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【2013年5月12日 ニューヨーク(アメリカ)発】経済の悪化で緊縮財政政策が施行されたイタリアでは、定年退職を迎えて年金暮らしの高齢者の自殺が相次いでいる。


失業状態と自殺との関連は19世紀から指摘されているが、求職者の自殺率は有職者の2倍と言われている。自殺率の増加は国内の景気によって推測することができ、失職数が多くなればなるほど自殺率が増加する。しかしながら、景気後退が必ずしも自殺率に影響を与えるわけではなく、むしろ緊縮財政下において保健医療や社会保障関連予算を削減した国の保健指標は、社会保障を維持した国よりも明らかに悪くなっている。

そこで、我われは公衆衛生と政治経済の専門家として政治家と議論する傍ら、世界中の過去のデータを分析して経済危機がどの程度まで我われの健康に影響を与えるか検討した。その結果、経済が停滞するから病気になる、または死亡するということは必ずしも言えず、むしろ緊縮財政政策が病気または死をもたらすということだった。

最近の例でいえば、経済危機に陥ったギリシャとアイスランドの違いが挙げられる。ギリシャは緊縮財政の一環として国際通貨基金(IMF)、欧州委員会、欧州中央銀行など外部機関の指導により2008年から保健医療関連の予算を40%減額したが、これにより大量の医療従事者が失職するとともに、薬物使用の拡大でHIV感染が2倍に増加するなど、同国の公衆衛生は危機的な状況を迎えている。一方、アイスランドもIMFの指導を受けたが、ユーロ圏ではないこともあり、国民投票により段階的に緊縮財政政策を導入したため、国内の公衆衛生に混乱は起きなかった。これは、経済危機が必ずしも公衆衛生に悪影響を与えるわけではないということを証明している。ただ、アメリカのように社会保障を補強したにもかかわらず自殺率が増加している状況もある。

過去の例では、旧ソ連諸国ではソ連解体後、ロシア国内の社会経済状況は悪化したが、すべての旧ソ連諸国にその影響は波及しなかった。保健医療に関連する指標が悪化した国もあれば、国営企業の私有化により指標を好転させた国もあったのだ。1997年のアジア通貨危機も同様で、タイとインドネシアではIMFの指導により作成した緊急財政政策により保健指標が悪化したが、マレーシアはIMFの指導を拒否したことにより、国民の健康を一定水準に保つことができた。1929年のアメリカの大恐慌時では、一時は自殺率の急上昇が見られたが、ニューディール政策による多額の投資により、自殺率を含めた各種疾患の死亡率も減少した。

我々の分析では、公衆衛生事業に1ドルを投資すれば、経済成長を3ドル分達成することができる。公衆衛生への投資は、景気後退下における人命救助だけでなく経済回復にも貢献する。そのため、1)緊縮財政下でも保健医療政策は予算減額なしに独立して遂行すること、2)無業状態を改善すること、3)経済状況が悪化しているときにこそ公衆衛生分野に投資を拡大すること、の3点を提言する。

原題:How Austerity Kills
出典:NY Times
日付:2013年05月12日
URL:http://www.nytimes.com/2013/05/13/opinion/how-austerity-kills.html?pagewanted=all&_r=0
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