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【コラム】金子達仁

選手権決勝のタイ生中継 巨大資本動かすか

[ 2025年1月16日 13:30 ]

<前橋育英・流通経大柏>優勝を喜ぶ前橋育英イレブン(撮影・小海途 良幹)
Photo By スポニチ

初めてサッカーを面白いと思ったのは、W杯ではなかった。浦和南対静岡学園。第55回高校サッカー選手権決勝。いつ果てるとも知れぬ凄(すさ)まじい点の取り合い。5―4で試合が終わったとき、テレビの前で放心状態だったことを思い出す。

初の首都圏開催となったこの大会が最高の大団円を迎えたことで、高校サッカーの人気には火がついたとされている。大げさに言えば、ひとつの名勝負が、社会を動かしたのである。

だとしたら、前橋育英と流通経大柏が死闘を演じた今回の高校サッカー決勝も、何かを動かすかもしれない。今回の決勝は、史上初めて、タイでも生中継されたからである。

日本代表がW杯アジア予選で圧倒的な強さを見せたことで、アジア各国では日本サッカーに対する評価が急上昇している。多くの国が関心を寄せているのは、「なぜ、日本からはあんなにも多くの好選手が輩出されるのか」ということ。反日一直線の国でさえ若年層の指導を日本人に任せるケースが増えているのも、その一例と言っていい。

そんな状況で、日本サッカーの育成の一端を担ってきた高校サッカーがタイで放送され、エンタメとしても十分に成立する素晴らしい戦いが展開された。どこでどうやって映像を手に入れたのか、中国からも決勝の内容と環境に驚嘆する声があがっている。

きっかけ、になるかもしれない。

レッドブルが大宮の買収に動き出したとの報に触れたとき、まずわたしが思ったのは「なぜ大宮?」だった。レッドブルが買収しなければ、ライプチヒのいまはない。旧西独圏には経済面で太刀打ちできなかったチームが欧州屈指の存在にまでのし上がれたのは、突如現れた大資本の後押しがあったからだった。

もしレッドブルが日本に進出するのであれば、ライプチヒ同様、大都市に比べると経済的に厳しい地方に目をつけるのでは、と勝手に思い込んでいた私は、だから、大宮と聞いて驚いてしまったのだ。

正直、レッドブルほどの大資本が新たに日本市場をうかがう機会は、そうそうあるものではない。残念ながら、地方都市からの一大下克上が起きる可能性は遠のいてしまったかな――そう思い始めていた。

だが、このタイミングで、高校サッカー決勝が名勝負となり、かつ、それが海外にも中継された。なぜレッドブルがJリーグに進出したのか、つまり彼らから見て日本にどんな魅力があったのかはよくわからないところがあるが、ひょっとすると、今後はレッドブルよりも強く、日本サッカーに魅力を感じる国、企業が現れるのではないか。

その育成能力に。

なぜ日本サッカーはアジアの中で突出した存在との評価を受けつつあるのか。日本人が優秀だから、ではない。育成システムが機能したから、である。だとしたら、そこに自国の選手を送り込もうと考える、現状では国籍変更選手に頼るしかない国が出てこないだろうか。日本人がシントトロイデンでやったことを、日本で、若年層でやろうと考える企業が出てこないだろうか。

そこに日本側からのアプローチがあれば――。

異文化圏から来た選手と接することは、受け入れる側、特に指導者にとっても貴重な経験となろう。もちろん、現時点ではすべてが個人的な妄想であるとは自覚しつつ、選手権決勝をタイで放送することを決断した日本サッカー協会には、最大限の賛辞を贈りたい。(金子達仁=スポーツライター)

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