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【コラム】金子達仁

世界基準に近づく日本 恋しい若年層への脚光

[ 2024年9月19日 06:00 ]

スペインを破って喜ぶU-20女子日本代表メンバー
Photo By AP

平沢政輝という選手を覚えていらっしゃる方がどれだけいるだろうか。88年に東海大一(現東海大静岡翔洋)を卒業した、左利きのストライカー。シュートの技術はもとより、ゴール前での異様なほどの落ち着きぶりが異彩を放つ、間違いなく日本サッカーにとっての宝となりうる才能だった。

だが、彼のサッカー人生は高校で終わる。終わらせたのは本人だった。同学年の礒貝洋光や沢登正朗らが大学への進学を決める中、平沢が選んだのは就職という道だった。

「もうこれ以上、家に迷惑かけられませんから」

最後の高校選手権終了後、日本高校選抜の一員としてデュッセルドルフの国際大会に出場した平沢は、当たり前のように言った。まだ日本にプロサッカーは存在せず、高校選手権以外の試合は、日本代表であっても当たり前のように閑古鳥が鳴いている時代だった。

彼は、こうも言った。

「サッカーは、もうやりきりましたんで」

高校選手権という大きな舞台がなければ、平沢たちの世代がサッカーに没頭することはなかったかもしれない。だが、高校選手権という舞台が大きくなりすぎたことで、燃え尽きてしまう選手たちもいた。未完成の選手たちに、最大のスポットライトを浴びせてしまう歪(いびつ)さが、才能ある選手からモチベーションを奪ってしまった。このときの高校選抜には、医師を目指し、後に心臓血管外科医となった暁星の村上浩というユース代表のストライカーもいた。

以来、若年層の大会を取り上げるにあたって、わたしの中には複雑な思いがあった。最大のスポットライトは、最高の大会、試合にこそ浴びせるべきではないか。そこに至らなければ注目されない社会になれば、トップカテゴリーに到達する前に燃え尽きる選手も少なくなるのではないか――。

高校選手権が日本サッカー界でもっとも集客力のあるイベントだった時代、W杯出場は夢のまた夢だった。A代表でかなわない夢は、五輪代表やユース代表に託された。サッカーを扱うメディアも、いまとは比べものにならないほどの熱量と物量で若年層の代表を取り上げた。

時代は流れ、高校選手権は、ユースは、五輪代表は、ファンにとっての最大の関心事、というわけではなくなった。日本のサッカーが世界基準に近づいた、あるいは追いつきつつあるのは間違いない。

ただ、人間とは勝手なもので、そうなったらそうなったで新たな不満が生まれてくる。

9月16日、コロンビアで行われているU―20女子W杯に出場している日本は、準々決勝でスペインを下し、ベスト4進出を決めた。男女、あるいはカテゴリーを問わず、内容では劣勢を強いられることがほとんどだったスペインを圧倒した、極めて大きな意味を持つ勝利だった。少なくとも、彼女たちが上のカテゴリーでスペインと再戦した際、恐れや劣等感に苛(さいな)まれることはない。

ところが、この歴史的な勝利を、テレビ、新聞といった主要メディアはほとんど取り上げなかった。スポニチの場合もいわゆるベタ記事で、写真入りで取り上げられたカズの試合よりもはるかに小さかった。

これはこれで、また寂しい。

今日の日本時間午前10時、ヤングなでしこたちはオランダと準決勝を戦う。いまは彼女たちの決勝進出と、もう少し大きな扱いを期待したいわがままなわたしである。(金子達仁=スポーツライター)

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