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【コラム】金子達仁

地上波放送信仰 強すぎたかも サウジ戦予想は...

[ 2024年10月10日 20:00 ]

<サッカー日本代表会見>現地の報道関係者と握手する森保監督(左)と遠藤(中)(撮影・西海健太郎)
Photo By スポニチ

W杯最終予選のアウェーゲームが地上波で放送されなくなったのは、前回大会からだった。当時、サッカー界に走った衝撃は小さいものではなかったし、わたし自身、これでライトな層が離れるのではないか、ファンの新規獲得が難しくなるのではないかと心配もした。

もちろん、その不安や懸念は完全に解消されたわけではないし、新しく就任した協会の宮本会長も、地上波復活に向けて動いているとも聞く。誰でも無料で見ることのできる地上波での放送が、依然として大きな影響力を持っているのは間違いない。

ただ、最近になって思い始めたこともある。もしかすると、地上波信仰が強すぎたかもしれない、と。

パドレス。英語に直すとファーザーズ。なかなかユニークなネーミングだよな、とか思いつつ、大谷の凄さに驚嘆するのと同じぐらい、あまりにも立派になった元阪神スアレスの姿にわたしが涙腺を緩ませたのは、Jスポーツの中継だった。では、地上波で放送されないメジャーリーグのプレーオフは日本人の関心事にはなっていないのか。そんなことは、たぶん、ない。

井上尚弥。モンスター。史上最高の日本人ボクサーにして、おそらくは世界のボクシング史にも名を刻む存在。では、彼は地上波で試合が放送されることによって有名になったのか。というより、最後に彼の試合が地上波で放送されたのはいつだったのか。

ちなみに、井上がネリを倒した5月の試合では、中継したプライムビデオの視聴者数が、それまでで最多だった23年WBC決勝の数字を超えたという。もちろん、WBCは地上波でも放送されていたため、一概に比較はできないとはいえ、とてつもない数字であることに変わりはない。

地上波放送の有無は、ひょっとすると、わたしのような世代が思い込んでいたほどの影響力、決定力を持たなくなっているのかもしれない。

これは日本に限った話ではない。9月5日、中国の地上波では日本戦が放送されなかった。「放送権料が高すぎたから」というのが中国側の発表した理由だったが、中国国内では「惨劇が予想されたからではないか」などの臆測が飛び交っていた。臆測通りの理由なのか、はたまた中国経済の減速がいよいよ深刻なレベルになりつつあるのか。いずれにせよ、圧倒的な資金力を誇った中国でさえ、アウェーゲームの地上波中継を見送ったという事実は残った。同様の事態は、オーストラリアでも起きているという。

わからないではない。欧州、北中米、南米、アフリカ、オセアニアといった地域が、最大でも3時間程度の時差で収まるのに比べ、オーストラリアとサウジアラビアでは7時間もの時差がある。当然、それぞれの国にとって、アウェーゲームは視聴者数が計算できる時間帯とはかけ離れた時刻でのキックオフとなってしまう。放送する側が二の足を踏むのは、ある意味仕方のないこととも言える。

今回の最終予選では、AFCではなく、各国協会がホームゲームの放送権料を決めているという。「高すぎて売れない」という事態をひき起こした今回の教訓は、おそらく、次回大会以降に生きてくるだろう。中国経済の失速が本当ならば、なおさらである。

さて、今日の深夜は敵地でのサウジアラビア戦。サウジにとっては不敗のスタジアムだそうだが、わたしは2―0で日本の勝利を予想する。(金子達仁=スポーツライター)

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