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【コラム】金子達仁

世界の強豪クラブの「敵陣保持率」からもヒントを

[ 2023年4月22日 10:00 ]

ティキタカ、ゼロトップ、偽サイドバックなど、多くの戦術を広めたペップ・グアルディオラ監督(マンチェスター・シティ)
Photo By AP

野球の監督とサッカーの監督。どちらも「監督」という言葉で表現されているとはいえ、求められる資質や条件はずいぶんと違う。

「データ」との付き合い方にしても、また然(しか)り。

野球の場合、データとは現場が求める勝率や成功率を高めるための数字だった。

サッカーは違う。現場が勝つための数字を求めることはまずなかった。ではなぜ、最近になってサッカーでもデータが重んじられるようになってきたのか。ターゲットは現場ではなく見る側にあった、とわたしは思っている。

サッカー界がデータを重視するようになった時期は、イニエスタらを擁するバルセロナが黄金時代を築いた時期でもあった。なぜバルサは強いのか。理由を説明するためのツールとして注目を集めたのが、ボール保持率だった。シュートやCKの数といった旧来の数字に比べ、試合を支配しているのはどちらなのかが、よりわかりやすかったというのも大きかった。

ここで忘れてはいけないのは、バルサのティキタカは、ボール保持率を高めようとしてやったのではない、ということである。彼らは、それが勝利の確率をもっとも高めるものだと考えて、ティキタカをやった。保持率はあくまでも手段であって、目的ではなかった。

ただ、当時のバルサ、あるいはスペインのサッカーがあまりにも鮮烈だったため、日本を含めた世界にはボール保持率の高さ=強さのようなイメージが浸透していった。たとえ試合に敗れても、ボール保持率で勝っていれば何となく許されるといった風潮すら生まれた。

日本の場合は、特にそれが顕著だった。

ボールが前に進まなければファンが怒りだす欧州や南米と違い、日本では自陣での退屈なボール回しが許されがち。だからなのか、保持率の高さがリーグの順位とほぼ無関係という、なかなかに珍しい状況が出来上がりつつあった。

サッカーにおけるデータが、そもそも強さの理由、秘密を説明するためのものだとの前提に立つならば、日本におけるボール保持率は、もはやデータとして無意味に近くなってしまっている。

実は先日、J2町田の黒田剛監督にお話をうかがう機会があった。強烈に印象に残ったのは、「後ろでの無意味なボール回しが大っ嫌いなんです」という言葉だった。では、黒田監督が目指すのは、W杯予選で中東勢がやるような、ガチガチに守っての堅守速攻なのか?違う。結果的に押し込まれる時間帯はあったとしても、意図的に引いて守るサッカーを彼らはやっていない。

それでいながらの、首位。昨年15位からの、チーム予算で上回る多くのチームを抑えての、首位。

ということで保持率に代わる「強者の理由」を表すデータは何かないものか。敵陣でのボール保持率はどうだろう。ペナルティーエリアへの進入回数は?と書いたのが先週の本欄だった。

すると、前日の本紙に記録課の矢吹記者からの「解答」が掲載されていた。敵陣でのボール保持率は、単なる保持率よりは実際の順位に近いものの、絶対的なものではない、というのが現時点での結論だった。

矢吹記者に引き続きお願いしたいのは、アーセナルやブライトン、フライブルクといったチームで同じデータを取れないかということ。世界最高峰、あるいは日本人選手が所属しているチームのデータを明らかにすることで、Jリーグ、ひいては日本代表の問題点も見えてくるのでは、と思うのだ。(金子達仁=スポーツライター)

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