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【コラム】金子達仁

苦さが残るU-23GK小久保の極端な時間稼ぎ

[ 2024年4月18日 10:00 ]

パリ五輪最終予選兼U―23アジア杯カタール大会1次リーグB組第1戦 U-23日本 1-0 U-23中国 ( 2024年4月16日 ジャシム・ビン・ハマド・スタジアム )

前半の早い段階で退場者を出し、絶体絶命の状況に追い込まれた日本を救ったのが、GK小久保だったことに疑いの余地はない。特に、後半開始早々に訪れた1対1でのストップは、まさにビッグセーブだった。彼の活躍なくして、この勝利はありえなかった。

それだけに、少し苦い。

チームを苦境に追い込んだ西尾の退場に関しては、言語道断というしかない。先にちょっかいをしてきたのは中国の選手だったのかもしれない。だが、いかなる理由があろうとも、報復は許されない。最終ラインに名を連ねる者ならばなおさらである。

98年W杯のイングランド対アルゼンチン戦。シメオネの悪質なタックルと、倒れ際にヒジを落とされたことに激怒したベッカムは、思わず足を振り上げた。大した接触ではなかったようにも見えた場面だったが、主審は迷わず赤紙を提示し、イングランドは試合の流れを失った。「1人の愚か者がすべてを台無しにした」とメディア、ファンから袋叩きにあったベッカムは、当時23歳だった。

ただ、ベッカムはこれで終わらなかった。4年後のW杯日韓大会で再びアルゼンチンと対戦したイングランドは、1―0で見事リベンジを果たす。決勝点となったのは、自らキッカーとして名乗り出たベッカムのPKだった。やってしまったことは、もう取り返せない。西尾には、今回の苦すぎる教訓を次の機会に生かしてくれることを期待したい。

西尾の退場以降、自ら望んだのか、はたまた結果的にそうなっただけなのか、一方的に押し込まれる展開となった試合に収穫を見いだすとすれば、若い日本の選手たちが過去の日本には絶無とされていた資質を見せてくれたことだろう。

「日本には守備の文化がない」――かつて、そう言い放った代表監督がいた。攻撃への意欲を捨て、ひたすら亀になって耐えるということが、日本人にはできない。四半世紀ほど前、トルシエはそう見ていた。

そんな彼がこの試合を見たら、さぞ驚いたことだろう。11人対11人の状態では明らかだった力の差を、日本の選手たちはあえて意識から消した。後半開始早々の大ピンチを凌(しの)ぐと、その後はある種の余裕すら感じさせて乗り切った。こういう勝ち方をした日本は、ちょっと記憶にない。

個人的には、いくら1人少ない状況だとはいえ、もう少し質の高いサッカーができたのでは、との思いはある。一方で、是が非でもパリに行かねばという選手たちの強い気持ちもわかる。いまは、以前であればできなかった戦い方でできるようになったことを、評価すべきなのかもしれない。

ただ、晴れやかな気持ちにはとてもなれない。

アベドサデ、というGKを覚えている方はいらっしゃるだろうか。ジョホールバルで日本と対戦した、イランの守護神。長身ながら敏捷(びんしょう)で、当時アジア最高のGKの一人と呼ばれた男が、日本戦でどんなプレーをしたか、覚えていらっしゃるだろうか。

極端な時間稼ぎである。

2―1と日本を逆転してからの彼は、ことあるごとにグラウンドをのたうち回り、時間を消費しようとした。日本よりも日程的に厳しい中での戦いだったイランからすれば、必要なことだったかもしれない。

この日、小久保が日本のためにとった行動は、アベドサデがやったこととほぼ同じだった。ジョホールバルでイラン人に憤激し、軽蔑もした人間としては、ゆえに、苦さが残る。(金子達仁氏=スポーツライター)

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