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【特別寄稿】知的障害と認知症のこと――主に制度面から

又村あおい(一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会)

知的・発達障害のある人が認知症になったときに、制度面、とりわけ福祉サービスを利用する観点から課題になるのが、介護保険制度との関係です。このコラムでは、障害福祉サービスと介護保険制度との適用関係系や、認知症と知的障害のある人の場合にはどこに課題があるのか、概観したいと思います。

基本的な適用関係

知的障害のある人が利用する福祉サービス(障害福祉サービス)は、障害者総合支援法(以下、総合支援法)という法律が所管しています。総合支援法第7条は介護保険法の介護給付が総合支援法の個別給付(自立支援給付)に優先することを規定しています。

第七条(他の法令による給付等との調整)

自立支援給付は、当該障害の状態につき、介護保険法(平成九年法律第百二十三号)の規定による介護給付、健康保険法(大正十一年法律第七十号)の規定による療養の給付その他の法令に基づく給付又は事業であって政令で定めるもののうち自立支援給付に相当するものを受け、又は利用することができるときは政令で定める限度において、当該政令で定める給付又は事業以外の給付であって国又は地方公共団体の負担において自立支援給付に相当するものが行われたときはその限度において、行わない(下線は筆者)

他方で、法第7条を踏まえつつ、「自立支援給付に相当するもの」に該当するかどうかの実運用上の取扱いは、厚生労働省通知(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく自立支援給付と介護保険制度との適用関係等について)によって示されています。

それによると、サービス内容や機能から、障害福祉サービスに相当する介護保険サービスがある場合は、そちらを利用することになります。しかし、障害のある人が心身の状況やサービス利用を必要とする理由は多様なことから、介護保険サービスを一律に優先させることはしない旨が示されています。また、介護保険制度へ移行した場合に、認定された要介護度との兼合いで十分なケアを受けられないと市町村が判断した際には、「介護保険+障害福祉サービス」という組合せも認められます。

また、そもそも近くに介護保険サービス事業所がないケースや、介護保険に移行することができない(障害福祉側には存在するが、介護保険側には存在しない)サービスの場合には、当然ながら引き続き障害福祉サービスを利用することができます。具体的には、同行援護、行動援護、就労移行支援、就労継続支援など障害福祉サービス固有のもの、さらにはグループホーム(認知症対応を除く)や市町村事業である移動支援などが想定されます。なお、参考まで入所施設は介護保険適用除外となります(入所者は介護保険料を納めておらず、逆に介護保険のサービスも使えないため)。

認知症との関係性

以上を振り返ると、知的障害と認知症のことを福祉サービスの観点から考える際に課題となるのはグループホームとなります。というのも、2018(平成30)年4月から「共生型類型」という新しいサービスが始まり、たとえば日中活動支援を提供する「生活介護」については、介護保険制度のデイサービスを併設できることとなったため、事業所を移ることなく支援を継続できる仕組みがある程度は整えられたからです。ところが、住まいの場であるグループホームには共生型類型が設定されておらず、認知症の確定診断が出た知的障害者は、原則として住み慣れた障害者グループホームを出て、介護保険サービスの認知症対応型グループホームへ引っ越さねばならない現状があるわけです。同じグループホームといっても、障害側は昼夜分離で日中を他の場所で過ごすことができますが、介護側は昼夜一体のサービス提供であり、この点も大きく暮らしが変わることとなります。

暮らしの場はすべての基本ですから、ぜひ、今後は知的障害と認知症の研究において福祉サービスの利用に関する部分も掘り下げていただければ思います。

【執筆者略歴】

またむら・あおい。知的・発達障害のある人と家族や支援者を中心に構成される一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会の常務理事兼事務局長。障害児者福祉制度全般や、権利擁護施策、障害児者支援を通じた地域づくりなどが主な活動分野。主な著書に『あたらしいほうりつの本』(全国手をつなぐ育成会連合会、2018年)など。

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