投与毒性試験の投与期間は分節型生殖試験の投与期間に近似している。十分な情報がない場合には予備試験を行うことが望ましい(注4)。
高用量を決定したのち、段階的に低用量を決定する。用量間隔はキネティックスおよび他の毒性要因に基づいて設定する。「無毒性量」を設定できることが望ましいが、用量反応関係を明らかにできるように、十分に狭い用量間隔を設定することを優先させるべきである(注8)。
一般的には、投与経路はヒトでの想定適用経路と同じものとする。異なった投与経路により、同様な分布(キネティックス プロフィール)が立証できる場合は、一経路のみの投与でもよいであろう(注9)。投与回数は通常一日一回とするが、キネティックスを考慮して、投与回数をより多くまたは少なくすることも考慮すべきである(注10)。
生殖試験を開始する前にキネティックスに関する何らかの情報を得ることが望ましい。この情報によって、動物種の選択、試験計画や投与方法を調整する必要性が示唆されることがある。この時点においては、情報は詳細なものである必要はなく、また妊娠あるいは授乳中の動物を用いたものでなくてもよい。
試験を評価する時点においては、得られた試験結果によって、妊娠または授乳動物でのキネティックスの詳細な情報が必要となるであろう(注10)。
対照群の動物には、試験群の動物と同じ割合で、溶媒を投与することが望ましい。溶媒による影響がある場合、あるいは溶媒が被験物質の作用に影響を及ぼすかもしれない場合は、第二の対照群(模擬あるいは無処置)の設定を考えるべきである。
- 試験計画の提唱―試験の組合せ
採用した試験方法の妥当性を述べなければならない。
最も可能性の高い選択は、以下に及ぼす影響に関する試験の組合せと同等のものである。
交配前(雌雄)から交尾、着床に至るまでの処置に起因する毒性および障害を検討する。本試験は生殖過程の段階AおよびBの評価を含むものである(1.2を参照)。雌では性周期、卵の卵管移行、着床、および着床前段階の胚発生に及ぼす影響を検査する。雄では、雄性生殖器の組織学的検査では検出されない機能的影響(例えば性行動、精巣上体内の精子成熟)を検討する(注12)。
評価項目
少なくとも一種、ラットが望ましい。
動物数
一群あたりの雌雄動物数は、データの意味のある解釈が十分できる数とする(注13)。
投与期間
試験計画では、特に精子形成に及ぼす影響に関して、1か月間以上の反復投与毒性試験で得たデータを使用することを考える。反復投与毒性試験で悪影響が認められなかった場合には、雌で2週間、雄で4週間の交配前投与期間を設定してよい(注12)。交配前投与期間の選択理由を明記し、妥当性を記載しなければならない(研究の必要性を指摘した1.1を参照)。投与は交配期間中、さらに雄では試験終了まで、雌では少なくとも着床までの期間継続する。この投与計画によって反復投与毒性試験の組織学的検査では検出できない雄の受胎能に及ぼす機能的な影響及び両性の交尾行動に及ぼす影響が評価できる。他の試験データで、雄または雌の生殖器官の重量あるいは組織学的所見に影響が認められる場合、試験の精度が疑わしい場合、あるいは他に試験データがない場合には、より広範囲にわたる試験が計画されるべきである(注12)。
交配
雌雄1:1の交配比が望ましい。同腹児の雌雄親動物の識別ができる方法がとられるべきである(注14)。
試験終了時の屠殺
雌は妊娠中期以降、随時屠殺してよい。雄は交尾後随時屠殺してよいが、最終的処置を行う前に妊娠の成立を確認することが望ましい(注15)。
観察
試験期間中
着床から離乳までの間薬物を投与し、妊娠/授乳期の雌動物、受胎産物および出生児の発生に及ぼす悪影響を検出する。本期間中に誘発される影響の発現は遅れる可能性があるので、観察は性成熟期まで継続する(すなわち、1.2に記載した段階C―F)(注17,18)。
評価対象となる悪影響
少なくとも一種、ラットが望ましい。
動物数
一群あたりの雌雄動物数は、データの意味のある解釈が十分できる数とする(注13)。
投与期間
被験物質を着床から授乳期終了時(すなわち1.2に記載した段階C―E)まで雌動物に投与する。
試験方法
雌は分娩させ、離乳まで出生児を哺育させる。離乳時に一腹につき雌雄各1匹の出生児を選抜し(選抜法を記述すること)、性成熟に至るまで飼育し、さらに生殖能を評価するために交配させる(注19)。
観察
試験期間中(母動物)
着床から硬口蓋の閉鎖までの期間中(すなわち、1.2に記載された段階C―D)雌動物に被験物質を投与し、妊娠動物および胚・胎児の発生に及ぼす悪影響を検出する。
評価対象となる悪影響
通常二種:一種はげっ歯類、ラットが望ましい。一種は非げっ歯類、ウサギが望ましい(注5)。
一種のみを用いる場合には、その妥当性を証明しなければならない。
動物数
動物数は、データの意味ある解釈が十分できる数とする(注13)。
投与期間
投与期間は、着床から硬口蓋の閉鎖までとする(すなわち、段階Cの終了まで、1.2を参照)。
試験方法
雌動物は分娩予定の約一日前に屠殺、剖検しなければならない。すべての胎児について生死と異常の有無を検査しなければならない。別の検索法130Topic S5A による観察結果との関連性を後日評価できるように、胎児は個体識別がなされなければならない(注22)。
内臓および骨格の変化を別々に検査するために割り付けが必要な場合には、各同腹児の50%を骨格観察に割り当てることが望ましい。内臓異常については、どのような検査法を用いても、最低50%のラット胎児を検査しなければならない。内臓検索のために新鮮標本の顕微解剖法を用いる場合には、ウサギで強く推奨される手技であるが、100%の胎児について内臓及び骨格異常の両方を検査しなければならない。
観察
試験期間中(母動物)
受胎能試験と出生前および出生後発生試験の投与期間を一つの試験に統合すれば、生殖過程の段階AからFまでの評価を含むことになる(1.2を参照)。そのような試験で、胎児の検査を実施し、十分な高暴露量においても明らかな陰性所見が得られた場合に限り、げっ歯類の生殖試験はそれ以上要求されない。胎児の形態的異常の検査は、胚・胎児発生試験として追加することもできるが、それは二試験計画法になる(注3、11)。
第二種動物の胚・胎児発生試験結果は必要であろう(4.1.3を参照)。
最も単純な二試験計画法は、受胎能試験と胎児の検査を含む出生前および出生後発生試験で構成できるであろう。しかし、出生前および出生後発生試験で、ヒトの暴露量を越えた十分な高用量において出生前の影響が認められない場合には、追加的な胎児検査(4.1.3)を行っても、ヒトの危険性を評価するうえで重大な変化は見られないであろう。
別法として、受胎能試験(4.1.1)における雌動物の投与を、硬口蓋の閉鎖医薬品の生殖毒性検索のための試験法ガイドラインについて131まで継続し、胚・胎児発生試験(4.1.3)の方法に従って胎児を検査する方法もある。この方法と、出生前および出生後発生試験(4.1.2)を統合すれば、「最も可能性の高い選択」に要求されている全検査が実施されるが、使用動物数はかなり少なくなる(注3、11)。
第二種動物の胚・胎児発生試験結果は必要であろう(4.1.3を参照)。
- 統計
推測統計学(統計学的に有意差を決定する方法)を用いる場合は、個々の胎児や新生児ではなく、交尾した雌雄親動物または同腹児を比較の基本単位として用いなければならない。用いた検定にはその妥当性を説明しなければならない(注23)。
- データの提示
臨床所見、剖検所見、異常など、出現頻度の低い観察項目の作表にあたっては、陽性所見のみられた(少数の)個体をまとめて記載することが推奨される。特に、形態的変化(胎児異常)のようなデータを表示する場合は、一次作表では異常胎児をもつ母動物と、その同腹児の中での異常胎児がはっきり識別でき、異常胎児で観察されたすべての変化が報告されるべきである。必要に応じて、上記作表に基づいて変化の型別の二次作表が作成できる。
- 用語
発生毒性:動物が成熟するまでに誘発される障害。すなわち、胚または胎児期に誘発または発現した障害および出生後に誘発または発現した障害が含まれる。
胚毒性、胎児毒性、胚・胎児毒性:出生前の暴露の結果として受胎産物にみられる障害、これらは形態異常や機能異常、ならびにそれらの影響が出生後に発現した場合が含まれる。「胚毒性」とか「胎児毒性」という用語は障害の検出される時期に関係なく、誘発された時点/時期に関連したものである。
一、二、三世代試験:被験物質が直接暴露される親動物の世代数によって定義される。例えば、一世代試験では、F0世代への直接暴露とF1世代への間接暴露(母体を介する)であり、試験は通常F1世代の離乳時に終了する。農薬とか工業用化学物質について用いられる二世代試験では、F0世代への直接暴露、F1世代への直接および間接暴露、F2世代への間接暴露が行われる。三世代試験も同様な見方によって定義される。
身体負荷:被験物質の投与により生じる個体の体内での全薬物暴露量であり、未変化体や代謝物の分布とか蓄積を考慮にいれたものが含まれる。
キネティックス:ファルマコキネティックスおよびトキシコキネティックスのどちらかを指すか、あるいは両者を指すか、ということには関係なく、本ガイドラインの中では「キネティックス」という用語を一貫して使用した。何故なら一言で表現できる用語が無いからである。
これらのガイドラインは、強制的な規制ではない。また最終的なものでもなく出発点である。ガイドラインは、研究者が試験材料や現時点の技術水準に関する利用可能な情報をもとに、試験の方策に工夫を加える基本的な拠りどころとなる。本ガイドラインではいくつかの代替試験計画を記載しているが、他の方法も探求したり、工夫をすべきである。方策を工夫する主たる目的は、生殖に対する何らかの毒性徴候を見つけ出し、明るみに出すことである。
試験計画および技術手順の詳細については、本書では省いてある。技術というものは、ある研究室ではふさわしくても、他の研究室では好ましくない場合もあるので、どのような方法を用いるかという決定権は研究者の裁量とすることが正しい。研究者は、最善を尽くして職員や資源を利用する必要があり、またそうするにはどうすればよいかを部外者よりもよく理解しておくべきである。従事する人間の態度や能力、一貫性が施設設備よりも重要である。GLPに準拠することが求められている部分については、当該規制を参考にすること。
本ガイドラインにおける妊娠日に関する取り決めでは、交尾が夜間に行われても膣垢内の精子および膣栓またはその一方が観察された日を妊娠0日とする。医薬品の生殖毒性検索のための試験法ガイドラインについて133特に記載がなければ、ラット、マウスおよびウサギでは着床は妊娠6日―7日、硬口蓋の閉鎖は妊娠15日―18日に起こると仮定する。
この他の取り決めも同様に容認されるが、報告書に必ず明記しなければならない。また、その場合、投与期間の空白をきたさないように、その取り決めは異なった試験の間でも一致していなければならない。一連の試験で投与期間は最低1日の重複期間を設けるように注意することが望ましい。
交尾時期は、胎児と出生児に関する数値に変動を与えるので、正確に特定すべきである。
哺育児に対しても同様に、特に記載がなければ、出生日を生後あるいは授乳0日とする。しかし、特に分娩遅延または分娩時間の延長がみられる場合は、交尾後の時間を参照するのが有用であろう。
すべての一次試験(ガイドラインによる)は、多少の程度の差はあるが、その性質上、集約された最終的な反応結果を示すものである(発生機序を識別するようなものではない)。すなわち、ある指標でみられた影響にはいくつかの異なる原因が考えられる。例えば、出生時の出生児数の減少には、排卵率(黄体数)の低下、着床前死胚の増加、着床後死胚の増加、出生直後の死亡などが考えられる。また、この死亡は、いったん形成されていた身体奇形がその後の二次的変化などのために観察できなくなった結果かもしれない。特に対照群で自然に低頻度にみられる影響に関しては、投与によって惹起された事象と自然発生性のものとの区別は他に出現した影響との関連性を考慮して行う。
毒性物質は通常、用量に相関して一種以上の影響を惹起する。例えば、奇形の誘発は、胎児の死亡の増加や軽度の形態的変化の発生頻度の増加とほぼ例外なく関連している。ある指標についてある影響がみられた場合、それに関連する項目についての追加試験を考えるべきである。すなわち、その化合物の毒性の本質、範囲、起源を明らかにすべきである。さらに、この追加試験ではヒトの危険性評価のために用量相関性を確認するべきである。これは、用量相関の有無に基づいて投与による変化と自然発生性の変化とを区別する一次試験とは状況が異なる。
生殖試験を計画し、開始する時点では、多くの場合急性毒性試験や少なくとも1か月の反復投与毒性試験の情報が活用できるであろう。この情報から生殖試験の用量を設定することが十分可能であろう。
もし、適切な予備試験が行われたならば、それは本試験の用量設定の科学的根拠の一部となる。このような予備試験は、原則としてGLP規制に関係なく提出されるべきである。これにより不必要な動物の使用が避けられる。
生殖毒性試験における動物種と系統の選択に際しては、適切なモデルの選択に注意を払う必要がある。他の毒性試験に使用されている動物種と系統を選択することで、予備試験は不要となろう。もし、選択した動物種がヒトのモデルとして適当であることがキネティックスや薬理や毒性のデータから示すことができれば、一種のみで十分であろう。ヒトとの類似性が示されなければ、第二の動物種を用いる意味はほとんどない。被験物質、試験計画、成績の解釈との関係で、動物の種(系統)の利点と欠点を考慮する必要がある。
どの動物種にもそれぞれ利点がある。ラットは、一般的な目的にそったよいモデルである。マウスも同様であるが、利点の範囲はより狭い。ウサギは、反復投与毒性試験や胎児毒性試験以外の生殖毒性試験では「非げっ歯類」として用いられてはいない。ウサギは、受胎能試験、特に雄の受胎能試験には価値のあるモデルとしての特性をもっている。ウサギとイヌ(慢性毒性試験で第二の種として用いられる)は両者とも、精液標本の採取が、苦痛を伴う方法(電気刺激的射精)を使用せずに可能である。他のほとんどの動物種は、一般的な目的に合うよいモデルではない。多分、非常に特殊な試験のためにのみ有用であろう。
どの動物種でも次のような欠点をもっている。
予備的試験(プレスクリーニング又は優先性の選択)あるいは追加試験にその他の試験系が開発され、使用されている。一連の類縁化合物の予備的試験として用いる場合、それらの内の一つの化合物では、丸ごとの動物での成績を知っておく必要がある(推論によって影響が推測できるからである)。このような方策によって、より高度な試験を行う化合物を選択することができるようになる。
追加試験として、またはさらに物質の特性を追究するために、他の試験系を用いることによって詳細な発生過程の研究が可能になる。例えば、毒性の特殊な機序の研究、濃度―反応相関の確認、感受期の選別、特定の代謝物の影響の検出など。
反復投与毒性試験と同じ用量を生殖毒性試験で用いると、全身性の一般毒性に関連して出現する受胎能への影響を説明することができよう。
高用量群では母動物に若干のごく軽度の毒性が発現することが望ましい。
特定の被験物質では、反復投与毒性試験または生殖毒性の予備試験から決定する高用量を規定する要因としては以下のものがある。
生殖試験における多くの変動は、偶然による変動か投与による影響かを識別するのは困難で、用量相関性の有無が投与による影響の可能性を決定する重要な手段となりうる。これらの試験では用量反応勾配は急峻であり、用量段階の間隔を広くとることは好ましくないことに留意しなければならない。観察され136Topic S5Aた影響に対する用量反応関係を一つの試験の中で検討する場合は少なくとも三段階の用量を用い、適切な対照群を設けることが望ましい。用量反応関係が疑わしい場合には、用量間隔が広くなりすぎるのを避けるために第四の用量段階を追加すべきである。このような方策によって生殖能に対する「無毒性量」が得られるはずである。もし無毒性量が求められない場合は、被験物質に対してより詳細な研究や追加試験が必要である。
ある投与経路がより大きな身体負荷、例えば血中薬物濃度曲線下面積(AUC)を与えることが示されるならば、それより小さい身体負荷を与える経路や技術的に非常に困難な経路(例えば吸入)を用いて検討する理由はない。新たな投与経路を用いた試験を計画する前に、キネティックスに関する既存データを利用して新たな試験を行う必要性について検討すべきである。
妊娠期および授乳期の動物を用いたキネティックスの研究は、急激な生理的変化のために問題を生じることがある。こうした問題解決のためには二ないし三相からなる研究を行うことが最善である。試験を計画する際、キネティックスのデータ(しばしば、非妊娠動物からのデータ)はその動物種の一般的な適合性に関する全般的情報を提供し、試験計画の決定および用量選択の参考となりうる。試験中にキネティックスの研究を行うことは、投薬の適正さを確認することができるが、予測した動態パターンからの著しい逸脱を立証できる場合もありうる。
2g/kgの用量で死亡例がなく、1g/kgの用量で何ら反復投与毒性がみられない化合物に関しては、一対照群および二用量群(0.5および1.0g/kg)での二世代試験で十分と思われる。しかしながら、動物種の選択が適正であったかあるいは被験物質が有効医薬品であるかという問題が起こるであろう。一生に一回、単回に使用されるような化合物(例えば、診断薬、手術用薬品)については、投与期間に関係なく、ヒト治療量の二倍以上を反復投与することは困難であろう。投与期間を短縮してより高用量を投与するのが適切であろう。雌に関しては、ヒトでの暴露を考慮すると器官形成期以降の投与はほとんど不必要であろう。
ドーパミン作用薬あるいは血中プロラクチン値を低下させる医薬品に関しては、雌ラットの使用は不適切であり、ウサギがおそらくすべての生殖試験に適した動物種と思われる。しかしながら、ウサギはあまり用いられていない。このことは、ウサギがラットよりも代謝パターンがかなりヒトに近いような他の化合物についてもあてはまる。
反復投与により血漿中動態に変化がみられる医薬品に関しては、胚・胎児発医薬品の生殖毒性検索のための試験法ガイドラインについて137生に対する影響は4.1.3の試験では十分に評価できないと思われる。そのような場合には4.1.1の試験で雌への投与を妊娠17日まで延長することが望ましい。妊娠末期の屠殺で受胎能および胚・胎児発生に及ぼす影響を評価できるであろう。
受胎能試験の計画、特に、雄の交配前投与期間の短縮は、従来、長期間の交配前投与期間が要求された精子形成過程に関する基礎研究データの蓄積と再評価に基づくものである。すなわち、雄動物の生殖に限って選択的な影響を誘発する化合物は稀であること;雌動物との交配は精子形成に対する影響の検出としては感度の低い手段であること;雄動物の生殖器官の適切な病理学および病理組織学的検査(例えば、プアン固定、パラフィン包埋、精巣の2―4ミクロンの横断切片、精巣上体の縦断切片、PASおよびヘマトキシリン染色)は、精子形成に対する影響を検出のために、感度が高く、迅速な手段であること;精子形成に影響を及ぼす化合物は、ほとんど常に減数分裂以後の相にも影響すること;雄動物に9―10週間投与し、雌動物と交配させることによってのみ検出できると結論される雄の生殖毒性を示す医薬品の事例はないことなどである。
雄動物の精子形成に対する影響の可能性に関する情報は、反復投与毒性試験から得ることができる。これによって、受胎能試験の研究では、他のより直接的な原因の解明に集中することができる。ラットの精子形成(精子成熟過程を含む)の全期間は63日である。受胎能試験の範囲を広げたり、検出された影響からさらに特性を明らかにすべきであることを示唆するデータがあったり、またデータが欠如している場合には、より詳しく当該影響の特性を明確にするために適切な試験が計画されるべきである。
過去および既存のガイドラインにおいても、また、本ガイドラインにおいても、試験群の動物数を特定化することの基礎となる科学的根拠はほとんどない。規定の動物数は、経験に基づく推量であり、試験管理全般にわたり過度の損失を招くことなく運用できる最大の試験規模により左右される。このことは、動物の入手・飼育に費用が掛かれば掛かるほど、試験群の規模は小さくなるという事実で示されている。理想的には、すべての動物種に対して少なくとも同一規模の試験群が要求されるべきであるが、霊長類のように使用頻度が低い動物種については、一層大きな規模の試験群で実施することは問題があろう。また、必要とされる動物数は、その群に影響が発現することが予想されているか否かで決まることを明確にするべきである。高頻度に影響が検出されるものでは少数の動物しか必要とされない。影響がないことを推定するために必要な動物数は、検討される変数(指標)、対照群におけるその発現率(稀なあるいは定性的な事象)あるいは中央周辺に分散する傾向(連続変数あるいは半連続変数)138Topic S5Aに応じて変動する。注23も参照。
極めて稀な事象(奇形、流産、同腹児全死亡のような)を除きすべての事象で、げっ歯類およびウサギについては、母体数が16―20匹の評価で、ある程度の整合性が試験間で得られている。母体数16匹以下になると試験間の結果は一貫性を欠き、20―24匹以上でも整合性および精度が大きく向上することはない。これらの数は評価に関係する。もし異なった評価別に投与群を分割する場合には、試験開始時の動物数を二倍にすべきである。同様に二世代試験においては、母体数として16―20匹がF1世代動物の最終評価に必要とされよう。自然減を考慮すると試験開始時におけるF0世代動物試験群の規模はより大きくすべきである。
交配比率:雌雄両動物とも投与されるか、あるいは雌雄別試験において同様な配慮がなされている場合、望ましい交配比は1:1である。これは、高い妊娠率の確保ならびに結果の分析および解釈の誤りを避けるという観点から最も安全な選択肢であるからである。
交配期間および方法:ほとんどの研究機関は2―3週間の交配期間を採用している。ある機関では膣垢中の精子の存在または膣栓が観察され次第、雌動物を隔離しているが、交配対をそのまま同居させておく機関もある。多くのラットは、同居開始5日以内(すなわち、同居後最初の発情時)に交尾するが、雌動物が偽妊娠を起こす場合もある。当該雌動物を約20日間、雄動物と同居させておけば、その雌動物の発情周期が再開し、妊娠が可能になる。
雌動物
雌動物への投与を着床時に終了する場合には、一般的に妊娠13日―15日の屠殺が、受胎能あるいは生殖機能に対する影響の評価、例えば、着床部位と胚吸収部位を鑑別するのに適切である。
一般に、受胎能試験においては、後期胚死亡、胎児死亡および形態異常に関する情報を得る目的で妊娠20/21日に雌動物を屠殺することは、障害を検出するために必要とは考えられない。
雄動物
交配結果が判明するまで雄動物の屠殺を延期することが望ましい。結果が曖昧な場合には、受胎能あるいは不妊を確認するために雄動物を無処置の雌動物と交配させることができるからである。試験4.1.1項の一部分として投与された雄動物は、投与が交配期間以降も継続され、屠殺が延期された場合には、雄の生殖系に対する毒性評価にも用いることができる。
投与期間中の妊娠雌動物の体重を連日測定することは有益な情報を提供する。医薬品の生殖毒性検索のための試験法ガイドラインについて139化合物によっては、妊娠期間以外の時期(交配前、交配中、授乳期間中)に週2回以上の測定が望ましい。不妊が疑われるラットあるいはマウスについては(ウサギを除く)、硫化アンモニウムによる子宮の染色が着床後早期の胚死亡を確認するために有効であろう。
本ガイドラインは、医薬品の既存のガイドラインに由来しているので、離乳から性成熟期にわたる薬物暴露については全面的に網羅しておらず、また、生殖寿命の短縮の可能性も取り扱ってはいない。乳幼児用医薬品の障害を検出するためには、特定日齢の出生児に直接投与する特殊試験(事例毎に試験計画をたてること)が考慮されるべきである。
出生前および出生後試験が二試験、すなわち、胚期間を網羅する試験と胎児期間、出産および授乳期間を網羅する試験とに分割される場合には、両試験とも出生児の出生後評価を実施する必要がある。
このガイドラインでは、生殖能の評価に用いる個体と同一のF1動物で行動とその他の機能試験を実施できるという証拠に基づいて、一腹当たり雌雄各1例を用いるよう推奨している。この場合には、個々の動物について異なる試験間の関連性を互いに参照できるという利点がある。しかしながら、施設によっては行動試験と生殖能の試験に別々の動物を用いて実施することもあろう。各施設にとってどの方法が最も適切かは、実施する試験の組合わせと利用できる資源により異なる。
生殖に及ぼす影響の検査において間引きするか否かについて、どちらが有用であるか、現在なお議論中である。間引きをするかどうかは実験者が説明を加える必要がある。
身体発達の最もよい指標は体重である。耳介展開、毛生、切歯萌出等の離乳前の発達指標の検査結果は児体重と高い相関がある。少なくとも妊娠期間が有意に異なる場合には、体重は出生後の時間よりも交尾後の時間経過に関連する。反射、正向反射、聴覚性驚愕反射、空中落下反射、光反射も同様に身体発達に関連する。推奨される離乳後の発達指標は、雌では膣開口で、雄では陰茎亀頭包皮分泌腺開裂である。後者はテストステロンの上昇に関連しているが、精巣下降は関係がない。これらの指標は性成熟の開始を示すものであり、対照群との差が特異的なものかあるいは一般的な成長と関連しているのかを明らかにするために、達成時期の体重を測定することが推奨される。
機能試験:現在まで機能試験はほとんど行動についてのみ行われてきた。これについて多大の努力がなされてきたが、特定の試験方法を推奨することはできない。研究者は感覚機能、運動機能、学習および記憶を評価する方法をみつけるために努力することが望ましい。
異常の型を明らかにするため、同一個体の標本について種々の検査(すなわち、体重、外表検査、内臓/骨格検査)で得られた全所見を関係付けることが可能でなければならない。対照群と高用量群との間で有意な変化がない場合には、中間および低用量群の内臓/骨格検査は不要であろう。しかしながら、後日検査出来るように固定標本を保管しておくことが望ましい。新鮮標本での解剖法が通常行われている場合には、固定胎児標本とのちに比較することは困難と思われる。
“有意差”検定(推測統計)は結果の解釈をする場合の補助手段としてのみ用いる。解釈それ自体は生物学的妥当性に基づいたものでなければならない。単に推測統計学的に有意差がないからといって、対照群との差を生物学的に意義がないものとするのはよくない。“統計的に有意”な差は生物学的に意義があるべきだと考えるのも賢明さに欠ける。特に、片側(にのみ裾をひく)分布に従う低頻度の事象(たとえば、死亡胚、奇形)の場合には試験の統計的検出力は低くなる。適切な量をもった確かな差異は、影響の大きさのようなものを示している。統計手法を用いる場合、比較する標本単位を考慮する必要がある。すなわち、個々の受胎産物ではなく同腹児、雌雄を用いる場合は交配対、二世代試験では親世代の交配対を考慮する必要がある。