労働者健康安全機構 トップページ > JOHASとは > 出版物 > 広報誌「勤労者医療」 > 第3号 > 被災労働者の自立と健康を支えるテクノロジー

被災労働者の自立と健康を支えるテクノロジー


LW3号 特集2

障害を残したまま社会に復帰して働く方々の日常生活を支えるために、労働者健康福祉機構の研究部門が開発・改良したソフト、ハードの一部をご紹介します。
岡山県の吉備高原医療リハビリテーションセンター の研究情報部の活動成果の一部をご紹介します。

PC操作の評価ソフト

[画像:キーボード][画像:マウス]
手足が不自由でもコンピュータ操作ができれば社会参加の可能性が広がります。
入力装置であるマウス操作やキーボード入力の正確性とスピードを評価するソフトを用いて、コンピュータ操作の基本的な能力が身につくようにします。労災リハビリテーション工学センター(名古屋市)、岡山大学と当センターの3者共同で研究・開発されました。
また、写真のような様々な市販のマウスやキーボードを用意して、障害の程度に合わせて使いやすいものを試したり、開発・試作したりしています。
この評価ソフトは同センターが構想する「在宅就労支援システム」の一部であり、将来的には職業リハセンターと自宅をオンラインで繋いだ職業訓練が行えるよう、現在開発を進めています。


3次元コンピュータグラフィックスソフト

[画像:3次元CGイメージ][画像:改築した部屋]
写真の左側が同ソフトを使用して作成したイメージ画像、右側がそれに従って改築した実際の部屋の写真です。
同ソフトでは改築前の住居の情報や障害者の情報(障害の程度や移動手段、座高や身長など)をインプットすることにより、どこをどのように改築すればいいのか、さらに、改築後の部屋を動き回る様子などを画面で簡単に確認することができます。
住居の改築には多額な費用を要するため、このソフトを使用することで、より的確に改築をすることができるようになります。


福岡県飯塚市にある総合せき損センター の医用工学研究室では、リハビリテーションにおける生活系・生活環境系の支援機器の開発・研究を進めています。

通常の車椅子とコンパクトな車椅子

車椅子利用者が外出時に困るのは、使えるトイレが少ないことです。通常のトイレ出入口の幅が50〜55cmと、一般の車椅子(写真右)の幅より狭く、車椅子による出入りができないからです。
そこで、大きな車輪を外すことにより幅を48cmにまで狭められるのが写真左の車椅子です。車椅子に乗りながら取り外せるように改造してあり、そのまま走行できるように補助輪を開発し取り付けてあります。
これにより、出先でのトイレ問題を解消することができます。両輪を外すと飛行機の通路も通れます。 [画像:一般の車椅子とコンパクトな車椅子]

立位がとれる車椅子

上半身と膝をベルトで固定し、手元にあるハンドルを操作することで直立姿勢が取れる車椅子です。
起立することで腰への負担やうっ血を防ぎ、筋肉に刺激を与えることで血行がよくなります。また、高いところでの作業も可能になります(写真右)。 [画像:立位がとれる車椅子]


意思伝達のインターフェース――スイッチ
四肢麻痺の人でも、意思と任意に動く部位さえあれば、スイッチ操作で外部と連絡をとったり物を動かしたりできます。スイッチは、障害者の意思伝達インターフェースとして大きな役割を果たします。そのため、足、腕、指、あご、呼吸など可動部位にあわせて入力しやすいものを探すことはたいへん重要であり、同研究室ではさまざまなスイッチを研究し用意しています。 [画像:スイッチ]

ゲームのコントローラー

ゲーム用コントローラーをさまざまな部位で操作できるように、改良が加えられています。
十字キーに垂直にバーをつけ、そのバーにあごを乗せて操作するもの、コントローラーについたストローに息を吹き込む、または吸い込むことによりオン・オフなど多くの操作ができるものもあります。
こうして、全身麻痺の方でもゲームを楽しむことができ、自信がついてくるとコンピュータ操作に習熟して、在宅就労に結びついていきます。 [画像:ゲーム用コントローラー]

移動壁を動かして生活動作のシミュレーション

センター内に設置した移動壁で、現在居住している住まいと同寸の間取りを再現し、どうすれば使いやすくなるかを繰り返し検討しながら、住宅改造後の生活空間や日常生活動作のシミュレーションを行います
例えば、自宅の風呂を再現し、車椅子、杖の状態でどう入るかをシミュレーションし、3次元動作分析します。
900例を超える設計の実績があります。 [画像:自宅の風呂を再現]

テレビのリモコンでエレベータを操作

通常のエレベータにセンターで開発した受信機をつけるだけで、テレビのリモコンでエレベータを呼び、扉を10秒間開いて、指定の階に行くことができます。
家庭用のエレベータにも受信機をつけると四肢麻痺の方でもコントロールすることができます。
(写真上部 天井の黒いドームが受信機) [画像:エレベーターの受信機]

褥創予防の体位変換マット

マット部分をタイマーで自動的に左右に傾けることで、寝返りできない四肢麻痺の方を自動的に体位変換して体圧の除圧や血流を促し、褥瘡を防ぎます。
横に傾けてもずり落ちないように、柔らかなパッドで数カ所固定します。機器は静かで、しかも動きは寝ていても気づかないほどたいへんゆっくりしたものですので、睡眠を妨げません。
褥創予防のため、夜中でも体の向きをかえたりパッドをはさんだりするなどの介護を行っている介護者(家族)の負担を大きく軽減し、介護者の睡眠時間も確保します。 [画像:体位変換マット]

<コラム>
自らも車椅子生活をしている、総合せき損センター研究部の松尾清美主席研究員に、研究方針を尋ねました。
人が"寝たきり"になるのは、"寝かせきり"にするからです。障害を負うと、人は自信を失うものです。家族や医療スタッフなど周囲の人々が"できない"と思ってしまうと"できなく"なります。センターでは、決して"だめだ"とは言いません。「あなたには、これをする力がある」と励ましながら対応しています。できることは自分ですることで、脳への刺激になり、心肺機能が高まります。
四肢麻痺の方でも、電動車椅子を操作してリフト付きの自動車に乗って通勤する時代です。移動、家の出入り、トイレと入浴方法が決まれば自律生活を目指せます。道具と住宅を工夫すれば、生活だけでなく仕事もできるようになるのです。
そのために、既存の製品を利用して改良を加えたり、開発したりしています。

名古屋市の中部労災病院に隣接する労災リハビリテーション工学センター(廃止しました)では、労災病院リハビリテーション科と連携を保ち、福祉用具の開発・改良に取り組んでいます。

モジュラー型の骨格構造義足

写真左は、当センターの前身「労災義肢センター」にて日本で最初に開発した義足で、開発を終えた昭和53年以降もユーザーの要望をいれて改良を続けています。現在までに延べ3万2千人以上の下肢切断者に使用されています。
写真右は、構造を単純化して軽量化を図ったもので、平成5年から順次商品化されて、高齢者や女性などに利用されています。経済産業省のグッドデザインに選定されています。 [画像:日本で最初に開発した義足] [画像:軽量化した義足]

四肢麻痺の方のスイッチ2例

くろまる舌によるポインティングデバイス
ノートパソコンで使われているポインティングデバイス(指先の移動でカーソルを操作)を、写真のように装置を頭部に固定して、舌先を動かすことでカーソルを移動させるなどしてパソコンを操作します。 [画像:ポインティングデバイス]
くろまるマウススティック
軽い素材でマウススティックを作り、写真のようにパソコンのキーボードを操作します。
2層構造にするなど改良を加え、口でしっかり固定できるとともに、唾液をきちんと飲み込めるようにしています。長時間操作でもあごが疲れず、噛み心地のよいものになっています。 [画像:マウススティック]

ベッド移乗用車椅子固定具

車椅子とベッド間を移動するとき、車椅子にブレーキをかけても、体重で車椅子が動いて転落する危険があります。
そこで、ベッドの端に車椅子を固定する金具を開発しました。車椅子がベッドに固定されるので、介助者も安心して移乗の介助ができます。(特許出願中) [画像:ベッド移乗用車椅子固定具]

せき髄損傷者の歩行訓練とFES

[画像:吊り上げ式トレッドミル] 立ち上がれたり、平行棒内で何とか歩行できたりする程度の麻痺患者を対象に、吊り上げ式トレッドミルが制作されました。
身体を吊り上げてトレッドミル上を歩行することで、転倒の恐怖感もなく、安全に長時間の歩行訓練ができます。10分から20分ほどの歩行訓練で、歩行のリズムの獲得、バランス訓練、筋の疲労耐性の向上が得られ、また、ほどよい全身運動にもなります。
筋力の弱い患者には、この装置を使いながら、医師の管理のもとで足の筋肉に電気刺激を与えること(Functional Electrical Stimulation:FES)により、歩行をスムーズにする試みも行われています。



【全:LHW】フッターメニュー

Copyright c 2016 Japan Organization of Occupational Health and Safety All rights reserved.

PAGE TOP

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /