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賃金とは何か

2025年10月18日 (土)

書いた覚えのない「名文」で「名著」と褒められる書評

Asahishinsho_20251018094701 「年間500冊読書するアラサー営業マン」と自称する「よねさんの読書ナビ」で、書いた覚えのない文章でもって妙に褒められてる「書評」があったのですが、

書評していただけるのは有り難いのですが・・・

その「よねさん」がさらに3回連続で、引き続き拙著『賃金とは何か』を「書評」していただいているのですが、さらにさらに輪をかけて、わたくしが書いた覚えのない文章をやたらに「引用」して、妙に褒めちぎられてしまっていて、一体喜んでいいのか怒るべきなのか、頭が混乱の極みに達しております。

まずもって、「「同一労働同一賃金」は本当に公平なのか――『賃金とは何か』が照らす"平等"という幻想」というnoteで、

「同一労働同一賃金」は本当に公平なのか――『賃金とは何か』が照らす"平等"という幻想

同一労働同一賃金の理想を実現するには、まず「違いを認めたうえで、納得できる差を作る」という成熟が必要です。
それは、制度の正しさではなく、社会の誠実さの問題です。

真の公平とは、「誰もが、自分がなぜそう評価されているのかを理解できる状態」である。

『賃金とは何か』は、この視点を私たちに突きつけます。
賃金とは単なる「報酬」ではなく、社会が人をどう扱うかを映す鏡なのです。

そのまま読むと、いやあこの『賃金とは何か』って本はええこと言うてるやないか、と思わず感心してしまいそうになりますが、いやいやこの本にそんな一節は存在しません。書いた本人が言うんだから確かです。

次の「年功序列が「悪」だとは限らない――『賃金とは何か』に学ぶ、戦後日本の"見えない合理性"」では、

年功序列が「悪」だとは限らない――『賃金とは何か』に学ぶ、戦後日本の"見えない合理性"

しかし、濱口桂一郎氏の『賃金とは何か――職務給の蹉跌と所属給の呪縛』(岩波新書)を読むと、この見方がいかに浅いかがわかります。
著者はこう語ります。

「年功序列は、単なる企業文化ではなく、戦後日本社会そのものの"合理的な制度設計"の一部だった。」

つまり、「年功序列=悪」という単純な図式では語れないのです。

いやあ、いかにもこの濱口桂一郎という奴がほざきそうなセリフですが、ところがところがこの本のどこを探してもこんな気のきいたセリフは見つけられません。

年功序列は、もはや現代の経済環境には合わないかもしれません。
しかし、それは単なる"ぬるま湯"ではなく、社会を支える合理的なインフラだったという事実を忘れてはいけません。

年功序列は、雇用の安定・生活の安心・社会の秩序を同時に維持するための「時代の最適解」だった。

『賃金とは何か』は、そんな制度の裏にある"社会の知恵"を見つめ直させてくれる一冊です。

「制度の裏にある"社会の知恵"を見つめ直させてくれる一冊」などという究極の誉め言葉におもわず舞い上がりそうになりますが、残念ながらそんな台詞はでてこないのです。書いた本人に身に覚えがないのですから間違いありません。

最後に、「すぐ会社をやめる若者は悪か――『賃金とは何か』が教える、"辞めない世代"と"辞める世代"の合理性」では、

すぐ会社をやめる若者は悪か――『賃金とは何か』が教える、"辞めない世代"と"辞める世代"の合理性

でも、本当に"すぐ辞める=悪"なのでしょうか?
そして、"辞めない=美徳"は普遍的な価値なのでしょうか?

濱口桂一郎氏の名著『賃金とは何か――職務給の蹉跌と所属給の呪縛』を読むと、
その答えは意外にも、「どちらも合理的」というところにあるのです。

そんなこと書いたかなあ、と書いた本人が首をひねりながら読み進めていくと、

『賃金とは何か』を通して見えてくるのは、
社会がどう変わり、個人がどう適応してきたかという"働き方の進化の物語"。

そして私たちが今すべきことは、
過去を否定することでも、未来を盲信することでもなく、
「お互いの合理性を理解しあうこと」。

"辞めない"も、"辞める"も、どちらも社会の鏡なのだ。

いやいや、本人が書いた覚えのない気の利いた「名文」を山のように捏造された挙句に「名著」と褒め称えられるというこの状況は、一体喜ぶべきなのかそれとも怒るべきなのか、私はいま底知れぬ悩みのさなかにあります。

2025年10月 6日 (月)

書評していただけるのは有り難いのですが・・・

Asahishinsho_20251006224401 昨年出した『賃金とは何か』(朝日新書)に対して、2300字を超える字数の長大な書評を書いていただいていること自体には大変有り難いことであると思っております。肯定的であれ否定的であれ、書評していただけること自体がうれしいということに偽りはありません。

とはいえ、この書評を読み進んでいくと、正直申し上げてもやもやするものが湧いてきて、有り難いでは済まないように感じます。

年収=あなたの価値? その誤解を解く――『賃金とは何か』が教える、"お金と人の価値"の本質

SNSを開けば、「年収1,000万円」「FIRE」「高収入の人が選ぶ仕事」など、お金で人を測る言葉があふれています。
でも、それを見てモヤッとしたことはありませんか?
「自分の年収は、人としての価値を表しているのか?」
「努力しても給料が上がらないのは、自分のせいなのか?」
そんな疑問に真正面から向き合うのが、『賃金とは何か――職務給の蹉跌と所属給の呪縛』(濱口桂一郎著)です。
本書は、明治から現代までの賃金制度の歴史をたどりながら、お金のもらい方が人の意識をどう形づくってきたかを描き出しています。
つまり、「年収=あなたの価値」という思い込みは、実は長い歴史の中で社会全体が作り出した"幻想"なのです。・・・・・

わたくしの本を引用しながら、この考えを説明していく・・・という文章が続いていきます。

が、

その先にわたくしの著書からの文章として「引用」されているのは、こういう文脈なのですが、

大切なのは、"評価"と"価値"を混同しないことです。
評価は、あくまで制度の中での相対的な位置づけ。
価値は、あなた自身が何を生み出し、誰にどんな影響を与えたかという絶対的な意味のものです。

本書の視点を借りれば、


「賃金とは、その人が社会のどこに位置づけられているかを示す"構造的な値"であり、人格や人間的価値を表すものではない」

賃金とは何か 職務給の蹉跌と所属給の呪縛 (朝日新書)

ということになります。

いや、拙著にはこんな箴言めいた名文句はありません。書いた覚えはありません。本書を書いた本人が言うのだから間違いありません。大体、引用の形をとりながら、何ページからという注釈がありません。ないはずです。そんな台詞は拙著のどこにも存在しないのですから。

この地の文の「評価と価値を混同しないこと」云々というのが書評者御自身の見解であるように、このあたかもわたくしの著書からの引用であるかのように「引用」されている文章も、書評者御自身の見解であって、その部分の知的財産権はいかなる意味でもわたくしにも属していません。

その先にも、わたくしが書いた覚えがないし、自分で書くことはありえないであろうような気の利いた(効き過ぎた)一句が「引用」されています。

年収を上げることは悪いことではありません。
でも、それが「自分の価値を証明する唯一の手段」だと思い込むと、人生の幅を狭めてしまいます。

『賃金とは何か』は、そうした「お金と価値の関係」をほどきながら、私たちにこう問いかけます。


――あなたは、"いくらもらうか"より、"どう生きるか"で、自分を測れているか?

賃金とは何か 職務給の蹉跌と所属給の呪縛 (朝日新書)

この「書評」を読まれて、濱口桂一郎というのはこんなにも思想的に深みがありそうな哲学的めいた箴言を語る奴であったのか、と思われてしまうと、現物はとてもそんな代物ではありませんので、ぜひとも誤解を解いていただきたく存じます。

というか、ここまでくると、ほとんど捏造の域に達しているようにも思われますが。

2025年8月25日 (月)

中林真幸さんの拙著書評@『JIL雑誌』

782_09 本日発行の『日本労働研究雑誌』2025年9月号は、「労働研究における教育」が特集ですが、書評欄では、中林真幸さんが拙著『賃金とは何か』を書評していただいています。

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2025/09/index.html

書評

濱口桂一郎 著『賃金とは何か─職務給の蹉跌と所属給の呪縛』

中林 真幸(東京大学教授)

詳細に内容を紹介いただいた上で、

・・・本書は法令、産官労のエリートが編集した報告、エリートのオーラルヒストリー、それらを整理した歴史叙述の解釈から成り立っており、それぞれの章において言及されている制度が、どの程度、実装されていたのかを実証するものではない。その意味では、似た問題意識を打ち出した岡崎・奥野(1993)等と同様、政策史ないしは政策思想史の議論である。しかし、それぞれの時代のそれぞれの立場のエリートに世界がどう見えていたかを再現すること、それ自体に意味があるので、この特徴は本書の価値を貶めるものではない。拙評ではその大所高所の議論に乗って三つほど、感想めいたことを書いてみたい。 ・・・

と、3つのことが書かれています。一つ目は戦時統制期における同業組合の協定賃金という超ミクロな話、二つ目は逆に超マクロに、ジョブ型とメンバーシップ型の人類史的な構図の話、三つ目は江戸時代以来の日本のホワイトカラーの働き方の話です。

81tj1p4qhol_sy466__20250825144201 多分、業界で普通に本書の書評を依頼されるような人ではそこまで話が及ばないような所まで話が上っていって、原著者自身にもリフレクティブでありました。

2025年8月10日 (日)

ワーカーズブログで拙著を詳しく紹介

Asahishinsho_20250810080601 bunnmeiさんの「ワーカーズブログ」で、拙著『賃金とは何か』を詳しく紹介、書評していただいています。

https://ameblo.jp/masatakayukiya/entry-12920904233.html

先の参院選では 自公の与党が大敗し、〝手取りを増やす〟をスローガンに掲げた国民民主党や〝日本人ファースト〟を掲げた参政党の躍進が注目された。
争点になったのは、近年の物価上昇への対処であり、消費減税や給付金の是非が問われた選挙でもあった。背景には、日本の労働者の賃金が上がっていない結果としての生活苦であり、不満がある。なぜ日本で30年も賃金が上がらなかったのか、労使の間での一次配分としての賃金を引き上げるには何が必要か、そうした議論はスルーされ、二次配分(=再配分)を巡る選挙での攻防でもあった。
本書は、その一次配分としての賃金とはどう決まるのか、なぜ上がらないのか、そこからいかに脱却するか、の解説書だ。

9784502629723_430 なおこの記事は8月5日付ですが、翌6日付の記事では、石田光男さんの『賃金の社会科学』も紹介されています。

https://ameblo.jp/masatakayukiya/entry-12921188681.html

《本の紹介》で取り上げた、濱口桂一郎氏の『賃金とは何か』(2024年)という新書本は、経営側が主導した企業内での競争的な賃金体系での攻勢に対し、労働側が的確に対処しきれなかった、というスタンスで解説した本だった。その上で、ジョブ型雇用と処遇への転換の必要性を提起し、その具体策としていくつかの方策を提案するものだった。
ここでは、同じテーマを取り扱った著作を紹介したい。かなり以前の本で、手に入りにくいかもしれないが、戦後賃金闘争の転換点にフォーカスしたもので、以下、簡単に紹介したい。
『賃金の社会科学』――日本とイギリス
石田光男著 中央経済社 1990年だ。
日本では〝職能給の年功的運用〟という、世界で類を見ない賃金体系が定着してきた。が、この『賃金の社会科学』では、その主要な要因は、戦後のある特定の時期において、労働側が経営側が提起する賃金体系に屈服し、勝敗の決着がつけられた結果だ、とする。そして、このことが、労働者・労働組合にとってよりふさわしいジョブ型雇用と賃金体系を実現する方針と闘いそのものを放棄した最大の要因だとしている。

2025年6月 2日 (月)

『とうきょうの自治』136号に拙著書評

Tokyo 公益社団法人東京自治研究センターが出している『とうきょうの自治』136号(2025年春号)に、拙著『賃金とは何か』の書評が載っています。

評者の乙幡洋一さんは、「公務員のためいき」というブログを書かれている方で、そこでも今年の二月に丁寧な書評を書いていただいておりました。

『賃金とは何か』を読み終えて

今回もその最後に、このように深読みしていただいています。

・・・ジョブ型とは何か、定期昇給の本質的な仕組みなど、少しでも正しく理解した上で今後の賃金制度論議につなげて欲しい。このような著者の思いを感じ取っていた。また、直接的な言葉は見受けられないが、日本の労働組合に対する叱咤激励が込められた内容だったようにも思っている。

2025年4月30日 (水)

拙著はグロいですか?

4q6uf9r4_400x400 「丸」さんの短い呟きで、

賃金とは何か読了。うーん相変わらずグロい。基本的に濱ちゃんセンセの本読むの嫌いなんだよな。グロすぎるから。ところどころぽつりと漏らす本音がもうね。。。

うーん、拙著は「グロ」いですか?

「相変わらず」と言われているので、過去の拙著もみんな「グロ」いということのようです。

「グロすぎる」から「濱ちゃんセンセの本読むの嫌い」とまで言われているんですが、さてはて、どこらへんがどのように「グロ」いのか、言われている本人が自省できるように、具体的にご教示いただけると幸いです。

いや、「ところどころぽつりと漏らす本音」がそうだということなんでしょうが、それは具体的にどこらへんなのか、著者としては、言ってることはすべて本音であって、本音を隠した建前論を書いたつもりはないですし、書いてあることはすべて歴史的根拠を示して書いているつもりで、根拠のない本音をぶちまけているつもりもないのですが。

2025年3月30日 (日)

いやでもこれは現代史という歴史書なんです

Asahishinsho_20250330163901 ささみふらいさんという方がこんなつぶやきを

たまには何百年も何千年も前のことじゃなくて今のこと書いてある本読もうかなくらいの気持ちで買ったけど面白かった 賃金とは何か 職務給の蹉跌と所属給の呪縛 (朝日新書)

いや、確かに「何百年も何千年も昔のこと」じゃありませんが、厳密には「今のこと」はごくわずかで、大部分は「何十年も昔のこと」を引っ張り出して、今の話と照らし合わせているので、書いた本人のつもりから言えば、現代史という歴史書のつもりではあるんです。

2025年3月24日 (月)

『賃金事情』で鈴木誠さんが『賃金とは何か』を書評

Suzuki_20250324131501 昨年の労働関係図書優秀賞を受賞した鈴木誠さんは、『賃金事情』で「人事制度改革にとって参考になる本」という書評コラムを連載されています。昨年4月20日号では、昔の『新しい労働社会』を取り上げていただいていたのですが、

『賃金事情』で鈴木誠さんが古い方の拙著を書評

A20250320 今回、3月20日号では一番新しい方、昨年刊行した『賃金とは何か』(朝日新書)を取り上げていただきました。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/chinginjijo/a20250320.html

ベースアップと定期昇給という賃金の上げ方/上がり方という上部構造に対し、賃金の決め方(賃金制度)は下部構造をなす。そのため、本書は第I部で賃金の決め方、第II部で賃金の上げ方について議論し、第III部で賃金の支え方、すなわち最低賃金制の確立と展開、および最低賃金類似の諸制度について取り上げている。・・・

当然であるが、人事制度は労使関係によって構築される。だが、労使関係を労働者と使用者の関係とだけ捉えるのは不十分である。重要なのは、政労使が行為者であるという視点である。この点を再確認できる本書は、紛れもなく「人事制度改革にとって参考になる本」といってよいだろう。

「紛れもなく「人事制度改革にとって参考になる本」」との言葉、有り難い限りです。

2025年2月10日 (月)

新書大賞2025

03789f898f2c9dd5f764d3d29c2a3f97892adfe2本日発売の『中央公論』3月号に、例年恒例の新書大賞2025が発表されています。今回栄えある対象は三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』でした。

https://chuokoron.jp/chuokoron/latestissue/

新書大賞2025

新書通100人が厳選した
年間ベスト20

大賞
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』

大賞受賞者に聞く
――これからも「名付ける責任」を担いたい
▼三宅香帆

2位『日ソ戦争』麻田雅文

3位『歴史学はこう考える』松沢裕作

ベスト20レビュー

小熊英二、坂井豊貴、増田寛也、三牧聖子......
目利き45人が選ぶ2024年私のオススメ新書

三宅さんの本だけでなく、今年は勅使川原真衣さんの『働くということ』や近藤絢子さんの『就職氷河期』など、労働関係の良書が多く出ました。

ちなみに、拙著『賃金とは何か』は、日本郵政社長の増田寛也さんが取り上げていますが、その理由が:

経営者として春闘に臨むに当たって、賃金やベースアップの意味をもう一度理解するには絶好の書といえる

だそうです。ううむ。

2025年2月 7日 (金)

吉川浩満さんが拙著評@『週刊文春』

2625327_p 今やフジテレビと並んで全日本注目の的の『週刊文春』ですが、2月13日号の「文春図書館」の吉川浩満さん担当の「私の読書日記」に、拙著『賃金とは何か』が取り上げられておりました。

https://clnmn.net/archives/5879

「私は会社勤めもしているので、賃金はもちろん重大関心事である」と始まり、「賃金は単なる労働の対価にとどまらず、その会社/社会の仕組みそのものを映し出す鏡でもある」と述べ、拙著に対しても「いつもながらきわめて明快な記述で非常に助かる」とお褒めいただいております。

より以前の記事一覧

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