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【コラム】金子達仁

Jリーグに欠けているオランダ的な発想

[ 2023年5月25日 08:00 ]

コロンビア戦でMF山根(5)に指示を出すU-20日本代表冨樫監督
Photo By AP

サウジアラビアがアルゼンチンを食った。日本がドイツとスペインを倒した。これぞ「番狂わせ」。もともとは「番付が下の力士が上位に勝つ」というところから来た言葉らしい。(金子達仁=スポーツライター)

日本語の「番狂わせ」にせよ、英語の「巨人殺し(ジャイアントキリング)」にせよ、共通しているのは「勝ったのは弱者だった」と認定しているところである。

だとすると、いま地球の反対側、アルゼンチンで行われているU―20W杯で頻発しているのは番狂わせでも巨人殺しでもない。ウズベキスタンがアルゼンチンを倒しかけたのも、韓国がフランスを食ったのも、人口が300万人に満たないアフリカの小国ガンビアが、W杯出場経験のあるホンジュラスに競り勝ったのも、「弱者対強者」という図式にはまったく当てはまらない試合だった。

なにしろ、今大会はここまでのところ、12試合あった1次リーグの初戦のうち、実に10試合が1点差という実力伯仲ぶりである。ウルグアイに0―4で敗れたイラクにしても、崩されたというよりはセットプレーを含めた相手の高さにやられた形であり、そもそも、彼らはアジア予選で日本を倒してもいる。南米の古豪にまるで歯が立たなかった、というわけではない。

大会を見ていて改めて感じるのは、選手の質の均一化である。かつてのように、「ああ、ブラジルらしいなあ」とか「いかにもドイツだ」などと感じることがずいぶんと少なくなった。逆にどの国にも、ブラジル的であったりドイツ的な選手がいる。魔術は、魂は、限られた国の専売特許ではなくなった。

これは、Jリーグにとっても好機ではないだろうか。

情報がほぼ等しく全世界に広がるようになったことで、地球上のどこにでも才能が出現する時代になった。もちろん、そのことは欧州のスカウトたちも知っている。ただ、彼らがウズベキスタンやニュージーランドの選手の獲得に躍起になることは、現時点では考えにくい。

いま、欧州では多くの日本の選手がプレーしているが、これは必ずしも「日本サッカーのレベルがあがったから」という理由だけではない。日本人選手を獲得するリスクが減ったから、でもある。

欧州の側からすれば、同じ才能を持つ日本人とブラジル人。どちらを獲得するか――以前であれば、考える間もなく後者だった。ファンは、メディアは、外れのブラジル人は許せても、日本人は許せない。なぜそんな国の選手を獲ったのか、ということになる。獲る側がリスクを避けるのは当然のことだった。

しかも、潤沢な資金があれば、リスクを負ってまで市場を広げる必要もない。よほどの怪物でない限り、当面、欧州がニュージーランドやウズベキスタンの才能に触手を伸ばすことはないだろう。

以前から、川淵元チェアマンは「Jリーグはオランダ的な立ち位置を目指すべき」と公言している。わからないではない。ただ、現在のJリーグには根本的に欠けている部分がある。

発掘して転売し、利ざやを稼ぐ発想である。

ロマーリオやロナウドは、オランダから欧州でのキャリアをスタートさせた。彼らの成功は、オランダのクラブにも利益をもたらした。現時点では欧州勢のお眼鏡にはかなわず、しかし確かな才能を持つ無名の国の選手は、わたしからすると、公開前のヤフー株のようにも感じられるのだが。 (スポーツライター)

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