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【コラム】金子達仁

目先の勝利より地道な育成 東南アジアの未来は明るい

[ 2024年6月13日 07:00 ]

さぞや大変な騒ぎになっていたのだろうと推察する。W杯アジア2次予選のA組。グループ2位で最終戦を迎えたインドは、勝てば文句なしに最終予選進出が決まる。相手は首位のカタール。しかも敵地。楽観できる状況ではもちろんなかった。

ところが、すでに最終予選進出を決めていたホームチームから、インドはよもやの先制点を奪う。リードしたまま前半を終え、後半の30分が近づいても、スコアは1―0のままだった。人口14億の期待と興奮。想像しただけで鳥肌がたつ。

だが、カタールは後半28分に試合を振り出しに戻すと、40分には逆転の一撃を見舞ってインド人たちを失意のどん底に突き落とす。最終的にこの組の2位に滑り込んだのは、試合前の段階では最下位だったクウェートだった。

天国から地獄に落ちたのがインドだとしたら、地獄から天国に引っ張りあげられたのが中国だった。

勝ち点をあげさえすれば突破が決まるソウルでの韓国戦。立ち上がりから苦しい戦いが続いた中国だったが、なんとか前半を0―0で凌(しの)ぎきる。あと45分。だが、彼らは耐えきれなかった。後半16分、李剛仁(イガンイン)に左足を一閃(いっせん)され、勝ち点8、得失点差0で全日程を終えた。

これで、時間差でキックオフされる勝ち点5、得失点差マイナス2だったタイは、3点差をつけて最下位のシンガポールを倒せば、逆転で2位に滑り込むことが決まった。敵地での第1戦を3―1で勝っていることを考えれば、十分に可能な点差だった。

大観衆をバックにシンガポールに襲いかかったタイは、37分、ムエアンタが決めて幸先よく先制。その後も一方的に試合を進める。

後半12分に強烈なミドルを食らって同点とされるものの、ひるまずに34分、41分にゴールを奪うと、あと1点を奪うべく、怒濤(どとう)の攻撃を展開する。中国人の希望は、風前の灯火(ともしび)だった。

だが、あと一歩が届かなかった。勝ち点、得失点差で並んだ両チームには、直接対決の結果によって順位がつけられた。勝ち上がったのは中国だった。一度は地獄に落ちかけただけに、こちらの14億人の喜びはひとしおだったことだろう。

さて、この原稿が紙面に掲載されるころには、最終予選に進出する18カ国はすべて決定している。興味深いのは、アジア杯やパリ五輪の予選で脚光を浴びた東南アジア勢の苦戦である。最終予選に進出したのはインドネシアのみで、この組の3位と4位はベトナム、フィリピンだった。他の地域との争いを勝ち抜く東南アジアの国は、今回の予選では生まれなかった。

理由としてまず思いつくのは、「ローマは一日にしてならず」ということである。確かに東南アジア勢は力をつけてきている。とはいえ、十分な警戒をし、対策を立ててくる相手を打ち破れるほどでは、まだ、ない。

これはW杯本大会で日本が直面した問題でもある。相手が勝ちにきてくれる状況であれば、やれる。問題は、相手が日本を警戒してきたとき。少なくとも、W杯カタール大会時点での日本には、コスタリカやクロアチアをねじ伏せる力はなかった。

それでも、23年の日本が殻を破りかけたように、いずれは東南アジアも、アジアの一大勢力になる日は来よう。目先の勝利のために外国籍の選手をかき集める国々より、地道な育成を続ける彼らの未来の方がはるかに明るいはずだとわたしは信じる。 (金子達仁=スポーツライター)

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