こう直さなければ裁判員裁判は空洞になる
裁判員裁判は導入後5年以上を経過した。裁判所など法曹関係者からおおむね順調に行なわれているとの評価がなされている。しかし、本当にそうなのか。刑事司法の全体の動きの中で、裁判員裁判を位置づけながら、裁判員裁判の現状分析し、今後どうすれば制度がよりよくなるかを提案する。
序章 裁判員裁判が直面している2つの危機
1 縮んでいく裁判員裁判
2 なぜ縮んでいく
3 見えてきた裁判員制度による危機
4 適正手続の破壊はこうして起こった
5 裁判員法に内在する市民参加制度の危機
6 裁判員裁判をどう直すか
第1部 裁判員裁判はどう行われているか――その実態と問題点
第1章 鹿児島地裁判決は市民参加の成果か
1 はじめに
2 判決後会見での裁判員
3 事件と証拠
4 鹿児島地裁判決のねじれた事実認定
5 奇妙な判決の原因
6 鹿児島地裁判決は市民目線の判決か
7 裁判官の経験則の限界
第2章 事実認定とは何かを改めて考える――最三判平22・4・27と鹿児島地判平22・12・10を素材に
1 裁判員裁判で「事実認定」が問題化
2 状況証拠による事実認定の構造
3 事実認定はどのように行われているか
4 鹿児島地裁判決は大阪母子殺害最三判の「基準」を守れたか
5 事実認定を決定するもは何か
第2部 裁判員裁判で適正手続が壊されて行く
第1章 保釈と自白の新たな関連
1 「保釈基準」は緩和されたのか
2 保釈と自白の関係
3 裁判員裁判での保釈
4 「罪証隠滅のおそれ」という特異な法制
第2章 被告側に自白を迫る「予定主張明示」
1 間接事実のみか補助事実や弾劾事実まで主張明示を強制された事例
2 問題点
3 現行刑訴の基本型
4 刑訴法316条の17への対応実態
5 人権擁護・真相解明を追求する弁護実践に期待
第3章 裁判員裁判のためにつくられた世界に例のない「開示制限」制度
1 市民を誤判に加担させるか
2 証拠開示原理と立法
3 第二次大戦直後開示のまま
4 現行開示制度の特異さ
5 誰が「開示制限制度」をつくったか
第4章 裁判員のPTSDが示す制度の基本問題
1 訴が提起した問題と論調
2 裁判員はこの証拠を見せられる必要はなかった
3 証拠を見せる方法の「工夫」の危険性
4 悲惨な証拠、死刑判決の心的外傷
5 死刑事件への参加
第5章 DNA鑑定(科学鑑定)と裁判員
1 DNAが冤罪をつくる
2 誤鑑定は故意か過失か
3 科学鑑定と「依頼人」
4 最高裁「科学証拠と裁判」指令
5 裁判員裁判とDNA鑑定
6 裁判を誤らせるDNA鑑定
第6章 裁判員判決への検察控訴
1 無罪は裁判員制度の成果と評価
2 市民参加判決での上訴制限
3 日本の特異な三審制の原因
4 三審制は被告のためか
5 裁判員無罪4事件の検察の対応
6 検察はなぜ控訴したか
7 裁判員制度で欠けた改革
8 裁判所の姿勢
9 三年後検証に向けて
第7章 検察審査会をどうするか
1 はじめに
2 「きわめて特異な」制度
3 不起訴の種類
4 「嫌疑不十分」事件で検審は何をするのか
5 「起訴猶予」事件で検審は何をするのか
6 「嫌疑不十分」と「起訴猶予」の混じり合い
7 検察が検審を動かす
8 検審をどうするか
第3部 市民の意見で判決されているか
第1章 裁判員裁判と合わない判決書
1 市民参加の判決スタイル
2 市民参加で判決理由を書けるのか
3 人はどこで判決を決めるのか
4 市民参加に自然な理由の表示
第2章 裁判員に量刑をさせるな
1 根本問題への関心
2 裁判員の量刑への戸惑い
3 量刑をどう説明しているのか
4 何によって刑を決めるのか
5 市民に量刑をさせるとは
6 司法改革審が決めてよいのか
7 量刑に積極な裁判員は
第3章 裁判員裁判の死刑判決
1 はじめに
2 はじめての裁判員裁判批判
3 今の裁判員裁判で少年事件を扱って良いのか
4 裁判員裁判で量刑判断ができるのか
5 「短期集中審理」で判断できるのか
6 裁判員裁判は死刑判決をできるのか
第4章 まず市民が「判断」する前提条件を─評議・評決の問題点
1 市民の意見とは
2 「在るべき市民」にするための裁判所の仕事
3 裁判員法ではどうなっているか
4 問題な裁判員への情報
5 評議は市民参加になっているか
第4部 裁判員制度発足と「三年後検証」を検証する
第1章 裁判員制度はこうして始められた─市民参加・官僚と国民の見方
1 はじめに─見る視点ごとの食い違い
2 国家の視点
3 国民が「裁判員制度」を見る視点─行きたくない、いらない、そして
第2章 裁判員制度検証の物差しは何か
1 物差しは何か
2 国民的導入ではなかった
3 弁護士、刑訴法の異常さに気付く
4 裁判所・蜜月、「市民判断」尊重の行方
第3章 裁判員制度で司法は良くなかったか─「裁判員制度の運用に関する意識調査」
1 「国民の検証」は?
2 国民の反応?
3 「経験者の声」は「経験者による検証」と違う
第4章 メディアの「3年後検証」を検証する
1 マスメディアに見える裁判員裁判は金環食
2 メディアの「検証」に欠けているもの
3 メディアの「経験者意見」
4 メディアの三年後検証
第5章 検証されない基本的な問題点
1 「裁判員=国民」か
2 説示なしでは
第5部 日本的司法の中で裁判員制度は
第1章 司法とは何だ そこで裁判員は何をするのか
1 司法とは何か
2 最高裁の憲法判断
3 「司法国家」
4 統治行為、政治問題と言わない理由
5 下級審
6 諫早湾干拓・政権者と司法の迷走
7 「司法権」を認めない政府 日本的司法国家はここまで来ている
8 外国とどこが違うか
第2章 そこで裁判員は何をするのか
1 刑事司法の特質
2 司法風土の中の裁判「員」制度
3 裁判員に「できる」のは?
第3章 裁判員はどこへ行くのか
1 やりたくない
2 見えてきた不具合
3 裁判員はどこへ行くのか
終章 裁判員制度 ここを直さなければ、市民参加司法にならない
1 はじめに
2 刑事手続を改める
3 裁判員法を改める
巻末資料
資料1 国際規約人権委員会第6回政府報告書審査総括所見(2014年7月24日〔刑事関係部分〕
資料2 日弁連第62回定期総会「取調べの可視化を実現し刑事司法の抜本的改革を求める決議」(2011年5月27日)
資料3 裁判員制度と周辺環境における提言書(2012年)
資料4 「市民参加で裁判員制度をより良くするための提言書」(2012年10月1日
関連書籍
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本体2,000円+税