「小さな主語」で語る香港デモ
デモの中でどのように生きてきたのか。
「民主派 vs 親中派」「和理非派 vs 勇武派」では語り尽くせない、
14人それぞれの物語。
香港で起きていることは米中関係や中国の台頭と言った「大きな視点」に集約されがちで、実際に現場でどのような事件が起きてきたかはあまり知られていない。しかし 抗議活動が日常化していった香港では、「大きな視点」では語りきれず、「反政府」・「政府支持」というラベリングでは一括りにできない様々な人々の思いが交錯してきた。香港で何が起き、そして香港という現場にいる人々は生活の中で何を見てきたのかを知り、そのことで暮らしの横に政治があり続けてきた香港という都市、そしてその香港で「自由が失われる」と叫ぶ人々の言う「自由」とは一体何であるのかを共に見つめ直す。
はじめに
香港政治と香港デモの基礎知識
第1部 長い目で見た香港デモ
第2部 「香港人」意識とデモへの感情
第3部 教育現場と国際都市の中の香港デモ
第4部 あらゆる場所の政治化
おわりに(この本の読み方ガイド)
・この本を作るようになったきっかけ(多様な人々がいる香港を「大きな主語」で語る限界/「大きな主語」に回収される香港からの発信/香港が経験した「大きな主語」による社会分裂/なぜ日本で出すのか)
・どのように「小さな主語」を語るのか(本書の手法/本書の手法の限界/執筆者選びの方針/この本で書くべきものを書ける執筆者を/結局どのような執筆者が書くことになったのか/執筆者の言語的背景)
・書籍の構造(第1部:長い目で見た香港デモ/第2部:「香港人」意識とデモへの感情/第3部:教育現場と国際都市の中の香港デモ/第4部:あらゆる場所の政治化)
・謝辞
●くろまる香港政治と香港デモの基礎知識 石井大智
・多様な政治的志向の存在(建制派の中の多様さ/民主派の多様さ)
・香港社会の極性化(政治の日常化と政治への関心増大/黄色と藍色の色分け/民主派の「不割席」と情報の分裂)
・新型コロナ後の民主派(新型コロナ拡大の中で/民主派の多様性と国際社会への反応/新型コロナ後の黄色経済圏)
・日本人と香港デモ(香港デモの中のメディアと日本人/中国本土とのビジネス上関わる日本人にとっての香港デモ/日本人と香港政治・アイデンティティとの関わり)
【第1部 長い目で見た香港デモ】
●くろまる第1章 私が見た香港のデモ−−そして、変わってしまった友へ AA(香港在住20年の日本人)
デモで香港について知り、友人をつくった20年前/毎年の天安門事件追悼集会/2019 年6月6日 :3000人の弁護士デモ/6月9日 :久しぶりの大型デモ、103万人が集結/6月12日 :デモを「暴動」と言い放つ行政長官/6月16日 :凱旋行進のようだった「200万人+1」デ モ/改定案撤回の機を逸した香港政府/7月1日 :恒例の返還記念日デモから立法会突入へ/あらゆる地区で行われるようになったデモ/7月21日 :元朗での無差別攻撃/広がる抗議活動、酷くなる警察の暴力/8月18日:「自治」の成功例/「過剰な警備」から「弾圧」の領域に踏み込み始めた警察/警察をはじめとする当局が信じられ ない/事実上の戒厳令/雑談もできなくなった警察官/警察による性暴力に立ち向かう/大学への攻撃/民主派が圧勝した区議会議員選挙/コロナ禍の拡大、警察権力の肥大/集会許可なき天安門事件追悼集会/
●くろまる第2章 96年生まれの日本アニメオタクが見た香港デモ BB(日本アニメ愛好者の香港人)
僕のルーツ/新聞を通じて社会に関心を持ち始める/アニメ情報収集のためSNSを使い始める/「民主派支持」の意識を固める/香港テレビ騒動/雨傘運動への参加/利 用 するメディアの 変 化/有権者になって初めての選挙、だが....../政治的な季節・夏/香港で起きたことは幸福か不幸か....../膠着が続く逃亡犯条例改正案審議/初めてのデモ/蔓延しつつある状況への不安/「 覆面禁止法 」の急な導入と交通の寸断/区議会議員選挙/職場の状況/家族の態度の変化/
●くろまる第3章 破壊行為と社会の分断の中で CC(香港に長年住む日本人女性)
私について/目にした破壊行為/平和的な行動からの変容/生じた疑問/「荒れていない香港」も知ってほしい/佐敦での騒乱/大好きな香港で生きていく/Facebookで繋がった友人たち/家族の反応/同僚とは議論せず/在港邦人の間での意見の違い/Facebookから離れる/夫との対話/日本の友人や家族とのやりとり/「議論しない」 /ある日系企業総経理の炎上事件/香港を好きになってほしい/自由を愛する香港
【第2部 「香港人」意識とデモへの感情】
●くろまる第4章 在日香港人が見た香港デモ 伯川星矢(在日香港人のライター)
自己紹介/在日香港人の活動のはじまり––2014年/在日香港人の活動のたかまり––2019年/日本メディアからみた香港/私たち自身が香港の未来を決める/
●くろまる第5章 民主運動を香港人はどう捉え、どう表現し、どう拡散したのか 増田佳苗(香港の広告代理店で働く日本人)
はじめに/著者について/街で見られる文宣––レノンウォールの役割/何が画期的だったのか––アートを凌駕したデモ/テレグラムでの文宣の動き––ネット/謝曬皮(Jasmine Tse)/抗爭少女日記/Joanne Liu/Don Mak/肉肉熊/門小雷( Little Thunder)/一個人/「どうぶつの森」とデモとコロナ/国家安全維持法によって文宣はどう変わるか––愛国中国のステッカーを貼るアーティスト/黎智英逮捕後の蘋果日報の広告/
●くろまる第6章 広東語は話せない、でも香港人として FF(中国本土出身の両親を持つ非広東語話者の高校生)
来歴/私にとっての北京語/私にとっての英語と学校教育/私の政治的見解と自己認識/重苦しさ/連帯感/白か黒かではなく/中国本土出身の学生の中では/私の高校と他のインターナショナルスクールにおいての抗議活動の比較/文化晩会での公演/香港国家安全維持法/香港を離れることと未来について/
【第3部 教育現場と国際都市の中の香港デモ】
●くろまる第7章 80ヶ国から生徒が集まるインターナショナルスクールが受けた影響 GG(インターナショナルスクールへの日本人留学生)
はじめに/筆者のバックグラウンド/LPCの特徴/LPCの政治的価値観/各グループのスタンス/2019年8月:学期開始/9月:Lennon Wall が設置される/10 月:Lennon Wall上での分裂/11月上旬:全校討論会での服装事件/11月上旬:マシュマロ会が始まる/11月14日:授業ボイコット/11月14日当日の1限目の様子/11月18日~19日:理工大学に閉じ込められた子/2020年2月:コロナで議論は一旦落ち着く/5月:卒業/
●くろまる第8章 「隔離された国際社会」 HH(香港在住日本人高校生)
私のアイデンティティ/香港でのインターンシップで突きつけられた問い/インターナショナルスクールの対応と生徒の反応/インターナショナルスクールの教師の反応/
●くろまる第9章 私が大学で出会った人々とデモ II(日本からの交換留学生)
×ばつ大陸の友人/北京出身の交換留学生の友人/深圳の友人/その他大多数の大陸人学生/反香港デモ発言を繰り返す大陸人学生/中文大学中国国旗掲揚事件/中文大学刃物振り回し事件/大陸の友人からの心配の連絡/ヨーロッパの学生/その他の交換留学生とデモ/香港で配慮したこと/デモ発生時の香港中文大学/香港外の日本人学生の目線/一年を通して考えたこと/
●くろまる第10章 燃えた大学で見た香港デモ JJ(日本からの交換留学生)
2019年8月25日/8月29日/8月31日/9月1日/9月2日/9月3日/9月5日/9月7日/9月8日/9月18日/9月23日/9月26日/9月27日/10月1日/10月2日/10月3日/10月5日/10月11日/10月16日/10月19日/10月20日/10月21日/10月24日/11月10日/11月11日/11月12日/11月13日/11月14日/11月15日/11月16日/11月17日/
【第4部 あらゆる場所の政治化】
●くろまる第11章 小説『時代』−−「新移民」が見た香港デモ えこ(新移民の大学生)
●くろまる第12章 聴覚障害者と香港デモ LL(香港中文大学で手話研究をする日本人大学院生)
語学好きが端緒/手話言語学への傾倒/そして香港へ/CSLDSの特殊な世界/当事者団体−−香港と日本の聾者事情の違い/手話通訳制度−−香港と日本の聾者事情の違い/政府の対応−−香港と日本の聾者事情の違い/字幕の不思議/香港手話ニュースのスタート/雨傘運動(2014年9月26日〜12月15日)/映画「十年」/反送中運動100万人デモ(6月9日)/SNSの活用/手話教室「Brainfood」/ダンスクラス/最後に/
●くろまる第13章 あるクリスチャンにとっての香港デモ MM(クリスチャンの香港人)
私のルーツ/クリスチャンとしての家族史/私と教会の人々にとっての香港の今/国安法以降の信仰の自由/
●くろまる第14章 アカペラサークルと香港デモ Sheleoni(香港大学2020年卒業、」心理学専攻、アカペラサークル所属)
私について/少し変わった生い立ち/アイデンティティとは・外からの視点/アイデンティティ・父と私/アカペラと抗議活動−−香港大学と東京大学/モザイクとLaVoce/デモがアカペラ公演にもたらした影響/その他のデモのアカペラ活動への影響/友人の逮捕/抗議活動の中でのマインドフルネス/
●くろまるおわりに(この本の読み方ガイド) 石井大智
警察と抗議者の暴力への捉え方/香港ナショナリズムと「香港人」意識/香港政治・デモへの当事者意識/あらゆる場所の政治化/