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2025年8月

2025年8月31日 (日)

拡大志向の大国ナショナリズムから収縮指向の小国ナショナリズムへ?

最近の右翼界隈の動向を見るにつけ、明治から昭和、戦前戦後を通じて、軍事的か経済的かの違いはあれ、いずれにしろ狭い日本にゃ住み飽きた、外国に雄飛するぜ、大日本帝国、大東亜共栄圏、世界に冠たる経済大国ニッポン等々と、拡大志向の大国ナショナリズムが右翼界隈のベーシックな感覚であり、それにいじけた感覚でちまちまとケチをつけるのが左翼界隈(とりわけ辺境最深部に退却したがるドロサヨ)であったことを考えると、ものの見事にそれが逆転してしまっていることに、いまさらながら嘆息を禁じ得ない。

大きく大きく大きくなあれ、大きくなって天まで届け!という拡大志向の大国ナショナリズムが右翼界隈から雲散霧消し、小さく小さく小さくなあれ、小さくなって蟻さんになあれ!という収縮指向の小国ナショナリズムがここまで制覇するに至ったというのは、この間の日本経済の没落ぶりを考慮に入れても、いささか急激に過ぎませんかね。

2025年8月31日 (日) 雑件 | 固定リンク | コメント (4)

女性における役職者割合 6.44%@『労務事情』2025年9月1日号

B20250901 『労務事情』2025年9月1日号に「女性における役職者割合 6.44%」を寄稿しました。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/b20250901.html

にじゅうまる数字から読む 日本の雇用 濱口桂一郎
第38回 女性における役職者割合 6.44%

2025年8月31日 (日) | 固定リンク | コメント (0)

2025年8月30日 (土)

水島治郎『オランダは、「自由の国」だったのか』

000064073342025_01_234 水島治郎さんから『オランダは、「自由の国」だったのか アンネ・フランクの連行された日』(NHK出版)をお送りいただきました。「世界史のリテラシー」というブックレット風のシリーズの一冊で、2年前にみすず書房から出された『隠れ家と広場』の一般向けバージョンという感じですが、アンネ・フランクの一家やその関る人々のその後の運命も詳しく書かれています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2023/06/post-838bc0.html

アンネが生きた「隠れ家」と「広場」から見る、国際都市アムステルダムの光と影――

「世界を変えた本」の一つ『アンネの日記』。その著者である少女が求めたのは「自由」、ただそれだけだった――。世界の今を解くカギは、すべて歴史の中にある。誰もが一度は耳にしたことがある「歴史的事件」と、誰もが疑問を抱く一つの「問い」を軸に、各国史の第一人者が過去と現在をつないで未来を見通すシリーズの第11弾! 「自由」を求めてドイツから移り住んだ一人のユダヤ人少女が生きたその国は、本当に「自由の国」だったのか? アンネ・フランクが連行された1944年8月5日を起点にオランダの近現代史を振り返り、「不自由の上に成り立つ自由」について考える。

水島さんといえば政治学者で、最近はポピュリズム関係で有名な方ではありますが、出発点はオランダ政治で、オランダにはいろいろと思い入れの深いものがあるのでしょう。 いまから四半世紀以上前に、当時隣国ベルギーのブリュッセルに勤務していた私はときどき車を飛ばしてオランダに行き、アムステルダムの街を歩いたこともあるので、本書を読みながらかすかな記憶を呼び起こしていました。

[事件の全容]
第1章 アンネ・フランク一家は、なぜオランダで捕まったのか
[事件の背景と結末]
第2章 ドイツ占領下のオランダで、ユダヤ人はいかに追い詰められたのか
[同時代へのインパクト]
第3章 アンネとつながった‟ほんとうの"友だち
[後世に与えた影響]
第4章 オランダは今も「自由の国・寛容の国」なのか

2025年8月30日 (土) | 固定リンク | コメント (0)

2025年8月29日 (金)

野川忍『労働法[第2版]』

09545 野川忍さんより『労働法[第2版]』(日本評論社)をお送りいただきました。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/9545.html

労働法のスタンダードな体系に基づく本格的体系書。働き方改革やコロナ禍の労働関係の対策などを踏まえ、初版を大幅アップデート。

労働法のテキストは、一方の極にほぼ毎年改訂という川口美貴さん、大判と中判それぞれ1年おきという水町勇一郎さんのような方がいますが、こなた野川さんのテキストは、2018年の初版から7年ぶりの第2版になります。

初版の時に書いたことですが、第6章として「国際的観点から見た労働法制の展開」があり、EU労働法までかなり詳しく紹介されているのは類書にない特徴でしょう。

また、これは中の記述をある程度じっくり読むと感じられるのですが、いわゆる教科書的な記述というよりは、ある論点について論文でも書いているかのようにやや身を入れて突っ込んで論じているところがいくつもあるのですね。就業規則法理とか解雇法理とか、野川さんがこだわりのある論点では特にその傾向が強いようです。

2025年8月29日 (金) | 固定リンク | コメント (0)

2025年8月28日 (木)

内務省研究会編『内務省』@『労働新聞』書評

71mcy2cmphl240x400 『労働新聞』の書評、今回は内務省研究会編『内務省』(講談社現代新書)です。

https://www.rodo.co.jp/column/204674/

新書としては異例の550頁を超える分厚さで、オビの惹句に曰く、「なんだ?この『怪物』は...現在の警察庁+総務省+国土交通省+厚生労働省+都道府県知事+消防庁...」。戦前存在した巨大官庁を、総勢25人の研究者たちが、通史とテーマ別とコラムを分担執筆した本格的歴史書だ。比類ない巨大官庁でありながら、2度の被災に加えて敗戦前の資料焼却、戦後の解体といった事情から、内務省については資料的制約が大きいため、日本近代史には必ず出てくる登場人物なのに、主人公にした著作は極めて少ない。私も、戦前の労働行政史ではその主役は内務省社会局なのに、社会局以外の内務省のことはよく知らなかった。

内務省のコアに当たるのは地方行政と警察行政だ。前者は藩閥政府による選挙干渉から、政党内閣による局長や知事ポストの争奪戦など、まさに政治闘争そのものの世界であるし、後者は特高警察による左翼や右翼の取締りで有名だ。とりわけ後者は、それが理由で戦後GHQによって内務省が取り潰されたという都市伝説が広まっていた。しかし本書を読むと、内務省には神社行政、衛生行政、土木行政、社会政策、防災行政などなど、実に広範な領域が含まれていたことが分かる。

意外だったのは通史の第4章(米山忠寬)で、通念とは異なり、既に戦前から内務省の地位は低下していたのであり、占領期の突然の解体も「最後にとどめを刺したのがアメリカ・GHQというだけのことであって、すでに戦時日本の状況の下で弱体化が進んでいたというのが実態」とした。「内務省解体による民主化」という古典的構図から脱却すべきとの指摘は新鮮だ。

テーマ編第2章の神社行政(小川原正道)では、南方熊楠が批判した神社合祀政策が、欧米型田園都市構想に基づくものであったことを明らかにしている。「床次次官も、欧米で視察した荘厳なキリスト教会に比して、全国に散在する由緒のない小規模な村社や無格社を問題視したようで、一町村一社を原則として壮麗な社殿を備えた礼拝体系を整備するよう期待し、内務省は小規模の神社を中心に合併を進め」たという。

さて、本書は内務省の膨大な所管分野をほぼカバーしているが、そこから見事に脱落している領域がある。まことに残念ながら労働行政だ。テーマ編第6章の社会政策(松沢裕作)が取り上げているのは、恤救規則から救護法に至る社会福祉行政であって、内務省社会局の第二部の担当に限られる。第一部が所管していた工場法改正や労働組合法案など労働分野が本書で取り上げられていないのは、取り上げるに値しないと思われたためか、担当できる研究者がいなかったためか。いずれにせよ、そこを掘り下げてきた私としては、もう20ページほど増やしてでも書いてほしかったと思わざるを得ない。

実は正確にいうと、社会局第一部の話題はちらりと出てくる。日本女子大学校を卒業後雇員として働いた後、工場監督官補に任用され、連日工場を臨検したダンダリン第1号の谷野せつが、女性官僚の源流として紹介されている。

2025年8月28日 (木) 書評 | 固定リンク | コメント (0)

2025年8月27日 (水)

岩出誠『〈教養としてのリーガルマインド〉労働法入門』

84b6e389a1ae45c190475ae61385828c 岩出誠さんより『〈教養としてのリーガルマインド〉労働法入門』(民事法研究会)をお送りいただきました。

https://www.minjiho.com/book/b10143727.html

教養として身に付けておきたい幅広い知識の一つとして、法律の知識を学ぶことが楽しくなるような入門書として発刊するシリーズ3作目。

「なぜ労働者が労働法を学ぶべきか」「どのような社会的背景のもとで法が整備されたのか」「私たち一人ひとりは、どのように労働法とかかわるべきか」といった問いに向き合いながら、「教養としての労働法」の本質を探る!

「フリーランスが労働法で保護されるようになった?」「法定外休日は振替休日と混同されがち?」「ハラスメントの判断基準は?」等々、社会人に身近な疑問を織り込んだ1冊!

はしがきによると、本書は「大学で労働法学を正式に学んでこなかったビジネスマンや、大学の法学部を卒業したが、しっかりとした労働法知識を学ばないままビジネスマンとして仕事をするようになり、あらためてビジネスをするにあたって労働法の法律知識や論理的な法的考え方の重要性を認識した多くの人」向けのリスキリングの本だということです。

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2025年8月26日 (火)

『高橋俊介オーラル・ヒストリー』

Ta 例によって労働史オーラルヒストリーのシリーズを梅崎、南雲、島西トリオからお送りいただきました.今回は『高橋俊介オーラル・ヒストリー』です。

高橋俊介さんという方は、私は『成果主義』等の本でしか存じ上げなかったのですが、なかなか面白い経歴なんですね。東大で航空工学を学んだ後なぜか国鉄(JRの前の公共企業体時代)に入り、動労との労使交渉の薄暗い裏舞台とかも垣間見て、プリンストンに留学して、国鉄を辞めちゃった。辞めるときに、当時の秘書課長の井出さん(国鉄改革三羽がらすの一人で後にJR西日本社長)が激怒したエピソードが紹介されてます。「会社を途中で辞めるヤツなんて許せない」と。これってちょうど、三羽がらすで国鉄改革の陰謀をめぐらしていた頃ですね。

その後マッキンゼーで大前研一に鍛えられ、パリバを経て、ワイアットカンパニーで人材マネジメントのコンサルとして名を上げていきます。この頃から本をたくさん出していますね。

私はどちらかというと、成果主義の鼓吹者みたいな感じで見てましたが、本人が後から振り返って曰く:

・・・でも、人事部長がぼそっと言うんですよ。「結局、50代とかの給料を抑えるのにどうしても必要なんですよね」と。本当のことを言うと、団塊の世代の50代の給料を抑えるために成果主義をやろうとしたけど、成果主義という言葉は手垢がついてしまったと。今度は、バブル入社世代が50代になってくる。どうやってやろうかといったら、要は「ジョブ型、いただき」ということなんですよ。成果主義と同じことの繰り返し。そうすると、またジョブ型も手垢がつくかも知れない。・・・

いやまあ、人事コンサル界隈の流行の実相はまさにそうだったのだろうとは思いますが、ジョブ型にそういう間違った手垢がついてしまうのは、まことにつらい話ではありますが。

ちなみに、アメリカの本当のジョブ型(ブルーカラーの労働組合版ではなく、ホワイトカラーのヘイシステム)に対しても、それが公民権法への対応として作られたものだという冷静な目で見てます。このあたり、きちんと分析している学者があんまりいないので、実は貴重な話です。

・・・64年に新公民権法ができて70年代に入って、AT&TとかGMとか名だたる大企業が、それこそ黒人女性とかいろんな人から「昇進で差別を受けた」といって訴えられた。そのときに負けているときの賠償金が、数億ドルといってましたから、当時でいう数億ドルですから、金額もすごい。あと、社会的にも問題だと。

だから、当時はいかにして、インカンベント(在職者)を人として見てない、というのが担保できないと、裁判で負ける気がします。だから、ヘイというのはすごいよかったのは、職務記述書があったら、ああいうのはアナリストがポイントを付けるでしょ。だから、インカンベントを見てない。だから、それを証明できると。だから、人の評価なんて危なくてできないと。・・・

だから、職務給=成果主義・実力主義という幻想があるんですけど、職務給ががっちりいったのは、やっぱり人の評価をしないというね。職務でしか評価しないというのが当時、ニーズがあったという、それを緻密にやっていく。でも、実際のところは・・・・・・だけど、たてまえとしては、裁判になったときに非常に安全だというのがそこにはあったんだろうと。

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2025年8月25日 (月)

韓国「黄色い封筒法」成立

Iiee 先週紹介していた韓国の「黄色い封筒法案」ですが、昨日成立したようです。

革新系のハンギョレ新聞は、「労働基本権がまともに行使できなかったせいで傾いた労使関係を正常化する第一歩」と賞賛し、

【社説】「黄色い封筒法」が国会で可決、労使関係の新たな枠組み作りが始まった

保守系の朝鮮日報は、強行採決だと非難していますが、

日曜日も立法暴走 韓国国会、共に民主主導で親労組「黄色い封筒法」強行採決

中身は記事からわかりますが、どこかに条文レベルで解説したのがないかと探したら、ちょうど今日付で、脇田滋さんが詳しい解説を書いていて、そこに条文がどうなったかも載っていました。

https://hatarakikata.net/20052/

(a)使用者(元請け)範囲の明確化・拡大(第2条2号)

  • 【現行法】 使用者とは、事業主、事業の経営担当者又はその事業の勤労者に関する事項について事業主のために行動する者をいう。
  • 【改正案】 使用者とは、事業主、事業の経営担当者又はその事業の勤労者に関する事項について事業主のために行動する者をいう。この場合、勤労契約締結の当事者でなくても勤労者の勤労条件に対して実質的で具体的に支配・決定できる地位にある者も使用者とみなす。

(d)損害賠償の制限(第3条·新設第3条の2)

  • 【現行法】 使用者はこの法による団体交渉または争議行為によって損害を受けた場合に労働組合または勤労者に対してその賠償を請求することができない。
  • 【改正案】
    1 使用者は、この法による団体交渉又は争議行為その他の労働組合の活動により損害を受けた場合に、労働組合又は勤労者に対してその賠償を請求することができない。
    2使用者の不法行為に対して労働組合または勤労者の利益を防衛するためにやむを得ず使用者に損害を加えた労働組合または勤労者は賠償する責任がない。
    3 裁判所は団体交渉、争議行為、その他の労働組合の活動による損害賠償責任を認める場合、各損害の賠償義務者別に帰責事由と寄与度により個別的に責任範囲を定めなければならない。
    4 身元保証法第6条にもかかわらず、身元保証人は団体交渉、争議行為、その他の労働組合の活動によって発生した損害に対しては賠償する責任がない。
    第3条の2(責任の免除)使用者は、団体交渉または争議行為、その他の労働組合の活動による労働組合または勤労者の損害賠償など責任を免除することができる。

2025年8月25日 (月) | 固定リンク | コメント (0)

中林真幸さんの拙著書評@『JIL雑誌』

782_09 本日発行の『日本労働研究雑誌』2025年9月号は、「労働研究における教育」が特集ですが、書評欄では、中林真幸さんが拙著『賃金とは何か』を書評していただいています。

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2025/09/index.html

書評

濱口桂一郎 著『賃金とは何か─職務給の蹉跌と所属給の呪縛』

中林 真幸(東京大学教授)

詳細に内容を紹介いただいた上で、

・・・本書は法令、産官労のエリートが編集した報告、エリートのオーラルヒストリー、それらを整理した歴史叙述の解釈から成り立っており、それぞれの章において言及されている制度が、どの程度、実装されていたのかを実証するものではない。その意味では、似た問題意識を打ち出した岡崎・奥野(1993)等と同様、政策史ないしは政策思想史の議論である。しかし、それぞれの時代のそれぞれの立場のエリートに世界がどう見えていたかを再現すること、それ自体に意味があるので、この特徴は本書の価値を貶めるものではない。拙評ではその大所高所の議論に乗って三つほど、感想めいたことを書いてみたい。 ・・・

と、3つのことが書かれています。一つ目は戦時統制期における同業組合の協定賃金という超ミクロな話、二つ目は逆に超マクロに、ジョブ型とメンバーシップ型の人類史的な構図の話、三つ目は江戸時代以来の日本のホワイトカラーの働き方の話です。

81tj1p4qhol_sy466__20250825144201 多分、業界で普通に本書の書評を依頼されるような人ではそこまで話が及ばないような所まで話が上っていって、原著者自身にもリフレクティブでありました。

海老原嗣生『「就職氷河期世代論」のウソ』

9784594101091 海老原嗣生さんより『「就職氷河期世代論」のウソ』(扶桑社新書)をお送りいただきました。

https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594101091

"見捨てられた1700万人"はそこまで悲惨ではなかった――。
現在40〜50代となった「就職氷河期世代」(1993〜2004年卒業)を、雇用のプロが現場経験とデータで徹底検証。
既にビジネス誌や経済社会番組「PIVOT」「ReHacQ」などで氷河期世代論争を引き起こしている筆者が、炎上覚悟で世に問う。

<本書の内容の一部>
2025年夏の参議院選挙でも各党がアピールする、就職氷河期世代の支援策。だが、筆者は「現実を無視して"世代"で括ることは、政策をゆがめる」と批判する。

・「多くが就職できず、熟年非正規があふれ、貧困で年金も少なく、国に見捨てられた...」という氷河期世代イメージは、誇張である。
・氷河期世代の非正規(40代前半)のうち大卒男性は4%程度、大半は正社員化している。非正規の大多数=女性と非大卒こそ支援されるべきだ。
・氷河期より下の世代も、年収は低いままである。
・低年金者は、氷河期世代よりバブル世代のほうが多い。
・"見捨てられた"はウソ。政府は当初から対策を打ち、令和以降も年200億円前後の氷河期世代支援予算が使われた。
・マスコミ・政治家・官僚が、就職氷河期問題を好きなワケ。
・どの世代にもいる、本当に困窮している人を支援するには?

昨年出た近藤絢子さんの『就職氷河期世代』(中公新書)がアカデミックバージョンだとすると、タイトルから本文の表現方法に至るまで、メディア戦略バージョンという感じです。

日本では欧米に比べて、学校卒業時の不況の影響が、より長く後になるまで及ぼし続けるというのは確かですが、とはいえこの30年間の間に、正社員の世界にインクルードされてきているのも事実なのに、政治家ととりわけマスコミが鉄板のネタとして取り上げ続ける「就職氷河期世代」問題が相当程度に解決されてきてしまっているという「不都合な真実」がきちんと伝わっていないというのが、海老原さんの義憤です。そこを何とかして説得しようとするため、時としてやや言い過ぎの気味もあったりしますが、概ね同感できるところが多いです。

2025年8月25日 (月) | 固定リンク | コメント (0)

文化左翼が濃厚なのはむしろ参政党なんだが

参政党さんの質問主意書が文化的マルクス主義がどうたらこうたらいうてるとかで「文化左翼」が話題になっているようですが、いやいや文化左翼の傾向が濃厚なのは、むしろ当の参政党さんの方ではないかという気がします。

その「文化左翼」を徹底的に批判したジョセフ・ヒース&アンドルー・ポター『反逆の神話』を取り上げた一昨年の『労働新聞』書評を再掲しておきますね。

「有機食品だの、物々交換だの、自分で服を作るだの、やたらにお金の掛かる「シンプルな生活」とか「エコロジーな世田谷自然左翼」とか、挙げ句は「ホメオパシーなど代替医療の蔓延による医療崩壊」とか、一番その傾向が強いのは、某西麻布のお母さんが軽妙にからかってる方々であるように思われます。

https://www.rodo.co.jp/column/145984/

「文化左翼」を鋭く考察

原題は「The Rebel Sell」。これを邦訳副題は「反体制はカネになる」と訳した。ターゲットはカウンターカルチャー。一言でいえば文化左翼で、反官僚、反学校、反科学、極端な環境主義などによって特徴付けられる。もともと左翼は社会派だった。悲惨な労働者の状況を改善するため、法律、政治、経済の各方面で改革をめざした。その主流は穏健な社会民主主義であり、20世紀中葉にかなりの実現を見た。

ところが資本主義体制の転覆をめざした急進左翼にとって、これは労働者たちの裏切りであった。こいつら消費に溺れる大衆は間違っている! 我われは資本主義のオルタナティブを示さなければならない。そこで提起されるのが文化だ。マルクスに代わってフロイトが変革の偶像となり、心理こそが主戦場となる。その典型として本書が槍玉に挙げるのが、ナオミ・クラインの『ブランドなんかいらない』だ。大衆のブランド志向を痛烈に批判する彼女の鼻持ちならないエリート意識を一つひとつ摘出していく著者らの手際は見事だ。

だが本書の真骨頂は、そういう反消費主義が生み出した「自分こそは愚かな大衆と違って資本が押しつけてくる画一的な主流文化から自由な左翼なんだ」という自己認識を体現するカウンターカルチャーのあれやこれやが、まさに裏返しのブランド志向として市場で売れる商品を作り出していく姿を描き出しているところだろう。そのねじれの象徴が、ロック歌手カート・コバーンの自殺だ。「パンクロックこそ自由」という己の信念と、チャート1位になる商業的成功との折り合いをつけられなかったゆえの自殺。売れたらオルタナティブでなくなるものを売るという矛盾。

しかし、カウンターカルチャーの末裔は自殺するほど柔じゃない。むしろ大衆消費財より高価なオルタナ商品を、「意識の高い」オルタナ消費者向けに売りつけることで一層繁栄している。有機食品だの、物々交換だの、自分で服を作るだの、やたらにお金の掛かる「シンプルな生活」は、今や最も成功した消費主義のモデルだろう。日本にも、エコロジーな世田谷自然左翼というブルジョワ趣味の市場が成立しているようだ。

彼ら文化左翼のバイブルの一つがイヴァン・イリイチの『脱学校の社会』だ。画一的な学校教育、画一的な制服を批判し、自由な教育を唱道したその教えに心酔する教徒は日本にも多い。それがもたらしたのは、経済的格差がストレートに子供たちの教育水準に反映されるネオリベ的自由であったわけだが、文化左翼はそこには無関心だ。

本書を読んでいくと、過去数十年間に日本で流行った文化的キッチュのあれやこれやが全部アメリカのカウンターカルチャーの模造品だったと分かって哀しくなる。西洋的合理主義を脱却してアジアの神秘に身を浸して自己発見の旅に出るインド趣味のどれもこれも、伝統でも何でもなくアメリカのヒッピーたちの使い古しなのだ。その挙げ句がホメオパシーなど代替医療の蔓延による医療崩壊というのは洒落にならない。

しかし日本はある面でアメリカの一歩先を行っているのかも知れない。反逆っぽい雰囲気の歌をアイドルに唱わせてミリオンセラーにする、究極の芸能資本主義を生み出したのだから。

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2025年8月22日 (金)

賃上げ与党に減税野党という構図でいいのかね?への回答

2025082100000109mai0001view 連合が、参院選の総括原案で、支持政党のはずの立憲民主党・国民民主党の消費税減税公約を批判するとともに、

連合の参院選総括原案、立民・国民の消費税減税公約を批判...議席伸び悩んだ立民は「党存続の危機」

芳野会長が石破首相の賃上げ発信に対しては「評価に値する」と評したそうですが、

連合・芳野会長、石破首相の賃上げ発信「評価に値する」

いやまあ、世界の政治の常識からすれば、それはそうやろなあ、という感想しか漏れてきませんがな。

再三再四 賃上げ与党に減税野党という構図でいいのかね?

なんにせよ、野党が減税ポピュリズムに突進する一方で、与党は賃上げを旗印に掲げるようで、まことに西欧の政党政治を見慣れた目には、賃金労働者の支持を背景にした社会民主主義勢力対お金持ちの支持を背景にした自由主義勢力の、きれいな対立図式にはまり込んでしまっておりますな。ほんとにそれでいいのかね。

というか、もちろん、それではまずいと思っている人もいっぱいいるわけで、それこそ、わたくしを呼んでいただいた立憲民主党の方々は、賃上げ(を始めとする労働問題)こそを旗印にしようと一生懸命に考えておられるわけですが、そういうまっとうな方々の意見がなかなか主流化しないところが、つらいところなのでしょう。

雇用労働者の労働組合の組織的支持を受けているおかげで何とか当選してきた議員をいっぱい抱えているはずの政党が、なぜかひたすら相対的に労働者の利益にはつながらないはずの減税ばかりを叫ぶ一方で、そこからは票を得ていないはずの政党の政府の担当外の閣僚が、なぜか支持基盤の企業に対して、その権限を越えてまで賃上げを叫び続けるという、西欧政治を見慣れた目からすると、ほとんど目が回って立ち眩みしそうな事態が平然と起っているんですから、極めて例外的にまともな目で物事を見る人にとっては、「それはそうやろなあ」以外の感想は出てこないはずなんですが、これでまた、全く物事の筋道をわからない連中の、あれやこれやのコメントが山のようにつくんでしょうなあ。ご愁傷様です。

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欧州議会の『職場のアルゴリズム管理指令案』勧告案@『労基旬報』8月25日号

『労基旬報』8月25日号に「欧州議会の『職場のアルゴリズム管理指令案』勧告案」を寄稿しました。

去る6月26日、欧州議会の雇用社会問題委員会に、「職場におけるデジタル化、人工知能及びアルゴリズム管理に関する欧州委員会への勧告」案が提出されました。これには付属文書という形で「職場のアルゴリズム管理に関する指令案」がついていて、内容的にはこちらが中心です。EUでは、立法機関たる欧州議会には立法提案をする権利はなく、指令案を出せるのは欧州委員会だけなので、こういういささか回りくどい形式をとっているのですが、要するに議員立法の法案みたいなものだと考えていいでしょう。
職場のアルゴリズム管理への規制としては、昨年10月23日に正式に成立した「プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令」が、プラットフォーム労働遂行者に限って、個人データ保護や意思決定システムの透明性等を規定していますが、他の労働者には及びません。しかし、近年のAIの発達により、あらゆる職場でアルゴリズム管理が用いられるようになり、欧州労連などは法的対応の必要性を叫んでいました。今回の勧告案は、それを受けたものということになります。
プラットフォーム労働指令が雇用関係のあるプラットフォーム労働者だけでなく雇用関係のない者も含むプラットフォーム労働遂行者まで含めてアルゴリズム管理規制の対象にしていたことに倣って、今回の勧告案は労働者と一人自営業者双方を対象としており、これを裏返せば使用者とサービス調達者を義務づけの名宛て人にしていることになります。規制の内容はプラットフォーム労働指令を若干補正した形になっています。すなわち、透明性と情報入手の権利(第3条)、協議(第4条)、禁止行為(第5条)、人間による監視と再検討(第6条)、労働安全衛生(第7条)、権限ある国内機関の責任(第8条)という条文立てになっており、中でもプラットフォーム労働指令と同様、人間による監視と再検討に重点が置かれています。以下では、勧告案付属指令案の本文の主要部分を翻訳して紹介しておきます。
第1条 主題と適用範囲
1.本指令は、職場におけるアルゴリズム管理の透明な利用のための最低要件を規定する。
2.本指令は、EUの全ての労働者及び使用者並びに一人自営業者及び関係するサービス調達者に適用する。
第2条 定義
1.「アルゴリズム管理」とは、作業環境内の活動を監督するために個人データを処理するシステムや、作業割当の編成、報酬、安全衛生、労働時間、訓練機会昇進及び契約上の地位のような労働者又は一人自営業者に重大な影響を与える意思決定を行うか又は支援するためのシステムを含め、電子的手段により、労働者の作業成果及び労働条件に関し、監視し、監督し、評価し、又は意思決定を行うか若しくは支援するための自動的システムの利用をいう。
2.「労働者」とは、労働協約及び国内慣行を含め、EU法及び国内法で定義された雇用契約又は雇用関係を有するとみなされる者をいう。
3.「一人自営業者」とは、雇用契約又は雇用関係を有さず、関係するサービスの提供のための彼又は彼女の個人的な労働に主として依存する者をいう。
4.「使用者」とは、国内法及び慣行に従い、労働者との雇用契約又は雇用関係の当事者である自然人又は法人をいう。
5.「サービス調達者」とは、特定のサービス又はタスクの提供のための一人自営業者との契約合意の当事者である自然人又は法人をいう。
第3条 透明性と情報入手の権利
1.加盟国は、使用者及びサービス調達者がそれぞれ、その契約関係にある労働者及び一人自営業者並びにその代表に対し、職場におけるアルゴリズム管理のためのシステムの利用又は利用の計画に関して、書面で情報を提供するよう確保するものとする。
2.第1項にいう情報は以下を含むものとする。
(a) その目的の一般的な記述を含め、アルゴリズム管理システムが利用されているか又は導入を意図しているという明確な声明、
(b) その行動及び成果に関連するデータ並びに監視される行為又は活動のタイプも含め、労働者又は一人自営業者との関係でかかるシステムによって収集され又は処理されたデータのカテゴリー、
(c) 収集されたデータが自動的な意思決定を遂行するために利用されるか、及びかかる意思決定の性質及び範囲の記述の明確な表示
3.第1項にいう情報は次の時期に提供されるものとする。
(a) 労働者の就労初日以前及び一人自営業者の契約初日、
(b) 労働条件、作業編成又は作業成果の監視及び評価に重大な影響を与える変更の導入以前、
(c) その要請に基づきいつでも。
4. 第1項にいう情報は、明確で容易に理解できる方法で提供されるものとする。加盟国は、使用者及びサービス調達者が、労働者又は一人自営業者が理解することが合理的に期待できるデジタルリテラシーのレベルに合わせて、かつ不必要に技術的又は複雑な言語の利用を避けるような方法で、情報を提供するよう確保するものとする。
加盟国は、第1項にいう情報が障害者にもアクセス可能なフォーマットで提供されるよう確保するものとする。
5.本条に基づく情報の提供は、労働者又は一人自営業者がその労働を遂行し、アルゴリズム的なシステムが彼らに影響を与える意思決定にいかに影響するかを理解し、その権利を行使するのに厳格に必要なものに限定するものとする。
第4条 協議
1.加盟国は、労働者の報酬、労働編成又は労働時間に直接影響する新たなアルゴリズム管理のシステムの配置又は既存のシステムのかかる更新が、作業編成又は契約関係の重大な変化をもたらすような意思決定とみなされ、かかるものとして指令2002/14/EC(一般労使協議指令)第4条第2項第(c)号に基づく協議の対象となるよう確保するものとする。
2.かかる協議には次の事項が含まれる。
(a) 配置又は更新の背後にある目的及びその影響を受ける作業過程及び労働者、
(b) 作業負荷、労働密度、日程、労働時間、柔軟性又は職務内容の変化、
(c) 労働安全衛生への影響、
(d) 収集されるデータのタイプ、
(e) 偏見又は差別的帰結を探知し及び緩和するための措置、
(f) 人間による監視の機構
(g) 影響を受ける労働者及び一人自営業者への訓練及び支援の措置。
第5条 禁止行為
1.加盟国は、使用者及びサービス調達者が次に関わる個人データを処理することを禁止されるよう確保するものとする。
(a) 労働者又は一人自営業者の感情的又は心理的状態、
(b) 神経監視、
(c) 私的な会話、
(d) 勤務時間外又は私的な部屋にいる労働者又は一人自営業者の行動、
(e) EU基本権憲章に規定する結社の自由、団体交渉及び団体行動権又は情報提供及び協議を受ける権利を含め、基本権の行使の予測、
(f) 人種的若しくは民族的出自、移民の地位、政治的意見、宗教的若しくは思想的信条、障害、健康状態、労働組合への加入又は性的指向の推測。
2.本指令のいかなる規定も、規則(EU)2016/679(一般データ保護規則)又は規則(EU)2024/1689(AI規則)の下で禁止されている行為を許容するものとして解釈されないものとする。
第6条 人間による監視と再検討
1.加盟国は、使用者及びサービス調達者が職場に配置された全てのアルゴリズム管理システムに対してあらゆる時に有効な人間による監視を維持するよう確保するものとする。加盟国はまた、使用者及びサービス調達者が、かかるシステムの適用される法的、安全衛生上及び倫理上の基準への遵守を含め、かかるシステムの作用及び影響の監視並びにその意思決定の再検討に責任を有する者を指名し、それを労働者、一人自営業者及びその代表に対し通知するよう確保するものとする。
2.加盟国は、労働者及び一人自営業者が、その要請に基づき、タスクの配分、成果の査定、労働時間の日程調整、報酬、懲戒処分を含め、その雇用又は契約関係の重要な側面に影響を与えるいかなる意思決定に関しても、かかる事項に関する意思決定が既に行われ又はアルゴリズム的システムにより重大な影響を受けている場合には、使用者又はサービス調達者から、口頭又は書面による説明を受ける権利を有するように確保するものとする。
第1項にいう説明は、合理的な時間内に、関係する労働者又は一人自営業者にアクセス可能で理解可能なフォーマットで提供されるものとする。
3.加盟国は、雇用又は契約関係の開始又は終了、契約関係の更新又は不更新及び報酬のいかなる変更に関する意思決定もアルゴリズム管理のみに基づいてとられることのないよう確保するものとする。かかる意思決定もまた、人間の監視者による再検討及び最終決定に従うものとする。
4.加盟国は、労働者及び一人自営業者の代表が、使用者又はサービス調達者に対し、アルゴリズム管理システムがシステム的なバイアス若しくは欠陥を示し又は労働者若しくは一人自営業者の精神的若しくは身体的健全性又は職場の安全衛生に脅威を与えるという正当な懸念がある場合には、設置されたかかるシステムの作用の再検討を開始するよう要請することができるように確保するものとする。
第7条 労働安全衛生
1.指令89/391/EEC(労働安全衛生指令)及び職場の安全衛生分野における関係諸指令に抵触しない限り、加盟国は使用者に次のことを確保するものとする。
(a) とりわけ作業関連災害、心理社会的及び人間工学的リスク並びに労働者への過度の圧力に関し、アルゴリズム管理システムの安全衛生へのリスクを評価すること、
(b) これらシステムの安全装置が作業環境の特別の特徴の観点から特定されるリスクにとって適切であるかどうかを評価すること、
(c) 適切な予防的及び保護的措置を導入すること。
第8条 権限ある国内機関の責任
1.加盟国は、その各労働監督機関に、職場におけるアルゴリズム管理システムの安全で非差別的な利用を監視する任務を課すものとする。
2.労働監督機関は、次のことを監視し、統制し、評価する任務を負うものとする。
(a) とりわけ労働者の精神的及び身体的健康への影響に関して、雇用の過程で利用されるアルゴリズム管理システムの安全性、
(b) かかるシステムの設計、配置又は作用においてバイアス及び差別がないこと、
(c) アルゴリズム管理システムの労働時間及び労働者への成果圧力に対する影響、
(d) 労働安全衛生及び均等待遇に関する規定を含め、本指令並びに他の適用されるEU法及び国内法の関連規定の遵守。
3.加盟国は、その各労働監督機関がその機能を有効に遂行するために十分な資源、権限及び技術的専門性を有するように確保するものとする。

2025年8月22日 (金) | 固定リンク | コメント (0)

2025年8月20日 (水)

参政党はメンバーシップ型?

プレジデントオンラインに、船津昌平さんの「どんなスキャンダルも参政党を崩せない...組織論の専門家が語る「盤石さの裏にある他の政党にはない要素」」という記事が載っていますが、これ、参政党の強さは「メンバーシップ型」だからだと論じているんですね。

こんな文脈で「メンバーシップ型」が使われるとは思ってもみなかったので、新鮮でした。

どんなスキャンダルも参政党を崩せない...組織論の専門家が語る「盤石さの裏にある他の政党にはない要素」

私の専門である経営組織論から分析すると、参政党は「メンバーシップ」を重視している点が興味深いです。・・・

加えて、参政党は「帰属意識」の醸成にも成功しているように見えます。・・・

メンバーシップ、組織化、帰属意識と聞いて、「古臭い」と感じるかもしれません。

私の専門である経営学でも、日本的な雇用慣行である「メンバーシップ型雇用」は、昨今では旧弊と批判される場面が目立ちます。企業と従業員が明示的な契約関係にある前提で職務内容が明確に定義される「ジョブ型雇用」に移行すべきだという論調も根強いです。・・・

あくまで仮説ですが、現代の企業組織では機能しない"からこそ"、政治の領域で力を持ってしまったのではないでしょうか。

うーむ、企業がメンバーシップ型からジョブ型を指向するがゆえに、政治の世界ではメンバーシップ型が流行るのだというわけですか。

もう少し微視的に見れば、戦後日本の政党はメンバーシップ型の包摂的な社会集団に所属することを根拠に、その社会集団の利益代表としての性格を有する自民党や社会党が存在していたのに対し、それらメンバーシップ型社会集団から疎外された人々が直接帰属するマクロなメンバーシップ型組織として存在してきたのが創価学会=公明党と共産党であったように思われますので、そこを凄く押し詰めて言えば、参政党はかつての創価学会や共産党と似たようなものだということになるのかもしれません。

2025年8月20日 (水) | 固定リンク | コメント (5)

韓国の「黄色い封筒法」が成立目前

なぜか日本のマスメディアは全く伝えないのですが、今韓国では「黄色い封筒法」と呼ばれる労働組合および労働関係調整法改正案が、明日にも国会で可決されるのではないかと大騒ぎになっているようです。

<韓国労組法改正案秒読み>すでに10大グループ中9グループが下請け労組のターゲットに

<韓国労組法改正案秒読み>「下請けのストで元請け大企業に契約切られるかも」...中小企業の悲鳴

この記事の説明によれば、この改正案の主眼は、雇用関係のない元請け企業に、下請企業の労働者の労働組合に対する使用者としての責任を負わせる内容のようです。

◇黄色い封筒法とは
労働組合および労働関係調整法改正案。使用者の範囲を「勤労契約を結んでいなくても労働条件に対して実質的・具体的に支配・決定できる者」と再定義して下請け労働者に対する元請けの責任を強化する内容が核心(労組法2条)。ストの過程で発生した損失に対し労働者個人や労組に対する損害賠償責任を制限する内容も盛り込まれた(労組法3条)。2009年の双竜自動車ストによる損失に対し裁判所が労働者に47億ウォンの賠償を命じる判決を下すと市民が黄色い封筒に寄付を入れて送ったことに由来する。

労働法の世界では、労働組合法上の使用者性というのは昔からある難問ですが、今回の改正法案は、それを立法で軽々と乗り越えてしまおうというもののようです。

李在明(イ・ジェミョン)政権の意志の通りならば、21〜25日の臨時国会本会議で与党が主導する「黄色い封筒法」と呼ばれる労組法改正案が通過する予定だ。産業現場のあちこちではすでに下請け労組が元請けを相手にデモとスト、訴訟を行うなど燃え上がっている。

中央日報が韓国財界10大グループを調査した結果、サムスン、SK、現代自動車、LG、ロッテ、ポスコ、HD現代、ハンファ、新世界の9グループで最近までに主要系列会社の下請け労組が雇用・賃金・労働条件などに対し元請け大企業に解決を要求する内容のデモを行ったり訴訟を起こすなど団体行動を起こしていたことがわかった。財界が労組法改正案で「これだけは除いてほしい」と訴えているのが下請け労働者の元請け交渉権を保障する内容の労組法第2条改正案だ。

中央日報は、経営側の立場から、この改正で下請企業の経営者がひどい目に遭うという危機感を煽っています。

韓国で「黄色い封筒法」と呼ばれる労組法改正案が国会を通過する可能性が大きくなり、中堅・中小企業の悩みが深まっている。大企業と違い労務対応能力が弱い上に、紛糾に巻き込まれ元請け大企業との契約が切られないか戦々恐々としている。元請け大企業と強硬下請け労組の間に挟まれ厳しい境遇になりかねないという哀訴も出ている。・・・

こうした中で労組法改正案まで施行されれば大企業よりも法律対応や労使管理余力が低い元請け中堅企業がさらに致命傷を受けるだろうという懸念が大きい。ある中堅建設会社社長は「複雑な工程が必要な受注は最初からあきらめた。中堅企業は大企業のように大手法律事務所と労務人材を動員しにくいので強硬な労組に目を付けられれば持ちこたえる方法がない」と吐露した。

2025年8月15日 (金)

切り取り批判

Mmm ネット上では、一昨日の朝日新聞に載った安藤馨さんの論が切り取られて批判されている云々と話題のようですが、

安藤馨さんが読み解く参政党の躍進 重要なのは合理性か、政治参加か

でもね、切り取り批判といえば、自慢じゃないけど、わたしなぞは、同じジョブ型本をネタに、池田信夫からは、時代遅れのメンバーシップ型を擁護する頑迷固陋の輩だと非難され、世に倦む日々からは、極悪非道のジョブ型を広めようとするネオリベ野郎だと攻撃されるんだから、世話はないですがな。

人間はみんな、自分の読みたいことだけを読むんですよ。

2025年8月15日 (金) | 固定リンク | コメント (2)

2025年8月13日 (水)

首相に読んで欲しい本

ジョージタウン大学の向山俊彦さんのつぶやきで、

https://x.com/ToshiMukoyama/status/1954730633617621390

本当にねえ。僕が首相に読んで欲しい本を考えると、最近で新書レベルだと

『ジェンダー格差』牧野百恵(中公新書)
『イノベーションの科学』清水洋(中公新書)
『ジョブ型雇用社会とは何か』濱口桂一郎(岩波新書)

あたりでしょうか。普通の経済学の一般書がもっと出てもいいと思う。特にマクロ。

毎年新年度には「大学生に読ませたい本」といった特集があり、夏には「夏休みに読みたい本」みたいな特集があったりしますが、これは「首相に読んで欲しい本」ということで、リンクをたどると、もともとは、今から4年前のサンデー毎日に

https://x.com/mai_shuppan/status/1439906504337858569

【サンデー毎日掲載 ×ばつ#石破茂 対談】
石破茂氏が4冊の書籍をおすすめしています。
『人新生の「資本論」』#斎藤幸平
『里山資本主義』#藻谷浩介
『「公益」資本主義』#原丈人
『団塊の後 三度目の日本』#堺屋太一 #毎日文庫

という記事があたのをほじくり返してきてのつぶやきだったようです。

ふむ。

2025年8月12日 (火)

遺族補償年金の男女格差@WEB労政時報

WEB労政時報に「遺族補償年金の男女格差」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers/article/89514

去る7月30日に、厚生労働省は「労災保険制度の在り方に関する研究会」の中間報告書を公表しました。これは本文だけで58ページ、参考資料は136枚に及ぶ膨大なもので、取り扱うテーマも、適用関係では「家事使用人」「暫定任意適用事業」「特別加入制度」、給付関係では「遺族(補償)等年金」「遅発性疾病に係る保険給付の給付基礎日額」「災害補償請求権、労災保険給付請求権に係る消滅時効」「社会復帰促進等事業」、徴収等関係では「メリット制」「労災保険給付が及ぼす徴収手続の課題」と、実に広範な分野に及んでいます。
そのうち、世間の注目を集めているテーマの一つが遺族補償年金の男女格差の問題です。中間報告書でも、この問題には14ページもの分量を割いて論じています。これはそもそもどういう問題かというと、・・・・・

2025年8月12日 (火) | 固定リンク | コメント (0)

2025年8月10日 (日)

ワーカーズブログで拙著を詳しく紹介

Asahishinsho_20250810080601 bunnmeiさんの「ワーカーズブログ」で、拙著『賃金とは何か』を詳しく紹介、書評していただいています。

https://ameblo.jp/masatakayukiya/entry-12920904233.html

先の参院選では 自公の与党が大敗し、〝手取りを増やす〟をスローガンに掲げた国民民主党や〝日本人ファースト〟を掲げた参政党の躍進が注目された。
争点になったのは、近年の物価上昇への対処であり、消費減税や給付金の是非が問われた選挙でもあった。背景には、日本の労働者の賃金が上がっていない結果としての生活苦であり、不満がある。なぜ日本で30年も賃金が上がらなかったのか、労使の間での一次配分としての賃金を引き上げるには何が必要か、そうした議論はスルーされ、二次配分(=再配分)を巡る選挙での攻防でもあった。
本書は、その一次配分としての賃金とはどう決まるのか、なぜ上がらないのか、そこからいかに脱却するか、の解説書だ。

9784502629723_430 なおこの記事は8月5日付ですが、翌6日付の記事では、石田光男さんの『賃金の社会科学』も紹介されています。

https://ameblo.jp/masatakayukiya/entry-12921188681.html

《本の紹介》で取り上げた、濱口桂一郎氏の『賃金とは何か』(2024年)という新書本は、経営側が主導した企業内での競争的な賃金体系での攻勢に対し、労働側が的確に対処しきれなかった、というスタンスで解説した本だった。その上で、ジョブ型雇用と処遇への転換の必要性を提起し、その具体策としていくつかの方策を提案するものだった。
ここでは、同じテーマを取り扱った著作を紹介したい。かなり以前の本で、手に入りにくいかもしれないが、戦後賃金闘争の転換点にフォーカスしたもので、以下、簡単に紹介したい。
『賃金の社会科学』――日本とイギリス
石田光男著 中央経済社 1990年だ。
日本では〝職能給の年功的運用〟という、世界で類を見ない賃金体系が定着してきた。が、この『賃金の社会科学』では、その主要な要因は、戦後のある特定の時期において、労働側が経営側が提起する賃金体系に屈服し、勝敗の決着がつけられた結果だ、とする。そして、このことが、労働者・労働組合にとってよりふさわしいジョブ型雇用と賃金体系を実現する方針と闘いそのものを放棄した最大の要因だとしている。

2025年8月 9日 (土)

2025年8月 7日 (木)

ジョブ型のアプリを載せているだけでメンバーシップ型というOSは変わっていない@『Works』191号

2703922_p リクルートワークス研究所の『Works』191号は、「「失われた30年」を検証する ×ばつ働く 何が変わり何が変わらなかったのか」という特集で、河野龍太郎さんと大久保幸夫さんの巻頭対談から始まり、小熊英二、八代充史、山田昌弘、有田伸、宮川努といった方々に交じって、わたしも「ジョブ型のアプリを載せているだけでメンバーシップ型というOSは変わっていない」というインタビュー記事に登場しています。

https://www.works-i.com/works/item/w_191.pdf

労働環境の変化を受けて、日本型雇用システムの見直しが進んでいる。ジョブ型への転換を図る企業が増えてきており、政府も「ジョブ型人事指針」を打ち出してその流れを後押ししている。
しかし、労働政策研究・研修機構の濱口氏は、「本質は何も変わっていない」と指摘する。日本と欧米の雇用システムの違いを「メンバーシップ型」「ジョブ型」という言葉で整理した濱口氏から見ると 、今 、世 間 で「 ジ ョ ブ 型 」と い わ れ て い る も の の ほとんどは、本来のジョブ型ではないという。
「私は日本型雇用の本質は、社員という名のもとに、会社のメンバーとなっている点にあると考えています。終身雇用、年功序列、企業別労働組合という日本的経営の『三種の神器』も、そこから派生した現象にすぎません。たとえば勤続年数を見ても、頻繁に転職するのはアメリカくらいで、日本とヨーロッパではそれほど変わりません。本来、人に値札をつけるのがメンバーシップ型、ジョブに値札をつけて、そこに人をはめ込むのがジョブ型です。私からすると今の日本の状態は、メンバーシップ型のOSの上にジョブ型っぽいアプリを走らせようとしているだけに思えます」
OSを変えるということは、雇用契約のあり方そのものを変えるということだ。たとえば雇用の入り口を考えると、ジョブ型雇用では、必要なポストが生じたときにその都度採用する形になり、そのジョブを遂行するのに必要なスキルや経験を持っているかが重視される。新卒であっても、一部の超エリート校の卒業証書が職業資格として機能している。
これに対して、従来のメンバーシップ型では新卒一括採用が主流だ。基本的には、専門的なスキルや経験はまったく持たない状態で入社してくる。今は何もできないが、「能力」のある人を採用して、入社後にOJTでさまざまなポストを経験させながら、上司や先輩が鍛えていく形になる。
日本の教育システムもそれを前提にしており、大学では専門性を高める教育よりも、何でもできる潜在能力の高い人材の育成が行われている。教育システムそのものが変わらない以上、いかに会社がジョブ型を標榜しても、実際に運用できるのかという疑問が残る。
「OSを変えるのは社会全体の問題であり、1社だけでできることではありません。そもそも雇用契約を規定した日本の民法は、ジョブ型の法制であるにもかかわらず、裁判ではメンバーシップ型の実態とのギャップを埋めるような判例が積み重ねられてきました。戦後80年かけて、日本の企業と労働者が営々と積み上げてきたシステムが、そう簡単に変わるとは私には思えません」

能力主義も成果主義もメンバーシップの上にある

過去にもさまざまな雇用改革が謳われたが、メンバーシップ型という基盤は変わらなかったと濱口氏は主張する。
「30年前の1995年は、日経連が『新時代の「日本的経営」』を提言した年です。これをきっかけに非正規雇用が増えて日本の雇用が変わったと、メディアからは諸悪の根源のように言われることもありますが、私は少し違うと思っています。あれは、私の言う日本型雇用のコアの部分を根本的に見直そうというものではありませんでした」
濱口氏によると、『新時代の「日本的経営」』が目指したのは、企業の人件費負担が重くなるなか、日本型雇用システムのメンバーを濃縮しようとするものだった。具体的には、「長期蓄積能力活用型」と称する正社員の数を減らし、年功ではなく成果で厳しく評価することで、少数精鋭にしていくことを目指していた。
そのために、周縁に従来のパート・アルバイトなどの「雇用柔軟型」と、専門職にあたる「高度専門能力活用型」を新たに創設したが、「高度専門能力活用型」は普及せず、「雇用柔軟型」ばかりが増えてしまった。結果的に非正規社員の増加という新たな問題を招いたことは確かだが、メンバーシップ型の根幹にある正社員のあり方は従来のままだ。
「当時は『成果主義』がもてはやされ、大変革のように騒がれました。ところが遡れば、その20年ほど前から日本企業は『能力主義』でやってきたはずです。結局、能力主義といいながら実態としては年功的に運用されてきたから、次は成果で見るといっているだけなのでしょう。いずれにしても、人に値札をつけていることに変わりはありません。人への値札のつけ方を、潜在能力ややる気の評価で見るのか、目標管理制度における仕事の成果で見るのかの違いであって、基本的には同一線上の話だと思っています」
日本企業は、意識してかせずかはともかく、メンバーシップ型というOSを維持しながら、能力主義や成果主義を標榜して社員を絞り込み、厳しく締め上げていった。結果的に、そこから外れる人たちが増え、非正規となっていった。それは日本企業の生産性向上にも、日本全体の競争力強化にもつながらなかったのではないかと濱口氏は総括する。

変わらなければ困る人がどれだけ現れるかによる

しかし、強固な日本型雇用システムにも、時間をかけて少しずつ変わってきたものがある。その1つが、女性の立場だ。
戦後80年のうち前半の40年間、企業において女性はメンバーシップの周縁に追いやられていた。4年制大学卒の女性は敬遠され、入社しても補助的な仕事しか与えられなかった。結婚退職が当たり前で、子育て後に復職したいと思っても非正規の道しか残されていなかった。
しかし、1985年に男女雇用機会均等法が成立して以降、後半の40年間で、ゆっくりとではあるものの女性を戦力として活躍させようという機運が高まってきた。女性の高学歴化が進み、結婚・出産後も働き続けることが当たり前になってきた。教育や家族のあり方も含めて、社会全体のシステムが変わってきたからだ。
一方、企業のなかでは男性中心だった既存の仕組みが維持されているため、さまざまな矛盾も生まれている。介護や育児などさまざまなライフステージの事情を抱える人が増えたことで、長時間労働で忠誠心を評価することが難しくなり、会社都合での転勤が受け入れられないケースも出てきた。日本企業の正社員の特徴だった労働時間、勤務地、職務内容という3つの無限定性が変わっていく可能性もある。
「労働時間と勤務地の無限定性については、『このままでは困る』人が実際に現れているので、変化の兆しが見えています。しかし職務内容については、変えざるを得ないと思っている人がどれだけいるのか。たとえば教育システムが従来のままなのに、新卒で入ってきた人にジョブ型を適用しようとしても、むしろ本人たちも困るのではないでしょうか。その意味で、ジョブの無限定性については、今のところ変わる契機が見えません。結局、1社でできるのは既存のOSの上にジョブ型のアプリを走らせてみる程度のことです。私はそれでもいいと思っています。ジョブ型という言葉が独り歩きして、幻想がふくらまないように、水をかけるのが自分の役割だと思っています」




2025年8月 7日 (木) | 固定リンク | コメント (3)

河野龍太郎・唐鎌大輔『世界経済の死角』

9784344987807 河野龍太郎・唐鎌大輔『世界経済の死角』(幻冬舎新書)をお送りいただきました。

https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344987807/

新NISAの導入をきっかけに海外の金融資産を保有する日本人が増加するなど、日本経済はかつてないほど世界経済への依存度を高めつつある。
そうした中、トランプ大統領による相互関税措置を受け、国際金融市場は大きく揺れ動いている。
しかし、そもそも世界経済には、日本人が見落としがちな「死角」がいくつも存在する。それらを押さえずして先の見通しを立てることはできない。
そこで本書では超人気エコノミストの2人が世界経済と金融の"盲点"について、あらゆる角度から徹底的に対論する。
先の見えない時代を生き抜くための最強の経済・金融論。

タイトルは、河野さんのベストセラー『日本経済の死角』になぞらえてつけたとおぼしいですが、お二人のテンポよい会話であれこれが見事に斬られていくのは心地よい読後感です。

非常に多くのことが語られているのですが、思わず膝を打って「そうそう!」と思ったのは、「なぜ日本には"一発逆転"を狙う政策が多いのか」に対する説明です。

唐鎌 金融緩和に限ったことではないのですが、日本の政策論壇を見ていて常に感じるのは、何か問題が起ると「一発逆転」の妙手にすぐ飛びついてしまう傾向があるということです。・・・

河野 日本でこうした「一発逆転型」の政策が増えた背景には、いろいろな要因があると思いますが、1990年代に行われた選挙制度改革や行政改革の影響も大きいと思います。・・・

河野 ・・・しかし、日本では官邸の意向を実行する部署に優秀なエース人材を集中させるため、データの作成や分析に人員を割く余裕がありません。その結果、政治家の耳学問に基づいたアイディアを、そのまま政策に落とし込む傾向が強くなってしまいました。

唐鎌 まさに一発逆転型の政策が重宝されるメカニズムですね。これは重要な話です。

河野 それがアベノミクスなのですよ。

このやりとり、実にじわじわきます。じわじわ、じわじわ・・・。

ところで、唐鎌さんはバローゾ時代の欧州委員会に勤務していたのですね。時期は違いますが、ブリュッセルの街を経験しているのですね。

2025年8月 7日 (木) | 固定リンク | コメント (7)

2025年8月 6日 (水)

『竹森義彦オーラル・ヒストリー』

Oral例によって、梅崎、島西、南雲のトリオによるオーラルヒストリーの最新作『竹森義彦オーラル・ヒストリー』をお送りいただきました。

竹森さんはもともと高卒後プリマハムに入社したのですが、その後ゼンセン同盟に移って大阪府支部をはじめ各地で活躍された方です。このシリーズはもはや膨大なものになっており、ゼンセン同盟関係でもこれで第13弾で、続いて第14弾が用意されているようです。

いろいろと武勇伝が語られていますが、団体交渉で弁護士が出てきたときのやりとりが面白いです。

・・・「弁護士さん、ちょっと失礼だけど、その鞄なんとかならんですか」いうたら、「何が悪いんじゃ」と来たわけですよ。「いやいや、普通、人間として、鞄を人の前にポンと置いてパンと広げて、そんな人はおらんでしょう。失礼だと僕は思いますよ」いうたら、「なには失礼なんだ。俺はこんなやり方なんだ」と。「あなた、口のきき方もちょっと、今から交渉しようというのに、そんな口のきき方はないんじゃないですか」と言うたわけですよ。そしたら向こうは「俺は大阪生まれの大阪育ちや」みたいな、こっちも「はあ?」いうて。それで当時はファッション労連の人がおられて、僕もバンと叩いて、「わかったわ。お前がそんなこと言うんやったら、俺も本気で言わしてもらうわ。なんや、おまえ、その態度は。いいかげんにしとけよ。人がおとなしゅうもの言うとったら調子に乗りやがって。俺も大阪生まれの大阪育ちじゃ」て言うたわけです。そうしたら隣のファッション労連の人が、「おい、竹森さん、福岡やろ」て。「今はええやろ」と(笑)。「今は大阪にしといてや」いうて。その弁護士さんにしてみれば、大阪流に言えば「かます」というんですかね。一発かましておけば、こいつらと。だから、従業員というか、組合が甘く見られていて、バッチをひけらかすというか。・・・

弁護士の「かまし」も相当ですが、竹森さんのカウンターかましもそれに輪をかけて相当なものですね。

2025年8月 6日 (水) | 固定リンク | コメント (0)

2025年8月 5日 (火)

最低賃金決定における公労使三者構成と「政」

昨日、長引いていた中央最低賃金審議会の目安決定がようやく決着したようですが、その最後の局面では、新聞報道によると「政治」の介入があったようです。

赤沢氏の「尋常じゃなかった」介入 最低賃金「6.0%」の舞台裏

6.0%という数字は、ある人物によって一蹴され、漂流しかかっていた。
「6.0%ちょうどなんてないだろう。全然ダメだ。もう一声。これは政治判断なんだ」
最低賃金の目安を決める厚生労働省の審議会が今年4回目の審議を終えた翌日、7月30日だった。ひそかに永田町の中央合同庁舎8号館を訪れた厚労省幹部を前に、「賃金向上担当相」を兼務する赤沢亮正経済再生相が言い放った。・・・

最低賃金の目安は、労使の代表と公益代表の有識者で構成する中央審議会が毎年決める仕組みだ。赤沢氏に決定権はない。だが、公益代表をサポートする立場から労使の調整に入っていた厚労省側が示した内々の「6.0%」に赤沢氏は「6%台前半」など上積みを求めて突き返した。・・・

一方、こうした政権側の露骨な動きを察知した使用者側は収まらない。中小企業への悪影響を懸念する使用者側には内々に「6.4%」という数字が提示されたが「話にならない」と反発して、拒否する一幕もあった。

審議会が15年ぶりの6回目に突入した今月1日、赤沢氏は経済団体の幹部と面会し、高い水準の引き上げに理解を求めた。審議会とは別に、閣僚が直接的に協議することは異例だ。労働側のある関係者は「政府がやるなら審議会はいらない。勝手にやってくれ」と怒りを隠さず、厚労幹部は「審議会が壊れてしまう」と頭を抱えた。・・・

赤沢氏、水面下で大幅増を要求 最低賃金巡り終盤に介入、禍根も

最低賃金の25年度改定では議論の終盤になって、赤沢亮正賃金向上担当相が水面下で大幅な引き上げを繰り返し求めたとされる。経営者と労働者の代表らが改定額の目安を決めるため、中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)の小委員会で詰めの議論をしていた最中だった。政府内では「前代未聞の政治介入」「禍根を残しかねない」との批判の声が出ている。

労働政策における三者構成原則は、諸外国では「政労使」ですが、日本では政府(労働行政)は黒子になって、公益委員というのを表に立てて公労使三者構成と称しています。

政府は最賃の水準について何を聞かれても「公労使がお決めになること」と第三者を装うというのが今までの美風であったのですが、今回、労働行政ではない政府の首脳が、かなり露骨に最賃引き上げ幅拡大に動いたようで、これは実はなかなか結構深刻な事態になってしまったのではないか、という気がします。

昨年、地方最賃レベルで、後藤田徳島県知事の露骨な介入騒ぎがあり、すでに今回の事態は予告されていたとも言えますが、中央レベルでこうなってみると、改めて三者構成原則とは何だったのか、という話になってきそうです。

2025年8月 5日 (火) | 固定リンク | コメント (3)

AI時代の労働社会@『I.B』2025夏期特別号

Ib 福岡のデータマックスという会社が出している『I.B』という雑誌の2025夏期特別号に「AI時代の労働社会 日本型雇用とジョブ型、タスク型」を寄稿しました。

https://www.data-max.co.jp/article/79730

本誌2015新春特別号に「日本の中小企業とジョブ型雇用」を寄稿したが、その中でも力説したように、近年政府や経済団体で新規なものとして流行している「ジョブ型」とは、実は世界的に見れば産業革命期以来の古くさい仕組みである。また、日本の文脈でも、今から60年前の高度成長期には職務給が流行の最先端であった。そして、今更ながらにジョブ型が持て囃されている今日の時代は、産業革命以来200年以上続いてきた欧米のジョブ型労働社会の基盤が、急速な人工知能(AI)の発達によって根底から覆されていくかもしれない時代なのである。本稿が、少しずつずれた議論になっている「ジョブ型」をめぐる労働社会論を、まともな議論に戻すためのヒントになれば幸いである。

ジョブ型雇用の起源 ローマの奴隷の賃貸借

まず、ジョブ型は決して新しいものではなく、むしろ古くさいということを説明する。18〜19世紀に近代産業社会がイギリスを起点に始まり、その後ヨーロッパ諸国、アメリカ、日本そしてアジア諸国へと徐々に広がっていったが、この近代社会における企業組織の基本構造が、ジョブに人をはめ込むジョブ型なのである。

それに対し、人に仕事をあてがうメンバーシップ型の考え方は、日本で戦時期から終戦直後に打ち出され、高度成長期に確立し、1970年代半ばから90年代半ばにかけての約20年間には日本の経済パフォーマンスの源泉として持て囃されたが、その後は日本経済凋落の戦犯として批判の対象となっている古びた新商品である。

ジョブ型雇用契約の源流はローマ法にある。ローマ法では物の賃貸借も労務の賃貸借もすべて同じ賃貸借という概念に一括していた。この労務の賃貸借がジョブ型雇用契約に発展していく。しかし、そもそもなぜローマ人は労務の賃貸借などという奇妙な概念を思いついたのだろうか。それを理解するためには、古代ローマ社会で最も重要な労働力利用形態は奴隷制であったということを思い出す必要がある。

奴隷は生物学的には人間だが、法的には物であって法的人格を有しない。通常は自由人によって所有され、その指揮命令下で労務に服するが、それは法的関係ではない。奴隷の賃貸借というのも可能であり、法律的にはあくまでも物の賃貸借である。ただ、借りた物だから煮て食おうが焼いて食おうが勝手ではない。大事に使って傷をつけずに持ち主に返さなければならない。

さてここで、奴隷を貸し出す主人と貸し出される奴隷が同じ人間だったらどうなるか? 主人としての人間が奴隷としての自分を賃料と引き替えに貸し出すというかたちになる。この貸し出す契約は対等の人格同士の契約であるが、貸し出された人が実際にやる作業は、奴隷がやるのと同じような借り主の指揮命令下での作業になる。

今日の雇用契約には、この古代ローマの労務賃貸借以来の二面性が脈々と受け継がれている。二面性とはすなわち、法形式上はまったく対等な自由人同士の賃貸借契約であるという面と、実態的には主人が家畜や奴隷を使役するのと同じような支配従属関係の下に置かれるという面である。この二面性を矛盾なく統一しているのが、人間の労務をあたかも物であるかのように切り出して賃貸借契約の対象にするという法的手法である。

日本におけるジョブ型とメンバーシップ型の変遷

日本近代史において、ジョブ型雇用システムは繰り返し流行してきた。とくに戦後は、1950年代〜60年代にかけて、政府や経営団体は同一労働同一賃金に基づく職務給を唱道していた。今から62年前の63年、当時の池田勇人首相は国会の施政方針演説で「従来の年功序列賃金にとらわれることなく、勤労者の職務、能力に応ずる賃金制度の活用をはかるとともに、技能訓練施設を整備し、労働の流動性を高めることが雇用問題の最大の課題であります」と謳っていた。ところが日経連が69年の報告書『能力主義管理』で職務給を放棄し、見えない「能力」の査定に基づく職能給に移行した。

70年代半ば〜90年代半ばまでの20年間は、硬直的な欧米のジョブ型に対して日本型雇用システムの柔軟性が注目され、競争力の根源として礼賛された時代であった。エズラ・ヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』がその代表だ。そのころの典型的な言説が、85年に開催されたME(マイクロエレクトロニクス)と労働に関する国際シンポジウムで、当時の氏原正治郎・雇用職業総合研究所長が行った基調講演に見られる。

曰く:「一般に技術と人間労働の組み合わせについては大別して2つの考え方があり、1つは職務をリジッドに細分化し、それぞれの専門の労働者を割り当てる考え方であり、今1つは幅広い教育訓練、配置転換、応援などのOJTによって、できる限り多くの職務を遂行しうる労働者を養成し、実際の職務範囲を拡大していく考え方である。ME化の下では、後者の選択のほうが必要であると同時に望ましい」。

当時は、欧米に対しジョブにこだわるから生産性が低いとか、日本型にすればすべてうまくいくといわんばかりの論調すらあった。

ジョブ型礼賛とメンバーシップ型批判の空虚さ

ところが近年は、日本はメンバーシップ型ゆえに生産性が低いとか、ジョブ型にすればすべてうまくいくといわんばかりの議論が流行している。ジョブ型/メンバーシップ型が本質的に優れている/劣っているというたぐいの議論はすべて時代の空気に乗っているだけの空疎な議論に過ぎない。

むしろ、メンバーシップ型の真の問題点は、陰画としての非正規労働や女性や高齢者の働き方との矛盾にある。いつでもどこでも何でも命じられたまま働ける若い男性正社員を大前提にしたシステムが、これら多様な働き手におよぼす悪影響については『若者と労働』『日本の雇用と中高年』『働く女子の運命』といった諸著作で詳述している。

一言で言えば、メンバーシップ型雇用は(局所的には生産性が高いかもしれないが)社会学的に持続可能性が乏しいのだ。だからこそ、安倍政権下で働き方改革が行われたのである。正規と非正規の間の同一労働同一賃金にしろ、時間外労働の絶対的上限規制の導入にしろ、かつて持て囃された日本的柔軟性を否定して欧米型硬直性を求める復古的改革である。この点を的確に理解している人は数少ないように見える。決してジョブ型が前途洋々というわけではないのだ。

AI時代に揺らぐジョブ型社会の前提

それどころか近年欧米では、200年以上にわたり確立してきたジョブ型労働社会そのものがAIを始めとする第4次産業革命で崩れつつあるかもしれないという議論が展開され始めている。欧米の労働社会を根底で支えてきたジョブが崩れて、その都度のタスクベースで人の活動を調達すればいいのではないかというわけである。

そういう議論の集大成のような本が、2022年3月に出たジェスターサン&×ばつ組織の未来』(ダイヤモンド社、2023)である。本書の原題は「WORK WITHOUT JOBS」(ジョブなきワーク)であり、まさに古くさくて硬直的なジョブ型から柔軟なタスク型への移行を唱道する本である。皮肉なのは、著者はマーサー本社((注記)編注)の人で、翻訳はマーサージャパンであることだ。現在日本でジョブ型雇用を唱道している当のマーサーがそれを自己否定するような本を出しているわけである。

本書はいうまでもなくジョブ型雇用社会に生きる人々を相手に書かれている。職務記述書(ジョブディスクリプション)に箇条書きのかたちでまとめられたガチガチの固定的な「ジョブ」(職務)を、雇用契約を結んだ従業員(ジョブホルダー)が遂行するという古くさいオペレーティングシステム(OS)を脱構築(デコンストラクション)して、 ジョブを構成する個々のタスクを、インディペンデント・コントラクター、フリーランサー、ボランティア、ギグワーカー、社内人材など多様な就労形態で遂行する仕組みに移行せよというのである。

伝統的なジョブ型はなぜだめなのか。労働者の能力を職務と結びつけて判断し、職務経験や学位と無関係な能力を把握できないからだ。従業員の能力を丸ごと把握することができないからだ。そのため、そのジョブに必要な資格を有しているかいないかでしか判断できず、その仕事(個々のタスク)を遂行するにふさわしい人材を発見できないからだ。

タスク型社会の可能性と日本型雇用の対照

というマーサー本社の人の議論を聞いていると、日本のメンバーシップ型はそうじゃないよといいたくなる。資格や経験よりも人格丸ごとを把握し、企業の必要に応じて適宜仕事を割り振っていく日本型を褒め称えているようにすら見える。いや実際、上記人材リストのなかの「社内人材」というのは、フルタイムの従業員であっても「人を職務に縛り付けず、自由な人材移動を可能にする」というものだから、まさに日本型である。

とはいえ、似ているのはそこまでだ。マーサー本社の唱えるタスク型の本領は、伝統的なジョブという安定した雇用形態ではないさまざまな柔軟な就業形態で、タスクベースで人材を活用していこうというものであるから、ジョブ無限定でタスク柔軟型の代わりに社員身分がこの上なく硬直的で、社員である限り何かもっともらしい仕事をあてがわなければならない日本型とは対極的であるともいえる。

こういう議論が流行る背景にあるのはいうまでもなく情報通信技術の急速な発展で、本書でもITやAIによって仕事の未来がどうなるかというテーマが繰り返される。近年の労働経済学の議論を踏まえて、あるジョブを構成するタスクのすべてが機械に代替されるわけではなく、代替されるタスクと代替されないタスクがあるのだ、というところから、旧来のジョブという枠組みにこだわるのではなく、機械に代替されない人間用のタスクを柔軟に働く人々に配分していこうという議論につながっていくわけである。

社会的フィクションとしてのジョブとワークOSの限界

本書を読んでいくと、改めてジョブ型雇用社会というのが「ジョブ」という社会的フィクションを実在化し、皆がそれに振り回されている社会だということがよくわかる。そういう社会的フィクションの実在性が希薄な(その代わり「社員」という社会的フィクションがどうしようもなく強烈な)日本社会から見ると、それがおかしくもありときにはうらやましくもあったりする。次に引用する一節などは、いくら繰り返してもなかなか理解されないジョブ型雇用社会というものの本質を、否定的なまなざしで見事に描き出している。

・・・研修プログラムは、従業員が、特定の職務(ジョブ)に就くための準備をすることに重点が置かれている。人材管理システムには、個人がこれまで就いてきた職務と職位(タイトル)が記録されており、それを見れば個人の学歴と職歴がわかる。

一方、学校などの教育機関は伝統的に、授与する学位によって学生が何を学んだかを示し、無事に単位を取って修了したコースや専攻を記録に残している。

伝統的なワークOSは、これらの記録を組み合わせて、ある職務に必要な一連の資格を列挙し、それにきれいに当てはまる学位や職務経験を持つ候補者を探し出す。いずれかの点で条件を満たしていない候補者はそこで排除される。仕事と個人のこのような捉え方は、ここまでの議論でもわかるように、機敏さが求められる環境のなかでは企業の足をひっぱることになる。

第1に、個人の資格を学位や過去の職歴で語ろうとすると、それらと無関係な能力が見えなくなってしまう。・・・どんな職務に就いている従業員にも、その職務では使われていない能力があり、仕事が変われば、眠っているその能力が意味をもつことになるかもしれない。

第2に、伝統的なワークOSは、個人にその仕事をする能力があるかどうかについて、近視眼的な見方しかできない傾向がある。

とはいえ、日本的な得体の知れない「人間力」で済ませることができないので、「累積可能な資格証明」(スタッカブル・クレデンシャル)とか「非学位修了証書」(ノンディグリー・クレデンシャル)といった苦肉の仕組みを案出せざるを得なくなるのだが・・・。

タスク型時代の社会的保障と二重の課題

社内人材をジョブにこだわらず柔軟にタスクベースで活用するというやり方もあるとはいえ、本書が描き出す未来のタスク型社会の中心はさまざまな非雇用型就業である。とりわけ、世界的に注目を集めているプラットフォームワークの社会的保護の仕組みをどう構築するかは本書でも大きな論点である。

ジョブ型雇用社会においては「ジョブ」こそが雇用の安定、所得の安定、社会的地位の安定等々を通じて、何よりも社会的安定装置として機能してきたので、その「ジョブ」が解体され、その都度のタスクベースで人々が働くような社会になると、ジョブにひも付けされたさまざまな社会保障制度は機能不全に陥る。それに代わってよりユニバーサルな制度をつくっていかなければならない、として、本書はすべての労働者が守られる保健医療制度、ユニバーサル・ベーシックインカム、ハリウッドモデルの労働組合、そして教育の脱構築等々といった提案を提示していく。

戦後日本は、ジョブではなく社員という身分にさまざまな社会的保護がひも付けされる仕組みを構築してきた。それが今日、さまざまな矛盾を露呈し、法制度が本来予定していたはずのジョブにひも付けされた社会的保護に組み替えていこうという流れが徐々に進んできている。しかし、世界的に見ればそのジョブ自体が解体されていくのだとすれば、我々の課題は二重のものであるといわなければならない。

一方で、メンバーシップ型雇用社会が生み出している正社員優遇の社会システムをジョブ型雇用社会の原則に近づけていくという作業を進めながら、他方で、そのジョブが解体されタスクベースで個人が流動していく社会にふさわしいシステムを構想し、構築していくという作業も進めていかなければならないのである。

2025年8月 5日 (火) | 固定リンク | コメント (0)

2025年8月 4日 (月)

日本能率協会コンサルティング編著『実践 カスタマーハラスメント対応ケーススタディ』

Fc408749dd3569c01b37b68f0dfe1e7c82f73118 日本能率協会コンサルティング編著『実践 カスタマーハラスメント対応ケーススタディ』(経団連出版)をお送りいただきました。

https://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/pub/cat5/f3995cfda2848e276a2eaec5e2b7669e0c403992.html

2025年6月、カスタマーハラスメントを防止するため事業主に雇用管理上必要な措置を義務付ける「改正労働施策総合推進法」が成立し、2026年中に施行されることになりました。これに先立つ2022年に厚生労働省が作成・公表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、苦情やクレームを顧客との関係性ではなく従業員の観点からとらえるアプローチが明確に示されています。
顧客や取引先からの苦情や指摘には真摯に対応すべきですが、それが従業員につらい忍耐を強いたり過剰な負荷を与えたりすることにつながってはなりません。カスタマーハラスメントに適切に対応することは、従業員を守るだけでなくその誇りも守り、企業としての責任ある対応をとることで結果として顧客・取引先との健全な関係づくりにもつながります。
本書では、20年以上にわたり悪質な苦情への組織的な備えや対応する従業員のスキルアップなどを支援してきた著者が、実際に起こり得る20のケースについて「望ましくない対応」と「あるべき対応」を紹介したうえで、組織・企業としていかに従業員を守るかといった観点から対応のポイントを解説しています。
BtoC、BtoBの区別なく、顧客や取引先に対応する現場のスタッフから管理職、法務・人事担当者まであらゆる立場のビジネスパーソンにおすすめの1冊です。

【本書の内容】
カスタマーハラスメント対応の基本的な考え方
ケーススタディ20
Case 01 お菓子メーカー:レシートも現物もないが返金せよとの要求
Case 02 エステサロン:届いた商品が場所を取るので返品したいとの要求
Case 03 家電量販店:事前と異なる説明への謝罪と対応要求
Case 04 生命保険会社のコールセンター:期待した保険金が支払われないことへの不満
Case 05 人気カフェ:注文の取りちがえによる店内トラブル
Case 06 キャラクターショップ:店内での動画撮影・録画をやめない客
Case 07 ビジネスホテル:チェックアウト時刻を大幅に過ぎた宿泊客
Case 08 自動車ディーラーの店舗:雑談ばかりを続ける客
Case 09 中学受験学習塾:わが子の成績低迷への対応要求
Case 10 食品通販会社:好みではないとの理由での返品・返金要求
Case 11 引っ越し会社:「聞いていない」の一点張りで追加料金を支払おうとしない客
Case 12 カメラ専門店:最新カメラに感覚的な違和感を抱いた客
Case 13 日本料理店 :外国語対応をしていないことへの不満
Case 14 レストラン:モバイルオーダーへの対応を拒否する客
Case 15 美容院:こだわりが強いがそれを伝えられない客
Case 16 フィットネスジム:様々な不満を抱き頻繁に苦情を申し立てる客
Case 17 路線バス:運転士を脅し、バスの安全運行を妨げる客
Case 18 BtoBでのケース:過剰要求に応え続けることへの疑問
Case 19 BtoBでのケース:BtoBにおけるセクシュアルハラスメント
Case 20 BtoBでのケース:クライアントからの過度な要求

ストーリー仕立てで、思わず手に汗握る展開になったりして、紆余曲折の末、うーん、な結果になった後、こうすべきであったというアナザーストーリーが語られる、よくできた教材です

2025年8月 4日 (月) | 固定リンク | コメント (0)

鎌田耕一・長谷川聡編『フリーランスの働き方と法〔第2版〕』

2473117001 鎌田耕一・長谷川聡編『フリーランスの働き方と法〔第2版〕実態と課題解決の方向性』(日本法令)をお送りいただきました、フリーランス関係の本が続々と出てきます。

https://www.horei.co.jp/iec/products/view?pc=2473117

フリーランス法施行後の発出された規則や指針、関連法令の改正を網羅!
働き方の特徴や現状を整理しながら、個別課題について掘り下げ、法政策のあるべき姿を提示する。

フリーランスの実態と特徴をふまえて問題点を整理した第2版
フリーランスとして働く人が安心して働きがいのある取引関係や就業環境を提示することを目的とするフリーランス法が令和6年11月に施行されました。
本書は、フリーランスの保護に関する最新の法令、規則、指針を網羅し、個別の課題に関する法政策のあり方について検討します。

この第2版のもとの初版はいつかというと、おととしの11月でしたからまだ2年足らずです。

鎌田耕一・長谷川聡編『フリーランスの働き方と法』

本書は、大内さんらの本とは対照的に、フリーランス法の逐条解説が100ページ以上占めていますが、それでもそれは全770ページのうちのごく一部にすぎません。

下記のように、フリーランスをめぐる極めて広範な領域を著者らがそれぞれに深く突っ込んで論じています。

くろまるフリーランスの働き方 特徴と課題
くろまるフリーランス法の目的と内容
くろまるフリーランスの法的地位について―労働基準監督行政における課題と対応
くろまるフリーランスの契約と民法ルール
くろまるフリーランスと経済法(独禁法・下請法・フリーランス法)
くろまるフリーランスの報酬保護
くろまるフリーランスの安全衛生政策
くろまる労災保険特別加入・医療保険
くろまるフリーランスに対するハラスメント防止とワーク・ライフ・バランスの実現に向けて
くろまるプラットフォームとフリーランス保護
くろまるフリーランスの仕事の喪失時における所得保障制度の検討〜現行雇用保険制度の構造分析を基点として
くろまるフリーランス法適用の実態と課題―フリーランス・トラブル110番の活動から
くろまる芸能・芸術分野におけるフリーランスの実態と課題
くろまるフリーランス保護の未来

2025年8月 4日 (月) | 固定リンク | コメント (0)

2025年8月 2日 (土)

大内伸哉・坂井岳夫・土岐将仁・山本陽大『フリーランス法制を考える』

07301710_6889d393c5b1a 大内伸哉・坂井岳夫・土岐将仁・山本陽大『フリーランス法制を考える デジタル時代の働き方と法』(弘文堂)をお送りいただきました。

https://www.koubundou.co.jp/book/b10137089.html

2024年に施行された待望のフリーランス法(通称)。新法の創設には大きな意義があるものの、それでもなお残る政策課題とは? デジタル化、プラットフォームの巨大化が加速するなかで、今後の安心・安全な働き方を考えるための重要な視点とは?
本書は、フリーランスをめぐる問題状況や法的地位、これまでの法政策を緻密に分析したうえで、DXが進展した未来を見据えた労働・社会保障分野からの改革提言を行います。

タイトルからすると、最近類書がたくさん出ているフリーランス法の解説書かと思われるかもしれませんが、そうではありません。

いわゆるフリーランス法自体の解説は第8章の20ページほどの中の、厳密には第2節の10ページ足らずに過ぎません。

本書の大部分は、フリーランス法で一応の部分的・中間的決着をしたに過ぎないこの問題の広がりを、時間的、空間的に追跡していくことに充てられ、そして第8章と第9章という本書の最後の部分は、フリーランス法やその他の個別的なフリーランス対策にとらわれずに、著者らの言い方を借りれば、現行制度の延長線上に規制の構築を目指すフォアキャスティングなアプローチではなく、第4次産業革命のインパクトを受けた将来の社会像からいわば白地に絵を描こうとするバックキャスティングなアプローチを展開しているからです。

それはまことに意欲的というか、野心的であり、とりわけ第9章第3節の新たなセーフティネットの話は、今までの仕組みを全部ガラガラポンにしようという話なので、現在の社会保障制度の微修正ですら政治的に大騒ぎになり、手が付けられない状況であることを考えると、正直やや夢想的に思えます。

ただ、その直前の第9章第2節の仲介型プラットフォーム事業者に対する規制の在り方については、それが今まで空白地であり、必要性が感じられてきていることからも、近年のプラットフォームの発展を旗印に、諸外国の例も引き合いに出しつつ、やる気になれば十分可能な法政策であると思われました。

なお、本書のうち、日本のフリーランス法政策の流れや、EUの法政策については、私自身が結構突っ込んで勉強してきたテーマでもあり、読みながら懐かしさを覚えていました。

序 章 フリーランス法を越えて

第I部 フリーランスとは何か
第1章 いまなぜフリーランスなのか
第2章 フリーランスの法的地位
第1節 はじめに
第2節 労働法による法的規律
第3節 労働法以外の法的規律とフリーランス
第4節 小括――課題のまとめ
第3章 フリーランスをめぐる法政策の形成と展開
第1節 はじめに
第2節 フリーランスをめぐる法政策前史
第3節 「働き方改革」以降の政策形成過程
第4節 フリーランスをめぐる法政策の展開
第5節 小 括
第4章 フリーランスとセーフティネット
第1節 社会保障の概要
第2節 社会保険の適用
第3節 セーフティネットの内容
第4節 セーフティネットの特徴と課題
第5章 プラットフォーム就労とは何か
第1節 デジタルレイバープラットフォーム(DLPF)とは何か
第2節 DLPFをめぐる法的課題

第II部 海外のDLPFに関する立法・議論
第6章 労働法編
第1節 ドイツ
第2節 アメリカ
第3節 EU法
第4節 その他の国(イギリス・フランス)
第7章 社会保障編
第1節 ドイツ
第2節 フランス
第3節 アメリカ
第4節 小 括

第III部 新たな法制度の構築に向けて
第8章 第I部の考察を受けて
第1節 フリーランス政策の課題――フリーランス法前の状況
第2節 フリーランス法
第3節 フリーランス法後の政策課題
第4節 労働者性の判断基準の問題
第9章 PF就労に対する法制度はどうあるべきか
第1節 フリーランス法後の政策課題の分析視角
第2節 PF事業者に対する規制のあり方――仲介型を念頭に
第3節 新たなセーフティネットの構築に向けて

2025年8月 2日 (土) | 固定リンク | コメント (0)

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