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本日発行の『経団連タイムス』2025年7月31日(No.3693)に、先日経団連の労働法規委員会国際労働部会でお話ししたことが記事になっています。
経団連は5月26日、東京・大手町の経団連会館で労働法規委員会国際労働部会(市村彰浩部会長)を開催した。労働政策研究・研修機構(JILPT)の濱口桂一郎労働政策研究所長からプラットフォーム労働に関する政策の動向について、天瀬光二同副所長と渡邊木綿子調査部次長から日本の職場におけるAI活用の実態について、それぞれ説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■しかく プラットフォーム労働に関する政策の動向(濱口氏)
これまでプラットフォームを介する労働を巡っては、労働者保護等の観点から、(1)どのような要件を満たすと雇用関係があると推定するか(2)プラットフォーム上で労働参加を制限・監視するような自動的な意思決定システム(アルゴリズム管理)をどのように規律するか――といったことが欧米を中心に議論されてきた。
例えば欧州各国においては、タクシー配送サービスの運転手や食事配送サービスの配達員が労働者に該当するか否かが裁判で争われてきた。そしてEUは、労働者性の推定とアルゴリズム管理を軸とするプラットフォーム労働指令を2024年11月に公布した。
EUのプラットフォーム労働指令は、プラットフォームと労働遂行者(労働者か自営業者かを問わない)の間に「支配と指揮」を含む要素が見いだされる場合には、雇用関係があると法的に推定する(第5条)。
雇用関係がないと主張する場合の立証責任は、プラットフォーム側にある。自動化された意思決定システムについて労働遂行者は説明を受ける権利を有する(第11条)とある。
EU加盟各国は、同指令に基づき、国内法を26年12月までに整備する必要がある。
こうした動きを踏まえ、25年の国際労働機関(ILO)総会では、プラットフォーム労働に関する条約・勧告案の第1次討議が行われる(別掲記事参照)。
・・・
F031c95500ea47ac8b750d192e2652e0 日本高等教育学会編『高等教育における多様性と包摂』(玉川大学出版部)をお送りいただきました。
https://www.tamagawa-up.jp/book/b10143526.html
高等教育の機会拡大によって、属性の多様化が進むだけでなく、従来、不利を被っていた側への配慮が求められるようになっている。現在の日本や世界の高等教育が抱える重要な課題である多様性と包摂をテーマに、日本の高等教育・大学を対象とした研究の新たな地平を切り拓く試み。特集7論文のほか論稿1本を収録。
この中で、ちょうど今世間の注目を集めているトランプの大学攻撃が(他のいろんな政策みたいに)彼の思いつき程度ではなく、共和党保守派の根深い動きの一環であることがわかるのが、七番目の
米国におけるDEI を巡る動向と大学の自治の危機(吉田翔太郎 福留東土)
です。
同論文によると、2020年以降、大学がDEIを強化する一方で、共和党支配州の一部では反DEI法が制定され、DEIオフィス廃止などが進められているのだそうです。
トランプ政権のもとで全米で起こっていくことの前哨戦が既に結構進んでいたのですね。
今年度版の『厚生労働白書』が公表されましたが、今回の第1部の特集は「次世代の主役となる若者の皆さんへ-変化する社会における社会保障・労働施策の役割を知る- 」と、近年厚労省が力を入れている社会保障教育と労働法教育を取り上げています。
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/25/dl/zentai.pdf
「今やっていること以外にも勉強しないといけないの?毎日、学校の宿題、テスト勉強、部活、塾、バイトなどで忙しいし、これ以上勉強する暇なんてないよ」と思う人もいるかもしれません。でも、社会保障も労働施策も皆さんにとってとても大切なこと。テスト前のようにたくさん勉強したり、暗記したりする必要はありません。
「たしか、生活に困ったときに、助けてくれる制度があるって見たな。市役所かどこかに相談できたような...でもよく覚えていないから調べてみよう」
あまり細かいことは覚えてはいないけど、バイトでも働くときのルールで守られているはず。こんなに長い時間働いているのに、店長に頼んでも一度も休憩がもらえないなんておかしい。相談できる場所があったはずだから、相談してみようかな...」
難しければ、最初はこの程度でもかまいません。
皆さんが困難に直面したときに、自分で必要なことを調べられたり、しかるべき場所に相談できたりする力を身につけること。これがまず一番大切です。
いやあ、ここまで目線を下げて若者に語りかけようとした白書はこれまでなかったのではないでしょうか。
学校の行き帰りの電車の中や勉強の息抜きになど、いつでもどこでも読めます。一日少しずつで大丈夫です。たくさん読みたくない、ということなら、下の読み方ガイドを見て、興味を持てそうなところだけでも十分です。ぜひ一度、読んでみてください。きっと皆さんの将来の助けになるはずです。
さあ、これがどこまで若い人たちに届くか、というか、届かせる努力が必要なんでしょうね。
×ばつハローワーク池袋の講話、社会保険労務士会の取組み(成田妙庫氏)といった事例が詳しく紹介されています。
思いつきのメモ
欧米で数十年前からはびこってきている極右政党の社会的基盤として、外国人労働者に職を奪われ(ると思い込んでい)る労働者階級や、貧しい外国人に福祉を奪われ(ると思いこんでい)る貧困層が、自分たちを裏切った(と思い込んでいる)社会民主主義政党から離れたからだとよく言われる。もちろんそれで説明できないところはいっぱいあるけれども、全体的にはそういう説明が了解されているように思われる。
そういう労働ショービニズムや福祉ショービニズムの傾向は、もちろん日本にもちらちらとは存在しているけれども、今回の参議院選挙で一気に噴出した排外主義は、それに加えて、というよりもむしろそれ以上に、中流サラリーマン層の被剥奪感が大きいのではなかろうか。印象論だが、日本人ファーストというときに想定されているのは、決して技能実習生が就いている製造業、建設業、農業の3K労働なんかではなく、自分がお金を貯めて、ローンで買えるはずだったマンションが富裕な外国人に買い占められて価格が暴騰して手が出なくなったことのように思われる。
過去数十年間着実に増加してきた技能系の在留資格ではなく、これまで外国人論議ではほとんど取り上げられることのなかった経営管理在留資格がここにきて急激に話題になっていることからしても、どうもこれは欧米型の労働ショービニズムや福祉ショービニズムではなく、日本的中間層たるサラリーマンショービニズムの気配が感じられる。
コロナ禍でのテレワークの流行から持ち上がったつながらない権利の話ですが、EUでは2020年に欧州議会が勧告を行い、昨年4月に労使団体への第1次協議が行われていて、それらについてはそのときに『労基旬報』に簡単な紹介をしてありました。
欧州議会の『つながらない権利指令案』勧告案@『労基旬報』2020年10月25日号
テレワークとつながらない権利に関する第1次協議@『労基旬報』
しばらく音沙汰がなかったのですが、先週7月25日(金)に、ようやく第2次協議が行われたようです。
Commission starts second-stage talks with social partners on right to disconnect and fair telework
The European Commission is taking the next steps towards introducingworkers' right to disconnect and fair teleworkand launched todaysecond-stage talkswith social partners. These talks will gather EU social partner's views on a potential EU-level initiative to reduce the risks of the ‘always-on' work culture and to ensure fair and quality telework for workers. Concretely, social partners are invited to share their views on:
Workers' right to disconnect;
Fair and quality telework, including non-discrimination, access to equipment, data protection and monitoring;
Occupational safety and health.
第2次協議文書自体も30ページある上に、附属の事務局作業文書が94ページもあり、これからじっくり読まなければならないのですが、この問題に関心のある方々は是非目を通しておいた方がよいと思います。
本日の日経新聞の「経済教室」に、転勤制度を考えるの第2弾として(第1弾は昨日の武石恵美子さん)、「判例や法、時代とともに変遷」が載っております。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD119AE0R10C25A6000000/
ポイント
○しろまる過去の判例は転勤を伴う配転を原則容認
○しろまる女性の職場進出を受け一定の法対応進展
○しろまる23年の法規則改正で勤務地限定が標準に近年、転勤制度が再び注目を集めている。特に若者の間で転勤に対する拒否感が強まり、転勤制度を見直す企業が相次いでいる。しかしそもそもなぜ、これまで転勤は当然だとされてきたのだろうか。
転勤は日本の正社員の避けられない運命だと思われてきたが、正社員は転勤を受け入れなければならない、などという規定は六法全書のどこを探しても存在しない。むしろ・・・
『労基旬報』2025年7月25日号に「2025年公益通報者保護法改正と兵庫県齋藤知事」を寄稿しました。
去る6月4日に成立し、6月11日に法律第62号として公布された改正公益通報者保護法には、興味深い一条が含まれています。それは、公務員に対する同法違反の行為に対する刑事罰の規定です。なぜそのような規定が挿入されたのかというと、ちょうど同法の改正の議論が行われていた2024年から2025年にかけての時期に、兵庫県の齋藤元彦知事による公益通報者保護法違反の疑いの濃い行為が行われ、連日マスコミを賑わしていたことが背景にあります。しかし、今回の改正はその齋藤知事関係の規定だけではなく、同法の実効性を高めるためのさまざまな条項が盛り込まれています。その内容を簡単に見ていきましょう。公益通報者保護法は企業不祥事の相次いだ21世紀初頭に、企業内部の労働者からの通報によって不祥事を明らかにすることを目的として立案され、2004年に成立した法律です。当初の法律では、公益通報をした労働者について解雇の無効、派遣契約解除の無効、不利益取扱いの禁止が定められていましたが、必ずしも実効性は高くありませんでした。2020年に同法は一部改正され、退職者も1年間保護されることになりましたが、議論された改正事項の大部分は先送りになっていました。今回の改正は、2020年改正法附則による見直し検討から始まったものですが、かなり多くの領域で改正を試みています。その概要は以下の通りです。まず、事業者における体制整備の徹底と実効性の向上に関わる改正です。2020年改正では、事業者の義務として、公益通報を受け、通報対象事実の調査をし、その是正に必要な措置をとる「公益通報対応業務」に従事する「公益通報対応業務従事者」を定め、必要な体制整備をすることが義務づけられましたが、これに対する行政措置や刑事罰は見送られていました。今回の改正で、従事者指定義務に違反する事業者に対して、立入検査や勧告に従わない場合の是正命令権が規定されるとともに、命令違反に対しては刑事罰を科すこととしています。また、体制整備の実効性向上のために、労働者等に対する周知義務が規定されました。次に、公益通報を阻害する行為への対処の規定です。企業内で公益通報者の探索行為が行われることは、公益通報者自身が脅威に感じることはもちろん、公益通報を行うことを検討している他の労働者を萎縮させるなどの悪影響があり、公益通報を躊躇する要因となります。そこで、改正法では「事業者は、正当な理由がなく、公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為をしてはならない」との規定を設けました。今回の齋藤知事の行為はまさにこれに該当することになるのでしょう。もっとも、この探索行為の禁止には罰則はついていません。もう一つ公益通報を妨害する行為も禁止されています。具体的には、「公益通報をしない旨の合意をすることを求めること、公益通報をした場合に不利益な取扱いをすることを告げることその他の行為」がこれに当たります。こちらにも、刑事罰は付せられていません。一方、公益通報をしたことを理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の規定も大きく充実されました。まず不利益な取扱いに対する罰則の創設です。2020年改正では、自民党プロジェクトチームの提言に基づき、公益通報対応業務従事者の守秘義務違反には刑事罰が科せられたのに、肝心の事業者による不利益取扱い自体には罰則は規定されていませんでした。今回の改正では、公益通報に対する報復や不正を隠蔽する目的で、不利益な取扱いを行った事業者及びその意思決定に関与した個人に対する厳しい制裁を加えることで、労働者が躊躇せず公益通報をして、国民生活の安心・安全を損なう不正行為が早期に是正されるようにするとともに、公益通報者が職業人生や生活上の悪影響を受けることがないよう確保する目的で、禁止規定に違反して「解雇等特定不利益取扱い」をした者に対して「六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する」と規定されました。冒頭に述べた公務員への適用が関わるのはこの規定です。これまでは、公益通報者保護法は公務員も適用除外ではなく、原則的には適用されるものの、条文を細かく読んでいくと、「第三条各号に定める公益通報をしたことを理由とする一般職の国家公務員、・・・裁判所職員、・・・国会職員、・・・自衛隊員及び一般職の地方公務員・・・に対する免職その他不利益な取扱いの禁止については、第三条から第五条までの規定にかかわらず、国家公務員法・・・、国会職員法、自衛隊法及び地方公務員法・・・の定めるところによる」と、公益通報者保護法自体は適用除外となっており、ただ、同条後段で「事業者は、第三条各号に定める公益通報をしたことを理由として一般職の国家公務員等に対して免職その他不利益な取扱いがされることのないよう、これらの法律の規定を適用しなければならない」と、本法と同様の不利益取扱いの禁止を公務員法の適用という形で求めていました。つまり、公益通報者保護法は直接適用ではなく間接適用という形だったわけです。ところが今回の改正で、一部(解雇等不利益取扱いの無効等)を除き、すべて公務員にも適用されることとなり、不利益取扱いの禁止の違反に対する刑事罰規定も、その公務員を使用している事業者(地方公共団体等)にも適用されることになりました。今回の齋藤兵庫県知事の場合、公益通報した西播磨県民局長A氏に対し、「事実無根の内容が多々含まれている」「業務時間中なのに嘘八百含めて文書を作って流す行為は、公務員としては失格」などと批判し、停職3か月の懲戒処分にしましたが、その後A氏の告発に事実が含まれていることが判明したのです。もし今回の改正法が適用されれば、齋藤知事には「「公益通報したことを理由として当該公益通報者に対して分限免職又は懲戒処分をした者」として、「六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金」が科せられる可能性があったことになりましょう。A氏は「一死を以て抗議する」という趣旨のメッセージも残して自殺してしまいましたが、そもそも解雇の無効や不利益取扱いの禁止はあくまでも「公益通報をしたことを理由として」行われたものに限られます。理屈の上では当然とはいえ、事業者の側がわざわざ「公益通報をしたことを理由として」解雇や不利益取扱いをしてくれるのでない限り、その立証責任が民事訴訟法の原則通り労働者側に課せられると、その立証は極めて困難になります。そこで、立証責任の転換が問題になります。今回の改正では、解雇と懲戒の特定不利益取扱いに限って、「公益通報者に対する解雇等特定不利益取扱いが第一項各号に定める公益通報をした日(前条第一項第一号に定める事業者が第一項第二号又は第三号に定める公益通報がされたことを知って当該解雇等特定不利益取扱いをした場合にあっては、当該事業者が当該公益通報を知った日)から一年以内にされたときは、前項の規定の適用については当該解雇等特定不利益取扱いは、当該公益通報をしたことを理由としてされたものと推定する」という規定を設けました。今回の齋藤知事の行為は、懲戒処分ですから当然これに該当しうることになります。では、今回立証責任の転換がされなかった不利益取扱いとは何かというと、主として念頭に置かれていたのは配置転換でした。この点については、国会質疑でも繰り返し議論になりましたが、ジョブ型ではなくメンバーシップ型の日本の企業においては、人事労務管理の一貫として頻繁な配置転換が行われていることから、人事上の処遇に不満を持つ労働者が濫用的通報を行う場合、人事労務管理が制約されるおそれがあるとしてあえて外された経緯があります。公益通報者保護という世界にも、日本型雇用システムは影響を及ぼしているわけです。その他、フリーランス新法に規定する特定受託業務従事者が役務提供先の事業者について公益通報する場合も保護対象に含められるなど、いくつも改正点があります。これら改正点はいずれも重要ですが、同法が事業活動を行う民間企業だけではなく、県庁のような地方公共団体やその長たる県知事にも適用される法律であるということが、広く一般に周知されるに至ったことが、皮肉な言い方になりますが、今回の改正と並行してマスコミを賑わせた齋藤兵庫県知事の事件の最大の怪我の功名だったのかも知れません。
9784087370089_110 例によって、『労働新聞』に月イチ連載の書評ですが、今回はヤニス・バルファキスの『テクノ封建制』です。
https://www.rodo.co.jp/column/203132/
著者はギリシャの政治家・学者で、経済危機時に財務大臣になり、債務帳消しを主張したことで有名だ。本書の語り相手に設定されている父親譲りの左翼で、資本主義がやがて社会主義にとって代わられることを夢見ていた。ところがあに図らんや、確かに資本主義はとって代わられたのだが、とって代わったのは社会主義ではなくテクノ封建制であった。テクノ封建制とは何か。資本主義とどう違うのか?資本主義は、資本家が資源や労働力を活用(搾取)して生産活動を行い、利潤を生み出す。だから、資本家と労働者の対立が社会の基本対立図式になるし、生産活動の場で労働者が団結して資本家と対決し、労働者の利益を拡大する社会を目指すことも可能であった。ところが、テクノ封建制ではすべてがひっくり返ってしまう。テクノ封建制を支配するのは生産手段を所有する資本家ではなく、プラットフォームと呼ばれる需給をアルゴリズムでマッチングする「場」を独占するクラウド領主たちだ。GAFAMと呼ばれるごく少数の領主たちは、そこに商品を出品する封臣資本家に対しても、労務サービスを提供するクラウド農奴に対しても、絶対的な権力を持っている。プラットフォームへのアクセスをスイッチオフするだけで、彼らはあらゆる商品・サービス需要へのアクセスから遮断されてしまうのだから。売るためには領主さまに従わなければならないのだ。その絶対的権力を駆使して、クラウド領主たちは莫大な「利用料」を巻き上げる。これはもはや資本主義的な「利潤」ではなく、経済学的には「レント」(地代)に属する。「利潤」が(労働者を使った)資本家による生産活動によって生み出されるのに対し、「レント」は他人に生産活動を行わせて、その上がりを我がものにするだけだ。その姿は、かつて中世封建社会で、武力を振りかざして年貢を巻き上げていた領主たちと変わらないではないか、というわけだ。筋金入りの社会主義者のはずのバルファキスが、資本主義の大明神たるアダム・スミスを引っ張り出してこんな愚痴を語らせるというのが、何とも皮肉の極みであろう。曰く、「スミスがスコットランド訛りで嘆く声が聞こえてきそうな気がする。2008年以降、資本主義救済の名目で、中央銀行は資本主義のダイナミズムとその利点を抹殺した。有害な封建的地代まがいのものが蘇って、実り豊かな資本主義的利潤に対する歴史的な復讐を果たす機会を得たことに、スミスは落胆しているだろう。利潤の追求は哀れなプチ・ブルジョワに委ねられる一方で、本当の金持ちは、『負け犬が利潤を追い求めているぞ』と嬉しそうに囁き合っている。」いまや世界でクラウド領主がいるのはアメリカと中国だけだ。EUも日本も、利潤追求の資本主義時代にはアメリカを追いつめるほどに威勢が良かったが、現在は哀れな負け犬として、一生懸命生産活動で稼いだ利潤を領主さまに巻き上げられる一方だ。彼に言わせれば、米中対立の真の姿は、どちらのクラウド領主が世界を支配するかという死闘なのだ。
昨日の参議院選挙は、もちろん与党の自民・公明が大敗し、参政党が躍進したわけですが、本ブログ恒例の労働組合の星取表でみると、これまで国民民主党の候補者がたくさん票をとりながらも、党自体の弱小さのゆえに涙を呑んでいたのとは対照的に、国民民主党の4人は党の伸長のおかげもあって全員当選し、立憲民主党の方が伸び悩みのために5勝1敗という結果になりました。
国民民主党:
田村麻美(UAゼンセン):205,331票
浜野喜史(電力総連):193,599票
礒崎哲史(自動車総連):181,976票
平戸航太(電機連合):92,137票
立憲民主党:
岸真紀子(自治労):147,648票
吉川沙織(情報労連):116,314票
水岡俊一(日教組):116,142票
小沢雅仁(JP労組):99,963票
郡山玲(JAM):94,610票
森屋隆(私鉄総連):74,495票(落選)
ちなみに、JAMは2016年、2019年は国民民主党から出ていたのですが、いずれも党自体の伸び悩みのために落選してしまい、今回は立憲民主党から出馬したら、党の勢いが移ってしまっていたために、かなりひやひやの当選になったようです。
政党と労働組合の関係というのは、かくもなかなか難しいものなのですね。
経済同友会が、去る7月10日に「サービス産業の持続的な成長に向けて〜個人が輝く産業になるために〜」という提言を公表しているんですが、その中に、「クラフトマン・エグゼンプション」という接客サービス業の現場人材向けの労働時間の適用除外を提起していて、これはなかなか重要な話ではないですか。
https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/uploads/docs/20250710a.pdf
1 クラフトマン・エグゼンプション(仮称)の導入
デスクワーカーはそのスキル特性から自己研鑽に会社の設備を必要とせず、個人の意欲のみで実施が可能である一方、接客サービス業の現場人材は訓練に会社の設備を必要とする等、個人の意欲のみでは実施が難しい。接客サービス業の現場人材に訓練(自己研鑽)の機会を安定的に提供することを可能とするため、国の認定を受けたスキル評価制度(技能検定、団体等検定、認定社内検定を指し、以下「検定」という)に基づく資格取得(処遇向上)を目的とする訓練に関し、本人の訓練時間を労働時間に該当しないことを明確化するとともに、指導役の訓練指導時間を確保するため労働時間の上限規制を緩和すべきである。なお、悪用する企業には厳正に対処することが求められる。
a.労働時間に該当しない訓練の明確化
厚生労働省の「労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い」(以下「ガイドライン」という)において、労働時間に該当しない訓練(以下「自己研鑽」という)に関する基本的な考え方が示されている28。しかしその解釈は事業所管轄の労働基準監督署に委ねられているため、各企業は保守的な運用をせざるを得ず、結果として社員による自己研鑽の機会を十分提供できていない。
そのため、検定に基づく資格取得のための自己研鑽については、対象者の健康時間管理の義務を企業が負うことを条件に、労働時間に該当しないことを明確化すべきである。併せて、訓練実施にあたり事前の届出制とする等の手続きを定め、企業による安定的な機会提供を促すべきである。b.訓練指導(労働時間扱い)に関する時間外労働の上限規制適用免除
検定に基づく資格取得のための自己研鑽を指導する従業員を対象に、労使合意(36 協定締結)のもと、訓練指導については労働時間扱いとするものの、その時間については時間外労働の上限規制を超えて行うことを可能とすべきである。
自己研鑽と労働時間というのは医師の上限規制の関係で出てきた話に似ていますが、こっちはもっと本質的な問題であって、そもそも教育訓練を受けている者(研修生とか実習生とか)は労働者であるのか否かみたいな話とも根っこがつながってきます。
日本の場合、入職前に非労働者として教育訓練を受けるのではなく、入職後に労働者として教育訓練を受けることが社会的常識になってきたため、入職当初は上司や先輩にあたかも生徒が先生に教えられるがごとく無制限一本勝負でとことん鍛えられるという風習が一般的であったのが、それも労働時間だとカウントされてしまうと、そのための時間が取れなくなるという弊害が出てきてしまうという話なのでしょうか。
[画像:Ppp]
83f2a3ca8d87118502673935d4fa04dc61ab235d 経団連出版の『日本の労働経済事情 2025年版』をお送りいただきました。
https://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/pub/cat2/21c5f849553e450003988e274c0f8e2033fd1bbb.html
人事・労務全般に関する基本的な事項や、重要な労働法制の概要と改正の動向、わが国労働市場の動向などについて、1テーマ・1頁を基本に、図表を用いてわかりやすく簡潔に解説します。2025年版では、労働施策総合推進法、女性活躍推進法、労働安全衛生法等の法令改正のほか、エンゲージメント向上のための施策、企業内外での円滑な労働移動の課題、外国人技能実習制度に代わる育成就労制度の施行に向けた最新の動向を解説しています。人事・労務部門の初任担当者がはじめに学習する際に役立つことはもちろん、新任管理職など、業務等を通じて人事・労務に関心を持たれた方が基本的な事項を理解・確認する手引きとしてもご活用いただけます。
【おもな内容】
I 労働市場の動向・雇用情勢・労働時間と賃金の概況
失業率・求人倍率、雇用形態別労働者、労働時間、労働生産性 等
II 労働法制
労働基準法、労働安全衛生法(ストレスチェックの実施義務拡大等)、労働契約法、職業安定法、労働者派遣法、障害者雇用促進法、育児・介護休業法、女性活躍推進法(期間延長等)、次世代育成支援対策推進法、労働施策総合推進法(カスハラ対策等)、公益通報者保護法 等
III 人事・労務管理
人事・労務管理における重要テーマ、円滑な労働移動、人材育成 等
IV 労使関係
日本の労使関係の変遷、春季労使交渉 等
V 労働・社会保険
医療保険制度、介護保険制度、年金制度の体系、労働者災害補償保険制度、雇用保険制度(求職者給付、財政状況等)等
VI 国際労働関係
グローバル化の進展、ILO(国際労働機関)等
昨日一日の目まぐるしい動きは、日本がルーマニア化しつつあるということか?
ロシアのひそかな介入で、完全に無名だった親露右翼の大統領候補が突如急激に人気を伸ばして危うく当選しかかるというのは、遠い東欧の話だとみんな思ってたけど、実は我が日本の足元にもひたひたと押し寄せてきていたのかもしれない。
WEB労政時報に「スポットワークの留意事項」を寄稿しました。
https://www.rosei.jp/readers/article/89363
今年3月25付の本連載で、「スポットワークと日雇派遣」について今までの経緯を簡単にまとめておきましたが、去る7月4日に厚生労働省は「いわゆる『スポットワーク』における留意事項等をとりまとめたリーフレットを作成し、関係団体にその周知等を要請しました。」とプレス発表しました。・・・
S1280 日経ビジネスの「リストラは人的資本の配分ミスだ アイリスオーヤマのような受け皿登場に期待」という記事に、わたくしのコメントがちょびっとだけ使われています。
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00108/00340/
・・・・・労働政策研究・研修機構(JILPT)の濱口桂一郎研究所長は「日本のリストラと本来のリストラクチャリング(事業再構築)は相反する意味になってしまった」と指摘する。
ジョブ型雇用が根付く欧米では、産業構造の転換を図るリストラは会社都合であり、従業員に責任がないとの認識が定着している。そのため解雇通知を受けても後ろめたさは一切ない。中途採用市場が発達しており、従業員は競争力のない会社から離れ、新興産業で活躍するというサイクルが回る。
一方、日本ではメンバーシップ型の企業が多く、「リストラは会社というメンバーシップからの除名を意味する」(濱口氏)。本来は産業レベルの問題のはずが、労働者個人に問題があるように翻訳されていることが原因だと説く。転職が当たり前となり、自発的に会社を退職することへのハードルは下がった。だが、ムラ社会から一方的に排除されることは依然として重いのだ。・・・・
06051448_68412f9e85312 山川隆一、早川智津子、山脇康嗣、冨田さとこ『外国人労働者に関する重要労働判例と今後の展望』(第一法規)をお送りいただきました。ありがとうございます。
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/105120.html
目次を下にコピペしておきますが、いやあ、いつの間にか外国人労働者に係る裁判例がこれほどにたくさん積み重なっていたんですね。
総論 外国人労働者受入れ制度の動向と労働判例(山川隆一)
1 これまでの外国人労働者受入れ政策
2 新たな法制度
3 外国人労働政策と労働判例
【1】 適用法規の決定及び管轄裁判所(山川隆一)
1 ◆だいやまーく 適用法規の決定
判例1
絶対的強行法規の適用(インターナショナル・エア・サービス事件・東京地決昭和40・4・26労民集16巻2号308頁〔27621775〕)
判例2
準拠法の決定(国立研究開発法人理化学研究所事件・東京高判平成30・10・24労判1221号89頁〔28264952〕)
解説
1 外国人労働者に対する労働法の適用
2 管轄裁判所(国際裁判管轄)
●くろまるCOLUMN●くろまる 賃金債務の性質と外国人労働者(冨田さとこ)
【2】 外国人労働者の人権(早川智津子)
1 ◆だいやまーく 国籍差別の禁止(労基法3条)等
判例1
国籍による雇用期間の差異と労基法3条(東京国際学園事件・東京地判平成13・3・15労判818号55頁〔28070464〕)
判例2
日本語教育機会の有無と労基法3条(三菱電機事件・東京地判平成8・3・25労経速報1592号25頁〔28010346〕)
解説
1 国籍差別禁止-労基法3条
2 均衡・均等待遇-パート有期法
2 ◆だいやまーく その他の人権保障
判例3
強制帰国(フルタフーズ・食品循環協同組合事件・富山地判平成25・7・17労旬1806号62頁〔28223586〕)
解説
1 技能実習生の人権保障
2 労基法等による人権保障
3 ◆だいやまーく ヘイトスピーチ
判例4
ヘイトスピーチ、差別的言動と職場環境配慮義務(フジ住宅ほか事件・大阪高判令和3・11・18労判1281号58頁〔28293675〕(上告棄却・不受理(最決令和4・9・8)))
解説
1 差別的言動と職場環境配慮義務
2 差別的言動解消法(ヘイトスピーチ解消法)
4 ◆だいやまーく 人格的利益の尊重等
解説
1 職場での日本語のみ使用ルール・日本語ハラスメント
2 プライバシーと人格的利益の尊重:職場での本名使用の強要問題
3 宗教差別・宗教への配慮(食習慣含む)
【3】 労働契約の意義と内容(早川智津子)
1 ◆だいやまーく 入管法の規制と労働(雇用)契約
判例1
入管法の規制と私法上の権利(山口製糖事件・東京地決平成4・7・7判タ804号137頁〔27814290〕)
判例2
在留手続上の書類と雇用契約の内容(マハラジャ事件・東京地判平成12・12・22平成11年(ワ)8997号公刊物未登載〔28321847〕)
解説
1 入管法上の外国人就労の特徴
2 入管法上の規制と私法上の権利
2 ◆だいやまーく 外国人労働者の労働契約
判例3
在留期間を雇用期間と認めるか―否定(ユニスコープ事件・東京地判平成6・3・11労判666号61頁〔28019232〕)
解説
1 労基法・労契法上の労働者性
2 労働契約の内容
●くろまるCOLUMN●くろまる労働市場テスト(早川智津子)
【4】 労働契約の成立―採用内定・試用期間(冨田さとこ)
1 ◆だいやまーく 採用内定
判例1
外国人留学生の採用に係る内定取消し(エスツー事件・東京地判令和3・9・29労判1261号70頁〔29066565〕)
解説
1 採用内定の法的性質(概説)
2 採用内定取消しが無効・不法行為になる場合
3 外国人と労働契約の成立・就労の開始
2 ◆だいやまーく 試用期間
判例2
能力不足と判断した有期雇用契約の中途採用者を試用期間中に解雇した事例(リーディング証券事件・東京地判平成25・1・31労経速報2180号3頁〔28212569〕)
解説
1 試用期間の法的性質
2 本採用拒否の適法性の判断基準
3 職業紹介
●くろまるCOLUMN●くろまる業務に必要な日本語能力(冨田さとこ)
【5】 労働条件(山脇康嗣)
1◆だいやまーく相殺合意や労使協定に基づく賃金からの控除、使用者による労働者のパスポート保管
判例1
航空運賃分等の相殺合意と労基法24条1項、パスポート保管の適法性(本譲事件・神戸地姫路支判平成9・12・3労判730号40頁〔28030497〕)
解説
1 相殺合意に基づく賃金からの控除
2 労使協定に基づく賃金からの控除
3 使用者による労働者のパスポート保管
2◆だいやまーく外国人労働者と日本人労働者の労働条件の差に関する労基法3条の均等待遇、パート有期法上の均等待遇・均衡待遇
判例2
技能実習生と日本人労働者の賃金や寮費の差と労基法3条(デーバー加工サービス事件・東京地判平成23・12・6判タ1375号113頁〔28181170〕)
解説
1 労基法3条の均等待遇の原則
2 報酬額等に係るパート有期法の適用関係
●くろまるCOLUMN●くろまる入管法及び技能実習法上の同等報酬基準に係る審査厳正化の必要性(山脇康嗣)
●くろまるCOLUMN●くろまる入管法制と労働法制が交錯する接点に係る理解の重要性(山脇康嗣)
【6】 人事・懲戒(冨田さとこ・山川隆一)
1 ◆だいやまーく 人事
判例1
雇用契約上の予定とは異なる業務・就業場所への配転命令を拒否したことによる解雇が有効とされた事例(鳥井電器事件・東京地判平成13・5・14労判806号18頁〔28061727〕)
解説
1 人事制度
2 人事異動
2 ◆だいやまーく 懲戒
判例2
国籍による差別・ハラスメント紛争の通報と懲戒処分(モルガン・スタンレー・グループ事件・東京地判令和6・6・27労判1326号14頁〔28330563〕)
解説
1 懲戒処分(概説)
2 懲戒事由該当性
3 懲戒権の濫用
●くろまるCOLUMN●くろまる業務内容・求められる能力を明示することの重要性(冨田さとこ)
【7】 労災補償(早川智津子)
1 ◆だいやまーく 安全配慮義務
判例1
安全配慮義務 ―外国人の母国語での表示、安全教育(矢崎部品ほか一社事件・静岡地判平成19・1・24労判939号50頁〔28131944〕)
判例2
安全対策を講じていた会社での事故の予見可能性を否定(アイシン機工事件・名古屋高判平成27・11・13労経速報2289号3頁〔28243865〕(上告棄却・不受理(最決平成28・7・5平成28年(オ)223号等公刊物未登載〔28260728〕))
判例3
不法就労者の安全配慮義務違反の逸失利益(改進社事件・最判平成9・1・28民集51巻1号78頁〔28020337〕)
判例4
監理団体の責務(フルタフーズ・食品循環協同組合事件・富山地判平成25・7・17労旬1806号62頁〔28223586〕)
解説
1 外国人労働者に対する労安法、労災保険法の適用
2 外国人労働者と安全配慮義務
3 外国人労働者の逸失利益
4 安全衛生の確保
【8】 労働契約の終了(1)―解雇等(山川隆一)
1 ◆だいやまーく 期間の定めのない労働契約と解雇
判例1
解雇権濫用法理(適格性欠如・整理解雇)(さいたま地判平成19・11・16平成17年(ワ)2277号裁判所HP〔28140146〕)
判例2
解雇権濫用法理(能力不足)(ヒロセ電機事件・東京地判平成14・10・22労判838号15頁〔28080008〕)
解説1 解雇権濫用法理
2 ◆だいやまーく 期間を定めた労働契約の途中解雇
判例3
「やむを得ない事由」による解雇(ネットジャパン事件・東京地判令和元・12・26判タ1493号176頁〔29058335〕)
解説
1 概要
2 「やむを得ない事由」
3 ◆だいやまーく 辞職・合意解約
解説
1 概要
2 労働者の辞職の意思表示等の認定・効力
3 外国人労働者をめぐる事例
4 期間途中の辞職と「やむを得ない事由」
●くろまるCOLUMN●くろまる外国人労働者と紛争解決方法(冨田さとこ)
【9】 労働契約の終了(2)―有期労働契約の雇止め(冨田さとこ)
1 ◆だいやまーく 有期労働契約の終了とその制限
2 ◆だいやまーく 労契法19条の要件(2012年改正による雇止め法理の法定化)
判例1
労契法19条2号による有期労働契約の更新(長崎大学事件・長崎地判令和5・1・30判時2602号72頁〔28310732〕)
判例2
労契法19条2号による有期労働契約の更新(慶応義塾大学事件・東京地判令和4・11・29令和2年(ワ)24649号公刊物未登載〔29073633〕)
解説
1 労契法19条2号
2 契約更新への合理的期待等の認定
3 雇止めの合理的理由(概説)
4 雇止めが許されない場合の効果
5 大学教員の無期転換権(任期法の特例)
【10】 監理団体、実習実施者及び技能実習生の権利義務(山脇康嗣)
1 ◆だいやまーく 監理団体・実習実施者の義務と技能実習生の権利
判例1
技能実習生が適切な実習を受ける権利、労災発生時の監理団体の義務、帰国に当たっての意思確認、転籍措置(アーバンプランニング事件・福岡高判令和4・2・25令和3年(ネ)167号公刊物未登載〔28300748〕)
解説
1 技能実習生が技能実習計画審査基準の要件に沿った適切な実習を受ける権利
2 技能実習計画審査基準の解釈
3 労災発生時の監理団体の義務
4 帰国に当たって技能実習生として保護されるべき権利
5 監理団体の転籍措置義務
2 ◆だいやまーく 技能実習生の資格外活動と実習実施機関・監理団体の責任
判例2
技能実習生に対する業務命令の限界、技能実習生が技能実習制度の実施について有する法的利益、実習実施機関及び監理団体が負う通報義務、監理団体の実習監理責任、損害に係る相当因果関係(千鳥ほか事件・広島高判令和3・3・26労判1248号5頁〔28293083〕)
解説
1 技能実習生に対する業務命令の限界
2 技能実習生が技能実習制度の実施について有する法的利益
3 実習実施機関及び監理団体が負う通報義務の性質
4 監理団体が負う実習監理責任の内容、性質
5 損害論(相当因果関係の有無・範囲)
3 ◆だいやまーく 実習認定の取消しの処分性
解説
【11】 技能実習生の在留資格変更手続(山脇康嗣)
判例
実習実施者及び監理団体が技能実習生の在留資格変更手続について負う注意義務(佐山鉄筋工業ほか事件・大阪地判令和5・9・28労判1314号80頁〔28313426〕)
解説
1 実習実施者が技能実習生の在留資格変更手続について負う注意義務
2 監理団体が技能実習生の在留資格変更手続について負う義務
3 損害論
【12】 不法就労助長罪(山脇康嗣)
1◆だいやまーく不法就労助長罪(入管法73条の2第1項1号、2号、3号)の客観的構成要件
判例1
入管法73条の2第1項1号の不法就労助長罪の客観的構成要件(サパークラブ樹理事件(売春防止法違反、入管法違反(不法就労助長)被告事件)・東京高判平成5・9・22判タ837号297頁〔27818239〕)
解説
1 入管法73条の2第1項1号の不法就労助長罪
2 入管法73条の2第1項2号の不法就労助長罪
3 入管法73条の2第1項3号の不法就労助長罪(不法就労あっせん罪)
2 ◆だいやまーく 不法就労助長罪の主観的構成要件
判例2
入管法73条の2第1項1号の不法就労助長罪の故意(ベトナム人派遣労働者事件(入管法違反(不法就労助長)被告事件)・名古屋地判令和2・10・14令和2年(わ)442号等公刊物未登載)
解説
1 入管法73条の2第1項1号の不法就労助長罪の主観的構成要件
2 入管法73条の2第2項の解釈
【13】 労働組合(山川隆一)
1 ◆だいやまーく 労使関係の当事者
命令1
労組法上の「使用者」(Y1社・Y2協同組合事件・大阪府労委平成27・9・25平成26年(不)30号労働委員会 DB)
解説
1 労働組合・労働者
2 使用者
2 ◆だいやまーく 団体交渉
団体交渉における使用言語(東京学芸大学事件・東京都労委平成28・7・19平成27年(不)17号労働委員会DB))
命令2
解説
1 団体交渉の当事者
2 団体交渉事項
3 団体交渉の開催条件
4 誠実交渉義務
3 ◆だいやまーく 団体行動
解説
4 ◆だいやまーく 不当労働行為
解説
1 意義・成立要件
2 救済手続
事項索引
判例索引
C9f320d88eab4a6981ac650008c4c4a8 児美川孝一郎さんより『「教育改革」は何を改革してきたのか 学校と教育の現在(リアル)』(誠信書房)をお送りいただきました。ありがとうございます。
https://www.seishinshobo.co.jp/book/b10136243.html
1980年代半ばを起点とする間断なき教育改革について、「授業」「生徒指導」「学校制度」「教師」「公教育」という5つのトピックをもとに、その展開や帰結、現れた問題点や課題などを論じる。
教育改革によって何が改革され、何が改革されなかったのかを明らかにしていくことで、日本の教育に刻み込まれた特質や問題性をも浮き彫りにする。
教育改革を担う教師や教職をめざす学生はもちろん、今どきの学校教育が「どうなっているのか」、そして「なぜ、こうなっているのか」に興味がある読者にぜひとも一読を勧めたい本である。
参議院選挙戦のさなか、参政党の支持率が急増しているという報道を見つつ、17年前のこのエントリがそこはかとなく思い出されてきたので、再掲しておきます。多分なにも付け加える必要はないでしょう。
617uexdgx6l__ss400_いや、こういうのが出てくるだろうな、とは前から思っていましたが、やはり出てきましたな、という感じです。
http://www.amazon.co.jp/dp/477551279X/
縦軸にリベとソシをとり、横軸にウヨとサヨをとると、計4つの象限が得られますが、そのうちこれまでの日本で一番論者が少なくて市場としてニッチが狙えるのはソシウヨですからね。
まあ、西部邁氏を取り巻く人々はある意味でその一角を占めていたといえるのですが、いささか高邁な議論になりすぎるところがあり、むくつけなまでに劣情を刺激するようなイデオロギー操作にはリラクタントな風情がありましたが、このムックはそこはスコッと抜けていて、何でもありの感じですな。
「21世紀大恐慌は資本主義の崩壊か」とか「金融大恐慌が証明した小泉=竹中路線の大罪」とかタイトルだけ見ると、『情況』かという感じですが、その後に控えるのは「経済ナショナリズムが日本を救う」ですからね。両方に文章を寄せているのが経済産業省の中野剛志氏ですが、気分は商工省の革新官僚ですか。
興味深いのは、「超格差社会と昭和維新」という昭和初期の話がでてきていることで、これは本ブログでも取り上げましたが、まさにソシウヨが勝利した典型的な事例であるわけで、この筆者は現代日本でもそれをやろうと思っているわけですが、それはいささか問題ではないかと思う人々にとっても、等しく学ぶべき歴史の教訓であることは間違いないと思いますよ。
C5448cd779cc4c0da32b2cd66f2a5620 宮本太郎編著『子どもが消えゆく国の転換』(勁草書房)をお送りいただきました。ありがとうございます。
https://www.keisoshobo.co.jp/book/b10135250.html
少子化にともなう人口の縮小、高齢化やジェンダー、就労構造の問題などから格差と分断が広がる社会の閉塞感を抜け出すためのビジョンをどう形づくっていくか。新たな生活保障のあり方はどうあるべきか。日本の未来をつくる方向を指し示す。
目次は次のとおりですが、
第1章 少子化社会の転換はなぜすすまないのか?
第2章 ケアリング・スキルの脱ジェンダー化戦略―ケア・ニーズを中心に据える社会に向けて
第3章 人口減少社会の雇用と賃金
第4章 日本の再分配政策の支持・選好
第5章 住宅保障における住宅セーフティネット法の役割―住宅確保における排除への法的な対応
第6章 少子化と苦悩する家族政策―フランスから考える家族と政治の関係
第7章 長期的社会変動と少子化
このうち、是非読む値打ちがあるのは、最後の第7章、筒井淳也さんによる「長期的社会変動と少子化」です。
これは、目の前の少子化対策であれこれ騒いでいる議論を、人類史的視座から見下ろすような感じです。そもそも、前近代社会では家族が最重要の経営・生産組織であり、結婚と生殖はその極めて重要な手段でした。近代企業が労働力確保のために労働者を採用するのと同じくらいの位置づけであったわけです。ところが近代化によって経営・生産組織が家族の外側の企業に移るとともに、結婚や生殖はビジネスライクに遂行すべきことではなくなってしまい、愛だの恋だのという不安定な情緒に委ねられるようになってしまいました。
それでも近代化後かなりの間は、社会的性別役割分業で、家族(=妻、母)は企業が担えない生殖機能を、企業活動を間接的に支えるために遂行する役割を担うことにより、間接的にビジネスライクでありえたのでしょうが(この時代に郷愁を覚えるのが近代的保守層と言うことになるのでしょう)、企業が彼女らを直接に企業の生産活動に活用するようになると、それすらも失われ、生殖活動に積極的関心を持つのは福祉国家だけと相成ったというわけです。
664429 厚労省がスポットワークに関するリーフレットを公表したと思ったら、非正規労働者の権利実現全国会議編著『それって大丈夫? スキマバイトQ&A』(旬報社)が届きました。
https://www.junposha.com/book/b664429.html
スキマバイトとは何か? 違法な日雇い派遣の"復活"
こんなときどうする?
●くろまる仕事を"ドタキャン"された!
●くろまる"早上がり"で思っていたお金をもらえなかった!
●くろまる仕事の"評価"が不当に低かった!
●くろまるバイトアプリで"出禁"になった!
スキマバイトとは何か? 違法な日雇い派遣の"復活"
*
いま、スキマバイト(スポットワーク)が急激に増加しています。メディアでは、労働者のニーズに応じる新たな働き方であるとの宣伝が蔓延しており、とくに大手の「Timee(タイミー)」は、テレビCMも大々的に行い、知名度も高く、多くの人が利用しています。非正規全国会議では、労働相談を通じて明らかになった問題を指摘し、Q&A形式でスキマバイトの法的な疑問に答えます。
本書の「Q&A」は、そのまま実務で使えるQ&Aというよりは、本来こうあるべきという主張の記述になっているところが感じられました。
Q15の雇用保険のところでは、「条件を満たせば日雇労働被保険者として,特別な雇用保険に加入できます」と述べていますが、それはほとんど不可能に近いでしょう。「まず働く人自身がハローワークで手続をして、日雇手帳の交付を受ける必要があります」というところをクリアしたとしても、「この日雇手帳をはたらき先へ持参し、賃金を受けるたびに印紙を手帳に貼ってもらいます」というのは、「そんな印紙もってないよ」と言われてしまうでしょう。
日雇雇用保険は、1949年に日雇失業保険として設けられましたが、日雇労働者がみな山谷やあいりんといったドヤ街に居住し、はたらく先は日雇労働者を多く使う土木建築産業であった頃に、その物理的状況に対応して作られた制度なので、日雇労働者がみな携帯やスマホでつながり、職場はあらゆる場所のあらゆる業種に拡大している現在では、ほとんど使い物にならなくなっているのです。
実はここは、今日的状況下で日雇いのアブレをどう扱えるのかという結構深刻な問題が孕まれているんですが、そこの議論は残念ながら20年前に日雇派遣が問題になったとき以来あまり深められていません。
昨年来議論が高まってきていたスポットワーク(いわゆるスキマバイト)について、先週末に厚生労働省からリーフレットとそれを伝える要請書が出されたようです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_59197.html
これ、要請書には発番がついていて、正規の行政文書なんですが、肝心の解釈を書いた文書がリーフレットというそれ自体はただの紙であって、行政解釈を示した発番のついた通達ではないというやや複雑な構造になっています。
ただ、その中身はまさに一定の解釈を示したものになっていて、スポットワーク協会も直ちにそれに従った運用をするようです。
■しかく 労働契約の成立時期について
個別の具体的な状況によるが、原則として、労働契約の成立をもって労働関係法令が適用されることになるので、労使双方で成立時期の認識を共有した上で、労働契約を締結することが求められること。
「スポットワーク」では、アプリを用いて、事業主が掲載した求人に労働者が応募し、面接等を経ることなく、短時間にその求人と応募がマッチングすることが一般的である。面接等を経ることなく先着順で就労が決定する求人では、別途特段の合意がなければ、事業主が掲載した求人に労働者が応募した時点で労使双方の合意があったものとして労働契約が成立するものと一般的には考えられること。
■しかく 休業手当について
労働契約成立後に事業主の都合で丸1日の休業又は仕事の早上がりをさせることになった場合は、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」となるので、労働者に対し、所定支払日までに休業手当を支払う必要があること。
■しかく 賃金・労働時間について
労働者から予定していた労働時間と異なる実際の労働時間による修正の承認申請がなされた場合は、事業主は、賃金は労働者の生活の糧であることを踏まえ、予定された労働時間に基づき勤務した賃金は遅滞なく支払うとともに、予定の労働時間と異なる時間については、速やかに確認し、労働時間を確定させること。
昨年以来、内閣府の規制改革推進会議ではスタートアップ企業の労働時間規制の緩和が繰り返し求められてきていますが、先月閣議決定された「規制改革実施計画」では、スタートアップ企業で働く役職者について、これまでの厳格な管理監督者の解釈を緩める方向で検討せよということになったようにみえます。
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/publication/program/250613/01_program.pdf
スタートアップの柔軟な働き方の推進
a 厚生労働省は、スタートアップ関係団体等からの意見聴取や、スタートアップが裁量労働制の活用に当たって直面している課題、スタートアップで働く労働者の就労実態、業務内容、スタートアップで働く労働者が希望する働き方等を把握するための調査を行った上で、その結果を踏まえ、裁量労働制の適正な活用等、スタートアップにおける柔軟な働き方に資する検討を開始する。
b 厚生労働省は、スタートアップで働く役職者等の労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)第 41 条第2号に規定する「監督若しくは管理の地位にある者」(以下「管理監督者」という。)への該当性の判断の基本的考え方を「スタートアップ企業で働く者や新技術・新商品の研究開発に従事する労働者への労働基準法の適用に関する解釈について」(令和6年9月 30 日厚生労働省労働基準局長通達)において示しているが、スタートアップにおいては、分野によっては同一スタートアップ内に専門家が1名又はごく少数しかいないなど、経営や人事等に関する重要な決定権限を有する一方で部下を持たないケースが多く存在し、近年はAIの活用によって更に増加しているという実態である中、こうした場合に管理監督者に該当するか否かが不明確であり、スタートアップの現場で判断に悩む場合が多いとの声があることも踏まえ、スタートアップ関係団体等の意見を聴取すること等を通じて、スタートアップにおける役職者等の実態や課題等を把握した上で、スタートアップにおける役職者等(部下を持たない場合を含む。)の管理監督者への該当性の判断の考え方の更なる明確化について検討し、結論を得次第、必要な措置を講ずる。a,b:令和7年度検討開始、結論を得次第速やかに措置
うーむ、でもこれは法律論的にはなかなか筋がむずかしい話ではありますね。まあ、そもそも1977年にスタッフ職を管理監督者と認めてしまった段階で筋は外れているとはいえますが。
管理監督者該当性を別にすれば、スタートアップ企業の(事務作業員を除く)仲間たちというのは労働時間規制になじまない存在だという議論はそれとしてありうる話ではあるんですね。管理も監督もしていないけれども、そんじょそこらの管理職たちよりも遥かに、事実上「経営者と一体」みたいなものかもしれません。
Mqdefault_6s Youtubeに倉持麟太郎さんの「このクソ素晴らしき世界」という動画シリーズがたくさんアップされていて、その最近のものに、「なぜ賃金は上がらないのか」という前編・後編のかなり長めの動画があるのですが、ほぼ拙著『賃金とは何か』の語り下ろしのような感じですね。すごく細かいところまできちんと解説していただいていると思いました。
参政党の神谷代表が「高齢女性は子供を産めない」と言ったとして炎上していますが、これはそこだけ揚げ足をとって騒げばいい話ではなく、そこで問題とされるべきことはそもそも何なのかをきちんと考えるべきことでしょう。
参政党の神谷代表「高齢女性は子ども産めない」 公示第一声で発言
参政党の神谷宗幣代表は3日、東京都内で行った参院選(20日投開票)の第一声となる街頭演説で、「子どもを産めるのも若い女性しかいない。高齢の女性は子どもは産めない」と発言した。・・・
神谷氏は演説で、国内で人口減が進んでいる現状に言及。「今まで間違えたんですよ。男女共同参画とか。もちろん女性の社会進出はいいことだ。どんどん働いてもらえば結構」とした上で、「これを言うと差別だという人がいるが違う。現実だ。申し訳ないけど、高齢の女性は子どもは産めない」と発言した。
そして「若い女性に子どもを産みたいとか、子どもを産んだ方が安心して暮らせる社会状況を作らないといけないのに、『働け働け』とやり過ぎてしまった」と主張。高校や大学卒業後に仕事に就かずに子育てに専念する選択がしやすくなるよう、子ども1人あたり月10万円を給付すると訴えた。「0歳から15歳で1人1800万円、2人いたら3600万円。これぐらいあればパートに出るよりも、事務でアルバイトするよりもいいじゃないか」とも語った。・・・
なぜ日本では、女子のキャリアが少子化につながってしまうのか、それは日本型雇用システムに根源があるのだということを、もう10年前に『働く女子の運命』(文春新書)でかなりしっかりと論じたつもりだったのですが、残念ながらそれがあまり認知されていないがゆえに、今回のようなすごく表層的な炎上騒ぎになってしまうのではないかと思います。
Img_752f5d874047328e26f434ce08f_20250706111101 拙著の最後近く、240ページあたりからの議論を、改めて再掲しておきたいと思います。
マタニティという難題さてしかし、ここまでのワークライフバランスをめぐる議論は、フェミニズムの用語で言えばあくまでジェンダーの枠内に収まるものでした。つまり、男女の生物学的な差とは一応別次元で、社会的文化的に形作られた役割の違いから生ずる問題でした。それゆえ、その解決の方向性は基本的には、専業主婦やパート主婦がいることを前提に無限定に働ける男性正社員モデルを見直し、男女ともに仕事と家庭生活に時間を配分できるような働き方に変えていくということになるわけです。ところが、そういう男女の対称性が破れる領域があります。いうまでもなく、生物学的に女性しかやれない妊娠、出産をめぐる領域です。そして、ワークライフバランスの議論が一巡した最近になって、工場法時代からずっと女子労働問題の中心的課題の一つであり続けてきたこの問題が、再び脚光を浴びるようになりました。今度は今風にマタニティ・ハラスメント(マタハラ)と呼ばれていますが、要は女性が妊娠・出産したことに絡んで嫌がらせを含むさまざまな不利益な取扱いを受けるという伝統的な問題です。この問題が本書の一貫したテーマである日本型雇用と交差するのが、出産時期の問題です。これはちょっと入り組んでいます。『若者と労働』と『日本の雇用と中高年』で論じたことと密接につながっているのです。日本型雇用システムの下で得をしているのは誰かといえば、もちろんスキルなどなくてもすいすいと企業が採用してくれる若者ですし、誰が損しているかといえば、スキルや経験があっても採用されにくい中高年であるということは、繰り返し述べてきたとおりですが、それを前提に、できるだけ痛みを伴わない形で雇用システムの改革をしようとすれば、若者の入口はできるだけ今までどおりにし、中高年以降をジョブ型にシフトしていこうという議論になるはずです。実際、雇用問題の論客である海老原嗣生氏は、『雇用の常識 決着版』(ちくま文庫)、『日本で働くのは本当に損なのか』(PHPビジネス新書)、『いっしょうけんめい「働かない」社会をつくる』(PHP新書)など近著で繰り返し、入口は日本型のままで、35歳くらいからジョブ型に着地させるという雇用モデルを推奨しています。この解は、若者(男性)と中高年(男性)という二つの変数をもつ二元連立方程式の解としては現時点でもっともリアルな解と言えましょう。若者の入口まで一気にジョブ型にしてしまうと、現在の教育システムからスキルなんかない方がいいという前提で生み出されてくる若者たちは阿鼻叫喚の地獄絵図に放り込まれることになります。それを解決するために教育システムを職業的レリバンスのあるものに改革することは、膨大なアカデミック教育需要のお陰で生計を立てることができていたそれなりの数の人々を失業の淵に叩き込むことになります。そういう激変を回避したい穏健派にとっては、望ましい解なのです。高齢出産が「解」なのか?しかし、にもかかわらず、この問題を女性という第三の変数を含む三元連立方程式として解こうとすると、この解は女性に高齢出産を要求するというかなり問題含みの解になってしまうのです。海老原氏の『女子のキャリア』(ちくまプリマー新書)は、その最終章「「35歳」が女性を苦しめすぎている」で、「出産は20代ですべき」という論調に反発し、さまざまな医学的データまで駆使して、30代後半から40代前半で子供を生んでいいではないかと、高齢出産を余儀なくされる女性たちを擁護します。・・・だからこそ、事後追認でかまわないから、結婚は35歳まで、出産は40歳までとひとまず常識をアップデートしてほしいのです。これでようやく、クリスマスケーキやOLモデルといった1980年代の幻影から逃れることができるでしょう。この常識が広まれば、いよいよ女性も普通に、30代を楽しめるイメージを持てるようになるはずです。さらにいえば、もう5歳遅くとも、結婚も出産もできないことはない、という譲歩節を付け加えられないでしょうか。つまり、40歳までに結婚して45歳までに産むことだって、現実的な選択だ、と。働く女性を応援しようという海老原氏の意図はよく伝わってきます。しかし、それで正しい解になっているのか、正直、私には同意しきれないものがあります。マタハラ問題を世に広めた小林美希氏の『ルポ産ませない社会』(河出書房新社)は、「年々増える35歳以上の高年齢出産」という項で、こんな事例を紹介しています。「今、妊娠したら困る。この仕事が終わったら・・・・・・。」都内のコンサルティング会社で働く槌田寛美さん(仮名)は、子供が欲しいと思いながらも仕事に区切りをつけられず、40代に突入してしまった。・・・40歳の誕生日を区切りに、「そろそろ真面目に妊娠を考えよう」と、婦人科クリニックに足を運んだ。・・・医師からは「35歳から妊娠しにくくなり、流産の率が高まる。40歳ならなおさら。本当に妊娠したいなら、仕事をセーブしなければ」と忠告され、仕事か妊娠かを迫られている。マタニティという生物学的な要素にツケを回すような解が本当に正しい解なのか、ここは読者の皆さんに問いを投げかけておきたいと思います。
今朝の朝日新聞が、最低賃金についての全知事へのアンケート結果を載せていますが、
最低賃金の水準、知事の審議の関与への考え... 47人の知事の全回答
実は、ちょうど一昨日、中央大学ビジネススクールの講義で最低賃金について話した時に、学生さんから「今年の最賃はどうなるでしょう」と問われ、「わからないけれども去年よりさらに大幅に上昇するのではないか」「というのも、昨年の徳島県の後藤田ショックのせいで、どの県の知事さんも最賃に敏感になっていて、『隣の県よりも低いのは絶対にダメだ』とばかり、介入してくるだろうから」と答えたんですね。
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参議院選挙が公示され、メディア上はもう派手だけどいかがわしいメディア芸人系ばっかりがもてはやされていますが、本ブログはそういう連中じゃなくって、地味だけどとてもまっとうな労働組合系の候補者の行方に注目しています。
過去3回の参議院選挙比例代表区の当落結果は次のようになっていましたが、
小林 正夫 268,317 電力総連
浜口 誠 265,756 自動車総連
矢田 稚子 213,323 電機連合
川合 孝典 193,945 UAゼンセン
難波 奨二 190,876 JP労組
江崎 孝 183,618 自治労
那谷屋 正義 175,756 日教組
石橋 通宏 170,338 情報労連(以上当選)田城 郁 113,182 JR総連
藤川 慎一 112,070 JAM
轟木 利治 107,780 基幹労連
森屋 隆 101,652 私鉄総連
田村麻美(国 UAゼンセン) 259,467票
礒崎哲史(国 自動車総連) 258,345票
浜野喜史(国 電力総連) 256,259票
石上俊雄(国 電機連合) 192,124票 落選
岸真紀子(立 自治労) 157,848票
水岡俊一(立 日教組) 148,309票
小沢雅仁(立 JP労組) 144,751票
吉川沙織(立 情報労連) 143,472票
田中久弥(国 JAM) 143,343票 落選
森屋隆(立 私鉄総連) 104,339票
竹詰仁(国民、電力総連)238,956 当選
浜口誠(国民、自動車総連)234,744 当選
川合孝典(国民、UAゼンセン)211,783 当選
鬼木誠(立憲、自治労)171,619 当選
矢田稚子(国民、電機連合)159,929 落選
古賀千景(立憲、日教組)144,344 当選
柴慎一 (立憲、JP労組)127,382 当選
村田享子(立憲、基幹労連)125,340 当選
石橋通宏(立憲、情報労連)111,703 当選
さて今回、立憲民主党と国民民主党から立候補している労働組合系の候補者は、次のようになっています。
立憲民主党:
小沢雅仁(JP労組)
岸真紀子(自治労)
郡山玲(JAM)
水岡俊一(日教組)
森屋隆(私鉄総連)
吉川沙織(情報労連)
国民民主党:
礒崎哲史(自動車総連)
田村麻美(UAゼンセン)
浜野喜史(電力総連)
平戸航太(電機連合)
9784121101525_1_4274x400 ひさしぶりの『労働新聞』書評です。いろいろあって、4,5月に3本載ったので、6月はお休みで今回が7月分ということになります。
https://www.rodo.co.jp/column/202053/
インドといえば、我われ日本人には偉大なガンディーが作った国・・・というイメージが強い。「ガンディーが助走をつけて殴るレベル」というネットスラングも、非暴力主義でインドの独立を果たしたガンディーの高潔さを前提としている。そのガンディーを暗殺した右翼結社の民族奉仕団(RSS)で頭角を現し、グジャラート州知事として「実績」を挙げて、今日インドの首相として絶対的権力を振るっているのが、ナレンドラ・モディその人だ。ロシアや中国といった権威主義国家が近隣にある日本は、どうしても「世界最大の民主主義国家」という触れ込みのインドに点が甘くなりがちだ。だが、モディ政権の実態を細密な写実画のように描きだした本書を読み進んでいくと、ロシアや中国も顔負けの権威主義国家の姿が浮かび上がってくる。政権党であるインド人民党(BJP)は、RSSが母体となって作られたヒンドゥー至上主義の政党であり、少数派(といっても13億人中2億人弱だが)のイスラム教徒を目の敵にしている。貧家に生まれたモディはRSSで頭角を現し、グジャラート州の知事の座をつかむ。知事時代に同州で起こったのがグジャラート暴動といわれるイスラム教徒の虐殺事件だ。当時の英国政府の報告書から浮かび上がってくるのは、州政府が意図的にイスラム系住民の情報を流し、暴徒による虐殺を容易にしていたという疑惑だ。しかし、モディは制裁を受けるどころか「暴力の配当」としてその権力を強化する。そして、グジャラート経済を活性化した「モディノミクス」をひっさげて、2014年の総選挙で大勝し、インド首相の座についた。本書に溢れるモディのイスラム教徒に対するヘイトスピーチは、ヒンドゥー教徒の多数派によって支持されているのだ。もう一つ、我われが知らなかったモディの真実は、ロシアや中国並みの情報統制で、国民を知らしむべからず由らしむべしの状態に置いていることだ。膨大な予算をつぎ込んでモディを礼賛する映画や番組を流す一方で、マスメディアに対しては脅迫と妨害、時には権力による抑圧の限りが尽くされる。インド国内ではもはやモディ礼賛以外の報道は不可能だ。その力が及ばないBBCが23年、グジャラート暴動やイスラム教徒への差別・攻撃政策を描きだしたドキュメンタリーをイギリスで放送したとき、インド政府はBBCの現地支局に家宅捜査に入り携帯電話まで押収した。20年にインドを訪問したトランプ米大統領が「自由、解放、個人の権利、法の支配、そして、一人ひとりの尊厳を誇りを持って尊重する国、それがインドです」と褒め称えたとき、地元デリーでは与党系のヒンドゥー至上主義勢力がイスラム教徒を「国賊」と叫んで暴行を呼びかけ、暴動が起きていた。今年起こったカシミール州での事件も、イスラム教徒が多数を占める同州の自治権を19年に剥奪したことが原因だ。モディのインドは、我われが学んできたガンディーのインドとは正反対の存在になり果ててしまっているようだ。
Guqrzh1aiaa68z 『労務事情』2025年7月1日号に、連載「数字から読む日本の雇用」の第37回として、「男女間賃金格差(男性=100)75.8%」を寄稿しました。
https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/b20250701.html
去る3月17日に厚生労働省が公表した「2024年賃金構造基本統計調査の概況」によれば、一般労働者(いわゆるフルタイム労働者)の月額賃金(賞与、残業代除く)は男性を100とした場合、女性は75.8となり、男女の賃金格差は比較可能な1976年以降で最少となりました。・・・