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古舘伊知郎 アントニオ猪木さんに言われた「奮い立て!」

[ 2022年12月4日 07:30 ]

「トーキングブルース」でアントニオ猪木さんについて語った古舘伊知郎
Photo By 提供写真

【牧 元一の孤人焦点】フリーアナウンサーの古舘伊知郎(67)が3日、東京・有楽町よみうりホールで、トークライブ「トーキングブルース」を行い、10月1日に亡くなったアントニオ猪木さんについて語った。

今回のトーキングブルースのテーマは「言葉」。猪木さんの話になったのは、ライブの終盤で「言葉は体から離れることができないという宿命を持っている」と身体性の大切さを訴えた後だった。

「新人アナウンサーの時、この言葉がありがたいと思った。まさに体が関わっている」。そう言って、こんなエピソードを語り始めた。

プロレスの実況をしていた頃、全国各地の試合会場に行くと、いつもレスラーのストロング小林さんがたたずんでいた。「お疲れさまです」とあいさつすると、小林さんは笑顔を見せ、なぜか古館の股間をなで上げた。それは嫌らしい感じではなく、やがて、あいさつの儀式のようになった。

ある日、うつむき加減に会場に入った。いつものように小林さんにあいさつし、小林さんが古館の股間をなで上げようとした瞬間、後ろの方から「奮い立て!」という声が聞こえた。振り向くと、声の主はリング上で練習していた猪木さんだった。

「言われた時は俺の股間が奮い立てという意味だと思ったけれど、『古館』は『コカン』とも読めるし、『フルタチ、フルイタテ』というダジャレだと後で分かった。猪木さんが新人アナの顔と名前を覚えていてくれて、うれしかった。猪木さんは『おい、若いの。下を向いて歩いているんじゃねえ』と叱咤激励してくれたのだ」

続いてステージで、猪木さんとアンドレ・ザ・ジャイアントの試合を実況風に再現。猪木さんの試合の実況は他のレスラーの試合以上に言葉がわき上がって来たことを明かし、その理由を説明した。

「普通のレスラーの試合と猪木さんの試合は違う。猪木さんの試合にはあらかじめイメージがあり、物語がある。イメージと物語は猪木さんの頭の中にあるものだ。ならば、頭の中に入り込んで、それを盗み取って、放送席に戻って話せば猪木さんとシンクロする。猪木さんと一体化できる。猪木さんは『肉体言語』だと分かった」

そして、猪木さんとウィリー・ウィリアムスの異種格闘技戦を実況風に再現。客席の盛大な拍手を受けると、声のトーンを落とし、神妙な面持ちで、観客ではなく猪木さんに向けて語りかけた。

「猪木さん、少しでも楽になりましたか。俺の体の一部は猪木さんによって作られている」

9月に見舞いに訪れ、衰弱した猪木さんに掛ける言葉もなく、むくんだ足をマッサージしたエピソードや、猪木さんが元気な頃に2人でカラオケを歌った思い出、自身がつらい時に猪木さんの笑顔に助けられた話などを語った。

「俺は猪木さんに育てられた。猪木さんの物語と俺の物語が交差した瞬間があった。それによって、今の俺の一部が作られた。いろんな人に形作られて今の俺がある。俺自身が作った部分はかけらもない。俺の一部を作ってくれた猪木さんの、永遠に生き続けるエピソードをこれからも語っていきます」

猪木さんが亡くなって約2カ月。観客に向けて生の声で猪木さんのことを語ったのは初めてだった。その締めくくりはこうだ。

「猪木さん、もう一度言ってくれ。『奮い立て!』」

聞く人の心に染みこむ、身体性を持った特別な言葉だった。

一夜限りだった今回のトーキングブルースは5日から11日までの期間限定で有料配信される。

だいやまーく牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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