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- 【事例紹介】ケニアの「白い金」復活へ 天然蚊取線香で挑む産業再興とフェアトレード - 株式会社りんねしゃ(愛知県)
かつて「白い金」と称され、世界の生産量の9割を占めたケニアの除虫菊産業は、合成殺虫剤の普及や独占公社の経営悪化によりその輝きを失い、多くの農家が貧困に直面しました。この歴史ある産業の再興と、現地の小規模農家の所得向上を目指し、株式会社りんねしゃは、中小企業・SDGsビジネス支援事業(JICA Biz)を活用し、ケニア共和国で100%天然素材の蚊取線香の製造バリューチェーンを構築するための調査を実施しました。
失われた「白い金」の復活と高まる天然素材への需要
除虫菊は、天然の殺虫成分「ピレトリン」を含む貴重な植物であり、かつてはケニアの農家の生活を支える主要な換金作物でした。しかし、その生産量は激減し、世界のシェアは2%未満にまで落ち込みました。
近年、世界的に安全・安心な有機農薬や天然素材への関心が高まる中で、除虫菊への需要が再び注目されています。これを受け、ケニア政府も除虫菊産業の自由化や生産奨励策を打ち出し、国家レベルで産業再興を推進。特に除虫菊栽培に適したナクル郡では、郡政府が積極的に農家への苗配布や民間企業の誘致を進め、産業復活の旗振り役となっています。
菊花畑
収穫された菊の花
100%天然蚊取線香のバリューチェーン構築
愛知県津島市に本社を置く株式会社りんねしゃは、1977年の創業以来、無添加食品や天然生活雑貨の製造販売を通じて、食や環境、暮らしの安全・安心を追求してきました。中でも、天然の除虫菊を主原料とする蚊取線香は、30年以上にわたり同社の主力商品であり続けています。
同社の強みは、除虫菊粉末と、白樺木粉などの天然副原料を最適な配合で調整する独自のノウハウです。これにより、化学物質に頼ることなく高品質な100%天然蚊取線香の製造を可能にしてきました。同社は、除虫菊の生産から最終製品の販売まで一貫して行うバリューチェーン全体の運営ノウハウを有しており、これをケニアの農家グループへ積極的に移転することを目指しています。
また、同社は製品の高付加価値化のためのデザイン・ブランディングにも注力。その独創的なデザイン力は国内外で高く評価され、ニューヨーク近代美術館での展示実績を持つほどです。ケニアで製造される蚊取線香「KATORI OUTDOOR」も、現地のユーカリ、アカシア、コーンスターチなどの天然素材を副原料として活用し、製造コストを削減しながら、日本や欧州のハイエンド市場をターゲットとした製品開発を見据えています。
JICA Bizを通じた調査の成果と、フェアトレードによる新たな一歩
同社は、2017年に出席した国際会議でケニアの元除虫菊農家と出会ったことをきっかけに、同国での調査・検討を重ねてきました。そして、ケニアが最高品質の除虫菊生産地になりえること、また欧州市場への近接性が優位な蚊取線香製造拠点となりえることを確信し、同社の生存・拡大戦略の柱の一つとして位置付けました。2022年6月から2023年12月にかけてJICA Bizを通じて実施された「ケニア国 100%天然素材の蚊取線香の製造バリューチェーン構築による除虫菊産業再興にかかる案件化調査」では、以下の3つのビジネスモデルが想定されました。
1. ナクル郡の除虫菊生産者からの蚊取線香の買い取りと販売
2. 契約農家からの除虫菊の買い取りと日本への輸出販売
3. 現地自社工場またはパートナー工場での蚊取線香の製造と販売
これらのビジネスモデルを通じて、小規模農家の収入向上、除虫菊栽培の再開や新規参入による産業の持続可能性向上、そして現地での「6次産業化モデル※(注記)」の実現を目指してきました。特に、農業に従事する女性の割合が高いケニアにおいて、女性農家を巻き込むことで、技術普及と所得向上が期待されています。
そして、この調査の成果を具体化する重要な一歩として、2025年5月より、同社の主力商品である菊花せんこうにおいて、フェアトレードによるケニア産除虫菊原料の輸入が正式に開始されました。この実現の背景には、プロジェクトを通じてケニア国内で初となる「Nakuru Pyrethrum growers cooperative Union LTD(ナクル郡除虫菊生産協働組合同盟)」が設立され、同社と現地農家との間で直接的な買い取り(フェアトレード)が可能になったことがあります。
同社は、北海道での自社栽培と並行して、ケニアの連携農家から不足分の原料をフェアトレードで買い取る多角的な調達体制を確立しています。これにより、農家の経済的安定だけでなく、現地で栽培される天然原料を活用した防虫技術が普及し、環境にやさしい安全な製品の現地生産能力向上にも繋がります。
以下のパートでは同社で本調査に携わった株式会社りんねしゃの飯尾氏にお話を伺いました。
ブランディング戦略について
JICA:貴社製品はデザイン性も高く評価されています。ケニアで製造する天然成分100%のオーガニック蚊取り線香を、日本や欧州のハイエンド市場に展開する上で、どのようなブランドストーリーを伝えていきたいですか。「Made in Kenya」という価値を、どのように高めていこうとお考えでしょうか。
- 飯尾氏:現在のグローバリゼーションにおいては、原料を起点とするあらゆる調達を含め 、国産100%で製造できる商品開発は難しくなっているのが現状です。しかし国産100%がブランディングに有効なのは、ある意味国内生産というイメージが協働であり、協同で、ストーリー上連続性があると思われるという、思い込みに頼っているにすぎません。そして、国内産であろうが、海外産であろうが、実際に必要なのは、互いに、協働、協同が達成できているかどうかだと思います。
むしろ、世界とつながり、テーマ性や役割分担、地域の課題や社会の課題解決に向け、距離や環境や国を超えて連動できる事こそ真のグローバリゼーションだと思います。「Made in Kenya」とか「Made in Japan」とかではなく、日本の製造メーカーとケニアの農家が、互いの社会課題解決に向け、互いにできる事を分担し、より良い商品をお客様に届ける。それが認知され、しっかり流通できれば、お互いに、課題が解決できるという事実をしっかりと伝えることが重要だと思っています。我々が欠けても、ケニアの農民が欠けてもできないつながりのある商品を世界に届けるビジネスに成長させる、それが一番大切なことだと思います。
協同組合設立について
JICA:ケニア国内初となる「ナクル郡除虫菊生産協働組合同盟」の設立は、本調査の大きな成果だと思います。文化や商習慣の違う現地で、小規模農家の方々を一つの組織にまとめ上げる上で、最も困難だった点は何でしたか。また、どのようにして彼らとの信頼関係を築かれたのでしょうか。
- 飯尾氏:それは、本当に大変でした。ただ、初めから互いのメリットと可能性と、独自性をコツコツと伝えました。僕たちは、本調査で「支援」を謳ったのではなく、協同の「可能性」を伝えてきました。例えば、ケニアの農家は、新しいことにチャレンジするのではなく、いまある生産物の利用法であったり付加価値の向上であったりと、既存の概念に対する考え方や見え方の転換を促してきました。そうすることにより、今までゴミだと思っていたものや、低価値だと思われていたものが、もっと活用できるという新しい気付きや発見につながり、価値がある挑戦だと思っていただけるように工夫してきました。
そして、その挑戦は、複雑でなく、投資を必要とせず、いまこの場で、すぐに始められるように、地域内生産物や調達物ですべて賄えるように、日本の技術の現地ローカリゼーション化を徹底的に調査し、ケニア産というオリジナル商品に作り替えたという点が、農家が主体的になって組織化できた理由だと思います。日本の我々の商品を作るのではなく、ケニアの農家が除虫菊農家オリジナル商品を地域で生産し、世界に売り出せるというイメージを共有してもらえることが大切でした。
「6次産業化」の現実的な課題について
JICA:原料生産(1次)から加工(2次)・販売(3次)までを一貫して行う6次産業化の実現は、現地の収益向上のための重要な目標となっています。しかし、報告書からは粉砕機など設備投資の課題も読み取れました。ハード面以外に、人材育成や現地でのビジネスパートナーとの連携など、ソフト面で感じた課題や乗り越えるべき壁はありましたか。
- 飯尾氏:特に壁は感じませんでした。ソフト面(現地関係者)は日本側の関係者も驚くほどに初めからとても協力的でした。なぜかというと、シンプルにわかりやすく、「あ、自分達でもできるし、自分で使いたい!」と思ってもらえるように事前に思考を重ねプレゼンを作り込みました。これはもともとNGO活動に所属し、途上国の現地の農家の課題や思考の癖、指導の際に気を付ける事など、長年の経験で培ったノウハウが役に立ちました。そして、なにより、自分事にできるかどうかの重要性を学んできていましたので、はじめから、「自分事としてチャレンジするか価値を感じてもらえる」かどうかの設計を丁寧にやってきた成果だと思います。明確なメリットと同時に、「自分たちで横を見渡して、あ、隣の奥さんと一緒に作ったら楽しいし、売れるなら収入になるし、そのために何か買ったりする必要がない!」といったようなシンプルなイメージを抱いてもらえることが大切だと思います。あと、僕自身が農家であり、除虫菊農家の課題をすぐに理解できた点も大きかったと思います。なので、農家グループとは肥料の問題や栽培技術の問題、除虫菊以外の野菜の育て方など、一見関係のないような話題も一緒に話し合った事も、大切だったと思います。
- あと気を付けたのは、現地の農家グループにとって、オーバースペックにならない様にする事でした。例えば、日本で売るなら曲がっていてはいけないけど、ケニアで売るなら、(使うなら)曲がっていても気にしないというようなポイントは、適正化とスピード感のほうを重要視し我々のクオリティーを強要しないようにしています。なので、商品品質や原料品質も段階を設けて成長できるように設計しました。その点が、調査段階から、普及実証に行かなかった理由でもあります。普及できるか実証するよりも、調査の段階で市場に挑戦し、切磋琢磨しながら普及できるように成長させることの方が大切だと思ったからです。農家グループが早くビジネスを始めたがっていたことも重要でした。ちなみに、これも、実際に日本国内の6次産業化する場合でも同じような課題に直面する事が多かったので、ケニアでも同じだと思いました。OJTが大切という事だと思います。
同社の継続的な取り組みは、ケニアの除虫菊産業に再び活気を取り戻し、地域の活性化と人々の豊かな生活や健康に貢献する挑戦です。「菊花せんこう」が社会課題の解決に貢献する役割を果たすことを目指し、同社はこれからも持続可能な発展のモデルを追求していきます。
■しかく案件概要はこちら↓
https://www2.jica.go.jp/ja/priv_sme_partner/document/1178/Ac191020_summary.pdf
■しかく本調査の業務完了報告書はこちら↓
https://libopac.jica.go.jp/images/report/1000051251.pdf
■しかく中小企業・SDGsビジネス支援事業(JICA Biz)についてはこちら↓
https://www.jica.go.jp/activities/schemes/priv_partner/activities/sme/index.html
※(注記)6次産業化モデルとは、農林漁業者(1次産業)が、自ら生産した農林水産物の加工(2次産業)や、流通・販売、サービス提供(3次産業)までを一貫して手掛ける取り組みのこと。
菊花せんこう
蚊取線香製造訓練のワークショップの様子
調査時の様子
本事業を通じ、ケニアの除虫菊農家と共にケニア国内では初事例となる「Nakuru Pyrethrum growers cooperative Union LTD:ナクル郡除虫菊生産協働組合同盟」を設置し、農家からの直接買い取り(農家とのフェアトレード)を可能にしました。
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