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【コラム】金子達仁

三笘&伊東抜きでも変わらぬ強さ

[ 2024年6月12日 11:00 ]

W杯北中米大会アジア2次予選B組 日本5―0シリア ( 2024年6月11日 エディオンピースウイング広島 )

<日本・シリア>後半、南野(左)はチーム5点目となるゴールを決める(撮影・椎名 航)
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文句なし。最終予選のことを考えても、非常に収穫の多い試合だった。

まず、先制点の取り方が良かった。素晴らしい突破とセンタリングを見せたのは中村、決して簡単ではないヘッドを決めたのは上田だった。久保でも三笘でも南野でもない、いわばビッグネームではない選手の、ビッグネームでも難しいアシストと得点は、今後の対戦相手に新たな頭痛の種をプレゼントしたと言っていい。彼らが警戒心を呼び起こせば、その分、注目されがちだった選手の負担も減る。特に、結果的には1得点に終わったものの、上田の存在感は歴代のストライカーたちと比べても一歩抜きんでた感がある。高さ、反転、突破、シュートの際の落ち着き。これほど穴がなく、得点力のある日本人ストライカーは、わたしの知る限り、釜本邦茂ただ一人だった。

前半を3―0で折り返したことで、後半は勝負の場というよりは実験場になった。象徴的だったのがフォーメーションの切り替え。おそらく、メディアでは4バックと表記するところがほとんどだろうが、わたしには3人で守っていた前半のやり方から一人を減らした2バックにも見えた。3プラスウイングバック2枚ではなく、2枚プラス2枚。おそらくは引いた相手にてこずった際のオプションを探したかったのだろう。

相手に相当な脅威を与えていた中村を、前半だけで代えたのも興味深い。中村をそのまま使った方が攻撃はよりスムーズだっただろうが、その分、守備力は落ちる。重心を前に移しつつ、守りのリスクを減らしたいとの狙いが、伊藤の起用になって表れたのだろう。最終予選で戦う相手のレベルを考えれば、そちらの方がより現実に即してもいる。攻撃面での貢献を期待された伊藤に、守備で集中を欠く場面が見られたのも、収穫といえば収穫だった。

後半の中だるみに不満を覚える人はいるだろうが、個人的には、実験の場だったと思えば納得はいく。むしろ、やり方をいじりすぎて完全にリズムを失ったにもかかわらず、最終的にはきっちり2点を追加したことを評価したい。

結果的に、ミャンマー、シリアとの連戦は、どちらも5―0、それぞれの初戦と同じスコアで終わった。ただ、前回の対戦がドイツやトルコを粉砕して勢いに乗っていた時期だったのに対し、今回はアジア杯で大きな挫折を味わってからの対戦だった。日本からは勢いが失われ、対戦相手には「日本も無敵ではない」との空気が充満していた。それを木っ端みじんに打ち砕いたのだから、これはもう、見事というしかない。

今回の2次予選を通じた最大の収穫は、三笘、伊東抜きでも変わらぬ強さを発揮できた、ということだろう。一時は「戦術は三笘(伊東)」と揶揄(やゆ)されたほど、個人で局面を打開できる2人に頼るところは大きかった。

もちろん、三笘にしても伊東にしても、復帰してくればまた大きな戦力になるのは間違いない。ただし、その際は誰を外すべきかという論争も巻き起こるだろう。三笘にしろ伊東にしろ、もはや無条件でレギュラーを獲得できるような状況ではなくなりつつある。

加えて、最終予選にはパリ五輪組からも何人かの選手が昇格してくるだろう。油断は禁物だが、対戦相手からすれば相当に隙のない日本ができあがる。

ともあれ、この6月の2連戦で、アジア杯敗退の後遺症は完全に払拭されたといえる。強くて美しい日本が、復活しつつある。(金子達仁=スポーツライター)

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