【特別寄稿】『知的障害と認知症』が読みたくなる4つの理由
近藤寛子(一般社団法人ヨコハマプロジェクト)
待望の本がついに発刊される! タイトルは『知的障害と認知症⏤⏤家族のためのガイド』と、非常に明快である。本の著者は、英国スターリング大学にて高齢・介護予防・認知症分野の上級講師を務めるカレン・ウォッチマン博士である。ウォッチマン博士は知的障害、学習障害、認知症に関する社会福祉の仕事に長年携わってこられた現場経験者でもある。10年間活動した英国スコットランド・ダウン症協会では協会代表も務めた経験をもつ同博士は、本書にてダウン症の事例を多く取り上げている。
さて、本書を紹介させていただくにあたり、筆者の簡単な自己紹介をしたい。私は、ダウン症のある娘を出産したことをきっかけに知的障がいのある方のインクルージョン(共生)に関心を持つようになった。そして、「障がいのある方もない方も互いを認め合う社会」をめざす一般社団法人「ヨコハマプロジェクト」を2014年から運営している[i]。その活動のひとつに、ダウン症のある方のくらしを写真と文章で情報発信している。日々のくらしを扱う情報発信に携わっていると、障がいのある方のくらしが年々変わっていくのを感じる。一例をあげると、幼児・学齢期であれば、放課後の過ごし方や、成人期であれば、養護学校卒業後のキャリアパスの多様化、そして、医療の進歩である。一方で、高齢者のくらしについては、アクセスしやすい情報が限られ、イメージを持ちにくい。障がいのある子どもを持つ親の中には、親なき後の我が子のくらしに対し漠然とした不安があるかもしれない。
本書は、成人期における認知症のある方への今日的なアプローチを取り上げたものである。「知的障害と認知症」に関わりのあるあらゆる方にお勧めしたい。その理由を4つの切り口からご紹介させていただく。
1長期的視点から「支援制度の検討に携わる皆様」に
医学・医療の進歩、社会の変化により知的障害のある方の平均寿命が延伸する中、対高齢化ケアの改善・拡充が望まれて久しい。知的障害がある高齢者のケアのあり方とは? 英国ではどのような診断が行われているのか? 診断後の支援とは?
知的障害と認知症のある方に対し、医療支援だけでなく、医療以外の支援を含めた支援アプローチが重要であると著者は述べています。医療支援時に気をつけることは何か、家庭内でのサポートとして何をしたらよいのかなど、本書に書かれた実例を参考にしてみてはいかがでしょう。
2待ったなしの課題に直面する「知的障害のある高齢者ケアに携わる介護者の皆様」に
最近健康上の変化がみられる。これは高齢化によるものなのか、それとも認知症によるものなのか? 認知症かどうかをどうやって判断するのか? 起こりうる他の兆候とは? その兆候が意味することは? 適切なケアとは?
高齢者ケアは、ケースバイケースであり、マニュアル頼みではないため、介護者は、みずからの経験を頼りに手探りでケアに取り組んでいるかもしれません。介護者と同じ目線で綴られた著者の介護経験に基づく観察や具体的な対処例は、知的障害と認知症の関係に対する理解を深めることになるでしょう。
3先のことかもしれないが親なき後が気がかりな「知的障害のあるお子さまを持つご家族の皆様」に
将来に向け、家族が今から考え、準備を始められることは?
知的障害のある方の暮らしや支援形態が多様化し、医療支援をはじめ、ご本人やご家族を支援する日帰り支援、短所入所などの福祉的支援が広がりつつあります。知的障害のある方に認知症の可能性を示す兆候が現れた際、医療的サポートが必要な場合もあれば、ご本人の環境を整えられるよう、福祉支援を活用する場合もあると著者は述べています。本書で紹介された支援活用事例は、あなたがご家族の支援計画を考える際のヒントになるかもしれません。
4多職種連携研究に取り組む「知的障害や認知症の研究者の皆様」に
知的障害、認知症、高齢者……。これらの領域に関わる職種は多岐にわたるが、どのような連携が、支援をよりよいものにしていくのか?
著者は、「自分自身の面倒を見るとしたらその際のニーズはどのようなものか、まず考えてみよう」と、知的障害と認知症に対し距離を置かず、自分のことととらえることから議論を展開しています。その一方で、本書には支援に関わる数々の支援者が登場します。医療専門職連合(Allied Health Professionals)[ii]の活用は、日本でも参考にもなるかもしれません。
さて、ここまで読んでみて『知的障害と認知症⏤⏤家族のためのガイド』にどのような印象をお持ちになったでしょう? 日々の介護の悩みにも参考になり、そして、知的障害や認知症に関する豊富な調査結果は学術的であるとも言えるでしょう。知的障害と認知症に関心ある方の期待を裏切らない本です。ぜひお手に取ってみてください。
【執筆者略歴】
こんどう・ひろこ。一般社団法人ヨコハマプロジェクト代表。障がいのある方のインクルージョン支援活動に関わる。20年にわたり経営コンサルタントとしてのキャリアを積む他、近年は東京大学にて安全行政研究に従事。
[i] ヨコハマプロジェクト〈https://yokohamapj.org〉。
[ii] 英国における医療専門職の組織で、芸術療法士や音楽療法士、栄養士、作業療法士、理学療法士、言語療法士などの専門家がいる。