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Andresvelasco150x150 ひさしぶりにソーシャル・ヨーロッパから、政治評論のエッセイを。ポピュリズムが荒れ狂っているヨーロッパがもはや対岸の火事ではなく他山の石ですらなく、当の日本でも炎上しつつある今日、改めてじわじわとくるものがあります。
The "Deliveroo" Theory of Politics
ちなみに、デリバルーとは、日本ではやってませんが、ヨーロッパではウーバーイーツと並ぶフードデリバリーの大手企業です。英語の「deliver」(成果を出すと言う意味がある)とかけているわけです。
Why are citizens of free countries increasingly disenchanted with democracy and tempted to vote for populists and authoritarians?
Peruse the press or spend an afternoon with recent academic literature, and you will find that one answer stands out: democracies have failed to deliver. Call it the "Deliveroo theory of politics," after the popular app that delivers a meal to your door in record time.
Maybe economies have not grown enough, wages have stagnated, inequality has risen, or leaders have been corrupt and self-serving. The list of possible factors is long, but they all point in the same direction: voters are so fed up with a lack of tangible benefits that they turn to populists who, despite their clownish and crass behavior, come across as different from the political elite – more decisive and able to get things done.
The upshot of the Deliveroo theory of politics is that "getting democracies to deliver" is the key to preventing populism and democratic backsliding. It is the kind of argument you hear from left-leaning reporters, reform-minded politicians, and well-meaning NGO leaders. It sounds plausible. But is it true?・・・
なぜ自由国家の国民はますます民主主義に幻滅し、ポピュリストや権威主義者に投票したくなるのでしょうか?
新聞を熟読したり、最近の学術文献に午後を費やしたりすれば、一つの答えが浮かび上がるでしょう。民主主義は期待に応えられなかったのです。記録的な速さで食事を玄関先まで届けてくれる人気アプリにちなんで、「政治のデリバルー理論」とでも言いましょうか。
経済成長が不十分だったり、賃金が停滞したり、格差が拡大したり、指導者が腐敗し利己的だったりするのかもしれません。考えられる要因は山ほどありますが、どれも同じ方向を指しています。有権者は目に見える恩恵の欠如にうんざりし、道化的で粗野な振る舞いをしながらも、政治エリートとは一線を画し、より決断力があり、物事を成し遂げる力があるように見えるポピュリストに目を向けるのです。
デリバルー政治理論の結論は、「民主主義に成果を出させること」がポピュリズムと民主主義の後退を防ぐ鍵であるということです。これは、左派の記者、改革志向の政治家、そして善意のNGOリーダーたちからよく聞かれる類の議論です。もっともらしく聞こえます。しかし、本当にそうでしょうか?・・・
いやいや実は、ポピュリストが権力を握る前の政権の方がちゃんと結果を出していたのだ。そして、ポピュリストが権力を握った後は、大体において悲惨な結果しか出していないのだ。筆者のアンドレス・ヴェラスコはその実例を一つ一つ挙げていく。
So, it is far from evident that "failure to deliver" is the main reason behind voters’ frustration. Of course, well-paid and well-fed constituents with access to outstanding schools and hospitals are more likely to be satisfied (other things being equal) with the functioning of democracy. But why, in so many cases of apparently adequate delivery, do voters turn to populist authoritarians and continue to vote for them even after they underperform?
Politicians like Trump and AMLO are unconcerned with the capacity to deliver. Their appeal is to a much darker and identity-obsessed corner of the human soul. You won’t see them looking sheepish if the economy falters or fails to create jobs, because they can always claim to have restored national pride, while blaming economic failure on someone else – whether foreign migrants or local elites.
したがって、「政策の不履行」が有権者の不満の主因であるというのは、決して明らかではない。もちろん、高給で十分な食料を与えられ、優れた学校や病院に通える有権者は、(他の条件が同じであれば)民主主義の機能に満足する可能性が高い。しかし、なぜ有権者は、一見十分な成果を上げているように見えるにもかかわらず、多くの場合、ポピュリスト的な権威主義者に目を向け、実績が芳しくない後も彼らに投票し続けるのでしょうか?
トランプ氏やAMLO氏のような政治家は、成果を上げる能力など気にしていません。彼らの訴えかけるのは、人間の心の奥底にある、はるかに暗く、アイデンティティにとらわれた一面です。経済が停滞したり、雇用創出に失敗したりしても、彼らが恥ずかしがる様子を見ることはないでしょう。なぜなら、彼らは常に国家の誇りを取り戻したと主張しながら、経済の失敗を外国人移民や地元エリートなど、他の誰かのせいにできるからです。
あらためてじわじわきます。
2025年10月14日 (火) | 固定リンク
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「彼らの訴えかけるのは、人間の心の奥底にある、はるかに暗く、アイデンティティにとらわれた一面です。」
このあたりは、H.アーレント「全体主義の起源」やE.フロム「自由からの逃走」をはじめとする、フランクフルト学派の一連の研究を知っていると、まさにデジャヴ感があるところですね。サッチャー、レーガンが新自由主義政策を開始して約45年が経過し、日本、アメリカや多くの欧州諸国において格差が極大化していった現時点において、再びこのような悲惨な状況に陥ったことを自分の目で確かめることができるというのは、実にありがたいことです(どこが?)。
投稿: SATO | 2025年10月16日 (木) 18時04分
ポール・クルーグマン教授が「格差はつくられた」で1980年の共和党右派のレーガンが大統領選挙に当選したのは白人男性中間層向けに「怠惰な黒人たちが福祉を食いつぶしている」と差別感情を煽り、得票につなげた事を書いています。
左派は人間の理性を信じるがゆえにこういう人間の負の感情に気付かないふりをしてしまう、と言う事なのかもしれません。
投稿: balthazar | 2025年10月14日 (火) 19時49分